着衣ロリっ娘と西部の荒野!
【よい子のおまけミニ小説……後ろからは撃たないぞ!】
ロリシィは服を着ないで出歩くが、優しい心の持ち主。
降参して背中を向けて逃げ出すものを、追撃することはない。
「ま、まいった! 見逃してくれ~……」
「ふんっ! いいでしょう。強くなってから、また挑みに来ることですね!」
「ひぃ~!」と、声を上げて逃げ出す、オステウスガリス。ウロコに覆われた彼の背中を、木陰に隠れた天玉オトビメが見送ります。
「ふう~ん。背中を見せれば、攻撃しないんだ? お可愛いこと……」
オトビメは、しばらく考えた様子を見せて、やがてピッカリ~ン! と、電球を浮かべて、邪悪な笑みを見せました。
数秒後、晩御飯を食べに出ようか悩んでいたロリの頭上から、
──ばっしゃあん!
「……」
「お~っほっほっほ! 水も滴るイイ女ってね。そのズブ濡れ姿、みっともなくて良くお似合いよ~! ロリシィ!」
お~っほ、ほ、ほ、ほ! と、手刀をあごに当てて、高笑いをするオトビメ。
楽しそうな彼女とは反対にロリは、長い長い髪の先から水をぽた、ぽた、と垂らして、顔に影をさしたまま黙っています。
「あ。言っとくけど、アタシ降参するから~♪ だって、アンタには敵わないし、レベルが違いすぎるも~ん!」
「もちろん、見逃してくれるわよね~? じゃ、バイバイ! しみったれガール! きゃはははは!」
数秒後。さっきまでの余裕顔は、どこへやら。オトビメは滅茶苦茶に顔を歪めて、必死に逃げ惑っていました。
目玉は両方とも飛び出し、上品な唇は押し広げられて、歯と歯茎とベロを剥き出しに飛び出して、本来の美人さは見る影もありません。
彼女の背後に、次々と突き刺さる、水しぶきにフチどられた、渦巻く水のパワーボール。
全弾に容赦なく"即死"効果を持たせた雨あられを降らして、ロリは真っ暗い顔で無礼者へと飛び追いかけます。
「あああああ! ああ! ああああ! ああああ! あ~~っ! 」
ロリの表情は見えませんが、オトビメの悲鳴と様子から、攻撃の苛烈さは充分に伝わります。
まったく、人の誠実をからかうものではありませんね!
【よいこのおまけ小説……おしまい】
「さあ! これで終わりですか。ワタシは、まだまだ踊れますよ!」
「うがあ~! ぶち殺してやるぞ、よそ者めがっ」
酒場スタジアム「飯処」。
異世界ゆえに排他的価値観が根強い荒くれ集団どもが、1人の花エルフへと殺到した!
「うがぁああ! ごわっ!」
「ぎゃあ! やられた」
「おのれ、メスガキぃ~! げえっ!」
「"戦意喪失"です! 納得……してください!」
「ごはっ! は、腹が……」
頭をはたかれ、パンチをいなされ。
飛び蹴ろうと跳躍した者は、横っ腹を蹴り狩りとられて。巨漢が背後から覆い被さろうとしたならば、レンガ積みのような腹筋に、鋭いソバットを撃ち込まれた。
ただの一撫でで、屈強な筋肉男たちは、体を何か透明な渦に巻かれて、それきり暴れることなく、自慢の肉体の動きを止める。
どよめき、怯み、屈辱に苛立ち、怒号を張り上げる荒くれの集まり。
木の椅子やテーブル、酒や料理が散乱する喧嘩酒場のステージにて、ただ1人、ロリは踊りのように動きを止めた。
長い長い、先の波打つ、長く伸ばされた長い髪。両耳は人の形でなく、白い六芒星、アングレカムの花(これは典型的な花エルフの特徴)。
ぱっちりとした両目の中には、眩くカラフルにチカつく広い瞳。可愛らしい幼げ顔に、控えめなロリ体型。
見た目だけで語れば人間娘10代なかばの、うら若き乙女の裸肢体。
今は、その上に袖無しのインバネスを羽織っている。
彼女は"ロリシィ"レーギャルン。永遠に修行の旅の途中、無限に強くなりたい若者だ。
さて、外見描写の最中も、跳ねて回って、走ったり。
襲いくる男たちを、次から次へと渦に巻き、再起不能に仕立て上げる。跳ね立ち踊る彼女の腕を、
──ガチャン!
「……むっ」
「ハッハァ~! タイホだぜっ。よそ者風情が、つけ上がり過ぎ罪だ! 本官の取り調べは任意ではない……恐怖の職殺の幕開けだあっ!」
「ふーむ……」
ロリは無事な片手をあごに当てて、少しばかりの時間を悩む。それから、びちゃ、と水しぶきを立てて、手錠付きの片腕を引き千切った。
「でえ~っ! う、ウデを引き千切りやがった! な、何てことを……親御さんに貰ったカラダを大切にしようとか、思わないのか?」
「それっ」
「ぎゃあ~!? ウデを寄越すな、気持ち悪い~! し、しかも……水揚げされたサカナのよーに、少しばかりビクついて跳ねやがる~!」
ロリは、びゅるっ、と失った腕を即座に生やし、両手を突き出して怯んだ男の群れへと向ける。
こんな事されたら、彼女に慣れてない異世界の人間は、誰だって怯む。あるいは、この世界の住民が皆、魔人ブウだったらビビらずに済んだかもしれない。
だが、戦闘モードのロリシィの前で怯むというのは、「この隙に攻撃して良いですよ」と伝える合図に他ならない。
ゆえに、彼女は自身の両肘から、水しぶきを溢れさせた。「お返しです」
うら若き乙女の千切れた両腕が飛んできて、悲鳴をあげた男たちが吹き飛ばされる。
なぎ倒された集団は、腕が崩れた渦に巻かれて、効果によらず戦意を喪失していく。
またも、びゅるびゅるっ、と労せずに裸の腕を再生して、ロリは腕の具合を確かめる。
すると、彼女の背後から、
「!」
「死ねや、よそ者~! ジャイアント・フット・スタンパー!」
ドシィイイイン! ……スタジアムの屋根にも頭が届くほどの、背が高く横幅も広い、体も分厚い、山のようなクソデカ男の靴底が降りかかった。
体格差的に、自らの勝利を確信して、男は地鳴りのような咆哮を轟かせる。
「ゲ~ラゲラゲラゲラ! まいったか、よそ者めっ。オレは荒野に近付くバカな旅行者を絶滅させて、この村を限界的に滅亡させるのが夢なんだ!」
「へっ。死んだな、クソガキが! マウンテン・ロジャーの"降りかかる靴"を、生きて耐えられた牛は居ない……見せしめに死体を辱しめられないのは残念だが──」
落ち着きを取り戻したカウボーイが、カウンター席に戻り、葉巻を一服。そして、山のロジャーの足もとに目をやり、
「これで、あのデタラメなメスガキも──な、何だあっ!?」
渦を当てられた靴底の下で、平気にしているメスガキの姿に驚愕した。
店員の女の子がトレイを取り落とし、カウボーイが葉巻を口から失う。しかしデカすぎる体のロジャーは、靴底の違和感にすら気付けなかった……。
「ば~はははは! 西部の荒野でオレに勝るものなど、いないっ。伝説の、ウシ頭の怪物ガンマンを除いてな! ブハハハハ……!」
「あの~、すみませーん……!」
「はあ~!? チビ女ふぜいがオレ様に話しかけるなっ。リブ・ステーキ100人前もってこいっ!」
靴の下から移動したロリが、口に手を当てて、精一杯の大声を出す。
近くにいた店員とカウボーイは耳を押さえて悲鳴をあげたが、残念ながら山高い頂上の鼓膜を震わせるには、まだ少し足りなかった。
あまりの声の貧弱さに、店員と勘違いしたロジャーは、勝利の得意に薄笑ったまま、ヒゲ面の顔を振り下ろす。
そして毛の束に囲まれた小さな目を点にして、それはもう、滅茶苦茶に驚いた。
「──って、何ぃいい~!? テメ、どっから生き延びやがったァアはわあぁああ~~っ!」
「ど、どうも……」
「おのれ、酒が回ったか! 今度は外さんっ。死ねえィ、よそ者パラダイス!」
パラパラパラ……と、粉を落として持ち上がり、再び振り下ろされる、超質量のスタンプ。
今度はロリも付き合わず、自らの体を渦に吸い込んだ。
ドシィン! ドシン、ドガン! ドガアン!
先の失敗を反省してか、何度も何度も靴が叩き込まれ、さすがに頑丈な木の床も、ヒビが入り割れ砕ける。
「ジョーダンじゃない! オレは帰る~!」揺れと木片の雨に晒されたカウボーイは、帽子を押さえて逃げ出した。店員に至っては、うずくまって悲鳴をあげるしか出来ない。
やがて息を切らしたロジャーは、地団駄をやめて、振り上げた両手を下におろした。
「はーっ、はーっ。ど、どうだ! よそ者めっ。よそ者なんか、死んで、当然……死んで、」
「あのっ! 聞こえますか!?」
「はにゃ!? ほへ」
ロリは空中に発生させた渦から姿を現し、ロジャーの耳のそばで声を張り上げた。
慣れぬ方角からの声に、ロジャーも混乱して、普通に答える。
「降参してください! あなたまで倒したら……」
「──はりゃ!? 幽霊、幽霊だア~~! うーん……」
「このお店が……あら。あららら……」
──ドズゥウウン……!
お酒が回った体で急に暴れた疲れもあって、ロジャーは完全に気を失った。
仕方がないのでロリは巨体に渦を放ち、それからカウンター席へと降りてゆく。
そしてテーブルに手を置いたロリは、広い店内に渦の結界をはった。
明らかに異常なグルグル景色に、店員が怯えて悲鳴をあげる。
「ヒィ……!」
「えーと……"片付け"でいいですかね。効能効果は、"片付け"で」
次の瞬間、そこらから無数の水しぶきが立ち上がり、いよいよ店員は泣き出した。
しかし、その直後に店は元通り。椅子や机も傷ひとつなく、客の荒くれたちも静かに食事にかかり始める。
荒くれたちは疑問を持った。「オレたちの体は健やかに動くのに、あのよそ者を殺してやろうという気が起きない……なぜ?」と。
それは戦意を失ったからで、あのロジャーも今、戦う気は失っていた。
泣き腫らした店員は不思議に思って立ち上がり、ロリに話しかけられて、すくみ上がる。
トレイで顔を隠す店員に、ロリは目の明るさを落とした、微笑顔でたずねた。
「あの、まだご飯の注文いいですか。えっと確か、アイスミルクと──」
「い……イヤです! 乱暴で酷い、よそ者なんかに、食べさせるゴハンはありません! 帰ってください……帰れ!」
それは力なき店員が絞り出した、なけなしの勇気だった。震えて怯える彼女の姿に、ロリは少し目を見開いたが、すぐに諦めたように笑って、立ち去る。
「……お邪魔しました。お水、ありがとうございます」
「に……二度と来るな! よそ者!」
熱烈な別れの言葉を背後に、ロリは木の板の扉を押した。
荒野に吹く、荒く力強く、寂しい風。乾いた草の玉が転がる平野、ロリシィは異世界旅行の苦い思い出を噛み締めると、目の前にハテノへ帰る渦を開いた。