H-097 線路のゾンビを片付けるのが大変だ
峡谷のゾンビと大曲里までの間で倒したゾンビを全て始末出来た時には、5月も終わりになっていた。
俺達を追いかけて来たゾンビの頭部を、フックの付いた棒で再度殴ってからの移動だからなぁ。都合5回も出掛けて行くことになったのが原因だ。
5月20日。再びランタンとジャックをトロッコに積み込んでデンバーに向かう。
今度は音を見る装置も積み込んだ。
デンバーでゾンビの大軍に囲まれそうになったのは2回だからなぁ。2度あることは3度あるとも言われているぐらいだ。
ウイル小父さんも、たっぷりとエアバースト弾を積みこんだようだし、マリアンさん達もグレネード弾の入った弾薬ケースを3個も持ち込んでいる。その他にも俺達に5個のグレネード弾を渡してくれたけど、これは全て炸裂焼夷弾らしい。
線路際の住宅を焼くことも忘れてはいないようだ。
もしもゾンビの大軍を見付けた時には、前回同様に後退しながらゾンビを刈り続けることになる。
うまく行けば、エアバースト弾で統率型ゾンビを倒すこともできるだろう。
今回のデンバー行きは、それを確かめる為でもある。
「あまりコードを伸ばせないので、今回は俺も荷台に乗りますよ」
「そうだな。サミー1人が増えるぐらいなら、俺が降りなくても良いだろう。それが今回の秘密兵器になるんだな?」
「上手く行くと良いんですが、試してみないとこればっかりは……」
「それで十分だ。サミーが出来る事をすれば良い。無理は禁物だし、今回上手く行かなければ、他の方法を考えることだって出来るんだからな」
ウイル小父さんに断って、今回はショットガンを用意した。
撃ち漏らしが近付いたなら、これが一番だろう。
ライルお爺さんもショットガンを持って来たみたいだから、考えることは同じなんだろうな。
今回は迷彩服ではなく私服のジーンズとGシャツだ。以前使った装備ベルトに大きめの弾丸ポーチを吊るして、30発程銃弾を入れてある。緊急用として胸ポケットに4本入れてあるから、十分だろう。無くなったら銃弾がたっぷり詰まったナップザックから取り出せば良い。
ヘッドホンを使うから、帽子だけは皆と同じ帽子を被る。サングラスで日差しを避けて、現在はトロッコの荷台でニック達と一服を楽しむことにした。
「ショットガンか……。それならサミーでも十分だな」
「前回は酷かったからなぁ。やはりたくさん弾が出た方が確実だよ」
一応、イエローボーイも客車の中に置いてはあるんだが、それを使うほどの事はないだろう。
俺以外の連中は、全員が300発以上の銃弾を用意しているぐらいだからなぁ。
10時過ぎにデンバー手前の大曲を通過する。
このまま進めば、30分も掛からずにデンバーの西にある住宅街付近に達するだろう。
ゾンビの声を聴く装置を組立てると、荷台の候補の邪魔にならない角に置いた。
ゾンビが出てきたら、先ずはその声が前回と同じかどうかを確認してみるつもりだ。
出来れば違った虫の音色だとありがたいんだけどなぁ。
同じコオロギの音色だとすれば、違いを見付けるのに苦労しそうだ。
「見てみろ! だいぶ見通しが良くなったぞ」
エンリケさんの声に左手を見ると、遠くに住宅街の焼け跡が広がっていた。
俺達だけの攻撃ではあそこまで焼けなかっただろうから、グランビー飛行場から出撃する双発機による焼夷弾の成果も加わったに違いない。
「あれならゾンビの存在を此処から視認できるな。今のところ動いていないようだ。焼夷弾で焼けたという事かもしれん」
「いたとしても数は限られているだろう。襲ってきても対処は容易だ。やはり線路近くの住宅は焼いた方が安心できるな」
俺としては、ちょっともったいない思いもあるんだけどね。
住宅街には、封を切っていない食料や缶詰が残されていたはずだ。それらも一緒に焼いてしまったからなぁ。
さらに進むと、中途半端に焼けた住宅が線路の両脇に並び始めた。
焼け残った住宅は、帰る時にでも焼夷弾を撃ち込むことになりそうだな。
シムズストリートとの踏切を越えたところで、トロッコが速度を落とし始めた。
なんだろうとハンヴィーの屋根越しに前方を見ると、線路に沢山のゾンビが倒れていた。
「あれを撤去しないと前に進めんな。今日は無理をせずにあのゾンビの始末をするか」
「そうするしかないだろうな。幸いにも線路は高台だ。土手にゾンビを転がして帰りにガソリンを掛けて燃やすとするか」
エンリケさんと短い会話をしたウイル小父さんが後方に向かって声を上げる。
「前方のゾンビを撤去する。作業は2人1組で行うんだぞ。パット達は客車の屋根で周辺の監視を頼む。ライル爺さんとニックはエンジンをアイドリング状態を維持しといてくれ。ここはすでに敵地そのものだ。いつゾンビの群れがやって来るか分からんからな」
さて、始めるか。
ハンヴィーから降りてきたエディにフックの付いた棒を渡すと、前方に歩いていく。
ゾンビが襲ってきてもワルサーは持って来ているから応戦することは可能だ。マリアンさん達はM4カービンを背負っている。
「ここでもゾンビ撤去か……。出来れば線路を避けて倒れて欲しいよなぁ」
「それを言うのは、これで何回目だ? 諦めるしかないよ。向こうにだって都合があるんだろうからね」
冗談を言い合いながらゾンビの衣服にフックを掛けて線路から土手に落としていく。
次のゾンビに移ると、先ずは頭部が損傷していることを確認する。
側面に穴が開いて、頭蓋骨の中が見えてるぐらいだから問題は無さそうだ。ゾンビのベルトにフックを引っ掛けて、エディと一緒に力任せに線路の上から線路際に移動して、今度はゾンビの体の下に棒を差し込んで手この要領で土手に落としていく。
いったい何体こんな作業をしたんだろう。いつの間にか作業に要領も良くなってきたような気がするから100体は軽く超えているに違いない。
1時間ほどでトロッコの通行が出来るようになった。
ちょっと休憩すると、再びトロッコが東に向かって動き始める。
シムズストリートの踏切を越えると、再びゾンビが線路に倒れていた。
これが前回群れと最初に接触した時の戦果と言うことになるのだろう。
トロッコを止めて、再びゾンビの撤去作業を始める。
「ランタンやジャックを仕掛けるのは昼食後になりそうだな」
「全く、こんな作業で時間ばかり食うんだよなぁ」
エディと文句を言いつつ作業を進める。
今度は1時間を越えてしまった。時刻は13時を回っている。
カロリーバーのようなビスケットにコーヒーと言う簡単な昼食を取って、更に東にトロッコを進める。
次に止まったのは、シムズストリートを過ぎてから2kmを越えたほどの場所だった。
線路の左右が低地だから見通しも良いし、小さな池まであるぐらいだから住宅の造成も行わなかったのだろう。俺達にとっては都合が良い。
七海さんがウイル小父さんの指示に従ってドローンを飛ばし周辺の監視を上空から行っている。
クリスの方は、ランタンを仕掛けに向かうようだ。
俺はハンヴィーの荷台に乗って、ゾンビの声を聴いてみる。
あちこちから反応はあるんだが、かなり小さい声だな。それにゾンビが集まっている時のように重なって聞こえないところを見ると、群れを作らずにさまよっているだけなのかもしれない。
30分ほど、ゾンビの声を聴きながらついでに録音もしておく。
「聞こえるのか?」
「聞こえますよ。でも、峡谷に集まっていた時のように音が重なっていませんし、音量も小さなものです。たぶん住宅街を彷徨っているんでしょう」
「ドローンの画像もそんな感じだな。ドローンにその装置を付けられないのか?」
ウイル小父さんの言葉に笑みを浮かべる。
その手があったな。帰ったらレディさんに相談してみよう。工作船の連中はかなり腕が良いみたいだから、案外小型の集音器を作ってくれそうだ。
途中で七海さんがドローンのバッテリーを交換しているのは、クリスが行っている爆弾の設置数が多いのかもしれないな。
1時間近く掛けてランタンを6個、ジャックを4個仕掛け終えたらしい。
「さて、これで終わりだ。帰りながらグレネードランチャーで焼夷弾を近くの住宅に撃ち込むぞ」
「前回同様ですね。了解です!」
レディさんが兵士達の所に走っていく。
俺とニックは兵士達が撃ち漏らした住宅に撃ち込めば良いらしい。
用意したMk19を取り出して、初弾を装填すると俺とニックがトロッコの左右に陣取った。
「出発するぞ!」
全員がトロッコの乗っていることを確認したウイル小父さんがハンヴィーの屋根を叩いて指示を出す。
ガタガタ……と連結器が音を立て、トロッコがゆっくりと西に向かって進みだした。
歩くよりも少し速いぐらいの速度でトロッコが進む。
小さな炸裂音が聞こえ始め、住宅の窓から煙が上がり始めた。
結構撃ち漏らしもあるんだよなぁ。
そんな住宅を狙って、慎重に炸裂焼夷弾を撃ち込んでいく。
線路傍の住宅が燃えるのを見ながら、5kmほど西に進んだところでトロッコが止まる。
ウイル小父さんがトランシーバーでレディさんに連絡を取ったのは、七海さんにドローンを飛ばして貰う為だろう。
ここからだと少し遠いから、客車の屋根にアンテナを取り付けることになりそうだ。
ニックと一服していると、頭上をドローンが飛んでいく。
モニターのスイッチを入れると、線路沿いの火災の状況が分かるな。これも記録されているのだろう。
「まだ燃え残っている住宅があるな。今日は風がそれほど無いから延焼することは無いんじゃないか?」
「その時は、次の時ってことなんだろうな。このまま飛んでいくとなると……。見えて来たぞ。だいぶ集まってる」
音を出すなら何でもいいということで、トランジスタラジオの音量を最大にして雑音を出しているらしい。
ラジオの需要はかなりあるようだから、雑貨屋以外にコンビニでも棚に並んでいる。ローカル放送局は必ずしもテレビというわけではないらしいし、人口数万人の町にもラジオ放送局があるぐらいだからだろう。
「ジャックを仕掛けたのは4か所だ。それぞれ500体以上は集まってるんじゃないか?」
「出来れば、大型を作って欲しいところだな。あれがドローンで運べる最大重量らしい。ヘリコプターならもっと大きいのを運べるだろう。グランドジャンクションはそうすると思うぞ」
レディさんが俺達の所にコーヒーポットを持ってやってきた。
各自のシェラカップにコーヒーを注ぎながら、ウイル小父さん達と話を始める。
「ウイル殿達の始めたゾンビを集めて爆弾で倒すやり方は、サンフランシスコとボルチモアで始めたらしいぞ。時限信管を付けたMark81に目覚まし時計を取り付けて、ヘリで大きな交差点に運んでいるそうだ。攻撃機より投下するより、10倍以上も効果があるらしいな」
「特許を取っておくべきだったか……」
残念そうな顔をしてウイル小父さんが嘆いているから、皆が大笑いを始めた。
その時だった! 遠くから連続した爆発音が聞こえてきた。
「時間通りだな。先ずはジャックの方だ」
ドローンが映し出したジャックの炸裂か所をモニターで眺めるとかなりのゾンビが倒れている。
次はランタンの方だな。
数は6個らしいけど、これはゾンビを倒すとともに周辺住宅の放火を目的としているからなぁ。ゾンビの削減よりも火事を起こした住宅が多い方が嬉しいんだけどねぇ……。




