一冬の熱
興味を持ってくださり、感謝致します。
良ければ感想、評価もよろしくお願いします。
「………少し、昔の話なんだが」
ある冬の日、叔父と二人で雪見酒をしていた時。不意に隣で呑んでいた叔父が遠い目をしてそう口にした。
酒の肴になる昔話でもして貰えるのか、と俺は黙って次の言葉を待つ。
少し間が空いて、叔父はぽつりぽつりと話し始めた。
「あれは、俺がまだ若かった頃のことだ―――」
………若い頃、俺は山岳救助隊の一員だった。
救助隊員として色々な現場に行ったが………その中で唯一、ずっと忘れられない現場がある。
「おい、あれだ―――」
「くそっ、間に合わなかったか―――」
………趣味の雪山登山で遭難した、一人の小説家を救助しに行った時だ。
あの時は山の天候が荒れていて、中々救助に出られなかった。そのせいで俺達が彼を発見した時、彼はすでに事切れていたんだ。
遺体は全裸で、凍り付いていた。それ自体は矛盾脱衣と言って、雪山で遭難すればたまにある現象だ。
だけど、奇妙でな。彼の身体の表面は、氷の膜で覆われていたんだよ。まるで、水でもぶっかけられたみたいに。
そんなんだから、殺人なんて噂も出たが………だとしたら犯人は天気大荒れの雪山をどうやって下りた、って話になる。だから結局、あの一件は事故で終わった。
でもな、俺は知ってるんだよ。あれは事故でも、殺人でもない―――心中、だってな。
「………何だ、これは」
遺体を見つけた時、俺はそのすぐそばで一冊の手帳を見つけた。遺留品として報告しようとしたんだが、隊長は取り込み中のようだったから、少し待つ事にした。
その間、何となく手帳を開いてみた。雪解け水か、それとも別の何かか………それは分からないが手帳の文字は滲んでて、殆ど読めなかった。
かろうじて読める文字を辿っていくと、その手帳が元々彼のネタ帳であった事が分かった。それが途中から、遭難中の記録に変わっている事も。
読み進める中で、俺は驚くべき文言を発見した。
………「雪女」ってな。
遭難してから数日経ったある日、彼は雪女と出会ったらしい。そうして彼女に助けられ、共に過ごすうちに愛し合うようになっていったそうだ。
しかしそれから数日後、彼は残酷な真実を知った。
愛した雪女は、春になれば溶けて消えてしまう―――それはたとえその雪山に居ても、変わらないのだと。
彼は嘆き、悲しんだ。そして、決断したんだ。
………彼女と共に、自分も死ぬと。
雪女は当然、そんな彼を止めようとした。が、彼の決意は固い。
たとえ生きて山を下りられたとしても、自分は一生雪女以外の相手を愛せない。忘れられず、ずっと山に縛られ続ける。
だから、自分も君と死なせてくれ―――彼はそう言って、雪女を説得した。
………何と言っても折れない彼に、雪女はとうとう止める事を諦めた。いや、心のどこかでそうしたいと思っていたのかも知れない。
手帳の最後には、こう綴られていた。
―――最期に、彼女と愛を刻む。
………ここからは、俺の予想だ。心中を決めた二人は、最期にまぐわったんじゃないかと思う。
そうして、彼の熱で雪女は溶け………彼は、凍って死んだ。それが、この心中の結末だと。
………勿論、これが真実かどうかすら分からない。彼は小説家だ、死の間際に考えた物語を手帳に綴っただけかも知れない。
だが、俺は………本当だと、思っている。だって俺たちが見つけた時、遺体の顔は―――
―――恐怖一つない、満たされた顔だったからな。
語り終えてすぐ、叔父は寝てしまった。
それをソファに寝かせてからベランダへ出て、タバコの煙を空へと吹かす。
………随分、懐かしい話を聞いた。視線の先に広がる広大な白い山脈を眺めて、俺は微かに笑みをこぼす。
なぁ、君は―――今も、そこにいるのかな?
考えながら触れた雪の粒は………ほんの少し、温かく感じた。
皆様どうも、作者の紅月です。
と言うわけで短編作品、5本目となりました。
全て読んでくださった方はいるんでしょうか?無論、一本でも読んで頂ければ十分に嬉しいですが………
まぁ、それはさておき。本作、いかがでしたか?
今回は少し、自分がどんな考えで小説を書いてるかを話させてください。
自分にとって小説は基本「趣味」です。が、それでも一応「読む人に伝えたい事」はあります。
自分は作品を作る時、「こんなのより面白いのを自分が書いてやる」とか「ちょっと悲しい気持ちが和らいだ」みたいに、どんな形であれ読んだ人が少し前を向く手助けになってくれたら良いなと言う気持ちで小説を書いています。
突然作品に関係ない事を言ってすみません。ただ、何となく「自分はこう言う意図で小説を書いている」って言っておきたかったんですよね。自分勝手で申し訳ない。
まぁ、自分の作品は「そう言う人間」が書いてるものだと思いながら読んでいただけると幸いです。
それでは皆様、また次の作品でお会いしましょう。
ではではー。