プロローグⅡ
ちょっと貧しい人間ならこういった日常は当たり前だったりもするけど、俺の場合はそう言った場合じゃない。ちょっと貧しいんじゃない超貧しいのだ。
いやほんと、まさかこの俺が毎日五時飢えている家来のためにタイムセールで戦うはめになるとは夢にも思わなかった。こんな事になったのには、まぁ少々事情が……っと。
そんな事を考えていると自分の住まいの前に到着していることに気付いた。
近所で幽霊アパートと恐れられているらしい(つい最近その事実を知って家来に初めて励まされた)ボロく負のオーラを感じられずにはいられないアパートで、何回か補強工事を行なったらしいがここに引越しして、床が何回も抜けた。それ以上の事がまぁあったんだけど……思い出したくないからいいや。
カンカンカンっと音のする少々耐久性に疑問を感じる所々錆びて小さな穴が空いている鉄製の階段を上に上がり左に曲がり一番端から二番目の部屋202号室が俺の部屋だ。
頼りないドアのドアノブに手を掛けて扉を開け、ほぼ同時に201号室の扉が開き扉の隙間からにゅっと可愛らしい女の子が頭だけ出してこちらを見ている。
「…………」
「…………」
ドアの隙間から出てきた顔は明らかに俺の気配を察知して出てきたのが丸分かりなくらいハッキリしていた。なんたって、その目線は俺が持っているスーパーの袋に釘付けだからね。
ちょっと興味本位でスーパーの袋を上下左右に動かしてみれば猫じゃらしを追う猫みたいにそれを追う。ふむ……まぁこの娘が興味あるのはご飯だからね。
そういう行為を繰り返しているうちに
「ゴハン」
少女の小さな声と共にくぅ~とお腹が鳴ったのが分かった。もちろん俺じゃない。当然、ドアの間から顔を覗かせている少女のものだ。
こういった出来事もほぼ日常と化している。まぁとにかくこの飢えた小動物にご飯を与えなければ後でえらい目に合う。相変わらずゴハンと呟く少女に向けて俺も呟いた。
「はいはい、もうちょっとしたら出来るから、しばらくしたら来てくれる?」
「わかった」
シュッと少女はドアの奥へ頭を引っ込めた。
「ふー……さて、問題はもう一人か」
頭を掻きながら俺は、ドアに手をかける。その奥にはこれはまためんどくさい俺の家来がいる。というかほとんどこいつのおかげで、我が家の家計は大変な事になっている。
何を隠そう、コイツが全ての原因であり、こうなった元凶だったりする。
そう、この
「おっ、魔王、帰ったな? 腹減った。今夜の献立はなんだ?」
テレビの前で横になってポテチを食べているグータラな見た目18才くらいの女の子、杉本 キアレ。我が家の家計に大打撃を加える一人だ。
「ん? どうした魔王。元気がないな……良くないことでもあったか?」
ニシシと寝転んだ状態で歯を見せて笑う顔は悪意とかそういうのはないが、元気がない原因はお前だコンチキショウっと心の中で叫んでおこう。喧嘩じゃ……勝てないしね。
「お願いだから魔王って外では言わないでね? 結構めんどくさい事になるから」
「なんだよー、いいじゃん魔王は魔王だろ? じゃあなんだ? 衛藤颯大だから『そうちゃん』とでも呼べばいいのか?」
身震いがしました。
「やめて、なんかキアレちゃんに言われると寒気がする」
「んだよー……ところで飯は?」
ため息をつきながら俺は黙ってキアレちゃんにもやしを見せて台所へと向かった。向こうの方でもやしか~となんかテンションの下がった声がするけど、とにかくちゃっちゃと作ってしまおう。また無理難題を言われかねない。
こんなボロいアパートの同じ部屋に女の子がいるのは別に彼女だからではない。彼氏彼女という甘い関係だと思ったら大間違いだ。というかキアレちゃんが彼女なら俺の胃は大変な事になっている。
ならなぜ彼女が俺の部屋にいるかというと…………俺にもよく分からない。とりあえず分かっているのが、俺が魔王だからだ。
それは分かっているが、その魔王という肩書きは本来なら無くなっているはずなのだ。
だって、つい一週間前に衛藤家は形式上滅んだのだから。