プロローグ完
「……さて、ラストスパートと行きますか」
心配事は増えたけど、天野さんとのやりとりで変にやる気が出てきた。少し笑を浮かべてドアを閉めて部屋に戻り、頬を引き締めて気分を引き締めた。
これからやるのが、俺の人生、最初で最後の魔王らしい事だ。平和なご時世。魔王の力は役に立たない。今の時代、俺の力を使うとしたら災いに繋がる物を一つ一つ潰して行く事だけ。
「父さんもまったく厄介な物を置いてってくれたよ……」
遂に、この時が来た。家臣も居なければ召使いさんもいない。俺一人、山林地帯にひっそりと佇む洋館を見ている。召使いさん達は早速、新しい職場で働いている頃だろう。
そして、今日を堺に衛藤家は事実上、消滅した。そして、魔王も。
ここから俺は、自分の人生を見つめ直さなければならない。
「これで……よし」
ちゃんと正門を施錠して長年魔王の一族を支えていた場所に静かに別れを告げる。一人、これからは魔王とか全て忘れて、人間として生きていく。
もう、戻ることはない見慣れた森の道を歩く。森が別れを惜しむかのようにいつもより強くその葉を擦り合わせて音を奏でている。主を失ったこの森はこの国が管理することになる。土地拡大とかで伐採されなきゃいいけど。まぁ、大丈夫か、物好きもいるし。
しばらく歩いていると木が開だし草木が増えてきた。う~む、こう草木が生い茂っている所を見れば、この先にあの洋館があるなんて分からないよなぁ。と歩いてきた森を振り返る。侵入者を拒むような森の壁がそこに堂々と存在する。それを見て再度、俺は頭を軽く下げた。
「またな」
別れの挨拶を済まし、俺は山を降りる。と言ってもここらへんからはさすがに道が舗装されているので、結構簡単に降りれたりする。というかこの道を作ったのは俺と召使いさん達だ。買出しがなかなか大変だという天野さんの一言を切っ掛けに作ったのだ。いやー、大変だった。
洋館にも森にもこの道にも思い出は一杯詰まっている。不思議と召使いさん達との思い出が多い気がするが、それは召使いさんの特に若い層の人たちが天野さんを筆頭に俺をおもちゃにいていたからに違いない。今考えれば容赦無いなぁあの人達。散々無茶な事したしさせられたし……未練タラタラだな俺。
「うっし! 気合入れて行くか!!」
思い出を大事に閉まって、一気に道を下り出した。空気が自然特有の澄んだものから重く濁った様な錯覚を起こさせるものに変わっていく。これにも慣れないといけないとなれば、少し気が重い。でも後には引けないあとはただ前に進むだけ、どういう事態が起きるとか今は想像も出来ないし、考えても仕方ない。今はリアルに住むところが心配だ。
そう、これから間桜町という人間が中心の街で俺の新しい生活が始まる。というより始まるのかな? お願いだから橋の下でダンボールコースだけは嫌だけど現実的に有りうるのが恐ろしいな……というより、そっちの方が簡単に想像出来るこのボケナスな頭が憎い。
とりあえず、第一目標としてダンボールアンダーザブリッジの回避を目標に挙げた。