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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-072 ゾンビはヤドカリのような存在らしい


「何だと! ゾンビの頭の中に入っているのはクラゲだということか」


「クラゲのような群体生命体です。クラゲに近いことは確かですが、クラゲとは明らかに違う組織を持っています」


 海兵隊の中隊長が、オリーさんの報告を聞いて大声を上げた。

 確かに驚くよなぁ。俺だってそうだからね。焚火の周りに集まった人達も、隣同士で小声でささやきあっている。


「だが、クラゲが脳内に住み着くというのは考えてしまうな。そうなると、ゾンビは人間の死体を使ったヤドカリのような生物に思えるぞ」


「レディさんの例えは、かなり真実に近いと思います。ゾンビは全く異種生命体であり人間の殻を被っているだけの存在であると考えられます。そんな生命体はこれまで知られていませんでしたから、デンバー郊外の研究所で何らかの実験によって作られたと考えるべきでしょう。遺伝子操作によって作られた生物と考えるのが適当かと……」


「もしそうなら、その開発は薬品開発もしくはバイオ兵器のどちらかだろう。今となってはどうでもよい話だが、それが分かればこの騒動に対する解決策もあるのではないか?」


 中隊長の言葉に、全員の視線がオリーさんに向かう。

 この中では専門家はオリーさん1人だからねぇ。


 しばらく考えていたオリーさんだったけど、手元のワインをグイっと飲んで現状では効果的な対策が出来ないと答えてくれた。


「新たな生命体を根絶やしにするような薬品を作るのは、かなり難しそうです。その薬品が私達に影響が出ないことを確認しないといけません。ABC兵器の中で一番厄介な代物がバイオ兵器なんです」


 オリーさんがクラゲモドキに名前を付けてくれた。『メデューサ』と言う名は、何となく恐ろしくもあり、ゾンビを動かしている生命体にふさわしく思えるな。


「『クラゲのような』という言葉を使いましたが、メデューサを作った人達は、クラゲに他の遺伝子を組み込んでいます。この画像を見てください。何故ゾンビが動けるのか、ゾンビ化して1年を過ぎているんですから、筋肉組織は腐るか乾燥化しているはずなのですが、ご覧のような全く異なる組織に置き換わっています。この組織は私が大学院の研究室でさんざん目にした粘菌にそっくりです」


「するとメデューサは、クラゲと粘菌の合体生命体と言う事か?」


「最低でもその2つ、更に他の遺伝子を持っていることは間違いありません。1つ気になる話をサミーがしてくれました。ゾンビは人だけを襲うのではなく、哺乳類全てを襲うのではないか。それでも他の哺乳類がゾンビ化しない理由は何か……です」


「人を襲うだけだと思っていたが?」


「グランドレイク、グランビイ共にペットがまるで見当たりません。小さな町とは言え数千人が住んでいたなら、ネコやイヌを飼う家族も会ったはずです。それと、今年になって私はネズミを見ておりません」


 確かにペットがまるでいないんだよなぁ。おかしいとは思っていたんだが、俺の思った通りやはり食べられてしまったに違いない。


「ペットだけではなく家畜も同じだろうな。ところで鳥は哺乳類ではないが、鶏も気になるところだな」


「七面鳥がロッキーにはたくさんいる筈じゃ。ゾンビがどのあたりまで侵出しているかが問題じゃな。今のところ山で見かけることは無いが、そもそもこの騒ぎからあまり山奥には入らんからなぁ」


「さすがにグリズリーがゾンビ化したなら、7.62mmでは不足しそうですな。次の補給時に50口径の狙撃銃をいくつか送ってもらいましょう」


 ゾンビ化したグリズリー?

 思わず3人で顔を見合わせてしまった。それは怪獣以外のなにものでもないんじゃないか?


「1つ確認してよろしいですか? 俺は日本人ですからあまりアメリカを解く理解していないのですが……。ビックフットというUMAはロッキーに本当に生息しているんでしょうか?」


 俺の問いに、一同が中隊長に顔を向けた。

 ある意味伝説のUMAだからなぁ。いると信じている人達もいるのだろうけど、本当はどうなんだろう?

 皆の視線に気づいた中隊長が、小さな咳をしたところで話を始めた。


「さて、私も気になるところだな。サミーだったか、君の問いに答えられる人物はアメリカにはいないと思うな。私は信じているけど、隣のマケインは信じていないようだ。たぶん他の連中も同じだろう。この中の半数は信じているだろうし、半数はそんなUMAはいないと断言するはずだ。だが1つだけ明確に言えることがある。どちらの説にしてもその物証がないんだ」


「困った話だな。それは海兵隊の流儀では『存在するものとして対応せよ!』となるんじゃないのか?」


 ウイル伯父さんの言葉に、信じない派閥のマケインさん顔を赤くして頷いている。

 確証が得られないことは、悪い方に考えれば間違いないっていうことのようだ。


「大きな石を投げられたな。サミーには驚かされるが、それ以外にはないんだろうな?」


「日本人としては、エリア51も気になるところです。あそこも有名な場所ですからね」


「私達も気にはなる場所だよ。通信から推測すると、空軍が集結しているようだな。これを機会に少しは分るかと思っていたんだが、その辺りの情報は無いようだ」


 宇宙人がいるっていう噂は、あまりにも厳重な機密扱いのせいなんだろうけど、米軍基地の1つだからなぁ。この騒ぎの中でその信ぴょう性が分かるかもしれないな。


「宇宙人だったか? さすがにゾンビ化するとは思えんが、基地で働く連中は人間だからな。あの騒ぎの中で基地を閉鎖する前に噛まれた兵士が何人かいたに違いない。パイロットが集まっても基地としては機能不全と言うところかもしれんな」


「全く困った話です。私達は上手く海上に逃れられましたが、地上勤務の多くの兵士がゾンビ化して基地を機能停止させてしまったようですからね。ところで、オリーさんには、今回の調査で分かった事とその考察を取りまとめて欲しいのですが?」


「これでよろしいでしょうか? あまり纏まりが無いのですが、専門家に一読願えたらと思っています」


 オリーさんが10枚ほどのレポートをマケインさんに手渡している。

 多分、本部経由で政府にも伝えられるのだろう。大統領の周囲なら、生物学の権威の生き残りがいるかもしれない。


「すでに纏められたのですか! さっそく政府に送りましょう。では、これで失礼します」


 解散という事かな?

 海兵隊の人達が帰ったけど、残った俺達はとりあえずコーヒーをお代わりして焚火で体を温める。だいぶ冷えて来たな。


「難しい話は、上の連中に任せておこう。俺達は俺達のできる事をすれば良い。とりあえずはデンバーになるが、この季節だからなぁ。来春まで待った方が良さそうだ。その間に

デンバーの飛行場まで行くための攻略方法を皆で議論するとしよう。とはいえ、その前にやることがある」


「俺達にとってはありがたいが、ニック達を追い出すようで少し申し訳ない気もするんだが……」


「なぁ~に、彼らには同棲生活が待ってるんだ。案外来年にはおめでたが続くかもしれんぞ」


 そんな事を言って、皆と一緒に大笑いしてるんだからなぁ。俺達で遊んでいるようにも思えるんだけど、さすがにキャンピングトレーラーでの冬越しは厳しいかもしれない。小さな子供達もいるんだからね。

 七海さん達がどう思っているのか分からないけど、俺達にとっては嬉しいことではあるんだよなぁ。


「資材は揃っているのか?」


「元々が30家族で暮らすことを紺が得ていた山小屋だから十分に用意してあるぞ。若い連中を大部屋に押し込むことで考えていたぐらいだから、10部屋程度の拡張は容易なことだ」


 俺達も手伝うことになるんだろうか?

 ウイル小父さん達が山小屋の建屋図を持ち出して、バリーさん達と話を始めたので俺達も加わろうとしたのだが……。


「ニック達には別の仕事があるぞ。別荘を回って程度の良いベッドとロッカーを探してくるんだ。クイーンサイズなら、寝相が悪くても落ちないだろう。それで落ちるようなら、大きな寝袋を母さんに作って貰うんだな」


 ベッド探し?

 確かに別荘なら立派なベッドがありそうだけど……。俺達で運べるんだろうか?

 

「お嬢さん達も連れて行くんだぞ。お前達が選んでも文句は言わんだろうが、それぐらいは彼女達の感性を満足させてやっても良いはずだ」


 レディさんの言葉に、パット達が頷いているんだよなぁ。オリーさんがそんな姿を見て微笑んでいる。同行するつもりなんだろうか?

 

「レディ、こいつらを頼めるか?」


「私とオリーが同行するよ。変な趣味に走らないよう監視は必要だろう」


「よろしく頼む!」とウイル小父さんが言って俺達から離れて行った。

 再び山小屋の改築作業の段取りに入って行ったけど、あっちの方が面白そうだなぁ。


「ピックアップトラックで1台ずつ運べるだろう。選ぶんだから大きいのを選ぶんだぞ。何ごとも大きい方が良いに決まっているからな」


 今度レディさんに舌切り雀の話を聞かせてあげよう。日本人なら大きな物と小さなものがあれば8割方小さい方を選ぶだろうし、箱に入った物なら全員が小さな方を選ぶに違いない。


「あまり大きなものだと、それなりの重さになると思うんですが?」


「分解して運ぶのだ。電動工具の充電をしっかりとしておくんだぞ」


 電動工具と言うのは、電動ドライバーの事だろう。それはエディに任せよう。

 明日の朝食後に早速出掛けることになってしまった。

 別荘はすでにゾンビの確認は済んでいるはずだから、拳銃だけ持って行こう。


 部屋に戻って、明日の準備を整える。

 メイ小母さんがお弁当を作ってくれるだろうから、装備ベルトを着けるだけで済みそうだ。皮手袋は各自が持って、工具類はひとまとめにして丈夫な帆布製のバケツに入れておく。


「いつもと違って、荷物が無いんだよなぁ」


「日帰りだからね。それにゾンビの掃討も済んでいるんだから、これだって念の為だろう?」


「まぁ、そうなるな。予備のマガジンが2つだから、ちょっとした集団なら相手にできそうだ」


 ある意味、武装過多とも言えそうだ。

 七海さん達も拳銃は持つだろうし、レディさん達はM4カービンを下げていくに違いない。


「狙いはクイーンサイズで良いんだろう?」


「さすがにキングサイズを運んで来たら、父さん達に大笑いされそうだからなぁ。それで十分だと思うよ。サミーもそれで良いだろう?」


「俺なら横に寝られそうだからね。同じサイズを3つなら、皆にからかわれずに済みそうだ。それとロッカーだったよね」


「パット達の感性で選んで貰おう。俺達だと何を言われるか分からないからね。だけど、それ以外に、木箱も欲しいところだ」


 木箱なら物入にも、ちょっとしたテーブル代わりにも使えそうだ。そうなると小さな折りたたみ椅子も欲しくなってくるな。

 それにランタンも山小屋気分を味わうには都合が良い。この部屋にはLEDランタンがあるんだけど、さすがに急造の部屋にコンセントがあるとは思えないからなぁ。


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