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第10話 月ヲミル菫

 エロ研究部(文芸同好会)の面々で、いつもの部屋で駄弁だべるだけでなく、最近では喫茶店でお茶することも多くなっている。

 今日はまさにそんな日で、思いのほか話が盛り上がってしまい、店を出る頃には既に日も落ちていた――もちろん第三野球部の話はした(もちろんって何だよ)。


 人通りの少ない帰り道、先頭をカヲリと並んで歩いていた花子が、ふと珍しく話題提起する。


「そういえば、前の……ホラーを観てギャップがどうのって話の時ですケド」

(※第六話参照)


「ひんっ……!?」


「いやカヲリさん違くて、怖い話をしたいわけじゃないんですわ。あ、そういえばあの時カヲリさん、便ッ……んんっ、お花摘みに行ってたから知らなかったですわね……ルナさんが〝男の好み(タイプ)とか別にナイ〟って言ってたんですわ」


 花子の言葉に、抑えていた耳から手を離したカヲリが、少し考えて答えた。


「……いや〝エロ研究部、作っぞ♡〟とか言い出した張本人の女が、男の好みとか別にナイとか、それはそれでホラーじゃね……?」


「……確かに……ですわ……」


 なぜか深刻な声色で同意する花子に――〝そいえば、そんな話もしてたな~〟と思い返していたルナが、二人の後方から意見する。


「いやいや、言ったってアタシら女子校だし、出会いとかナイしさ? タイプとかナイの普通っしょ~フツーフツー!」


「ふゅ~ん。……んじゃ共学とかなら可能性アルのか? てか確か、中学までは共学だったんだろ? ウチもそうだったけども」


「は? いや別に昔から、全く一切これっぽっちもなかったケド」


「やっぱナイんじゃねーか。いや別にイイんだけども、〝エロ研究部〟の名がドンドン見掛け倒しになっちまって、逆に斬新に思えてきてんだよ」


「いやエロ研究部は永遠という名の絆でしょー! 自分で言ってて何だソレだけども! てかそーゆーカヲリちゃんこそDo(ドゥ~)なのよ! そいえばお兄さんとかいるんでしょー!?」


 ルナに言われて逆に考え込むカヲリだが、すぐさま首を横に振っていた。


「いや、ねぇなぁ~……ウチの兄貴、10くれー歳離れてっし、大学くらいから家も出てそんな顔も合わせねーし……つかウチより背ぇ低いし、運動音痴だしな。マンガとかゲーム置いてってくれたのは助かるけども。……まあでも、男兄弟とか家族にいると、逆に男に夢とか見なくなって……うん。アタシもねーな、男の好み(タイプ)


「ほらっ……ほるぁ(※巻き舌)! アタシと大して変わんないじゃーん!」


「まあ強いて言うなら、ニュータイプよりオールドタイプって感じか? ガハハ」


「大して変わんないどころかアタシと全く同じコト言ってんじゃん~! いやガハハとかは言ってないけども! その笑い方は女子としてどーかと思う!」


 二人でも充分にかしましいルナとカヲリに、やれやれ、と身振りする花子。


「全く……そんなんで〝エロ研究部〟とかようわからんこと、よく言い出せたもんですわね……本当、おかしな人達ですことっ」


「……いやそういう意味じゃ、オマエが一番エロ研究部らしい逸材なんだよ〝ペ〇スの商人〟」


「すおっそそそれヤメロゆーてんですわカヲリさんコラ! だ、大体、そーゆー変な話をしてた張本人は、アナタ達でしょーに!」


「いや残念だけどね? あの時、本当の意味でシモのハナシしてたの、〝おチン夫人〟だけなのよガチで」

(※第二話参照)


「ルナさんコラ! やめんかゴルァ! し、知らなかったんだからしゃーないでしょ!? つか何でチョコの真ん中を〇《伏字》にしとんじゃですわ! それがエロ研究部の活動だとか言わせねぇですわよンラァイッ!!」


 お嬢様口調が乱れて謎の言語化している花子も加え、三人そろって正式に姦しい中、そろそろルナが本題を問いかける。


「んで~? 花子ハナコちゃんの男の好み(タイプ)って、何かあるのー?」


「ハナコじゃねーんですわ。って、えっ……タイプ、ってそれは、まあ……こ、このホーエンハイム家の一人娘たるわたくしに相応しい、高貴で品格のある――」


「そーゆーんじゃなく。ちゃんとこー、具体的に」


「……………………」


 深く考え込んだ花子が、やがて顔を大きく背けながら、つう、と頬に汗を伝わせつつ一言。


「お嬢様にだってっ……わからないことぐらい……あるッ……!(ですわ)」


「ふふっ、この通り……エロ研究部一同、オトコ方面、堂々の全滅よッ……これがアタシ達の実力! 安心してね♡」


「誰向けの安心だっつー話ですのよ。まあ別にいいんですけれども」


 安心してね♡(わかるよな?)


 だが、そこで禁断の爆弾(JKぼんば~)を投げ込んだのは、カヲリだった。


「いや、まだ分かんねえぞ――我がエロ研究部のダークホース、すみれに聞いてねぇだろ――」


「は? いやすみれちゃんに男の好み(タイプ)とかナイけど?」


「何でルナが答えるんだよ。せめてすみれが答えるトコだろ。つーかよ、こういう大人しい文学少女こそ、案外トンデモネー隠し刃(※オトコのタイプの話だぞ)とか持ってんのがお約束だろぉ……!?」


「うおおーやめろぉー! ナイし! 清楚で可憐な文学少女だよ!? 男のタイプとか絶対ズェッテェーナイから! メガネっだし!」


「メガネ関係ねーだろ。そして何でルナが必死なんだよ。……いやそもそも、ウチらが知らねーだけで……実はカレシとかいたりして、そらもうエロ研究部の裏番長かってくれーズブヌルのズッコンバッコンあはんうふん……!」


「やぁーめぇーれぇー! 死ぬ! そんなんあったらアタシが死ぬー! ええーいこの腐った現実に唯一残った綺麗な花を汚すんじゃね~~~ぇ!(ヨヨイ~ッ!)」


「すみれに何をそんな夢を見てんだよ。本人も困るだろ。んで見得の切り方が堂に入ってて感心したわ今」


(……あっ。今気づいたけど、私まだ一回も発言してないな)


 すみれがぼんやり物思いに耽っていると、なかなか好き放題に言っていたカヲリが、軽い調子で続きを発して――


「つか、そんなすみれが意外とムッツリだったらどーすんだよ、ンフッ……たとえばいつも読んでる本、エロ小説とかだったり――」


「――――ぶっ!?」


「!? す、すみれどーした!? ……ん? 今の反応………まさか」


 いやーすみれ氏、何で咽ちゃったんでしょうね?

 だがカヲリは何か察したのか、ややテンションを上げながら詰め寄っていく。


「――さてはすみれ、マジでオトコいたりすんじゃねーか!? ンだよンだよ、どんなヤツだ~!? 年収カネとか見た目とか年収カネだとか性格とか年収(カネェ!)とかは~!?」


「いーやーーー! ウソっしょすみれちゃん!? オエッ……あ、あぶな、吐きそになった……いや絶対ウソだし、たまたまむせちゃっただけだよね~!?」


「え、えー!? わたくしもそれは、なんかイヤですわぁ……じ、実際のところ、どうなんですの、すみれさんっ? どんなタイプ、っていうかぁ……ですわ」


(なんか……えらい事になってるな……)


 姦しいに詰め寄られると圧迫感スゴイな、とか割と冷静に考えていたすみれが、三人が騒ぎ疲れる隙間を見計らって、落ち着いた声で告げた。


「あの。別に付き合ってるとか無いですし、好きなタイプとかも今はありませんよ」


「――――ッシ!! ッシャオラッ、ッシ!!」


 掛け声、ルナだぞ(ルナだぞ)

 だがここで、粘り強いプレイがウリのカヲリは、更に問題シュートを放つ。


「バッカおまえ……良く聞けよ。〝今は〟だぞ〝今は〟……つまり時間の問題だろ、いつかはコレおまえ……メガネっ娘、性の乱舞クルぞ」


「――ッフ。甘いわねカヲリちゃん。残念ながらすみれちゃんに、そんな未来はナイわ。なぜならアタシがさせぬからだ」


「なぜオマエが人の未来まで閉ざそうとしてんだよ、暴君かなんかか。……って、何だその自信は……ルナ、オマエ一体ナニをしようと……!?」


 おののくカヲリに、不穏な笑みを見せるルナ。

 彼女が一体、何を考えてそんな発言をしたのか――それは彼女自身の口から明かされた。


「――アタシがオトコになるコトだ――」


「……TS(なん)……できんの(だと)……?」


「できるハズよ……チカラさえあればね……!」


チカラとかねーし(なるほどな)……ムリって(そういう)コトか……」


「フッ……おもしれー女☆」


 なかなか極まった妄言を繰り出したルナに、カヲリが腕組みして考えた後、結論を出す。


「いやオマエ(ルナ)が一番おもしれー女だよ実際。……いや花子ハナコとかも負けてねーかな……」


「んなっ……だ、誰が少女漫画のヒロインですの!」


「前向きだよな、解釈がな。意外とメンタル強いよな花子ハナコな」


「だからハナコじゃねーんですわ、ってめげずに訂正してるわたくし確かにメンタル強い感ありますわね……いやそっちが改めればイイ話でしょーが!? フローラだっつーんですのよ、いい加減、悔い改めなさいまし!?」


「スマンスマン、わかってるって、おチン商」


「悔い改めやがれですわゴルァ! んで混ぜてんじゃねーですわよモルスァ!」


 きゃいきゃい……いやごめん、ギャースギャースくらいだわ……とにかく歩きながら器用に大騒ぎし、並んで先頭を進むカヲリと花子。


 その後ろでルナが、並んで歩いていたすみれに、なぜだか恐る恐る尋ねる。


「ん、んでんで……ホントーに好み(タイプ)とかそーゆーの、ナイの? 全然、全く?」


「え? ……ん~、どうなんでしょうね?」


「ウワッちょっ待って待って、ナニその意味深な感じ~!? ほ、ホントは隠してるだけで、実はなんかあんの~!? 気になって夜しか寝れなくなんじゃーん!?」


「夜、眠れれば充分では? ……でも、そうですねぇ……う~ん?」


 ん~、と口元に指を当て、考え込んだすみれが――

 不意にルナへ向けて、にこりと、穏やかに微笑んだ。



「月が、綺麗ですね」

「えっ? ……あっ」



 すみれの言葉を受けて、ルナは――

 ――思いっ切り空を見上げた。


「おーっホントだーっ今日めっちゃ月キレイ~♡ 珍しいね~こんな街中で、こんなまんまるお月様とか見れんの♡ 空気が澄んでんのかな~、ね~すみれちゃん」


「ふふっ……ルナさんのそういうとこ、好きですよ♡」


「へあっ!? え、ええ~っナニナニ!? なんで急にデレた~!? ……あっ、ま、まさか……〝月=ルナ〟ってかけてたりしてた、トカ!? うおおー褒められてた!? な、なんか照れんじゃん~もう~っ!」


「ふふっ……おもしれー女♡」


「どふぉー!? そ、そっちのパターン!? そういうのもあるのかー!? ああもー色々どーゆー意味なの!? もーわから~~~ん!」


「ご想像にお任せしますね♡」


 解釈、任せま~す♡(投げんな)


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