1話 着任
辺境の島に飛ばされた。
左遷。私のキャリアはここまでだ。
相変わらず時代遅れなペラ紙一枚の辞令を受け最初に感じたのは、そんなところだ。
飛ばされるような心当たり……ないわけではない。
だが今更考えても仕方ない。
輸送機の固いシートに揺られながら、
曇り空を映した鉛色の海面が延々と続くのを眺めていた。
この海の先に、例の島がある。
防衛ラインからほど遠い、戦略的価値に乏しい島。
平和な漁村や、わずかな観光資源、そしていくつかの研究施設がある程度。
研究施設……。
私の任務は、その施設の警備。
そして……『子守り』だ。
* * *
「軍の規定に従い、諸君らを番号で呼ぶ」
そこには、16体の『子供たち』が整列している。
見た目は10歳にも満たない子供。
資料には『身長は130cmを超えない』と書かれている。
完璧な整列。そして完璧な敬礼。
髪は刈り上げられ、衣服に乱れも見られない。
子供のような外見に反し、規律は守れそうだ。
むしろ『整いすぎている』とすら感じる。
その顔は、各個体ごとに僅かな違いはあるものの似通っている。
人間に例えれば、兄弟。
衣服に取り付けられたナンバーがなければ、区別がつかない。
色白の首筋には機器が露出しているのが見て取れる。
その箇所が一際、人間にはない『異質さ』を物語っている。
「異常のある者はいるか?」
表情はどこか覇気に欠けるように見え、
私はそのようなことを口にしていた。
「問題ありません。ご命令を」
011のナンバーを付けた個体が、抑揚のない声で返答した。
この中では番号が最も小さい。
それは『年長者』であることを意味している。
噂に聞く程度だったが、実物を目の当たりにして驚きを禁じ得ない。
薄ら寒さすら覚える。
これが、プロジェクト・ハウンズの成果物。
* * *
今や陸戦の主体となった、人型機動兵器ハウンド。
そのパイロットの育成には、多くの費用と時間を要する。
そのため替えが利く機械と異なり、パイロットは高価で貴重な存在である。
戦果を上げるパイロットなら尚更だ。
あるとき、
『ハウンドの操作に特化したパイロットを人工的に創り出す』計画が上がり、
多額の予算が投じられた。
倫理に目を瞑れば、実験は成功した。
人工パイロットは、ハウンドの戦闘データ・知識・経験をインストールされた状態で生産される。
さらにデータはクラウド上に蓄積され、
世代をまたぐ度に、より強化された個体が生産される算段だった。
生まれながらの歴戦兵士。
そして『替えの利く』パイロット。
人の形をした、人ならざる者たち。
……私は、着任時の前任者の言葉を思い出していた。
* * *
「『彼ら』のことを頼む」
引き継ぎに際して、前任の老司令官は深々と頭を下げた。
潮の匂いが染み付いたようなこの基地では
前任者が退役するまで何事も起きなかった。
戦争とは無縁。
戦果を上げる機会など訪れない。
定年まで平和に時が過ぎる。
何よりなことだ。
「『彼ら』に残された時間は僅かだ。
どうか最期まで、見守ってあげてほしい」
その姿は軍人というより、孫を心配する祖父を思わせた。
「『彼ら』のことを記録している。
必要になるだろう。ただ、公にはしないでくれたまえ」
老司令官から渡されたファイルには
手書きの文字でびっしりと情報が詰め込まれている。
「これは?」
「なあに、個人的な記録だよ。『彼ら』の。日記と言ってもいい。
好きな食べ物、苦手なこと、ささやかなクセ……
そんなところだ」
私は顔をしかめた。
異動に際して「あれらを人間扱いしてはいけない」と釘を刺されている。
「相手を『知る』ことで人間関係はうまくいく。
コミュニケーションの基本は『相手に興味を持つこと』だよ」
「……心得ます」
ファイルをパラパラとめくる。
「甘いものが好き」「雷が苦手」「壁に落書きをしたことを注意した」など。
そして、『名前』。
こんなものが、何かの役に立つのか?
「奇妙に思うかね」
私の訝しむ顔を見てのことだろう。老司令官が尋ねた。
「はい、これではまるで……」
子供の成長記録だ。
言いかけたところで、彼は笑った。
「『犬小屋』と揶揄されているがね。
ここは良い場所だよ。私にとっては、第2の家だ」
* * *
替えの利くパイロットとして戦場で活躍するはずだった『子供たち』。
人間より高度な情報処理能力を持つ『それら』は、
脳への負荷を抱えたまま活動し、
耐用年数は10年にも満たないことが発覚した。
『費用に見合わない』というシンプルな理由でプロジェクトは凍結に至り、
生産は中止された。
記録によれば、
目の前に並ぶ『子供たち』は、既に生産から5~7年程度経過している。
仕様書通りなら、あと5年も経てば全ての個体は活動を停止する。
つまり、5年経てば『子守り』の任務から解放される。
だが……本土に戻ったところで、もはや私の椅子など残されていないだろう。
私も『子供たち』と同様。
所詮、替えの利く歯車でしかないのだから。




