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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-081 オリーさんにメールを送る


「全くあれは反射神経では無いわね。完全に後ろにも目があるみたい」


「どんな訓練をすれば、あのように動けるのか聞いたことがある。どうやら幼少期に祖父から手解きを受けたらしいな。まるでアニメの世界のニンジャそのものだ」


「でもあの状態から、一瞬で攻撃に移れるんだから軍曹が知ったら欲しがるんじゃないかしら?」


 まだ言ってるんだよなぁ。

 マリアンさんの投げた薪を横に転がるようにして避けると、その場で立ち上がって身構えただけなんだけどねぇ……。

 サバイバルナイフを低く構えてマリアンさんを凝視したら、その場にしりもちをついてたからなぁ。

 かなり驚いたってことなんだろう。

 それを見て大笑いをしているレディさんは、やはり俺で遊んでいる感じなんだよね。

 笑い終えたところで俺にコーヒーを淹れてくれたけど、何時の間にか俺の好みを理解してくれていたようだ。

 ありがたく頂いて笑みを浮かべると、先程のガールズトークが始まった。


「中隊ではだいぶ知られているぞ。2人程その場で倒されているようだ。サミーに師事を頼もうと言う者も多いのだが、かなり特殊な武道らしいからなぁ。極めるにはかなり年月が人うになるのだろう。おかげで我が中隊ではマーシャルアーツの訓練が盛んになったと中隊長が喜んでいたよ」


「マーシャルアーツとは違うのよねぇ……。それより、一瞬でナイフを抜いて私を睨んだのよ。あれには驚いたわ。良く漏らさなかったと自分を褒めたぐらいなんだから」


「そんなに怖かったの?」


「目の前に猛獣がいるという感じね。ジュリーだって目の前に突然トラが現れたら驚くと思うよ。そんな感じだったもの」


 殺気をぶつけたのは不味かったかな? 

 だけど、それで相手をひるませられるなら戦いを回避できるからね。

 それにしてもお漏らししそうだったなんて、俺がいる前で良く言えるなぁ。そっちの感性に感心してしまう。


「さて、今の内にサウナを楽しみみましょう。昼は女性達に人気だからね」


「そうそう、まったくここは天国だよねぇ」


 苦笑いを浮かべているけど、レディさんも一緒に行くみたいだな。

 これで少し静かになりそうだ。

 再び姿勢を正して座禅を組む。

 息を調えながら心を空にするのが本来の座禅なのだが、俺の場合は深い思考の世界に入ることになる。

 デンバーの住宅街にゾンビが蠢いている状況が脳裏に作られたところで、思考実験を1つずつ行っていく……。

                ・

                ・

                ・

 ゆっくりと目を開けると、焚火の周りに男達が集まっていた。

 急に眼を開けて焚火の前に置いておいたコーヒーカップを手に取ったから、隣にいたエンリケさんが吃驚して俺に顔を向けた。


「寝ていたんじゃないのか? まったく東洋の神秘と言う奴を、俺達に教えてくれる奴だな」


「ちょっと、深く考え込んでたんです。やはり数は脅威の一言ですね」


「再確認していたという事か? どんな作戦でも数の前にはあまり意味をなさないからなぁ。だが、まだまだクリスマス前だぞ。来春までにはたっぷりと時間があるんだ。俺達も考えているんだが、サミーやニック達にも期待しているぞ」


「1つ気になることがあるんです。レディさん、大陸東岸に行ったオリーさんと連絡を取る方法はあるんでしょうか?」


「軍の衛星通信なら十分可能だ。とはいえ電話は難しいかもしれん。メールで意見を交換するのが良いだろう。写真や図も送れるからな。手続きと専用端末は私が用意しよう」


「サミーが気になるということが、俺達には気に掛かるなぁ。それぐらいは教えてくれても良いんじゃないか?」


 ウイル小父さんが苦笑いを浮かべて問い掛けてきた。

 気になるだけでそれが問題かと言われると、今のところよくわからないんだよなぁ。


「ウイル小父さん達がゾンビに囲まれたと言ってましたよね。あれからデンバーには向かっていませんけど、それって今まで起こったことがあるのかどうか気になってたんです。ゾンビ騒動の最初は一方的にゾンビが襲い掛かっていたようですから、ウイル小父さん達が遭遇した状況下とは少し異なるはずです」


「確かに俺達を囲もうとしたような動きに見えたな。だがそれは俺の気のせいにも思えるところもある。USBで画像は残してあるから、ゆっくりと確認してみるんだな。……ん? そういう事か。サミー、それはとんでもない想定だぞ!」


 ウイル小父さんが急に立ち上がって、通信機を置いたテーブルの引き出しを開けている。直ぐに戻ってくると、今度はニックに白板を持ってくるように言いつけている。


「ウイル殿、何か分かったのか?」


「もしそうだとしたら、作戦が根本的に変わるだろう。プロジェクターも持って来たな。それではもう1度見てみるか……」


 問題のゾンビの群れの場面が現れたところで、スローで再生を始めた。

 やはり、動きがこれまでとは異なるんだよなぁ。俺の思い過ごしかと思っていたんだが、再度ゾンビの動きを見てみると俺の推測がかなり正しく思えてくる。


「そういう言ことか……。まったく子供に教えられるようになっては、指揮官として失格にも思えてきたぞ」


「ウイル殿、私にはさっぱりわからんのだが?」


 レディさんの言葉に、焚火を囲んでいる連中が頷いている。

 溜息を1つ付いたところで、傍らにおいた炭酸割のブランディ―を一息に飲み込んだところで口を開いた。


「指揮者がいる……。まったく、最初の画像だけでその推測を立てるんだからなぁ。統合作戦本部も欲しがるかもしれんが、サミーは俺達の仲間だからな」


 ウイル小父さんの最後の言葉は誰も聴き取れなかっただろう。最初の言葉で場が騒然としてしまったからなぁ。


「ゾンビを指揮する存在がいると?」


「ああ、この動きはそう見るべきだろうな。津波のように押し寄せるという表現がゾンビ騒動の当初にはあったはずだ。俺もそんな光景を見たことがある。だが、これを見てくれ……。明らかに包囲を考えての動きだ。俺達がゾンビ並みの動きで走っていたなら、体力が尽きた時に両側から閉じられてしまっただろうな」


「だが、ゾンビを指揮するゾンビは何処にいるのだ? それに彼らに伝達手段があるとも思えんのだが?」


「それが分からないのでオリーさんと話してみたいと思ったんですが……」


「了解だ。直ぐに中隊本部に行って来る!」


 明日ではなく、直ぐに出掛けてくれるらしい。

 だけど、クラゲのような存在とも言ってたからなぁ。それほど複雑な思考を持つことは無いと思うんだけど、遺伝子操作で生まれた生物ともなると、どんな能力が隠されているか分かったものではない。


 数日が過ぎると、山小屋とオリーさんが働く研究所との間の通信手段が確保された。

 やはり電話と言うわけにもいかないようで、小型のノートパソコンに衛星通信機が接続されたものだ。

 リビングの通信機が置いてあるテーブルに置いて貰って、壁に穴を開けて小型のパラボラアンテナをサウナ小屋の屋根に設置することになった。


「常時回線を接続してある。電力は200Wと言うところだから、山小屋の電力消費に大きな影響はないだろう。オリーのアドレスは『OLHA.BIO.USA』 になる。サミーのアドレスは『MASA.MAR.USA』 だ。統合作戦本部を含め関係部署に周知しているはずだから、オリー以外からの通信が入るかもしれんぞ」


「それは、あまりうれしくない知らせですけど……」


「名前が売れたということだな。案外、士官の道が近付いたかもしれん」


 そんな事を言って笑うんだから、困った人だな。

 それでは……とテーブルに着いて、早速メールを打ち込むことにした。

 先ずは挨拶ということになるんだろうか?


『お別れしてから大分過ぎてしまいました。オリーさんも元気で研究を為されていると思っています。

 こちらは全員元気です。もう少しでクリスマスですから、今年はどんなケーキが出て来るかと今から期待しているところです。

 お忙しいとは思っているのですが、次の事項に関わる答え、もしくは見解をお聞かせください。

 1つ目。クラゲ相互で何らかの意思の伝達は可能なのか。

 2つ目。クラゲは群れることがある。その場合に群れ全体を統括するような上位種の存在はあり得るのか。

 3つ目。ゾンビの動きを統括する部分は頭部にあると考えられるが、万が一、複数の幼生が人間に取り込まれた場合は1つに合体されるのか、それとも複数になるのか。

 デンバーで、ウイル小父さん達が遭遇したゾンビの大軍を見る限り、何らかの手段でゾンビが統率されているように思えてなりません。

 そうであった場合、これまでの方法で対応した場合、破滅的な事態になりかねません。

 お忙しいところ申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします』


 こんなところで良いだろう。最後に俺のフルネームを記載して、送信をクリックした。

 席を離れて、焚火の傍に座る。

 エディ達と飾り付けたクリスマスツリーがチカチカと明かりを灯している。これだけ見ていると平和に思えるんだが、実際は人類の攻防が掛かった戦の最中でもあるんだよなぁ。


「送ったのか? オリーも楽しみに待ってるはずだ。だが問い掛けられた内容は、向こうも驚くに違いない」


「俺の危惧であれば良いんですけどねぇ」


「ウイル殿が驚く程だからなぁ。単なる危惧とはいえんだろう。私は命令に忠実な兵士で良かったと思うよ」


 レディさんが、後ろ手に隠していたコーヒーカップを手渡してくれた。

 ありがたく受け取って、冷めるまで横に置いておこう。その前に先ずは一服だ。


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