1 穢れの掃除
未だこのような人物がこの国に存在することは、極めて不名誉なことである。
3億円の脱税、給与の未払い、社員の監禁まで――ここまでの穢を見た者は稀有だ。
渡辺グループ会長、渡辺景池。今もなおこの日本で生き、毎朝目覚め、歯を磨き、朝食を摂り、また穢れを働き、日常を繰り返している。
そのサイクルも、間もなく終わりを迎える。
13時08分、渡辺景池は新宿ミレニアムタワーに到着した。
13時12分、護衛数名とともにエレベーターに乗り込み、68階の68-第4会議室へ移動。移動中には簡単な情報共有が行われる。
13時15分、会議室に入り、秘書に資料の最終チェックを指示。
13時20分、重要な関係者との会議が始まり、ビジネスおよび政治の戦略が細部まで議論された。
そして14時34分、工作員たちが動き出す。
第2エレベーター以外の第1、第3、第4エレベーターを閉鎖し、エレベーターホールも封鎖。
内部関係者や警備に「エレベーターの故障」というカバーストーリーが適用される。
工作員は事前に調査済みのメンテナンスドアから静かに侵入し、エレベーターの機械室へ回り込み、シャフトの上部へ潜り込む。
そこに待機し、特殊装備のサイレンサー付き拳銃を準備、シャフトの隙間から68階のエレベーター内部を狙い撃つ体制を整えた。
渡辺がエレベーターに乗ると、狙撃は一瞬の静寂の中で正確に決まる。
護衛は数において劣勢であり、エレベーターの閉鎖により増援の到達も遅れた。
数秒の銃声が響くと同時に、ビル内の監視カメラは巧妙に遮断され、襲撃の全貌は即座に把握されなかった。
この完璧に計算された罠によって、渡辺景池の長きにわたる穢れのサイクルは断ち切られた。
襲撃の報道が始まると同時に、メディアや内部告発者によって渡辺の過去の不祥事が次々と表面化する。
3億円規模の脱税疑惑、長期にわたる給与未払い、社員の監禁問題など、これまで隠されていた不正が一斉に暴かれた。
報道は瞬く間に社会に拡散し、投資家や取引先の信頼は急速に揺らぐ。
渡辺グループの株価は開場直後から大幅に下落し、数時間で数割の価値を失う深刻な暴落となった。
株式市場の混乱は関連企業や取引先にも波及し、連鎖的な信用収縮を招いた。
証券取引所や金融監督当局も動きを注視し、インサイダー取引や相場操作の疑いを調査している。
取締役会は緊急会議を開き、経営の透明化と再発防止策の強化を表明したものの、社会の批判は収まらず、顧客離れや契約解除も相次いだ。
この一連の出来事は、渡辺景池の暗殺事件と相まって、社会全体に企業倫理と政治との癒着問題を改めて問い直す契機となった。
私はその一報を聞いたとき、狂喜した。
私が主導した計画が、成功したのだ。
任務の主任として、段取りから実行まで指揮した。計画は完璧だった。緻密に練られた準備と情報収集、そして現場での冷静な判断が功を奏した。
エレベーターの故障を装い、護衛の数を絞らせ、狙撃は一発で仕留めた。現場からの撤収も迅速に行い、痕跡を残さず脱出した。だが、成功の裏には多くのリスクが潜んでいた。
事件は大々的に報道され、渡辺の過去の不祥事が次々と暴かれている。社会は騒然としているが、私たちには関係ない。任務は完了し、後は組織が次の動きを決めるだけだ。
それでも主任としての責任は重い。内部での情報共有や次の作戦準備を進める必要がある。組織の安全を確保し、私自身も身を隠しながら次の指示を待つ。
この世界に正義などない。あるのは結果だけだ。私はそれを知っている。