破綻警察24時
「破綻警察24時ーーーオープニングを始めます。1.2.3.キュー」
画面には、発禁処分を受けた本が焼却処分される映像が映し出される。
その中には、国民的人気を博したあの作品たちもあった。
「おい!トコロザワ。ケーブル片付けておけって言っただろう」
先輩ADの怒鳴り声が聞こえる。
ここは国営放送局の第31スタジオ。
俺はテレビ番組のADだ。
破綻警察24時の担当になったのは、ADを始めてすぐのこと。
もう今年で3年目になる。
カメラのズームがアナウンサーのアンドウをとらえる。
紺色のスーツに白いシャツ。
薄く国営放送と透かしの入った真っ赤なネクタイをしており、
白髪頭を一九分けで整えていた。
「設定破綻罪が適用され、今年で五年となります。街の声を聞いてみました」
アンドウは淀みなく読み上げる。
映像はあらかじめ取材していた映像に切り替わる。
まずは街の声だ。
若い女性のアナウンサーが公園のベンチの横に立つ映像が流れる。
ベンチには高齢の女性が映っている。
こぎれいな小花柄のワンピースを着ていた。
「設定破綻罪が適用され、今年で五年となります。今のお気持ちは?」
アナウンサーが高齢の女性に質問する。
「まぁ詳しいことはわかんねぇけども。道理が通らない話がなくなったのは、いいことではないの?」
「さきほど、通報をされて、報奨を受け取られたと聞きましたが……」
「あぁそれね。孫がね。
昔に読んでいた本を読んだら、途中でね。
死んでいたはずの友人が生き返るっていう話が出てきたんだよ。
それでね。よくわからなかったけど、通報したんだよ。
そしたら、まだ通報されていない本だったらしくて、報奨をくれたんだ。
それで家族旅行で温泉に行ってきたよ」
「旅行は楽しかったですか?」
「あぁもちろんだよ。これも安全国民党のお陰だよ」
「こちらからは以上です」
その言葉をきっかけにスタジオに映像が切り替わる。
「設定破綻罪が適用され、今年で五年となります。スタジオには、設定破綻罪に詳しい弁護士のヨコザワさんに来てもらいました」
映像が弁護士のヨコザワに切り替わる。
歳は30代半ばだろう。
黒い高級そうなスーツに金のバッジ。
白地にストライプのボタンダウンシャツ。
青と金のレジメンタルのネクタイをしており、
てかてかとした頭をセンター分けで整えていた。
「ヨコザワさん。今年で五年となった設定破綻罪。今はどのような状況でしょうか?」
ヨコザワはフリップを取り出す。
「まず設定破綻罪は段階を経て、慎重に進められました」
「慎重に進められたのは、なぜですか?」
「そうですね。設定破綻が常態化していた中で、正しいこととは言え、急激に進めると、社会的に混乱をきたすだろうという政府の配慮です」
「私が記憶するに、混乱はあったような気がしますが……」
「そうですね。どんな法律でもそうですが、周到に準備を行っていても、混乱は必ず出ます」
「それは仕方がなかったということでしょうか」
「はい。そう思います。むしろ本当に最小限の混乱だったと思います」
映像が切り替わる。
毎週末に放送されていた国民的アニメの映像だ。
「こちらのアニメは26年間続いたアニメ、S氏の食卓ですね。このアニメが一作品目の摘発でしたが、いったいなぜ摘発対象になったのでしょうか?」
「このアニメは26年の長期にわたり続きましたが、その間、登場人物が歳を一切取らないという設定破綻を起こしていました」
「26年もですか……。なぜそんな暴挙を」
「作者がもうお亡くなりになっているため、詳しいことはわかりませんが、始めは半年の契約だったそうです。それがずるずると26年間続いたとみるのが妥当かと思います」
「しかし、26年もよく歳を取らせずに、話を展開できましたね」
「有識者の話によると、日常系という日常の出来事をただ流す作品だったから、成立したのだろうとのことでした」
「日常系ですか。実は私も見たことはありますが、花見とか、花火大会とか、そういうありふれた内容だったと思います。しかしそんなもので毎回見ますか?」
「そうですね。私も疑問なのですが、視聴者に聞いたところ、毎日食べる白米のようなもので、別に真剣に見ているわけでもなく、ただその曜日にそのチャンネルをつけているだけだった、とそのような声がありました」
「半ば惰性のような形で見られていたわけですか?」
「そうですね。破綻警察側でも、その惰性的にムリな設定を長期間見続けさせることは、心身への悪影響を及ぼしかねないと見解を述べていましたね」
「なるほど。ここで帝都大学心理学科教授のセリザワ氏にお話を聞いてみましょう」
セリザワ氏に映像が切り替わる。
肩まである白髪交じりの長髪を、
後ろでくくっている。
中肉中背。
40代半ばだろう。
薄いグレーのスーツに、
白いシャツ、赤と金のレジメンタルのネクタイをしている。
「あぁセリザワです」
間が空く。
「えっとなんだっけ」
緊張で内容を忘れているようだ。
俺はフリップに
惰性的にムリな設定をと書き、セリザワ氏に手を振る。
「あぁそうだそうだ」
「惰性的にムリな設定を長時間見続けさせる行為の影響でしたかね」
「そうです。具体的にお聞かせいただけますか?」
「帝都大学で我々が行った実験では驚くべきことがわかりました」
セリザワ氏は、フリップを取り出す。
「この左が正常な脳です」
「この被験者に対して、3年間毎週、
当該アニメを視聴させた結果が右側です」
右のフリップにズーム。
「この前頭前野の部分が著しく不活発になっているのがわかるでしょうか」
アンドウはフリップを覗き込む。
「この黄色い部分ですよね」
アンドウは指差す。
「そうです。ここです。本来であれば、ここの黄色い部分は、もっと活性化していなければいけない」
セリザワ氏も指差し、マークする。
「これは加齢のものではないのですか?」
アンドウは、加齢の可能性を指摘する。
「もちろん、我々もそれを考えました。
しかし、その見解には疑問を抱かざるをえません」
セリザワ氏は新たなフリップを取り出す。
「実は同じ時期に、当該アニメを視聴しなかった被験者のデータもあるのです」
「若干は不活発になっているようには見えますが、ほとんど変わりがないですよね」
アンドウは黄色い部分を指差す。
「我々は被験者1000名のデータを取りました。
一部を除いて皆ほとんど同じような結果になりました」
「ちなみに、その一部というのは?」
アンドウは目を細める。
セリザワ氏はまたフリップを取り出す。
「俳句、脳トレ、定期的な球技などを行っていた方です」
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