大男が降りた後の世界状態
とくに警戒すべき点はないはず。
「お前、嬢ちゃんじゃないか」
「……誰でしたっけ?」
断崖絶壁、つまりは崖っぷちに俺たちはいた。なぜこんな場所にいるのか。それは、あの坊主が消えてから1年経ったからという理由が大きいが、それはあまり関係無いのかもしれない。
今まで世話になった仕事にキリをつけてから、俺はこの崖の近くの村に住み始めた。その村のやつらはとても楽観的なマイペース軍団だったため、俺の事情をすっ飛ばして仲良くしてくれた。何も聞いてこないのはよかった。まぁ、聞いてきても困ることは特にないのだが。それでも、過去を現すというのは少しだけ恥ずかしい。
「ははっ、嘘ですよ、ジェガスさん。ちょっとした悪戯ってやつです」
「ああ、そうかい。まあ、気にしてないがな」
「あれ、それは残念」
どうでもいいことばかりぽつぽつと話して、なぜここにいるのかと聞いてみる。聞かなくても答えは分かる。こいつと坊主は、家族同然なんだから。
「へえ、意地悪ですね。キルのことを忘れたとでも?」
「んなわけねえだろ。ちょっとした悪戯ってやつだ」
そう言うと、彼女はむすっとして、海を見つめる。1年前まで赤かった海だった。この海のど真ん中に生命の柱はある。危機に晒された晴天の柱を助けるために、生命の柱が放出した魔力は海に吸い取られていた。そして、青くきれいな海は、血のように赤い海へ。
レスは持ってきていた花を海に投げた。青い花は海と同化していく。
「キルが言ってたよ」
「あ? キルが?」
「うん。×××、×××××××。だって」
「……へえ」
これは、大男の物語。意味をなくしたことはどうでもいい。生きることに意味がある。
キルからの言葉を聴いて、目尻が熱くなる。
少女が去った後、花を飲み込んだ海を見つめる。
いつか、飛び込もう。
この海は、坊主のように心を包んでくれるだろうから。
精一杯、生きるから。