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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-074 俺の野望がサウナに化けてしまった


 3日もあれば終わるだろうと考えていたベッド探しは、なんだかんだで10日近く掛かってしまった。

 最後の荷物である木製の折り畳み椅子をピックアップトラックで運ぶ途中、ふと東に目を向けると峰々はすっかり白く覆われていた。


「道理で寒くって来たわけだ。もう直ぐ初雪が降るんじゃないか?」


「これで冬ごもりが出来そうだな。途中で色々と注文を出すんだからなぁ」


「部屋で2人でゆっくり過ごしたいってことなんだろう? 良いじゃないか。俺達もその中に入ってるんだからね」


「それは分かるけど……。背板の彫刻で2時間も椅子を選ぶのはなぁ。どれも座れば同じだと思うんだけどなぁ」


 さすがにその場で言葉にしなかったのは、エディも成長したってことなんだろうな。

 とはいえ、確かに呆れたことも確かだ。

 その場にいるとだんだんとイライラして来るのが自分達にも分かってきたから、早めに雑貨屋を出て外で一服していたんだけどね。


「父さんが女性は永遠の謎だと言っていたよ」


「俺の父さんは、女性はエイリアンに違いないと言ってたぞ。特に母さんのことは特に凶暴な種族だとも言ってたな」


「日本でも、女性は人間種とは異なる種だという人もいるからなぁ。だけど七海さんは違うと思うよ」


 そんな事を言ったもんだから、エディ達が俺を羽交い絞めにして軽く叩き始めた。

「「この裏切り者!!」」なんて言ってるけど、本人だって俺と同じ思いに違いない。

 なら、どうして恋人が結婚するとエイリアンに変わるんだろう?

 その辺りは、ライルお爺さん辺りが詳しいかもしれないな。人生経験が長いからなぁ。


 山小屋に戻ってくると、直ぐに焚火の周りに座り込む。

 やはり荷台は冷えるんだよなぁ。手足を焚火にかざしているとパット達がコーヒーを運んで来てくれた。

 俺達の隣に腰を下ろして、とりあえず休憩を取ることにしたようだ。


「あれ? レディさん達は」


「3階に行ったみたい。状況報告と様子を見に行ったんじゃないかしら」


 俺達も気にはなってるんだけど、出入り禁止にされてるんだよなぁ。ウイル小父さんとバリーさんが一緒だから変な構造にはならないだろうし、急造する部屋だからねぇ。案外小さな小部屋かもしれないな。


「もう1度デンバーに出掛けるような話もあったけど、さすがに今年は無いんじゃないか。そうなると、来春の攻略を考えないといけないぞ」


「出来れば、あの大曲の近くに拠点を作りたいね。あの場所からなら1時間ほどでデンバーの郊外住宅地だからね。爆弾を何度も仕掛けられそうだ」


「あの辺りは見通しも良さそうだからなぁ。良い考えだと思うよ。本格的なデンバー攻略時には海兵隊の人達も応援してくれるそうだ」


 応援してくれる海兵隊の人数が問題かもしれない。少なくとも小隊規模で欲しいところだが、彼らもグランドジャンクション攻略があるからね。

 優先順位はグランドジャンクションになるはずだ。デンバーの空港は東への足掛かりとしては必要だろうけど、グランドジャンクションの空港とデンバー空港の距離は300kmも離れていない。

 1500m滑走路があるグランドジャンクション空港が使えたなら、物資輸送は格段に容易になるはずだ。

 とはいえ、デンバー空港は3000m級の滑走路があるからね。それこそどんな大きな飛行機でも離着陸ができそうだ。

 優先すべきはグランドジャンクションに違いないが、デンバー空港も手に入れたいと誰もが思っているに違いない。


「ところで山小屋の西に小屋がいつの間にか出来てるんだけど、サミーは何か知らないか?」


「初めて聞くよ。エディは何時知ったんだい?」


「あれか! 確かに小屋だよなぁ。小屋の周りが桟橋みたいになってたから、てっきりライル小父さんが魚釣りをするために作ったんだと思ってたけど?」


「煙突があったぞ? 燻製小屋にしては大きすぎるし、跳ね上げ式の窓もついてたんだよなぁ」


 気になるなら皆で見て来よう。

 さすがにパット達はそんな興味は無さそうだ。ニックは魚が釣れそうならライル小父さんに断ってそこで釣りをしようなんて考えているのかもしれない。


 山小屋から広場に出ると、どんよりした空からちらほらと小雪が舞っている。

 初雪だ。結構冷えるから、案外積もるかもしれないな。


 エディが先に立って、問題の小屋へと足を運ぶ。

 それにしても、いつの間に作ったんだろう? 小屋に続く道は砂利まで敷いてる。


「これだ。変わってるだろう? 入り口扉が1つで奥に部屋が伸びている感じだけど、幅は狭いよなぁ」


 横幅は3mほどで奥行きが10m以上ある。かまぼこ型に作られた木製の小屋は、しっかりと耐水ペイントが塗られていた。

 小屋を囲む桟橋は、テラスと言っても良さそうだ。頑丈そうな柵があるから、湖に落ちる事もないだろう。

 そもそもこの小屋の三分の一は湖に張り出して作られてるんだよなぁ。


「こっちにハシゴがあるよ。これって下に船を停める為ってことだよね」


 小屋の真ん中付近の桟橋に、湖におりるハシゴが設置されている。湖までの高さは2mほどなんだけど、桟橋の横幅が1mほどだからなぁ。ここで釣りをするというのも考えてしまう。


 突然、小屋の中から物音が聞こえてきた。

 思わず俺達は顔を見合わせる。別に悪いことをしているわけではないんだけど、罪悪感があるんだよなぁ。

 ゆっくりと、その場を後にして山小屋に戻ることにした。


「結局、何だったんだろう?」


「釣り目的では無さそうだね」


 ニックがちょっとがっかりした表情で呟いている。ここは少し元気を出させてやろうかな?


「グランビイの湖には小魚はいるのかい?」


「ああ、いるよ。マスの餌になってるようだけどね。食べると結構美味しいらしいけど、専門に狙う釣り人はいないみたいだ」


「なら、こんな小屋を作れば、氷に穴を開けて小魚釣りができるんじゃないか? 小魚が釣れれば、それを餌にして大型のマスだって釣れると思うんだけど」


 簡単な絵を描いてニックに見せると、エディも興味がありそうで覗き込んでいる。

 

「これって、穴釣り用の小屋じゃないか!」


「ソリを作って、その上に木箱を作る感じで良いようだな。おもしろそうだし、冬の気晴らしには最高じゃないか!」


「なら、材料集めは明日からで良いね。小さなストーブも必要だから、工兵隊の人達にブランディ―を持って行って頼んでみよう」


 うんうんと2人が頷いてくれたけど、俺達を見ているパット達はちょっと不機嫌そうだ。

 だけど、誰にも邪魔をされずに小屋の中で過ごせるんだから少しは笑みを浮かべてくれても良いと思うんだけどなぁ。


「小屋は大きく作らないと駄目だよ。少なくとも3人が中で釣りを楽しめるようにしておかないと」


「それは俺に任せておけ。ライルお爺さんに相談すれば、寸法を決めてくれるんじゃないかな?」


「何じゃ。ワシに相談とは?」


 ライルお爺さんがホットワインを持って焚火の輪に加わった。

 さっそく、俺が描いた絵をライルお爺さんにエディが見せている。


「面白そうじゃな。ワシも使わせて貰おうかの。この種の小屋は聞いたことがあるぞ。中にはテントのグランドシートに穴を開けて釣りをする者もいるようじゃが、やはり小屋を作る方が長持ちするに違いない。必要な資材はワシがリストを作ってやろう。

 ニックは雑貨屋を巡ってみることだ。スメルト釣りの仕掛けや竿があると思うぞ」


 思わず「美味しいんですか?」と聞いてみたら、お爺さんが大きな笑みを浮かべて「最高じゃ!」と教えてくれた。

 そういう事なら頑張らないといけなくなってしまう。

 小屋作りはエディとお爺さんに任せて、俺とニックで雑貨屋を幾つか巡ってみよう。


「お爺さんなら知ってると思うんですが……、山小屋の西にある小屋は何なんですか?」


「外で物音がしていたのは、エディ達じゃったか。あれはサウナじゃよ。サミーが木風呂を注文したらしく、工兵隊が持って来てくれたんじゃ。日本人にサウナを好むものがいたとはと皆が感心しておったが、直ぐにウイル達があの木風呂に見合ったサウナを作り上げたぞ。

 さっきまで中で水回りの保温対策をしてたんじゃ。凍ってしまったならせっかくのサウナが点けなくなってしまうからのう」


 あれは木風呂だけどサウナ用じゃないんだよなぁ……。のんびりとお湯に浸かろうと思っていた野望が音を立てて崩れ去ってしまった。


「知ってたんじゃないか!」


「いや、俺はサウナを作ろうなんて全く考えてなかったよ。蒸気機関の外側のテラスに木風呂を置いてお湯に浸かろうと考えてたんだ」


「そうじゃったか……。まぁ、お湯も張れるようにはしてあるから問題あるまい。バリー達は大喜びじゃったからなぁ。サウナから出て湖に跳び込もうと考えているみたいじゃぞ」


 それであのハシゴがあるんだな。

 だけど氷が厚く張ったらどうしようと考えてんだろう……。そうか、それで木風呂をサウナ用だと思ったに違いない。

 お風呂としても使えるなら、とりあえず問題ないかな? 熱いお湯に浸かりながら冬のグランビイ湖を眺めるのも風流かもしれないな。


「初雪も降った事じゃからのう。そろそろ電力の低下も大きくなっておる。エディ、蒸気機関の動かし方は覚えておるじゃろうな?」


「あれだけ毎日動かしてたんですから覚えてますよ。いよいよ動かすんですか?」


「明日から動かしたいところじゃ。彼女を2人で石炭をくべるぐらいじゃから小屋作りも並行して出来るじゃろう。蒸気機関が動けばサウナを動かすことができるぞ」


 温度を上げるのに電気を使うのかと思っていたら石炭を使うということだ。蒸気機関の余熱を利用した温水を木風呂に入れるらしい。

 それなら俺はサウナではなく木風呂で十分だな。そんな楽しみが増えたのなら蒸気機関の単調な運転も退屈しないで行えそうだ。


 夕食が済んで、皆が焚火の周りに集まったところでウイル小父さんがいよいよ冬ごもりを始めることを俺達に告げる。


「初雪が降ったからなぁ。いつもよりも降りが強いから明日はかなり積もるに違いない。いよいよ蒸気機関の出番だ。これはライルに頼んだぞ。ニック達の部屋は明日中には完成する。直ぐにベッドを運び込んで組み立ててくれ。お前達が今の部屋を引き払わんとバリー達が山小屋に入れんからな。

 それと、今年の冬は楽しみが出来た。サウナをサミーが考えていたとはなぁ……。さすがに息子達に任せるのはと我等で作ったが、蒸気機関が動き出せばサウナも利用できる。時間を区切って女性達にも使ってもうつもりだ。シャワーよりは格段に体を温められるに違いない。まだ湖の氷は張っていないから、桟橋から飛び込むことも可能だろう」


 ウイル小父さんの話に小母さん達にも笑みが広がる。

 シャワーで体を洗うことは出来ても、体を温めるには少し物足りないからね。

 バリーさん達が少し残念そうな顔をしているのは、サウナの後のビールが無いことを残念がっているのだろう。

 ブランディ―を炭酸で割れば十分に思えるんだけどなぁ。


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