召喚された聖女は戦の女神の聖女でした。
とある日、王宮の儀式の間に聖女が召喚された。この世に数多いる女神は人間に恩恵を与えるためにこの世界に聖女を生み出す。
しかし稀に、この世界にふさわしいものがいない時には、異世界より聖女を召喚し、国を導き人々を豊かにする。
より女神に近い存在である召喚されし聖女は、国でも重要視され、王族がその身元を保証することがほとんどだ。しかし、そうでない場合もある。
それは例えば、召喚された聖女に何かしらの欠陥があった場合だ。
「いいな、クリスティアナ? あんなナリの聖女なんて碌な仕事をできるはずがない」
「……」
「君はまるで頭が悪いから分からないのだろうけれど、あれは下賤の生まれの民だろう。俺のような人間なら一目見ただけでその品のない性格までもお見通しなんだ」
言いながら、クリスティアナの婚約者であるナサニエルはクリスティアナに小さな小瓶を押し付けるようにして持たせた。
「土くれのように妬けた肌色、顔にある大きな傷、どれをとっても高貴な身分のものからすれば汚物も同然だ。こんなものが我が国に召喚されたと知られれば、俺は恥ずかしくて外交もできないぞ」
「っ、でも」
「口答えはよしてくれ、クリスティアナ、君を見込んで頼んでいるんだ。ただでさえ我が国は財政的に厳しい、聖女だろうと貴族の生活には金がかかる。君を嫁に入れるだけで王族はいっぱいいっぱいなんだぞ?」
クリスティアナは自分の事を引き合いに出されて、申し訳ない気持ちになってしまう。
昔から決まっていた婚約であり、もうすぐ結婚式を控えたこの時期だが確かに金銭的に余裕がなく、それを国民に悟られないようにしなければなないので、聖女を迎え入れることなど到底できなかった。
しかしそれも、王子たちや、国王、王妃がコレクションしているうつくしい宝石や珍しい毛皮を少しでも売りに出してくれれば、何とかなると思うのだが、そんなことは嫁に入る立場のクリスティアナはおくびにも出せない。
「……」
「いいな、分かったら、ちゃっちゃと片付けてきてくれ。同じ女同士の方が、警戒もゆるむだろう。軽く一滴、紅茶に入れるだけじゃないか」
「それは……」
「できないわけないよな? それもこれも君との結婚の為なんだ。父様や母様もそうしたらみんな君の事を認めてくれる。もう少しなんだ」
「……」
「結婚したら二人で休みを取って旅行にでも向かおう、王族の仕事はそれからゆっくり覚えればいい。な? 楽しみだろ? クリスティアナ」
優しい声音でナサニエルに言われて、クリスティアナはぐっとその小瓶を握って袖口に隠す。
結婚は確かにクリスティアナの念願ではあるのだ。愛するナサニエルと一緒になるためにクリスティアナは生まれてきたのだと、彼にも言われてきたし、そうだと思う。
彼はあまり、優しい人ではないが、彼が言う旅行はとても魅力的で、彼自身の言う事を聞いたら優しく愛してくれるのではないかと思う。
「いい子だ。クリスティアナ、本当に君が婚約者でよかった。君はあまり、頭もよくないし、俺を怒らせてばかりだしできの悪い娘だけど、俺からなんとか父様や母様に言っておくからな。結婚式楽しみにしておくんだぞ」
「……はい」
「じゃあ、いけ。……まったく戦の女神だか何だか知らないが、毒を喰らえばそれまでだろう、余計な手間をかけさせやがって」
言いながらナサニエルは、クリスティアナをくるんと向き直らせて王宮の廊下を進ませる。それに従って足を進めていくとある客間へとたどり着く。
この扉の向こうに聖女がいて、王族との話を待っているのだが、クリスティアナはまだ王族は予定がつかないからと言って中に入り、彼女にお茶を振る舞って、毒を盛る。
そうしてこの召喚をなかったことにしようという事なのだ。
しかし戦の女神は聞いたことがない女神だし、加護だってどんなものだかわからない、それでも、聖女は聖女、反撃される可能性は十二分にあり得る。
……それによくわからない加護の聖女でも、まだ何も知らない人に毒を盛るだなんて……せめて話だけでもしてあげるべきではないの?
ここでこの部屋に入ったら、クリスティアナはナサニエルと別れることになる。そうなってしまえば、もう後戻りはできない。
足を止めて、どうにかナサニエルを振り返る。
せめてもう少し王族で話し合うなり、聖女に話を聞くなりできるだろう。人の命は宝石より重いのだ。ナサニエルが指に付けている宝石を幾つか売り払えば彼女を養うことだって簡単だ。
そう決意を言めて、そう言おうと考えて振り向いたのに、クリスティアナの反抗的な顔を見て、彼は機嫌が悪そうな顔になる。
「おいおい、なんだその目は。なにか俺の言ったことに文句があるって目をしてるじゃないか」
「あ、えっと」
「……」
「は、話し、あい、だけでも、したほうが」
頭の中でした決意はあまりにも脆く決壊して、クリスティアナはしどろもどろになりながらも力なくそう口にした。
すぐにでも震え上がって逃げ出したい心地だったが、そうもいかずに言えたという事だけは自分を褒めてやりたいぐらいだったが、ぱちんと頬を痛みが襲う。
「……俺に、意見するのか? 君が? 何様のつもりなんだ?」
ひどい痛みじゃない、しかし、酷く機嫌が悪そうな顔や声。その手がまた降りあげられると軽い平手打ちどころじゃあ済まされない。
想像してしまうと血の気が引いて、息が荒くなる。彼が怖いと思うようになったのはいつからだっただろうか。
「次に何か言ってみろ、歯が折れるまで殴ってやる」
「っ、……ごめんなさい」
歯が折れてもクリスティアナは水の女神の聖女なので治せる、治せるからこそ、彼は何度でもやる。
そうやって彼にクリスティアナは愛を教えてもらったので、すぐに反抗心は立ち消えて、毒の入った小瓶を強く握ってそのまま、客間へと入っていく、背後から「初めからそうしてろってんだよ」と呟くような声が聞こえて、眩暈がした。
扉を一枚隔てていれば、やっと恐ろしいという気持ちは落ち着いて、はぁっと息をついた。
それから振り返ると中にはとても美しい黒髪にアメシストのような瞳を持った女性がソファーに静かに座っておりクリスティアナの事を見つめていた。
頬から額に向かって刀傷のようなものがついているが、すでに完治している様子で痛ましいというほどでもない。
「……」
顔が整っていて迫力があり、入ってきたクリスティアナをじっと見つめるその眼力に震え上がってしまいそうになりながらも、クリスティアナは弱気な笑顔を浮かべた。
「始めまして、戦の女神の聖女。わたくしは、クリスティアナ・スラットリー。王太子ナサニエルの婚約者として貴方とお話をするようにと頼まれましたの」
「……そうか」
クリスティアナの挨拶にも彼女は、まるで男性のような返答を返してそっけなく言う。
それに不思議な方だと思ったが、格好も騎士たちが着る様なジャケットにブーツ、ズボン。手袋はつけている様子だけれど、手袋というよりもグローブのような見た目だ。
「今、お茶を淹れますわね。……貴方の出身を聞いてもよろしくて?」
自然な流れになるようにそう言って、お茶を淹れるためのセットが置いてあるキャビネットへと向かう。カップとソーサーを出して、お湯を沸かした。
ここに来るまでの間にナサニエルに彼女を殺すことを抗議していたにはしていたがいざとなれば、クリスティアナは冷静に事を進めて会話をしながら、ティーカップに無色透明の植物から生成された毒をたらす。
こうして紅茶をいれる前に、先にいれることによって後から毒を入れて、沈殿してしまうのが防げるのだ。
「出身? 大日本帝国、希望のつばさ支部、特殊鬼道大隊隊長ムラサキだ。任務の最中、何者かに襲撃を受けたが、レジスタンスの連中だろう……。私の後任はしかと帝国の為に任務を遂行しているだろうか……」
「そう……帝国の……」
丁寧に返答しつつ、怪しまれないように毒を盛らなければならない。慎重に返答を返そうと彼女の言ったことを復唱しようとしたが、正直何を言っているのかわからない。
国名までは聞き取れた、しかしその後の爵位なのか身分なのか、分からない名乗りに混乱していたが、とにかくムラサキという名だということはかろうじて理解できる。
……だめよ。クリスティアナ、失敗は許されない。やると決めたんですもの。
気弱なクリスティアナだが、決してこれが初めてという事ではない。仕方なくとはいえ、ナサニエルにいわれて王族に都合の悪い貴族をそれなりに始末してきた。
紅茶を少し勢いをつけて注ぎ、完成だ。水色も美しく、薫り高い。それを丁寧な所作で、自分の分とトレーに乗せて運び、彼女の前までくる。
「ムラサキというのね。あまり馴染みのない響きだけれどいい名前ですわ」
「っ、ハハハ! 其方、私を呼び捨てるとは良い度胸だな!」
当たり障りのない事を言ったつもりだったのに、彼女は勝気に笑って、品定めするようにクリスティアナを見た。それに、何かまずい事をしたかとすぐにフォローを入れる。
「あら、申し訳ありません。わたくし、あまり学がないのですわ、立派なご身分の方でしたのね」
すぐさま自分を下げて、困り眉のまま笑みを向ける。
「紅茶を淹れました。お砂糖はおいくつ?」
「無しでいい。それよりもここでは大日本帝国の名は聞きなれぬものなのだな。……なるほど、あらかたの説明は司祭殿より受けたが、まったくの異世界というのは事実なのだろう」
「そうですわね。ムラサキ様には是非この世界の事を知って、どのような女神の加護がありどのように利用していくか共に考えていただきたいと思っていますの」
紅茶を彼女の目の前に置き、口先だけで物を言う。自分ように向かいにも紅茶を置いてそれから座って彼女を見つめた。
一口でも死に至る劇薬だ。彼女がどんな加護をもっていようとも、毒を分解したりはしないだろう。
「……加護か……。それは、私の世界で言う鬼道に近しいものであるのだろうな。俗にいう呪術、妖術……まったく私は構わない事だが……」
……何か、察しているのね。
含みのある笑みでムラサキはこちらを見た。それにクリスティアナも弱気な笑みを崩さずにまるで何のことだかわからないという顔をした。
「フッ……無害な女性を演じるのがうまい事だ」
「……」
その手はゆっくりと紅茶に伸ばされる、それから口元に運ばれていくのをついじっと見つめてしまう。
「どういった趣向か分からないが、其方のような女が破滅していく様を私はよく見てきた」
飲むのかと期待したクリスティアナの思惑を読み取ったかのように彼女はティーカップを置いて、クリスティアナを見つめる。それにすでに毒を盛ったことがばれたのだと理解できるが、どうしようもないだろう。
……人に毒を盛って許されようだとかわたくしは思ってませんし、所詮は捨て駒。彼らの身を守るための道具にすぎませんもの。
クリスティアナの本音は実はずっとそれだった。愛してるだなんていわれても、そうでない事を知っている。しかし逃げられない、両親が結婚を決めた時点で籠の鳥だ。
愛しているという嘘を信じるぐらいしなければ、恐ろしくて逃げ出したくなってしまうような場所。それがクリスティアナに用意された居場所だ。
「……」
「さしずめ、王家の意向というやつだろう。……まったく愚王の治める国はこれだから困るのだ」
しかし、どうにも想像していた反応とは違って、毒を盛られたというのに、彼女は、くだらないとばかりに頬杖を突いて思案するように小麦色の頬をなぜる。
「……クリスティアナ嬢、其方も私を抹殺するのが正しいと思うか?」
不意に問いかけられて、クリスティアナは瞬いた。
だって、その戦の女神の加護を使って逆に殺されても文句を言えないようなことをしたのだ。
それなのにまったく取り乱す様子もなく自分の暗殺について、意見を今しがた殺そうとした相手に求められている。
それはあまりに異常であり、戦の女神の聖女というだけあって、争いごとに非常に長けた存在なのかもしれないと思う。
……それならば、ナサニエルも国王陛下も危ないかしら? しかしどれほどの力があったとしてもそう簡単に王家に手を出せるとは思えないわ。
焦りつつもそう考える。クリスティアナだってそうして彼らを手にかけて逃げ出してしまおうと思ったけれども、どうあってもクリスティアナの力だけでは彼らに害をなすことは出来なかった。
「人を殺すのに正しいも正しくないもありませんわ。ただ、筋合いはないと思うだけですの」
考えつつもいつも根底にある人殺しについての自分の意見を口にする。
人殺しに正当性はない、しかし、今回のクリスティアナの行動はムラサキにそうしていい筋合いはなかった。
「……貴方が、察した通り毒を盛りました。……どうしてくれても構いません」
だから、彼女に何をされてもクリスティアナは文句もない。覚悟はいつだって決まっている。しかしその瞳を向けられて、ムラサキは少しだけ楽しそうにほほ笑んだ。
「ほう。そう肝が座っている、うつくしい心構えだ。……しかし、正直なところを言えば、私も、もう一度殺されたのだから、現役を退こうかと考えている。どこか安住できる場所を探し、ひそかに暮らすそういう余生があってもいいだろう」
「……」
「この国はどうやら、あまり良い環境ではないようだし、適当に異世界を放浪するのも悪くはない、どう思う? クリスティアナ嬢」
……どう思う、と言われても……。
急にされた人生相談に、クリスティアナはなんとも言えない気持ちになった。
たしかに余生を過ごすのは老後の楽しみとして持っておいてもいいと思うが、それにしては、まだまだ彼女は若くうつくしく、そして、そのギラギラと光っている瞳がそれを許さないのではと思う。
「……わたくしにそれを答える筋合いはありませんわ」
「そういう話をしているのではない。さあ、答えてくれ」
こんな奇妙な状態で平然と話を続けるのはどうかと思ったので、そう口にしたが彼女はクリスティアナにそう言って、意見をもとめた。それに、なぜこんなことに、と思いながらも答えた。
「……ムラサキ様の目は野心の灯った瞳をしている」
「……」
「まだまだ、枯れているようにも、枯れゆくようにも見えませんわ」
戸惑ってはいたが、クリスティアナはじっと彼女を見てそう口にした。
さっさとこの状況から抜け出したくての言葉だったが、その返答にムラサキはにんまり笑って、おもむろに立ち上がり目の前にいたクリスティアナの手を取った。
「っ、」
「悪くない! 其方を気に入ったぞ、ここを余生を過ごす安住の地にしようではないか!」
「え?」
「この場所に召喚され、一目見て分かったのだ。肥え太った支配者の彫像が権力の象徴のようにあちらこちらに配置され、城はうつくしい調度品であふれているというのに、使用人やそれ以外の者は、思いつめ暗黒をじっと見つめているような顔をしている、其方はその最たるものだ」
机を蹴とばして、ムラサキはうつくしい黒髪を靡かせる。それから、クリスティアナの腰に手を回し、ぐっと体を引き寄せた。
目の前で美しい紫炎が燃ゆる。ギラギラとしていて、とても輝かしい。
「ともに社会構造を作り替えようではないか。私は其方にその資質があると見た! 力なき者こそ剣をとれ、腐敗した搾取構造は国を破滅へと導く」
女神のもたらす聖女は変化をもたらす。それは総じて女神の選択した一番良い未来へと進むための変化だ。
「仏の導きを信じ、この国を必ず良い道筋へと進ませることを誓おうではないか!」
楽しそうに彼女は言った。それに、クリスティアナはまったく意味が分からなかったが、時代は動き始めた。
女神の選ぶ未来の為に、その運命の濁流に巻き込まれるようにしてクリスティアナの耐えるだけであった人生も、時間の針が動き出したのだった。
クリスティアナは、あの日以来、耐えるだけだと人生を思ったことは無い。
説得に説得を重ねられてあの日、ムラサキとともに武器を取った。
それ以来、ムラサキの女神の加護もあり、とんとん拍子に王権をより良い、血筋に預けることが出来ている。
彼女はまだその先の展望がある様子だが、今のところは、自立した権力組織である国民兵団がその王族に対して目を光らせることによって、王族が暴走するようなことは防いでいる。
そして今日、その国民兵団の団長となったムラサキとともにクリスティアナは団長室で、前王家である最後の生き残りのナサニエルが捕らえられ引きずり出されるのを見ていた。
あんなに大きく恐ろしい存在だと思っていた彼は、跪いていると随分と小さく見えて、ムラサキの後ろから彼を見ていると、不意に彼女が振り返った。
「クリスティアナ、この男の処遇は其方に任せようと思っているが……どうだろうか」
珍しく断言ではなく、そうクリスティアナに聞いてきた彼女に「あら、良いんですの」と口にする。すぐに見せしめに処刑するのだと思っていたので不思議だったのだ。
「……ああ、国民感情も、前王家に対する気持ちは薄れている、今更、批判を煽っても何にもなるまい」
「わかりましたわ」
さしてどうでもよかったが、ムラサキの前に出て彼に顔をあげるように、ポンと背中を叩いた。
「ナサニエル、久しぶりですわ」
「っ、クリスティアナっ! あ、会いたかったぞ」
「……」
性懲りもなくそんなことを言う彼だったが、昔の面影もない。なんせ捕まったら殺されるという生活を続けて逃げ延びていたのだ、誰だって野生の獣みたいになるだろう。
「わたくしもですの。さあ、わたくしの部屋に案内いたしますわ。少し休んでくださいませ」
「よかった。っ、俺は、やはり君を信じていて━━━━
「はい、そうですわね」
にっこり笑って、その気弱な笑みは以前とあまり変わっていなかったが、すぐに感動している様子のナサニエルの言葉をさえぎってそういった。
「では、お願いね」
ナサニエルを連れてきた兵士にクリスティアナが言った通り、部屋へと通すようにと頼んで、クリスティアナはムラサキの元へともどる。そんなクリスティアナにムラサキは少し不機嫌を顔に出して、クリスティアナに聞いた。
「其方……まさか情に流されたわけではあるまいな」
そう聞かれて確かにそう取られてもおかしくない行動をしていたかと認めつつも、クリスティアナは笑みを浮かべて、彼女の美しい黒髪に触れる。一掬いしてさらさらと落としていく。
「……どうかしら」
「私というものがありながら男にうつつを抜かすのか」
「あら、ムラサキはわたくしの大切な相棒よ」
「では、なぜあれをすぐに処分しない」
責めるように言われて、クリスティアナは、しょうがないので説明することにした。彼は、非常に丁度いいのだ。
「……ナサニエルはあれでいて血筋だけは権威のある良いものだわ。特に王族らしい容姿をしているし、今でも、前王家に王位をもどせ!という派閥が少なからずいるのは事実ですの」
「……それは間違っていないが、彼自身をその交渉材料にするには、いささか面倒だろう」
「ですから、血筋をいただこうと思ってますの」
言いながらクリスティアナは自らの下腹部を押さえて、水の女神の聖女らしく嫋やかなほほえみを浮かべる。
「それ以降は用済みですからね。適当に処分をしますわ。ではムラサキ、ごきげんよう」
くるりと身を翻し去っていく後姿を見て、ムラサキはそのしたたかさに、やはり彼女を口説いて良かったと思うのだった。
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