プロローグⅤ
「颯大さまのお世話を出来るのも、もう少しなんですね」
と空になった俺のカップに紅茶を注ぎながら天野さんは少し寂しそうにそう呟いた。正直寂しいのは俺もだ。小さい時から召使いさん達と暮らしてきているわけで、家族と変わらないし、大事な人たちだ。
「そうだね。今までありがとう……っていうかいいの? 天野さんも仕度とかあるんじゃ」
ふとそんな事が気になった。女性の支度は中々時間が掛かるものだと聞く。実際に他の召使いさん達もその準備に追われている状況で、こういういつもの様に世話を焼いてくれるのは天野さんくらいなものだ。
「いえ、私の荷物と言えば下着ぐらいな物でして、後は全て衛藤家からの貸出されていたものですから、支度は一分も掛かりません」
冷静に天野さんは淡々と言った。う~む、女性の荷物が下着だけって、何か友達の家を渡り歩いている若者みたいだな。それも男の。天野さんは前々から思っていたけど男らしいなぁ。
「ごちゃごちゃするのは嫌いなので……それに颯大様が斡旋してくださった次の職場先も住み込みで制服も貸出制ですので」
「住み込みがいいって言ってたもんね」
「はい、助かりました」
綺麗にお辞儀をする天野さん。それにしても、なんてワイルドな子なんでしょう。俺心配。……ん?思い返してみれば、天野さんが衛藤家が貸し出している黒を基調としたエプロンドレス以外を着ているところ見たことがない。
「……」
「?……どうかされましたか?ジッとこっちを見られて…………あぁ、なるほど」
何とか天野さんが他の服を来ているところを思い出そうと天野さんを見て過去のメモリーを引っ張り出そうとしていると、天野さんは小首を傾げてポンっと手を叩いて、スッと近寄って俺の眼前まで屈むと
「颯大様……私の今日の下着は白でございます」
なかよくわからん爆弾を投下した。