リボン
--シュル
さらりとした音を響かせ、リボンが引かれる。
「いらっしゃいませ」
「このユリを一輪」
「ご贈答用でしたら、お包みいたしますよ」
「いや、良いんだ」
スーツを着ている精悍な男性が真っ白な美しいユリを指差していた。
私は笑顔で返事をし、ユリを手渡す。
そのお客様は何も飾られていないお花を一輪だけ受け取った。
「今日は妻の誕生日なんだ。何を買っていいか分からなくてね」
「それでしたら何かお作り致しましょうか」
「ん、いや。それじゃあリボンだけ飾って貰えるかな」
「かしこまりました」
私は引き出しから、既製品の針金で止めるタイプのリボンを取り出した。
「こちらのリボンでよろしいでしょうか。それとも結び方をお教えいたしますので、ご自分でお結びになられますか」
「うん、そうだな。自分で結んでみるか。はは。いやね、昨夜ちょっとしたことで喧嘩をしてしまったんだよ」
「そうでしたか。少々お待ちください」
私は薄いピンクのリボンと赤いリボンを適当な長さで切り、一度奥へ向かった。
店の奥には入荷されたばかりのレッドローズが積まれている。
その中から一輪、なるべく大きい蕾を選びお客様の元へ向かう。
「こちら、私からのサービスです」
「いや、申し訳ないから受け取れないよ」
「奥様と仲直りされて、気持ちの良い誕生日を迎えていただきたい私の気持ちです」
「そうか、それなら受け取らなければ失礼だな。ありがとう」
先程切ったリボンを手渡し、結び方をお客様に教える。
細い針金で茎を傷つけないように慎重に二輪の花をまとめる。
その上から二つのリボンを一周、二周巻きつけ、ピンクと赤のふわりとした蝶結びをする。
二色で作られた大きな蝶を作り、その内側に更に二色の小さな蝶を作る。
「お二つのリボンで、お客様と奥様の仲を結び直しましょう」
「ははは。でも蝶結びだと簡単に解けないかい」
「あぁ。そうですね。気の利いたことでも言おうと思ったのですが裏目に出てしまいましたね」
「いやいや、気持ちをありがたく受け取っておくよ。本当にありがとう」
「いえいえ、こちらこそ暖かい気持ちにさせていただきました。ありがとうございます」
「さて、ではケーキでも買って帰るよ。いくらだい」
ユリの値段をお客様に伝え、会計を済ます。
--シュル
リボンが突然の風に煽られ、その腕を伸ばし私のお腹の辺りをくすぐる
「もう少しだね」
私はお腹に向かい話しかけた。
内側から軽い衝撃がお腹を突いた。