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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-009 山小屋の老夫婦


 国道36号で西に向かって3時間。

 道路に併設されたサービスエリアに入り、燃料の補給を行う。

 ガソリンスタンドには誰もいない。

 ウイル小父さんとエディが頑張ってくれているから、俺とニックで周辺の監視を行う。

 M1カービンを構えながらサービスエリアを警戒する。

 今のところ何もないけど、何時どんな奴が出て来るか分からないからなぁ。

 

 1時間ほど掛かって、2台の車の燃料タンクを満杯にした。

 この先はいよいよロッキー山脈の山の中だ。標高も高くなるし、道もカーブが続くということだから、ここで仮眠をとることになった。

 交代で見張りに立ち、数時間の睡眠を取る。

 結構コーヒーを飲んでいるんだけど、荷物の隙間に寝転ぶと直ぐに睡魔が襲ってきた。


 翌朝目が覚めると、メイ小母さんがコーヒーを入れたカップを渡してくれた。

 西部劇に出るようなロングスカートの腰にはガンベルトが巻かれている。

 感心して見ていると、笑みを浮かべて気取った格好を見せてくれた。


「似合っていますよ。隣にジョン・ウエインがいないのが残念です!」


「小母さんを褒めても何も出ないわよ」


 そういって頬にキスをしてくれた。

 ちょっと恥ずかしいな。こんな風習は日本にはなかったからね。


 朝食が出来たところで、小母さんがウイル小父さんを起こしに行った。

 全員が揃っての朝食だ。何となく皆でこれからキャンプにでも出掛ける感じがするな。


「今朝のラジオで、グッドランドの避難民受入施設を閉鎖すると言っていたわ。やはりゾンビってことかしら?」


「たぶんそうだろうな。近くの仲間と連絡が取れれば良いんだが、向こうも避難していると思う。ロッキーを境に、住民は東に移動しているはずだ」


「その逆を俺達は辿るんだからなぁ。だけど、曽爺さんの山小屋からでも連絡が取れるんだろうか?」


「そこは抜かりが無い。今は混乱しているかもしれないが、東海岸はまだ余裕があるはずだ。先ずは最初の3日間と5日間。次は10日間に1カ月だ。そんなスケジュールでこの国は動くに違いない」


 最初は避難ルートの周知だったし、次は気化爆弾ってことだな。そうなると10日目にはなにが始めるんだろう?


「さて、少し早いがロッキーを越えるぞ。しばらくは山ばかりだ。1時間ごとに運転を替わるからな」


 ハマーはエディが運転を替わるのかな。となるとトラックの運転はオリーさんとニックのどちらかになるんだろう。


 サービスエリアを出て再び俺達は西を目指して進む。

 いつの間にか国道36号から国道34号に変わったようだ。道は2車線だけど対向車はまるで来ない。

 たまに降り口があるんだが、その先はキャンプ場か何かだろう。

 

 最初の運転手の交代をした時にウイル小父さんがトラックの後部の扉が二重になっていると教えてくれた。

厚さ3mmほどの鉄板が裏打ちされているらしい。


「後ろに変な奴らが付いてきたなら、構わずに撃つんだぞ。手榴弾を投げた時には、荷台に伏せれば大丈夫だ」


「了解です。銃の腕は良くないですけど、牽制するぐらいは出来ます」


 後部座席の後ろに背中を預けられるように、荷物を少し動かしておく。畳んであったシートの上に座れば補強パイプの中に体が収まる感じだから、荷台から落ちることも無いだろう。

 これでタバコも楽しめそうだな。リュックの中から小型の双眼鏡を取り出して傍に置く。

 後方監視は必要だけど、せっかくに機会だからね。雄大なロッキーの景色を堪能しても良さそうだ。

 トラックはニックに替わってオリーさんになるらしい。レスキュー用の大型車を運転した経験があるそうだから、ニックよりも安心できそうだ。

 

「タバコは吸っても良いって親父が言ってたけど、吸い殻はちゃんと空き缶に入れるよう注意されたよ。ロッキーの山火事の原因の1つだそうだ」


「それでコーラを飲むってことか? 一気に飲めないから、2人で分けて飲もうぜ」


 出発する前に、ニックが荷台に上って来た。車内はニック1人だったから、ずっと我慢していたに違いない。カップに半分ほどのコーラだけど、俺達にとっては十分だ。

 空き缶が出来たから、早速一服を始める。


「昨夜泊ったサービスエリアにタバコがあったんだ。2カートン手に入れたから、着いたら分けてあげるよ」


「助かるよ。次は何時手に入るか分からないからね」


 俺達2人はタバコを楽しみ、車内の女性達はキャンディを楽しんでいるようだ。

 たまに双眼鏡を手にするのは、景色が綺麗だからだろう。


1時間ほど走ったところで、路上に車を停めると、ニックが荷台から降りて行った。次はニックの運転になるってことか……。

 12時を過ぎたところで、道路傍のパーキングに入っていく。昼食ということかな? トラックの距離計によると、すでに300kmを走っているようだ。およそ600kmと言っていたから、半分近くまで来ていることになる。


 昼食はインスタントスープにビスケットだ。少し厚めのビスケットは結構お腹に溜まりそうだな。

 食後に出てきたのはスモモだった。良く洗ってあるからそのまま齧りつく。


「夕暮れ前に湖近くに下りられるだろう。必ずしも舗装されているわけではない。最後はかなりの悪路だから、覚悟しとけよ」


「向こうとは連絡が付いたの?」


「到着は20時を過ぎるだろうと連絡を入れた。もう2家族が向かっているそうだが、途中の検問が多くなったらしい。場合によってはこっちに来られないかもしれんな」


 状況は厳しいと言うことになるのだろう。

 この道にしても、この先に検問が無いとも限らない。


 再び車が動き出す。

 ニックの運転するトラックはけっこうスリルがある。

 カーブで急に減速するから、酔ってしまいそうだ。酔わずにいられたのは恐怖心がそれを上回っていたからだろう。

 オリーさんと運転を替わった時には、正直ほっとした心地だったからね。


 3時を過ぎた辺りではカーブの連続だった。

 乗り物酔いになってしまうと思い、荷物の上で横になる。

 夕闇の中、小さなサービスエリアに車を止めて夕食を取ることになったんだが、さすがに食欲がない。

 コーヒーを2杯とクッキー1枚がやっとだ。


「30分ほどで、グランドレイクの町に入る。町には寄らずに、そのまま34号を走れば次はグランビイ湖だ。爺さんの山小屋はグランビイの南東に突き出た半島にある。昔は山小屋だったんだが、湖が作られたからなぁ。尾根1つが爺さんの物だったが、今では3割ほどになってしまったよ」


 このまま順調に進めば20時前に到着できるとのことだった。

 この苦難がもう直ぐ終わるならありがたいところだ。


 次は運転を交替しないで最後まで行くそうだ。運転がニックじゃないから一安心。

 荷台の後ろでニックと一緒にのんびりと一服を楽しんでいよう。


 グランドレイクの町に入ったのが直ぐに分からなかったのは、建物も明かりが点いていなかったからだ。

 たまに明かりが見えるのは太陽光発電によるものだろう。

 電気が途絶したってことかな?

 

 山小屋で電気の無い生活というのも、何となくノスタルジックな思いが浮かぶけど、結構不便だろうな。

 携帯ゲーム機を持って来てるんだけど、充電ができないとただのガラクタだ。


「やはり電気がいつまでも使えるってことにはならなかったね」


「ああ、だけど曽爺さんの山小屋にはソーラーパネルがあるぞ。どれぐらいの出力があるのか分からないが、電灯を点ける以外にも使われていたんじゃないかな」


 なるほどね。何かあれば集まる避難場所的な意味合いで維持してきたらしいからなぁ。

 案外発電機だってあるかもしれないな。


「見ろよ! あれがグランドレイクだ。グランビイはこの先だ。目的地まで20kmもないぞ」


「昼間なら綺麗な湖なんでしょうね?」


「ああ、それにけっこう魚がいるんだ。湖岸にキャンプ場がたくさんあるんだが、さすがに誰もいないだろうね」


 湖が見えなくなり林の中を進むと、再び湖が見えてきた。

 どうやらこれが目的地のグランビイらしい。


「もう10分ほどで着くそうよ!」


 荷台の窓からパットの声が聞こえてきた。

 苦難の行軍がもう直ぐ終わるんだな……。


 2車線の道路からいきなり砂利道に入っていく。

 かなりの凸凹道だから、しっかりと体を車体に押しつける。さもないと体が浮き上がって荷台にお尻を打ち付けかねない。

 5分ほどそんな道を進むと突然コンクリートの道に出た。

 そのまま進み、最後はトンネルの中にトラックが入って行った。

 トラックが停まり、エンジンが停止する。

どうにか到着したらしい。だけど、トンネルの中なんだよなぁ……。


 荷台から降りると、女性達が下りるのを手伝ってあげる。

 改めて周囲を見渡すと、かなり大きなトンネルだ。ピックアップトラックなら4台は入るんじゃないかな。天井の照明はLEDだろうけど結構明るい。


 俺達が集まっていると、ウイル小父さんが入り口で何やらスイッチを操作している。

 ガガガ……と音を立てて倉庫の扉が閉まっていく。

 シャッターではなく、扉なんだ。


「さて、ここが山小屋だ。お前達には俺達の秘密基地と言った方が良いかもしれんな。明日外に出てみれば良く分かるだろうが、俺達が住む場所はこっちになる。ついて来てくれ」


 まるで状況が見えないからね。トンネルの一角にある扉から奥へと続く通路をウイル小父さんの後ろに付いて歩いていく。

 2人が並んで通れるような短いトンネルの先に扉があった。

 その扉をウイル小父さんが開いた瞬間、クラッカーが鳴らされたから吃驚してしまった。


「ワハハハ……ようやく着いたな、ウイル。だいぶ若い連中を連れて来たな」


「ニックの友人達だ。それで状況は?」


「まあ、座ってくれ。話はビールを飲みながらでも良いだろう」


 俺達が驚いて顔を見合わせたのは仕方がないだろう。先に山小屋に着いていたのは、あのアウトドアショップを経営しているお爺さん夫婦だった。


 気まずい思いでテーブルに着く。

 コンクリートの通路を通って来たはずなんだが、この部屋はどう見てもログハウスそのものだ。

 ちょっとしたリビングに思えるのは大きなテーブルと部屋の片隅に置いてある薪ストーブのせいかもしれない。

 部屋の照明はランプに似せた作りのLEDのようだな。ソーラーパネルで蓄電池に電気をたっぷりとため込んでいるのだろう。


 お婆さん御自慢のクッキーを頂きながら、俺達は顔を見合わせる。さて誰が話すべきか……。

 エディが口を開いたのは、俺達のリーダ―を自負しているからなんだろうな。

 

 エデイの謝罪と共に俺達6人が揃って頭を下げた。

 お爺さんはちょっと驚いていたけど、やがて豪快な笑い声をあげた。


「ワハハハ……。あのボートでウイルのところに向かったのか! 中々機転が利く連中だな。窃盗は罪じゃが、この状況では仕方あるまい。それに暴動に伴う略奪はしっかりと保険で補償を受けられる。気にせずとも良いぞ。……それにしても、あのボートを忘れんかったとは感心じゃ」


 なんか機嫌が良いんだよなぁ。

 びくびくしていた俺達が馬鹿みたいに思えてきた。



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