H-089 支援部隊が応援に来るらしい
10分も経たない内に、望遠カメラがデンバーの一番西の住宅街を捉える事が出来た。
同時に、ゾンビの群れも同じ視野に収まった。
遭遇した位置より少し西に移動しているように思える。
「ナナ、もう少し近付けないか?」
「そろそろ限界です。コントロール範囲外の警告ランプがたまに点滅しています」
「なら、望遠カメラを最大にしてゾンビの足を見せてくれ」
ウイル小父さんの危惧はゾンビが止まっているのか、それとも西に向かってゆっくりと動いているのかを確認するためだろう。
モニターに映し出された画像がどんどん拡大していく。ゾンビの姿が明確になった時だった。レディさんが大声を上げた。
「動いている!」
「ゆっくりとだが、こっちに進んでいるな……。レディ、中隊本部に連絡だ。やって来るぞ!」
「ニック、エディ達を呼んで来てくれ。パット達は客車の屋根に上って周囲の警戒を頼む。ゾンビを見付けたら報告よりも銃撃して欲しい。3発程度ならゾンビは直ぐに集まらんだろうからな」
緊急会議ってことかな?
ニックとパットが直ぐにこの場を離れていく。まだドローンが帰って来ていないが、戻ったならアンテナを撤去しないといけないだろう。それは俺が手伝うつもりだ。
ハンヴィーのすぐ後ろのトロッコに皆が集まって来る。トロッコが狭くなったから、俺達は銃を担いで線路際に降りた。
「集まったか? どうやらゾンビの動きが止まらないようだ。ゆっくりとだが俺達を追って来るのが分かった。あの速度ではここまで来るのに数時間は掛かるだろうし、トンネルまでは明日になるだろう。だが、奴らの足がいつ早くなるかもわからんからな。その場合は余裕時間が半分以下になりそうだ」
「迎撃するってことか?」
「グレネード弾は炸裂焼夷弾ばかりだが、M16やM4の銃弾はたっぷりある。どれほど数を減らせるか分からんが、後退しながら銃撃していくことにするぞ。レディは中隊に状況連絡、可能であれば阻止線をトンネルのデンバー側に作れないか調整して欲しい。エンリケは各自の銃弾を再確認して欲しい。2度程戦闘を行っているからな。予備の銃弾を持って来てはいるが、2箱だったはずだ」
「了解だ! レディ、阻止資材を運んで来る連中に追加を頼んでくれないか?」
「合わせて連絡する。支援部隊も頼んでおこう。グレネード弾よりは効果があるはずだ」
ウイル小父さんが頷くのを確認して、直ぐにレディさんがトランシーバーを使い始めた。
「レーションを用意して置いて良かったな。夕食はここで食べることになりそうだ。お夜を沸かしてレーションを温めてくれ。朝食は戦闘食になりそうだぞ」
戦闘食と言えば聞こえは良いけど、カロリーバーのような代物だからなぁ。レーションとは段違いだ。
七海さん達がガスコンロでお湯を作り始めたから、周辺の監視は俺達3人で行うことにする。
客車の屋根に上り、エディが東、俺とニックが南北を担当する。背中合わせに座ったところで、マグライトをポケットから取り出し、ちゃんと点くことを確認した。
「夜はライト頼りってことになりそうだな」
「ハンヴィーの前照灯はちゃんと点くよ。屋根は左右を照らすライトもあるぞ。機関車のライトもあるし、この客車にだって左右を照らすLEDライトは屋根の前後についているからなぁ」
心配そうなニックと、楽天家のエディならではの話だ。
確かにライトは付いているけどそれで周囲の監視が出来る範囲は短いだろうな。30m先が見えれば良いところに違いない。
となれば、やはりドットサイトの方が良かったかもしれない。次はイエローボーイを持ってこよう。俺にはあっちの方があっているように思えてならないんだよなぁ。
30分ほど経ったところで、バリーさん達が交代してくれた。
客車の屋根から降りてトロッコに戻り、七海さんが渡してくれたレーションを頂く。今夜はクラムチャウダーのようだ。ビスケットのようなパンにジャムを塗って一緒に頂く。
食事が終わるとレーションに付いてきた粉末コーヒーと砂糖をシェラカップに入れてお湯を注ぐ。キャンディーとガムが付いていたけど、これは今夜楽しめば良い。
「レディさん、中隊の支援は受けられるのでしょうか?」
俺の問いに、ちょっと驚いていたようだが直ぐに笑みを浮かべて話してくれた。どうやらすでに皆には話をしていたらしい。俺達も一緒に聞いていたと思っていたみたいだな。
レディさんの話によれば、支援部隊と工兵が資材を山積みにしたトロッコでこちらに向かっているそうだ。
「トンネルのデンバー側に鉄柵を作ると言っていたぞ。さすがにゾンビが鉄柵を破壊出来るとは思えんし、鉄柵の内側から銃撃を浴びせることでトンネル内にゾンビが入ることは無いだろう。サミー達が作ったエンジン付きのシーソートロッコに1個分隊を乗せて常時警戒に当たるそうだ」
そうなると、トンネルの両側に退避線路を作ることになりそうだ。確かあったんじゃなかったか?
「銃弾も運んで来るんでしょう?」
「2会戦分を運ぶと言っていたぞ。ハンヴィーのMk19のエアバースト弾も一緒だ。数が多いからなあ。銃弾よりは炸裂弾と言うことになるだろう」
「途中で引き返してくれるなら良いんですけどねぇ……」
「それもあるだろうが、戦は自分の希望で進めるものではない。常に最悪を想定することが基本だぞ」
俺の呟きに、レディさんが注意してくれた。確かにそうなんだけど……、あの数を前にしたなら近代兵器と言えども阻止することができないように思えてならないんだよね。
東に目を向けると、マリアンさん達が線路伝いに歩いて来るのが見えた。夕暮れ時だから一瞬ゾンビかと思ってM4を握りしめたけど、歩く姿がまるで違うんだよなぁ。
だけど夜間は勘違いしそうだから気を付けないといけないだろう。
「LEDライトを設置してきました。すでに点灯しているんですが、ここではあまり分かりませんね」
「ご苦労。こっち側に遮光テープを張ったからだろう。これで500m先の状況が分かる。助かったよ」
「双眼鏡で東を見てきましたけど、ゾンビの姿は見えませんでした。やはり追うのを止めたのではないでしょうか?」
「あいつらの動きが遅いからだろう。止まってくれれば助かるが、トンネルの阻止線が出来るまではここで見張ることになるぞ」
ウイル小父さんの話に、ちょっと首を傾げているけど軍では上官の指示は絶対だからだろう。きちんと答礼して報告を終えると残っていたお湯でコーヒーを作り始めた。
「確かに状況から言えばここに来る可能性は50%にも満たないだろう。だがゾンビの動きを私達人間と同じに考えるのも問題だろうな」
「最悪を考えるとなれば、やって来ることになりますよ。俺達は殆ど銃弾を使っていませんが、他の人達はそうでもないでしょう。足りるのでしょうか?」
「ナナが空撮した画像から見たゾンビの推定数は正面が3千、左右がその半分ずつとして6千を越えるだろう。だいぶ倒してはいるだろうがそれでも1千体には届かないはずだ。残りは5千体、それに対して我等の銃弾は1人180発が17人と言うことになる。約3千発だ。数発で頭部に命中するなら、600体は倒せることになる」
2割程度ってことじゃないか!
確かに銃弾を要求するのは理解できたけど、間に合うかどうかが心配になってきたぞ。
夕暮れが終わり、周囲がだんだんと暗くなってきた。
ハンヴィーと機関車はエンジンをアイドリング状態にしてライトを点けている。
位置的には前照灯を点ける意味が無いようだから銃座に着けたライトで東を照らしているようだ。
遠くに淡い光が見えるのがマリアンさん達が設置したライトなんだろう。線路の左右に並べてあるから線路の左右100mほどの範囲を双眼鏡を使って確認することができる。
ハンヴィーの荷台と銃座、それに客車の屋根の3か所から監視しているようだ。
「まぁ、ここは待つことしかできまい。今の内に休んでおくんだな」
「それならパット達を休ませます。夜間の監視をして貰いましょう」
ニックがパット達のところに足を運んでいく。
俺とエディはとりあえず一服だ。タバコの残りが気になるけど、亡くなったならガムでも噛んでいよう。
20時過ぎに、中隊から派遣された部隊から連絡が入った。
工兵隊がトンネルのデンバー側の出口に柵を作り始めたらしい。柵と言っても完成品を設置するのではなく、その場で作るというんだからなぁ。どんな柵になるのか見るのが楽しみになってきた。
派遣部隊を乗せてきたトロッコを切り離してハンヴィーとトロッコ1台がこちらに向かっているとのことだ。支援部隊と銃弾をたっぷり持って来てくれるのだろう。これでゾンビの迎撃力が格段に上がることになる。
「21時過ぎにはやって来るだろう。支援部隊を下ろして帰るだろうが、こっちのハンヴィーなら1個分隊ほどの増員なら何ら問題なくグランビーに帰れるはずだ」
牽引力はあるからなぁ。さらにトロッコを増やしても問題は無いんじゃないかな。
将来は8輪駆動の牽引車が運ばれてくるらしいけど、燃料はまだあるんだろうか?
俺達が使えるようになったとしても、燃料消費を考えないとデンバー攻略に支障が出ないとも限らない。
今後の食料や燃料補給、それに銃弾の補給について考えないといけなくなりそうだ。
レディさんの言葉通り、支援部隊が21時20分に到着した。
直ぐにM224迫撃砲が線路際に設置され、東に見えるライトより100mほど東に目標を定めている。
ウイル小父さんはエアバースト弾を受け取って笑みを浮かべているし、マリアンさん達も銃弾箱3個に入ったグレネード弾を受け取っていた。
「サミー達も、ポーチに入る分は貰っておくんだぞ。射程は300mほどあるし、ゾンビの中で炸裂すれば、それなりの効果はあるはずだ」
たとえ倒せなくとも、足を破壊すれば動きが制限されるだろう。そんなゾンビなら頭部を銃撃することも容易なはずだ。
荷下ろしが済んだハンヴィーがゆっくりと西に向かって進んでいく。
トンネルの方も今頃は急ピッチで柵作りを行っているに違いない。
頑丈な柵ともなれば簡単には作れないだろうからなぁ。ここだけで足止めするだけではなく、この先何度もトロッコを止めてゾンビを迎撃することになるんだろうな。




