暇
《ひ・ひ・ひ・ひ・ひ》
昼間でも薄暗い、安アパートの自分の部屋で、今日も暇つぶしに布団から出る。
ニートに転職して半年が過ぎるが、思いつく事をほぼやり尽くし、困ってしまっていた。
「あーあ、何しよっかなあ…」
ぼんやり考えながら、冷蔵庫を開け、缶ジュースを取り出す。
5回ほどプルタブに嫌われ爪を負傷するも、ようやく缶を開け、中身を喉に流し込んだ。
「…昼食おわり。面倒だから後いいや。」
ゴミ箱に山と詰まれた過去の歴史物の上に、器用に空き缶を乗せると、夜食までどうするか頭をフル回転させた。
「……こっくりさんでもするかあ。」
テーブルの上のゴミを端にズラし、こっくりさん専用シートを敷く。 そして、十円玉を財布から取り出してシートの上に置き、準備完了。
「さて。」
少しドキドキしながら十円玉に指を乗せ、お約束の言葉を呟いた。
「こっくりさん、こ…」
最後まで言い終える前に、急に十円玉が動き出し、シートの文字の所に止まっては動き、止まっては動き、を繰り返し言葉がつづられていく。
「えーと…」
《う・る・せ・あ・ほ》
「ん?、機嫌が悪そうだな。…まあ、いいや。おい、こっくりさん、早口言葉で勝負しないか?」
十円玉が、再び動き出し、あちこち文字を示していく。
《よ・か・ろ・う》
「…お。じゃあ、俺からだな。
生麦生米生卵生麦生米生卵生麦生米生卵!
うっしゃあっ。こっくりさん、さあ言ってみろ。」
十円玉が今までの倍速で動きだす。
《な・ま・む・き・な・ま・こ・と・な・ま・た・ら・こ》
「…腹、減っているのか?」
《お・ま・え・の・う・こ・か・し・か・た・か・わ・る・い》
「ひひ。それじゃあ、次だ。少し長いぞ。
赤パジャマ
青パジャマ
黄パジャマ
茶パジャマ
島パジャマ
滋賀パジャマ
歯科パジャマ
時価パジャマ
いかパジャマ
がらパジャマ
キャラパジャマ
マニアパジャマ
……はあはあ、どうだ!」
それに応えるかのように、十円玉が急に熱を持ち始めた。
こっくりさんの気合いが伝わってくるようだ。
そして、次の瞬間─
目で追えないほどのスピードで、十円玉が激しく動き出した。
摩擦で紙の焦げる臭いが漂い出し、あまりのスピードに手首の折れる音がしたが、十円玉から指を離すことは出来なかった。
暫くして、十円玉が止まり、今度はゆっくりと言葉をつづっていく。
《あ・き・た・か・ら・・か・え・る》
少しホッとして、十円玉から指を離そうとしたが、なぜか離れない。
更に、テーブルに敷いたシートからも十円玉を剥がすことが出来なかった。
そのシートも、テーブルにぴったり貼り付いていた。
そのまま、またゆっくりと十円玉が動き出す。
《な・ん・て・ね・も・つ・と・あ・そ・ほ・ひ・ひ・ひ》
その後一時間、こっくりさんに振り回され、右腕の感覚が麻痺し始めた頃、手元にライターが転がってきた。
そのライターでシートを燃やし、ようやく自分は、こっくりさんから解放されたのだ。
ただ、シートの燃え残りの文字には、
¨うえごてみらをん¨
と、あったが、自分は気付かなかった。
そして、疲れて眠くなり、そのまま仰向けに寝転がった。