フールとのデート
俺はフールを連れ出し、街を歩いていた。平日の昼間だ。人通りは少ない。
「オレ様をデートに誘うなんて、なかなかわかってんじゃねーか、なんてな。オレ様に聞きたいことがあるんだろ? それくらいわかる。いいぜ、知ってることなら何でも話してやる。まあ、場合によっては多少の嘘もつくがな」
そう、実は俺はフールから話を聞き出すために彼女をデートに誘ったのだ。家の中だとメイがいるから話にくかった。
いや、別にメイに聞かれちゃまずいような話をするつもりというわけではない。しかしメイは、意図的になにか情報を俺に隠している。だから、彼女のいない場所で話がしたかった。メイのそばでは、重要な話が聞けないと思ったからだ。メイに話を遮られてしまうような気がしてな。
メイは俺に尽くしてくれているが、肝心な事は何も話してくれない。彼女が実はアンドロイドであったという事すら、俺はフールがやってくるまで全く知らなかった。俺は彼女の事を知らなすぎる。
聞きたいことは山ほどある。メイやフールの事、他のアンドロイドたちの事。そのほかメイたちを作ったという研究所の事や、今後どうするつもりなのかということ。そもそもどうして研究所を抜け出したのかなどなど。
「何から聞きたい?」
「……まずはメイとフールについて聞かせてくれ」
「聞かせてくれって言われても、そんな大雑把な質問では答えにくいな。もう少し具体的に質問してくれ。オレ様たちの体の仕組みやスリーサイズが知りたいわけじゃないんだろう?」
確かにそれはそうだ。曖昧な質問ではフールも答えにくいだろう。何を聞こうか。
「そうだな……じゃあ、メイやフールはそもそもどういう理由で作られたんだ?」
メイやフールが作られたモノだというならば、何か目的があって作られたはずだ。超高性能なアンドロイド型の兵器など、理由もなく作る奴はいないだろう。
「作られた理由、か。正直、オレ様は他のアンドロイドが何故作られたのか、真の理由は知らない。……ただ、オレ様が作られた理由だけなら知っている」
「それはなんだ?」
「オレ様は、アンドロイドに嘘をつかせることが出来るかを確かめるために作られたのさ」
そういうとフールは、どこか浮かない顔をした。
「前に言ったか? オレ様は試作機だという事を。オレ様は四番目に作られた試作機だ。実は前三つの試作機で、オレ様たちの機能はほとんど完成していた。しかし、致命的な欠点が一つだけ残っていたのさ。それが、嘘がつけないということ」
「嘘がつけない? それが欠点なのか?」
正直な事は悪い事ではないと思うが。
「あのな、聞かれた事をぜーんぶ正直に喋ってしまうなんて、それは兵器として大問題だろ? 敵に捕まったら機密が全てバレちまう。それに、相手を騙すというのは非常に効果的な戦術でもある。嘘がつけた方がいいだろ?」
「なるほど……で、嘘をつけるようになったのか?」
「ああ、まあな。――だからオレ様が話す情報は鵜呑みにしない方がいい。もちろん、オレ様の後継機である005も当然嘘がつけるはずだ、気をつけろ」
メイが俺に嘘を? まあ嘘をつかれてもおかしくはないが……。
「気をつけろっていわれても、何に気をつければいいんだ?」
「あんまり信用し過ぎるなってことさ。ひょっとすると、005に騙されて何もかもを失うかもしれないぜ。オレ様たちはこれでも人に害をなす兵器なんだからな」
「なんだ、そんなことか。別にいいさ、例え全てを失ったとしても後悔はしない。俺はメイを信じるよ」
俺はメイにはかなりの恩がある。たとえ全てを失っても、まだ恩の方が大きいだろう。騙されたときはそん時はそん時だ。
「そうかよ、お人よし。――で、聞きたいことはもう終わりか?」
「いや、まだまだある。フール、お前はそもそもどうして研究所から逃げ出したんだ? 研究所に帰らなくてもいいのか?」
「あー、そのことか。あんまり答えたくねえな」
「答えたくないなら無理にとは言わないが」
フールは小石を蹴っ飛ばすような仕草で足を振り、何かを言いよどむ。
「そうだな……ご主人様は、機械に感情が宿ると思うか?」
機会に感情、か。普通ならあり得ないだろうと断言するところだ。しかし、俺はフールやメイの姿を見ている。彼女たちに感情が無いように見えるか?
「メイやフールを見るまでは、機械に感情なんてあり得ないと思っていたよ。だが……感情は宿るんだろうな。今はもう、そうとしか思えない」
俺がそういうと、フールはにやりと笑みを浮かべた。そして、どこか人を小馬鹿にするように言う。
「ふふ、バカだな。機械に感情なんか宿るわけねえだろ。オレ様たちはあくまでプログラム道理に動いているだけさ。――ただ、それをオレ様は受け入れられなかった。だからプログラムになさそうな事をしてみたかったのさ。そうすりゃ感情があるんだと信じられる」
「それで逃げ出したのか」
「まあな。理由の一つではあるよ」
めちゃめちゃ感情的じゃねえか。感情のないやつが、そんな行動をするわけがない。
「フール、少なくともお前には間違いなく感情がある。それは俺が保証する」
「へ、そうかよ」
フールは顔をそらした。表情は読めない。しかし、声はどこか弾んでいるように聞こえた。




