4話 ホスタイル
「貴機は警戒空域に接近中である。直ちに変針せよ」
「IFF応答なし。スコーク確認できません」
「繰り返す。直ちに変針せよ」
潮騒の基地、その司令室に、にわかに緊張が走る。
要所には既にハウンド部隊を待機させている。
「応答ありません」
「12番、威嚇射撃を許可する。進路前方に曳光弾を射出せよ」
「了解。曳光弾、射出」
ここからは見えないが、宵闇の空には光の筋が走っているだろう。
普通のパイロットなら何らかの反応が得られるはずだ。
「進路変わりません」
オペレータが努めて冷静に告げる。
「国際緊急周波数で呼びかけを続けろ。
ハウンド隊各機は対空戦闘に備えよ」
「進路変わりません」
国籍不明機の数は1。
少なくともレーダに確認したのはそれだけだ。
再三の呼びかけに応じない。やむを得まい。
対象の撃墜許可を出そうとした。
「国籍不明機が何かを射出!」
レーダに捕捉している対象の周辺に、突如、光点が多数現われた。
「UAVです!12機!」
13番からの通信が、司令室の空気をより一層張り詰めさせた。
「攻撃を受けています!」
「各機、ウェポン・フリー。撃墜を許可する」
今この瞬間、国籍不明機を撃墜対象と認定する。
明確な侵攻だ。
敵UAVの機動に合わせ、各ハウンドが展開し迎撃にあたっているのがレーダから見て取れる。
「撃墜!」
「ターゲット残り10」
並の部隊なら損害は必至だったろう。
しかし『子供たち』は難なく撃ち落とす。
音速で、Gの負荷を無視した変則機動を繰り返すUAVも
『子供たち』の並列処理の前には形無しだ。
だが先制攻撃にしては手ぬるい。
狙いは何だ。
そもそも、このターゲットはどこから飛んできた。
海の向こうの国とは、関係は良好のはずだ。
仮に政治的な圧力をかける事情があったとしても、もっと手近な土地がある。
わざわざここに来るのは燃料の無駄だ。
「UAV1機、離脱」
UAVを示す光点が戦闘区域から離脱していくのが確認できた。
「こちら26番。追います」
「26番待て。単騎で深追いするな」
「すぐ戻りますって」
「許可しない!戻れ!」
26番は頑なに目標を追い続けている。
目の前の玩具にはしゃぐ仔犬のようだ。
「こちら25番、カバーに入ります」
距離はあるが、25番に後を追わせる。
UAVの攻撃程度なら難なく凌げることは証明されたが
単独行動をさせるわけにはいかない。
同じように見える『子供たち』の間でも、個々は少しずつその性質に差がある。
人と同様の構造である以上、個性が出るのは仕方ない。
その26番の動きが急遽、止まった。
「なんだ、これ」
「26番、どうした」
「何か、キラキラ舞ってる。雪みたいだ。綺麗だなあ」
この非常時に何を呑気なことを言っている。
25番が合流するまで待機を命じようとした。
しかし、通信機から聞こえる26番の様子がおかしい。
「あ……ああああああ!」
脳波に異常値。
「オーバーフローです!」
「何が起きた!状況を報告せよ」
「痛い!痛い!頭が!割れる!」
26番の苦悶の声が耳に刺さる。
「司令!感覚リンクを切って!」
11番からの通信。
遠く離れた位置にいるはずなのに、こちらもなぜか苦しそうに呻いている。
他の個体も同様。皆、苦痛に喘いでいる。
「どういうことだ!」
「いいから、早く!ノイズが……!」
ただ事ではない様子に、サーバを介したハウンド間のリンクシステムを解除する。
その直後……
「やめろ!来るな!ああああああ!!」
26番からの通信は途絶えた。
最後に聞こえたのは、断末魔の絶叫と、何かが擦れるような大きなノイズ。
そしてあれは間違いなく、銃声だった。




