オールド・ブリック・ファクトリーズ
今夜は、この本を朗読するのを聴いてくれるかな
昔、あったクラスタは本になるって言ったろ
丁度、君が生まれた頃に本になったクラスタ
君の親世代までは知っている世界なんだけど
今、18歳の成人になったばかりの君等からしたら
どう見えるかを感想を聴きたいから
このクラスタ本を朗読するのを聴いて欲しい
「なんかなあ、こないだ山奥の野生の熊みたいな
野良魂だかを、なんとかするのに協力したけど
魂の相性があう人間との出会いなんて無かったじゃないですか
それを聴いたからって何か意味あるんですか?」
意味、意味ねえ。
今は、もう無いんだけど、君の親や親の周りにいた人間は
まだ、そのクラスタやクラスタ住人がいるって思い込んでいるからね
ひょっとしたら、君の親と仲が悪い同年代のオッサンが
この行こうとしても無い世界へ行こうとして
何も無くて途方にくれる自分の知り合いのガキが苦しむのを見て
暇つぶししたい。
とかいう悪趣味な思い付きを実行に移したとしても
今は、もう無いと知っておけば、巻き込まれなくていいだろ
予防ですよ、予防。防災。
悪意により発生する人災に巻き込まれないための防災訓練
そう考えると意味あるだろ。
「わかりましたよ。聞けばいいんですね。聞けば」
うん、解ってくれた? 良かった良かった
・・・
今、ヘヴィブルーワーカーと呼ばれるクラスタとして
数か所が残っているものの
そのほとんどは製造業の衰退によって
遥か昔に建設されたレンガ創りの工場が
残骸のように残っているだけなオールド・ブリック・ファクトリーズ
数年前までは工場で働き、家を建て年金生活をする高齢者が住んでいたが
それらの人々も亡くなり、子供世代は仕事を求めて出て行き
誰もいないゴーストタウンが出来上がってしまった
古い時代遅れになった工業都市インフラや労働者居住地域は
100年以上前に移民が住み着いた後
衰退が始まってからは新しく若い住民が流入する事は無くなり
集合住宅で住む人も減り続け、廃墟になりかかったような街並み
本家の先進国にあるオールド・ブリック・ファクトリーズが
そんな、惨状を迎えた頃
先進国の製造メーカーは、もっと安い人件費で働く労働者を求めて
原材料を輸入して製品を出荷する
国内工場で大量生産して
各地の港から製品を輸出する
加工製造国として国益を得ている発展途上国
という国際世論評価を受けていれる国に
ヘヴィ・ブルーワーカーというクラスタとして
生き残った工場街クラスタの、都市インフラを海外輸出
物価や人件費が先進国に比べて安い国に
同じようなクラスタが、都市開発によって創られた
そんな無理やり創られた町工場が立ち並ぶ工場街のある地方都市に
”化哀想鬼”と呼ばれる人々が発生した
日本語かな読みすると、”かわいそうおに”
中国語として解釈すると、”哀しい想いが幽霊に化ける”
その”化哀想鬼”な人々は奇妙な物語を作り上げた
「そうすると、クラスタにいる、”街の魂”も
住人の哀しい想いが産んだ空想上の化け物にでも、なったんですか」
そう住民に苦しみだけが一生、与えられているような状態だったからね
街の魂は、神と呼ばれていなかった
残酷な悪魔とか、人でなしな鬼とか、悪の世界へ誘惑する妖怪
とか呼ばれてたな
住人が、街の魂を作っていくってのが普通だから
しょうがない事だけどね。
それだけ荒んでいて、悲惨で、憎悪と憤怒と悪意が渦巻いてた
・・・・
最初、今は製造業により工場街が並ぶクラスタが出来たのは
各国が帝国主義で世界覇権掌握を目指した事で発生した世界大戦中
国の都合によって大量生産された。
というか兵器を作るために、戦争に勝つために建設された
平和な今の先進国なら、普通に学生としての日常を送れる日々を
軍用品を作る帝国工場の単純作業員として
強制労働を強いられる日々を過ごすために
労働者階級の子供が集められた。
義務教育である初等学校の高学年な10歳くらいから
高等教育前期を受けている10代前半の人間までが
鶏小屋に詰め込まれたニワトリのように収容されて作業
”欲しがりません 戦争に勝つまでは”という掛け声の下
成長期を配給食料だけの粗末な食生活で過ごした事で
胃腸などの消化器自体が貧弱なものになってしまい
男で身長は150センチくらいで体重は30キロ台が標準
戦後、ある程度は食糧事情が好転しても
食べる事ができず、食べようとしても受け付けず
体重は変わらずガリガリなままで
身長は成長期を過ぎていたので小さいままだった
雇う側の人間からすると
基本的な食生活から一切の贅沢をしない
生きていく必要最低限のものだけで満足して
質素に生きるのが国のため社会のために生きる労働者
という教育をされた安く使える単純作業工というのは
とても都合が良いので
国の方針に従って作業員を生かさぬよう殺さぬように
社員教育して、工場労働者を増殖させた
生産管理などをして工場運営をしていた人々が
戦場に兵隊として送られたため
非国民を取り締まる帝国憲兵達が工場運営者も兼務していた
普通の生産管理などは知らないので
自分達が兵隊として教育を受けた通りに
気合いと根性で働け、働けなくなった非国民は死ね
というような掛け声を叫び
竹刀を片手に作業ミスなどをする怠け者に気合いを入れ
殴られて体を壊して工場に来なくなった人間が出たら
その自宅まで押しかけて、非国民として連行して
尋問などで、殺されたくなければ働けと、”指導”
反抗的な態度をとった一部の生意気な非国民は
見せしめのような理不尽な尋問を受け
時には拷問で殴り殺され
”こうなりたくなければ、働け”と周知させるために
工場の入口近くに撲殺死体が晒された。
恐怖政治による強制労働をさせられる生活を
10代の間、強制させられている内
自然に後から工場へ来た人間への態度は
憲兵だった工場の上役が、”指導”でしていたのと
同じ態度で接するのが当たり前になっていき
一番、年下の子供は殴られ続けて全身が青痣だらけだった。
朝、7時に起きた時から、夜、10時まで工場作業
工場に隣接する共同仮眠所で眠る以外、ひたすら作業
作業の合間時間は少しだけあった
”早飯、早糞、早風呂”という掛け声の下
食事と便所、風呂にいる時間は
3分から5分以内と決まっていて
それ以上の時間をかけると殴られた
なので食事は、かき込んで飲むように水などで流し込み
便所はギリギリまで我慢して一気に短時間で出すようにし
風呂は短い時間ですむように男女とも丸坊主にして
石鹸で上から下まで一気に洗えるようにしていた。
「そんな、生き地獄が本当に? あったんですか?」
うん、今じゃ考えられないよね。でも、あったんだよ
世界大戦後、戦勝国になった国にも
敗戦国となった国にも、同じようなクラスタがあったんだけど
一番、非人道的な待遇で、捕虜とか被差別人種を
強制労働させていた敗戦国の収容所があったクラスタのせいにされて
戦勝国の非人道的な工場街は今まで通りに運営された
戦争が終わって必要が無くなった軍需製造会社は解散
もちろん、大々的に解散を語るのは敗戦国の軍需産業
帝国指導者の演説を集めた大勢の大衆の前で流すための
音響装置を製造、保守する会社は
コンサートホールなどを建設、維持する会社になり
軍用車を製造していた会社は普通乗用車を製造する会社になり
ミサイル製造会社は、宇宙ロケット製造会社になり
帝国大学を卒業して、帝国工場で
それらの諸々を設計していた技術者は
民需企業となった、それらの会社へと収納されていった
戦時中、まともに教育を受けられず
単純作業工として帝国工場で使われていた化哀想鬼と呼ばれる人々は
義務教育である初等学校しか出ておらず
帝国工場で単純作業員しか職務経歴として無かったために
民需企業の下請け、孫請けの町工場で単純作業工として働いて
数年、働いたら、なんとか保証人を見つけ借金をして
孫請け工場の経営をする町工場経営者になって
生き残り競争に明け暮れる
という生き方を選ぶか
漁師や百姓になるために
漁師や農家の跡取り息子のいない娘の婿になって
漁協や農協の世界で生きる
という生き方をするかの、どちらかしか無かった。
そして前者を選ぶ人間が多数派だった結果
大量生産、大量販売で大企業になった
大都市にある製造業メーカー本社
そのメーカーが大都市を中心に
ドーナッツ上に適度な距離を置いた地域に
建設される製造拠点の工場
その製造拠点工場の周辺に集まる下請け孫請けの部品工場
そういった工場が立ち並ぶ地域で
作り上げられた製造業ピラミッドが構築された
そしてピラミッド底辺にある部品工場では
正社員を抱えて月給を毎月、払うなどという事は無理だったので
景気の良い年に、人気が出て売れた量産品が発生した時だけ
量産品を大量生産するための単純作業工員を
職業安定所で募集して使った
当然、忙しくなくなったら仕事が無いのだから
単純作業工を使い捨てて製造ピラミッドの上の会社へ営業廻り
地方自治体も無職の仕事が無い金が無い人間が増えて
スラム街が出来てしまうのは困るので
その工場街の底辺で日雇い単純作業工として働く事を法的にも認め
日雇い労働基準法は工場経営者に有利な仕組みにしてあった
なので、”かわいそうに”と呼ばれる人々の多くは
ピラミッド底辺部品工場で日雇い単純作業工として働く世界に収納され
町工場経営者が同業者団体を形成する地方都市の工場街で生きていた。
・・・・
そして終戦後30年が経過して
”かわいそうに”と呼ばれる人々は40歳を超えた中年となった
55歳で定年になったとしても軍人では無かったので
少し年齢が上の人々のように帝国軍人年金が貰えるわけでは無い
戦後、働いた工場も正社員年金に加入している工場では無くて
日雇い労働者年金への加入者だったので
受け取れる年金は少なく無年金に近いので
死ぬまで働かないと生活して生きていけない
なので、”かわいそうに”な人々は
自分が死ぬまで地方都市の工場街が存在して
生きている限り、日雇い単純作業工として働けると信じていた
戦争が油田地帯が並ぶ資源国でも発生してオイルショックになり
インフレになって一杯70円だった店の麺類の値段が200円を超え
少ない日雇い日当の中から貯めたナケナシの貯金は蒸発して消えて無くなっても
また、働けば、やっていけると信じていたが
そして50歳になる頃に第二次オイルショックが発生した頃に
製造業ピラミッドの底辺外注工場を
もっと安い人件費で単純作業工を使える国に
ピラミッド頂点の会社が移すようになった
製造コストを削減するためだ
あっという間に底辺部品工場が倒産し
単純作業工したできない ”かわいそうに”は失業して
仕事が無くなって金が無くなって、どうにも、ならなくなった
そうすると戦後、30年前に帝国崩壊で
仕事が無くなって金が無くなってしまった人々が、そうしたように
工場街から裏組織の世界に引きづり込まれる人間すら発生した
戦争中の前線だったら敵兵を殺した英雄になれたかもしれないが
平和になった今の世の中で、それをやったら大量殺人鬼
戦前に憲兵として非国民に大和魂を気合いを入れる
という事で正当化されていたが、
平和な今やったら傷害罪で逮捕される暴行魔
そんな事くらい理解しているだろうに
犯罪を犯して残りの人生を刑務所で過ごしたい
どうせ刑務所の外にいても何も無い 釈放しないで欲しい
という理由で死刑にならない無期懲役刑ですみそうな犯罪を犯す
”かわいそうに”すら発生した
というか刑務所に収監されて強制労働日常を送りたがっていた。
底辺として国内に残ったのは
危険作業をする外注工程を担当する工場が残った
それらの工場では、普通の先進国では使用が禁止されている
原材料への錆び止め剤などが原材料に使用され
なので先進国はロボット作業などにしている工程なのだが
その国では職業安定所が
高齢失業者になりそうな ”かわいそうに”と呼ばれる人々に
そういった工場で働くように斡旋した
スラム街に行かれて犯罪者予備軍になって治安が悪くなるより
発ガン性物質を毎日、吸収する作業をして
免疫力や体力の堕ちた高齢者になった ”かわいそうに”が
胃癌や大腸癌、肺癌などになって死んで方が
地方自治体の公的法人会計上、都合がいいので
この国では使用禁止工業品にならなかった
当然、それらの底辺工場での単純作業労働者の平均寿命は
55歳を割るくらいになるほど、癌になって死ぬ人間が増え
生き残った人間も寝たきり老人のように体が弱り
介護施設などで、ただ死なないで生きているだけの常態になった
そして、ある年、最期の化哀想鬼が公害病で死んだ
その頃には、化哀想鬼と呼ばれる人々が若い頃を過ごした
底辺労働者を抱える工場は全て海外へと移設され国内から消えていた
なので存在した事が忘れさられ、誰の口からも語られる事は無くなった。
そして化哀想鬼が誘導作業をして
労働者になった人々が収容されていた労働施設すらも
ロボットなどによって運営されるようになって
仕事は、そのロボットなどの設定作業だけになった
国にしても、そんな施設が存在していて
非人道的な扱いをされる化哀想鬼がいた事を
諸外国に非難されたくないからなのだろう
その同じ時代を生きた偉大なる作業用ロボット発明者を
国民的英雄のように現代史の教科書に載せ
国の近代史の資料から化哀想鬼の存在は削除された。
全ての化哀想鬼が、この世にいない今
もはや誰も、その存在について自分の事として語れはしない
語れたとしても他人事、昔いた空想上の生き物のように語るだけ。
という世界だったワケなんだけど、どう思う?
「どう思うって?
可愛そうに、とか、悲惨ですな。とでも言えば良いですか?
そういう工場街は、ほぼ国外に移管されて
視界に入った事とか、無いし
そういう工場労働者って見た事も聞いた事も無いんで
わかんないです。としか言いようが無いんですが」
そうだよな。昔、滅んだリョコウバトという鳥の事を
ある日、突然に聞かされても、頭に、どういう生き物か
全く浮かばないのと同じという事かな?
「そうですね。化哀想鬼という言葉自体、ピンとこないです」
まあ、ね。その、なんだ。数年が経過して社会人になったら
化哀想鬼に近い人々と関わる事があるかもしれないから
その時に、どうするかを考える程度で、いいのかもね。
「はい、そうさせてもらいます。
今もあるヘヴィ・ブルー・ワーカー・クラスタでしたっけ
そこの住人や、街の魂と関わらないですむようにしたいな
もし関わるとしても引きづりこまれないよう
方法を考えておきたいと思いましたよ
そういえば、オールド・ブリック・ファクトリーズ
の、”街の魂”って、どうなったんですか?」
ん? 妖怪とか鬼とか悪魔とか言われた奴等か?
どうしたんだろうな。
ヘヴィ・ブルー・ワーカーに変化して
現存しているクラスタに集結して
奴等にとっての、今まで通り、いつも通りを
毎年毎年、繰り返すしているのか
クラスタの住人に語り掛けているのか
逆に苦しんで何かのせいにしている
住人の叫びを聞いているのか
奴等とは、魂づきあいが無いから知らんよ。
「しかし、つまんない本ですね、そのクラスタ本
オールド・ブリック・ファクトリーズ でしたっけ
なんとなく面白そうなタイトルに思えて
中身はグダグダな、しょうもない本ですよね。」
どんな世界にも希望はあって、面白い物語はある
とかいうけど、こういう、つまらない世界もあるって事だ
まあ、今夜は、こんなトコで
なんか、長ったらしくなってしまった事だし
「あ、自覚したんですね
クドくて長ったらしい語り口だった事を?」
え? 何か言ったか? まあ、いいや、じゃあな
「はい、それでは」