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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-087 線路沿いの住宅を燃やす


 4月15日。今年最初のデンバー行きだ。

 ライルお爺さんと小母さん達を山小屋に残して、バリ―さん達5人にウイル小父さん率いる俺達6人、レディさんと5人の海兵隊からの派遣部隊の合計17人が、トロッコに乗り込んだ。

 トロッコは周囲を丸太で補強した2台に小型キャンピングトレーラーを組み込んだ客車と機関車と呼ぶ牽引トロッコと、ハンヴィーが故障した場合に備えて最後尾に連結した去年と同じ構成だ。

 ハンヴィーの運転はエディとテリーさんが交代で行うらしい。ライル小父さんは後部座席にエンリケさんと座っている。ゾンビの群れが大挙して押し寄せて来たなら銃座のMk19が30発のエアバースト弾を連続して放つことになる。

 距離300mで空中炸裂するグレネード弾だから、ゾンビにはかなり効果があるに違いない。


「このHK69でもエアバースト弾を放てれば良いんだけどなぁ。出来ないと親父が言ってたよ」


「だけど、レディさん達やウイル小父さん達のM203も同じらしいよ。諦めるしかなさそうだけど、一応大砲だよなぁ」


「30m以内には効果が無いと言ってたよ。30mほど飛ぶことで信管のセーフティが解除されるらしい。5発グレネード弾を貰ったけど、3発は炸裂焼夷弾だからね」


 その3発は、最初に見える北の住宅地に火事を起こすためのものだ。

 ランタンを2個使うと言っていたけど、それだけでは足りないだろうからね。燃え残った住宅をグレネード弾で燃やすことになる。

 さすがに全ての住宅を燃やせるとは思えないが、見通しが良くなるだろうしゾンビの数もかなり削減できるだろう。


 俺達を乗せたトロッコは順調に進んでいく。1時間ちょっとでトンネルに入り、トンネルの東側に出ると線路傍の雑木には新芽が芽吹いている。

 やはり標高が落ちると暖かさも違うんだろうな。

 俺達は冬用装備をしているけど、月が替わる頃にはさすがに装備を変えないといけなくなるだろう。

 冬季迷彩ジャンパーのポケットから煙草を取り出し、七海さん達の風下に移動して一服を楽しむ。


 大曲に差し掛かったところで、トロッコを停めて休憩に入った。

 保温ポットに入れたコーヒーを七海さん達が俺達の個人装備であるシェラカップに注いで回り、最後は俺達と一緒になってコーヒーを飲んで体を温めている。


「今度のランタンは目覚まし時計の作動時間が2時間になってたわ。最初の住宅街に仕掛けてから、東に進むみたいね」


「ランタンは何台運んで来たんだい?」


「4台よ。ジャックは2台みたい」


 ニックの問いにパットが答えてくれた。

 すると南の住宅にも仕掛けるのだろう。貯水池の東の住宅地には双発機が何度かロケット弾を撃ち込んでいるから、それなりの被害を受けたに違いない。住宅が破壊されているなら、火事を起こすのも容易なはずだ。


 15分ほどの休憩を取ったところで、トロッコはデンバーに向けて再び走り出す。

 七海さん達はレディさん達と、ドローンの準備を後ろのトロッコで始めたようだ。

 ニックは警察官だったニックさんと機関車に移動して後方警戒をしているし、バリーさん達はハンヴィーの荷台に乗って、ウイル小父さんと何やら話し込んでいる。

 これを使えとレディさんが渡してくれたM4カービンにはドットサイトではなく光学照準器が付けられてあった。倍率は3倍らしいけど、100m以内を狙うには都合が良いし、5.56mmの銃弾の有効射程は300m以上あるからね。イエローボーイも良いけれどゾンビが多いとなれば断然こっちの方が良いに決まってる。


「ライフルを持ってニヤニヤしてると、思わず銃口を向けたくなるぞ」


 そんなことを言って俺を笑っているのはテリーさんだ。


「新しい銃ですからね。M4カービンは使ったことはありますけど、この照準器が着いたのは初めてです。いつもはドットサイトでしたから」


「ドットサイトは乱戦には良いんだが、少し離れると倍率のある照準器が良いんだよなぁ。俺のM16は7倍望遠なんだ。バレルも良いものだから300mなら狙撃が出来るぞ」


 自分の言葉に、俺が羨ましそうな顔に変わったのを見たんだろう。再び笑い声をあげた。


「まぁ、その照準器だって悪くはないぞ。それにサミーは近距離狙撃が得意だったはずだ。それならM4カービンと小型照準器の組み合わせはベストなんじゃないかな」


 慰めにも聞こえるけど、レディさんが選んでくれたのはその思惑もあったのかもしれないな。

 やはり近距離狙撃をこれからも重視していこう。ライルお爺さんの貰ったイエローボーイだってこれからも使っていきたいからなぁ。


 遠くに住宅街が見えてきた。

 テリーさんと一緒に、タバコを楽しみながら周辺の監視をする。


 住宅街が右手に広がってきたところでトロッコを停める。

 俺達はライフルを手に線路際に降りて、近づいて来るゾンビを警戒することになったけど、ゾンビの姿はまるでない。小型双眼鏡を取り出して住宅街を見ると、数体のゾンビがうろついていた。だいぶ衣服が傷んでいるなぁ。今年で2年目ということがその姿を見ただけで分かるほどだ。


 双眼鏡を仕舞い、再び周囲に目を光らせる。

 再度住宅街に目を向けると、ランタンを吊り下げて住宅街に飛んでいくドローンの姿を見ることができた。

 今日の風向きは……、東南東だな。東西に長く伸びた住宅街だから、ランタンを仕掛けるのは住宅街の東になるのだろう。

 南にも住宅街があるから、俺達の周辺監視はもうしばらく継続することになりそうだ。


 30分ほど掛かって4個のランタンを設置し終えると、俺達はトロッコに乗り込む。

 ゆっくりとトロッコが東に向かって進んでいく。

 今度はジャックを設置することになるんだが、場所はシムズストリートとの踏切辺りらしい。

 20分も掛からずに踏切に到着すると俺達が周辺警戒をする中、ドローンが飛び立っていく。

 今度は2個だけだからね。20分も掛からずに摂津市終えたところで、トロッコが後退し始めた。


 レディさん達が俺達のトロッコにやって来ると、レディさんだけハンヴィーの荷台に向かう。

 何時の間にか荷台に移っていたウイル小父さんと、短い話を交わして俺達のところに戻ってきた。


「グレネードで線路際の住宅に焼夷弾を打ち込むぞ。後ろの連中が撃ち漏らした住宅に撃ち込んでくれ。その銃弾箱に予備のグレネード弾が入っているはずだ」


「了解しました。これって結構肩に来ますね」


「しっかりと肩に付けて撃つことだ。新兵訓練ではいつも何人か肩を痛めるからな」


 俺の言葉に笑みを浮かべて、注意してくれた。

 M4カービンをトロッコの丸太に壁に立て掛けて、HK69を手に取りグレネード弾を装填する。なんか中折れ式のショットガンみたいに見えるだよなぁ。

 手元の照準器を立てて、セーフティはまだ解除しないでおく。


 数分も経たずに、レディさんが手に持つトランシーバーから着信音が鳴った。

 短い応答をしたところで、ウイル小父さんに手を振るとトロッコが西に向かってゆっくりと動き出す。


「さぁ、始めるぞ。サミーとニックは北を頼む。テリー達は南だ」


 HK69のセーフティを解除して銃身を北に向けた。

 トロッコはそれほど速度を上げていない。自転車よりも遅いぐらいだ。


 トロッコが動き出して直ぐに、北の住宅街に炎が上がった。始まったみたいだな。

 撃ち漏らした住宅と言っていたけど、南南東の風があるから延焼する可能性もあるだろう。数軒並んで火の手が上がっていない住宅に撃ち込んで行けば良さそうだ。


 そんな区画を見付けたところで、HK69のトリガーを引く。

 狙った住宅の隣に着弾したけど、まぁ問題は無いだろう。銃身を開放して薬莢を取り出し、次のグレネード弾を装填すると再びグレネード弾を放つ。

 3発放ったところで銃弾箱の中からグレネード弾を3発ポーチに押し込み、もう1発を手に取ってMK69に装填した。

 ハンヴィーを見ると、ウイル小父さんとエンリケさんが双眼鏡を手に状況監視を行っている。

 何も指示を出さないところを見ると、今のところ想定内と言うことになるんだろう。

 2度目のグレネード弾を補給している時だった。

 鋭い笛の音がハンヴィーの方から聞こえて来た。直ぐにウイル小父さんに顔を向けると、手をメガホンのようにして東からゾンビの群れがやって来たと教えてくれた。


「グレネードは通常型を使うんだ。無くなったら銃撃で応戦する。ゾンビを激減しながら西に移動するぞ!」


 東に目を向けると、黒々とした壁が動いているのが見える。

 まだ距離はかなりありそうだ。早めにグレネード弾を使ってM4カービンで応戦することになりそうだな。


「サミー達は南北に注意してくれ。統率型ゾンビが潜んでいる可能性がある!」


「了解です!」


 レディさんの指示を受けて、一つ後ろのトロッコに移動する。

俺達がいたトロッコにはマリアンさん達が移動してきたからなぁ。邪魔にならないようにしないといけないだろう。七海さん達と一緒になったところで俺が北をニックが南を睨む。

 シュッポン! と言う気の抜けたグレネード弾の発射音が聞こえてきた。

 バリーさん達が東に向けてグレネード弾を放ち始めたようだ。射程は300mを越えるらしいが、ウイル小父さんの事だからなぁ。ゾンビとの距離を200ほどに保ってゾンビを狩り続けるに違いない。


 東も気になるけど、自分の役目もこなさないといけない。

 北に注意を向けていると、遠くから黒い壁が襲寄せて来るのが見えた。

 ゾンビが鶴翼陣を取るとはねぇ……。かなり知能が高くなっているのかな?

 それとも、獲物を包み込むように全体が移動するのは狩りをする生物の本能なんだろうか?


「レディさん、北から移動してきます。距離役500m。俺達を包囲しようとしているように見えます!」


「了解だ! 南も遠くにゾンビの壁が見える。さすがに後方は開いているようだな……」


 レディさんがトランシーバーでウイル小父さんと短い会話をしていると、トロッコの速度が急に上がった。思わず転びそうになったぐらいだけど、何とか凌げたぞ。

 速度を上げる際には連絡して欲しいところだ。

 

 どんどんゾンビの群れから離れていく。

 まだゾンビ達は追ってきているけど、どれぐらい追いかけて来るんだろう?

 場所を覚えておいて、その確認もしといた方が良いのかもしれないな。


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