表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3話 カフェ

基地の周辺の様子を視察するため車を出した。

延々と、素朴な風景が通り過ぎていく。


基地から近い海辺の街を通り、

『子供たち』がここにあるカフェをよく使っているという記録を思い出した。


今は12体が基地で待機中。4体はここに来ているはずだ。


カフェの場所はすぐ分かった。

カフェと呼べる場所は、この街には1箇所しかないからだ。


看板には『ラ・リサッカ』と書かれている。


入店と同時にベルが鳴り、

コーヒーとバターの匂いが鼻腔に届いた。


「司令、何しに来たんです」

「監視ですか?」

心做しか、基地よりも『子供たち』が活き活きしているように感じられる。

フランクな反応だ。

4体が1つのテーブルに座っている。店内に客はそれだけだ。


「新しい指揮官の方ですか?」

その様子を見て、ここの店員が話しかけてきた。

白い三角巾にエプロン、中央にあったカフェと違い飾り気のない格好だ。

歳は20前後だろうか。


「前任の方も、よくお見えでした」

意外なことを言うものだ。

子供たちの監視と称して度々訪れては子供たちの飲食代をポケットマネーから出し、

自身はコーヒーを啜っていたという。


「この島で取れた素材で作られています。良かったら」

「すまないが公務中だ」


『子供たち』は、貪るように何かを口に運んでいる。

脳が人よりも多くのブドウ糖を必要とする。

訓練後は尚更、ということらしい。


とはいえ、その様子に目に余るものがある。

「がっつきすぎだ、26番」

注意を促した。


パンケーキが乗っていたであろう皿が3皿、食べカス1つない状態で積まれている。

今は食後のプリンを楽しんでいる。それも2つ目だ。


「司令官も食べますか?」

26番はスプーンを持つ手を止め、私に向けた。

「いらん。公務中だ」

「お硬いなあ」

その口元にはクリームの痕跡が残されている。

こうして見ると、本当に子供が甘い物を欲しているようにしか見えない。


「これが私たちの日常ですよ」

11番は年長者だけあって、どこか落ち着いて見える。

「戦うために産まれてきたのに、戦うことすら許されない」

コーヒーを啜りながら出てきた言葉には、

悔しさが滲んでいるように感じ取れた。


「私の寿命は、あと3年もすれば尽きます」

相変わらず抑揚のない声で11番が漏らす。


「それまで平和に時が過ぎ去るだけなら、

 私は何のために産まれてきたのでしょうか」

子供のように見えても、しかしその本質は、やはり兵器だ。

活躍の機会のないまま朽ちていくのは耐えられまい。


部屋の隅で使われないまま埃を被っている健康器具に等しい。


「使われる機会がないのは、諸君らが抑止力となり平和を守っているからだ」

下手な嘘をついた。

この島のスコアはマイナスだ。こんな島を抑えても何の得にもならない。

襲撃され活躍する機会など訪れるはずがない。

そんな状態で、抑止力も何もない。


だが己の存在意義を問う子供に対し、「意味がない」などと言えるはずもない。


いずれにしても戦いなどはない方がいい。

軍隊など『税金の無駄』程度に思われている状態の方が、世界にとってはプラスだ。


「以前は、私たちのいた証を、経験や知識として後の世代に残すことができた。

 でも私たちの生産は終了している」

11番は淡々と続けた。私の気休め程度の言葉には承服できなかったのだろう。

「私たちは、何も残せない」

その言葉は、私の胸の奥に棘のような何かを突き刺した。


中央司令室からすれば、『子供たち』の記録など、今すぐ抹消してしまいたいと考えているだろう。

凍結したプロジェクトの名残。

公に広まれば、費用の面と倫理の面の両方から、世論の追求は免れまい。

静かに、穏便に、『なかったことにしたい』に違いない。


私は何も応えることができず、店を後にした。


水平線に陽が沈もうとしている。

家々の窓や街灯に光が灯り、暗闇に覆われた空には点々と星が煌めいている。


この空の下、世界のどこかでは今日も銃弾が飛び交い、血が流れている。

それらは決して、止むことはない。それが人の世だ。


だがこの島は、そんな争いとは無縁。

世界から取り残されてしまったかのように辺りは静まり返り、平和そのものだ。


『子供たち』が活動を終えるまで、この平和が続けば良い。

26番が笑顔でブドウ糖を補給すればいい。

11番が自身の活動を停止するまで、その存在意義に苦悩すればいい。


のどかな空気に中てられたか。

柄にもなく、そう思ってしまった。


しかし……。

平穏な時間を、突然の1本の無線がぶち壊した。

国籍不明機ボギーです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ