0話 チュートリアル
なろう小説を読んでる内に触発されて、中二頃の記憶が蘇り投稿しました。
カッとなって投稿した。
今は公開している。
目を開けると一面真っ白な部屋に居た。
部屋と言っても、影一つなく比較する物も置いていない為にどの程度の広さなのかは全く予想が付かない。
そもそも光源もないのに視界が明るいという異常も、ここへ来る前の出来事を考えれば些細な事だ。
さて、そろそろこちらがいつまでも気付かないふりをしているのでオロオロしている目の前にいる人物に話しかけるとしよう。
「ようこそ死後の世界へ、私は貴方たちで言う所の“神”です」
また今日も、異世界転生の仕事が始まる。
ここ数年で急激に異世界への転生者が増えている。
原因は様々だが、何故か一番人気は『なんかトラックに轢かれたら、何故か神様が間違って殺してしまったので、なんやかんやで謝罪にそのまま生まれ変わるか異世界へ転生を選べる』というものだ。
言ってしまうが、神は生き物の因果なんて管理していないし、間違って殺してしまったからと、侘びに転生なんかさせる訳がない。 人間だけで約70億、地球上の命の数なんて数えたくもありません。
仮に間違って殺してしまったとしても、そのまま魂を転生させてしまえば謝罪する必要もなくなるというのに律儀な物だと感心する。
なら、蟻やイルカも間違って殺せば異世界に転生させるのだろうか?
命は平等と嘯くつもりはないが、人間だけを特別視するのも神としては変な気もする。
「おい! ここが死後の世界ってどういう事だよ!」
おっと、今はお仕事の最中でした。
先ほどは否定的な事を言っていたが、私の仕事は異世界転生である。
先ほども言ったように、神は生き物の生き死にを管理などしていないのだ。
という事は、魔王などの災害級の危機が現われた時、こっちの都合などお構いなしにバンバン死者の魂が送られてくる。
すると私たちの仕事が増えて……いや、面倒くさ……げふんげふん、非常に厄介な問題が出てくるのである。
そこで無用な死者を最小限に抑える為に、適当な魂を送り込んで危機を排除できれば良し、出来なければ地球破壊ばくだん的なサムシングで世界ごと消滅させてしまえばいい……ただそれは申請までに滅茶苦茶面倒な上、業務評価が駄々下がりするので誰もやりたがらない最終手段である。
それではお仕事お仕事。
「申し訳ありません。こちらの手違いで貴方を間違えて死亡させてしまいました。本来ならすぐにでも蘇生させたい所なのですが、一度死んでしまった者を同じ世界に蘇らせる事が出来ないのです……」
「そんな!? う、嘘だろ……?」
はい、後半は本当ですが前半は嘘です。
何度も言ったように、神は人間の生き死にを操作なんかできません。
なら何でそんな事を言ったかというと、これが“異世界転生マニュアル”の設定の一つだからです。
「ですから、代わりと言ってはなんですが貴方には2つの選択肢を用意致しました。一つはこのまま天界へ行き真っ新な魂となって生まれ変わる事。もう一つは今の記憶を持ったまま異世界へ転生する道です」
これを言った瞬間、青年の顔が分かり易いほど変わりましたよ。
まあ、インターネット小説の人気ジャンルの1つですからね。
彼はその手の物を嗜む人種のようですし。
「勿論、そのままでは危険の多い異世界では不自由する事でしょう。そこで貴方に幾つか能力を差し上げます」
青年がこちらに見えない様に、小さくガッツポーズをしていますが見えてますよ。
ちなみに、転生時の能力付与はほぼ全員に行っています。
当り前でしょう。向こうの人間は闘牛を剣一本で倒せるような輩が跋扈する世界である。
そんな世界に戦争のセの字も知らない人間が行って生きて行けるわけがない。
「異世界の言葉が分かるスキル、見た物の名前と能力が分かる鑑定スキル、アイテムが幾らでも持ち歩けるスキルに加えて剣を扱うスキルも付けてあげましょう」
「おお、そのスキルって向こうで覚えるのは難しいの?」
「いえ、異世界人である貴方は、その世界の者よりも強さが上がり易くなっているので、練習すればすぐに覚えられますよ」
あえて言わないが、それも転生能力の一つである。
そもそも転生時の能力付加にはバラつきがある。
理由はここへ来た瞬間、その者にはランダムに転生ポイントという物が付き、それを換金する事で能力を付加しているのである。
一応、言語や成長速度強化は優先的に与えるようにはなっているが、たまにそれすら与えられないほどポイントが低い運の悪い人も居たりする。
このチュートリアルにも何気にポイントをいくらか使うので、たまに転生神と会わずに転生するパターンがあるのはそのせいである。
彼も転生ポイントがもっと高ければ幾つかの固有魔法を習得したり、初めから超人的な力を持てたりと種類もあるのだが、彼のポイントではこれが精一杯であった。
「そうか……、それでその異世界というのはどういう所なの?」
「簡単に言えば剣と魔法の世界ですね。魔法使いがいてドラゴンが空を飛び妖精が歌うそんな世界です」
「おお、それは分かり易くて良いね」
異世界転生において、転生先が魔法世界である事が多いのは不思議な事ではない。
そもそも世界は箱のような物で、科学が発展している世界と、魔法が発達している世界では箱の中身の密度が違うのである。
科学の世界は正方形の小さい箱を敷き詰めているような物で、世界の現象が解析され理論化されている為に奇跡などが入る余地が少ない。
対して魔法の世界は丸いボールを乱雑に詰め込んだように、幻想や空想が入る余地が幾らでもあるので、こちらからのアプローチもし易いのである。
「それと、貴方は転生先の世界で好きなようにしてくださって構いません。村を発展させて内政に係わるも良し、積極的にダンジョンなどに赴いて冒険者になるのも良し、ああ、魔王なんて物も定期的に湧きますのでそれを倒して勇者になるなんて事も可能ですよ」
「魔王!? え、ちょっと魔待って、魔王って湧くの?」
「はい、約100年単位ですが、忘れた頃にモコッと湧きますよ。星の宿便みたいなもんなので」
「その扱いに、今ちょっと魔王に同情しちゃったよ!?」
幾らか余裕が出てきたのか、私の言葉にツッコミを入れてきた。
まあ、これ以上は質問も無いようなのでさっさと転生させましょう。
あまりここに長居すると、面倒な問題も出てきますので。
「それでは貴方の新たな人生に幸多からん事を、いってらっしゃいませ」
彼が転移魔法陣の光に包まれ、ゆっくりとその姿が薄くなってゆく……
あ、忘れてました。
「そうそう、必要な物はアイテムボックスに入っていますが、付いた直後は何も持ってませんので注意してくださいね。それと転送先は街中なので……全裸だと捕まりますので注意してください」
「ちょ! そういうのはもっと早く言って……」
彼は絶叫と共に異世界へと消えた。
綺麗にお仕事が終わった時は気分が良いものである。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。