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第二十章 沖縄の風  

九月二十二日。那覇空港。

 直人と真琴は、別々の便で沖縄に入った。尾行を分散させるためだ。直人は成田から、真琴は関西空港を経由した。

 合流したのは、那覇市内のビジネスホテルのロビーだった。

 沖縄の九月は、まだ夏だ。空港を出た瞬間に肌を包んだ湿った熱気は、東京の残暑とは質が違う。空気そのものが重い。

「暑いですね」真琴が言った。

 直人は頷いた。修復室の二十度に保たれた空気が恋しかったが、そんなことを言っている場合ではない。

「早川から最新データが来ている」

 直人はタブレットを開いた。

「五点目の座標。沖縄本島南部、糸満市摩文仁。平和祈念公園の敷地内——正確には、公園の南端、海に面した崖の上。平和の礎の東側約二百メートル」

「平和の礎……」

 平和の礎。沖縄戦で亡くなったすべての人の名前が刻まれた記念碑。国籍や軍民を問わず、二十四万人以上の名前が並ぶ。

 真琴の表情が硬くなった。

「あの場所に、暗号があるのですか」

「座標はそこを指している。ただし、何があるかは行ってみなければ分からない」

「もう一つ。三条冬美の所在は」

「早川が追跡中。SNSの痕跡では、那覇市内に滞在しているらしい。だが正確な場所は不明だ」

 直人はタブレットを閉じ、真琴を見た。

「九条さん。沖縄に来る前に、一つ確認しておきたいことがある」

「何ですか」

「あなたの祖父——九条清隆氏は、昭和天皇崩御の日にあの文書を閲覧していた。あなたはそれを、どう解釈していますか」

 真琴は椅子の背に体を預けた。ロビーの窓から、那覇の街が見える。ヤシの木が風に揺れている。

「祖父は……維持派だったのだと思います」

 直人は黙って聞いた。

「宮内庁次長として、皇室の安定を守ることが使命だった。三種の神器の正統性に疑問を呈するような文書は、封じなければならなかった。祖父がわたしにあの言葉を残したのは——」

 真琴は言葉を探すように、天井を見上げた。

「遺言だったのだと思います。維持派の人間として一生を過ごしたけれど、最後に——本当にそれでよかったのかという疑問を、次の世代に託した。『いつか誰かが見つけなければならない』と言ったのは、維持派の任務に反する言葉です。それを口にした祖父は、晩年、揺らいでいたのだと思います」

「揺らいでいた」

「国家の安定と真実のあいだで。——私と、同じように」

 直人は真琴の横顔を見つめた。

 この人は、祖父と同じ場所に立っている。同じ問いの前に立っている。そして祖父と違う答えを出そうとしている。

「行きましょう」直人は立ち上がった。「摩文仁へ」

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