H-733 丸太のようなゾンビ
西のこれはと思う建築物付近に何度かジャックを仕掛けて、ゾンビが魚をどこに運んでいるのかを確かめ続ける。
どうにかおおよその位置が分かったのは、ジャックを仕掛け始めて4日目の事だった。
西にあるタウン・イースト・モールと呼ばれる大型商業施設の中のようだ。
とにかく大きいんだよなぁ。建物の敷地面積だけで野球場が4面は確実に作れそうだ。
「それであの発信機を使うのだな?」
「さすがに建物が大きすぎます。あのショッピングモールのどの辺りになるかぐらいは突き止めておきたいところですね」
マリアンさんの事だから、怪しいとなれば砲撃するに違いないけど。建物が大きいからなぁ。砲撃よりも爆弾を10発ぐらい落とした方が確実かもしれない。
だが建物のどの辺りということが言えるなら、使う砲弾や爆弾の数を少なく出来るだろう。限りある資源だからね。なるべく有効に使いたいところだ。
「今夜、ジャックに結び付ける大きなブラックバスに追跡ユニットを仕掛けよう。1匹ではその場で食べられる可能性もあるから、2匹に取り付けて置くぞ」
300MHzのパルスを出すから、ハンターユニットに受信機を取り付けて魚の行方を追うことになる。
生憎とハンターユニットが1個しかないからなぁ。2個あれば1kmほどドローンの距離を取って方向を確認することで魚の行方を容易に確認できるんだけどねぇ。
今回は1個しかないから、ドローンをあちこち移動させて追跡ユニットの発する信号の方向を探らないといけない。
「ダラスの地下駅に向かうと思っていたんだが……」
「俺もそうだと思いましたよ。でも、まだ間違いだとは言い切れませんね。ここからでは地下駅付近にジャックを仕掛けられませんが、本隊の方なら可能かもしれません。さすがにバス釣りをしているとは思えないんですが、具申しても良さそうに思えますね」
「それなら私達で調達しても良さそうだ。デントン地区とデイアフィールド地区に苦労しているようだからな。いずれ調査しなければならないなら、早めにやっておく分には問題あるまい」
単に通行するだけなら十分なんだろうけどねぇ。先に行ったところで後方から叩かれないように徹底的に叩いているに違いない。
深夜に、ジャックのアングルの周りに十数匹のブラックバスを吊り下げてドローンが飛立って行った。
何となくユーモラスな恰好だからなぁ。皆が笑みを浮かべて見送っている。
「一番大きいのはニックが釣り上げたんだ。45cmはあったんじゃないか?」
「私の釣りあげたのだって40cmを越えていましたよ。さほど差がないように見えましたけど」
エディの言葉にオルバンさんが答えてるんだよなぁ。
見た感じでは確かに違いが見られなかったけど、吊り上げると直ぐに魚の大きさを図っているの見たからね。エディの言うことに間違いは無いのだろう。
それにしても、板に目盛りを刻んで大きさを直ぐに測れるような治具を作るんだからなぁ。整備兵のオッジさん達の創意工夫には感心してしまう。
「これでショッピングモールのどの辺りに運んでいるのかが分かるだろう。マリアン殿もダラス中心部で同じことを行いたいそうだ。夜釣りならサミーも参加できるんじゃないか?」
「竿が空いているなら是非とも参加したいですね。でも50cmを越えるような大物が掛かったならどうするんでしょうね」
呆れた表示上で俺を見ていたシグさんが、黙って倉庫の片隅に腕を伸ばした。
そこにあったのは手作りのタモアミだった。枠の大きさだけでも50cmを越えているし、柄の長さが2mを越えているんじゃないか?
いったい何を釣り上げようとしていたんだろう。
「釣り上げたなら、あの大きなバケツに入れておけば良いらしい。次の作戦に使えるし、獲物が多ければ本隊に持っていって貰おう」
本隊の方も湖の岸辺で釣りを始めたようだ。
だけど岸辺と俺達のような湖の中では、釣果に大きな違いが出るんじゃないかな。
今夜は頑張ってみるか。
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翌日の朝食は昼食と一緒になってしまった。
薄明まで釣りをしていたからなぁ。しっかりと大物を釣り上げたからエディ達に自慢したら、釣果自慢はブラックバス限定らしい。ナマズは対象外だと言っていたんだけれど、1m近い大ナマズだったんだよねぇ。
ブラックバスは30cmほどの大きさが数匹だから、皆が慰めるような表情で俺の肩を叩くんだよなぁ。
「大物でも対象外だとはなぁ……。だが本部に持って行ったなら喜ばれそうだ。ヘリがバケツ事吊り下げて行ったぞ」
「いろんな魚がいるんですね。でもナマズは食べられると思いましたけど?」
「アメリカではあまり魚は食べないからなぁ。シーフードの店が海岸近くにはあるんだが、さすがに淡水魚の料理店はすくないだろうな。私は見たことが無いぞ」
寄生虫が怖いのかな? 有害物質をたっぷりと取り込んでいる可能性もありそうだ。
だけどロッキーの山奥の湖で釣れた魚は結構料理して食べているんだよね。
「本隊がダラス中心部でジャックに吊るした魚をゾンビが何処に運ぶかが分れば、本件に係わる臨時の会議がありそうですね」
「ありそうではなく、あるんだ。明日の昼にマリアン殿達がやってくるぞ。双発水上機が届いたらしいから、それを使ってこの台船に来るそうだ」
となると、見つけた場合に対応策を考えておかないといけないな。詳細はリッツさん達が作戦に仕上げてくれるだろうから、目的を明確にしてその対応策を幾つか考えておけば十分だろう。
3門の榴弾砲は、本日は南に向かって砲弾を放っているようだ。
1時間毎に2発ずつだが、住宅地の火災がかなり広がっているとのことだ。
ダラス周辺部の住宅地は広いからなぁ。このような砲撃では住宅地のゾンビを減らすまでにかなりの時間がかかるんじゃないかな。
「本隊はデントン以外にもジャックを仕掛けているんですよね?」
「デントンを落とさねば南進は出来そうもないが、何時でも南進できるようにダラスの広範囲にジャックを仕掛けているはずだ。我等が此処にいるから、この湖周辺には仕掛けてくることはないだろうな」
「ジャックに集まるゾンビの数からその地域のゾンビの棲息数を推測しているでしょうから、それを纏めた分布図が欲しいですね」
「分布図が作られるまでに情報は集まっていないだろうが、地域的な傾向はつかめるかもしれんな。私が作ってみよう」
ありがたい申し出に思わず笑みが浮かぶ。
結構面倒だからなぁ。ノートパソコンを取り出して早速始めたようだけど、ジャックを投下した場所が多ければ多いほど詳しい物が作られるはずだ。しばらくはシグさんに追加の情報を加味して詳細化を図って貰おう。
シグさんが真剣な表情で、ノートパソコンを睨みながら分布図を作っているのを黙って見ているだけではなぁ……。
ペガサス型ドローンの撮影した画像を見てみるか。今度は夜の画像を眺めてみよう。
モニターが大きいから、結構詳しく見えるんだよね。
一服しながらものトーンの画像を眺めていた時だった。突然建物の陰から大きな姿が現れた。
戦士型の2倍はありそうだ。通常型ゾンビと比べたなら10倍近い大きさに見える。
画像を停止させて、その画像だけをコピーしてノートパソコンの外面に置いて置く。
再生しているファイルの番号と、撮影時刻をメモして画像ファイルを閉じた。
今度はノートパソコンに保存した画像をモニターに映し出して、画像を拡大しながら細部の確認を始める。
それにしても、この進化はどうとらえれば良いのだろう?
一言で言ったら壁だな。
カマボコのような姿をしていて、側面のボウルを2個乗せたような多脚を使って移動するだけのような姿だ。何対かの足を武器にしているのかと思ったけど、そんな足が見荒ららないんだよね。目は小さな頭からカタツムリのような目が2対も出ている。口は頭の下に付いているのだろう、この画像からでは確認が出来ないな。
「なんだ? その変な物体は」
「ダラス中心部の夜に出てきたゾンビです。これほど変な形になってしまった生物をゾンビと言って良いのか分かりませんが……」
「まるで丸太に足を付けたように見えるぞ。これでも戦士型になるのか?」
「分類はサンディー達が考えてくれるでしょう。声は通常型に似ていますが、かなり周波数が低いです。耳の良い人間なら集音装置を使わずに聞くことが出来そうです」
それにしても、どんな役に立つというのだろう。あれでは良い攻撃目標になるだけに思えるんだよなぁ。
そうなると、表皮は固いということになるんだろうか? 直径は1mを越えていそうだし、全長は5mを越えている。
10体を同時に使えるなら、動く壁として使えるんじゃないか?
もしそうだとしたなら、あの丸太型ゾンビは戦士並みの機動を行う可能性もありそうだ。自走砲型戦士の壁の役目を担うのかもしれないな。
「体表がどの程度硬いのか試してみたくなりますね」
「見た感じでは装甲を持っていないように思えるな。現状のゾンビの持つ投射兵器は、繊維質の分厚い皮膚を持つなら十分に阻止できるだろう。だがそれは我等の5.56mm銃弾では倒せないという可能性にも繋がりそうだ」
「ジャックで誘き出せれば良いんですが、サンディーが纏めている情報に、このゾンビがあったかどうか確認してくれますか?」
「あれば、爆殺してヘリで回収できるという事か……。了解だ」
あれば良いんだけどなぁ。ジャックを仕掛けての状況調査を優先しているのだろう。ペガサス型ゾンビの画像解析までは進んでいないようだ。
これはサンディーの担当作業の進捗を上げる必要がありそうだな。サンディーだって頑張っているはずだから、これ以上仕事を押し付ける事も出来ないだろう。
サンディーの補助を行える人物を派遣して貰うのが一番に思える。
これは明日にやってくるマリアンさんへの提言としてメモに残しておこう。




