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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
712/714

H-712 シグさんがバイクのマフラーからサイレンサーを抜いている


 一服を終えたシグさんが、バイクに下げたバックから工具を取り出して何かを始めた。

 バイクの調子が悪いのかな? シグさんの傍に寄って手元を眺めると、マフラーの排気口で作業をしている。


「調子が悪いんですか?」


「調子は万全だ。今、マフラーのサイレンサーを外している。私のバイクが終わったなら、サミーのバイクのサイレンサーも外すぞ」


 サイレンサーを外したなら、エンジンの全体調整に狂いが出るんじゃないか?

 馬力は落ちるだろうし、燃費も悪くなる。最悪なのは……、騒音を撒き散らす??


「そう言う事ですか。なら手伝いますよ」


 俺の言葉に、シグさんが笑みを浮かべて俺に顔を向けた。


「エディ達に教えられたことだ。案外簡単だな。だけど、最後に真剣な表情で言っていたぞ。『サミーには工具を握らせるな!』とな。理由を聞いたら、サイレンサーを外すだけで済むところをエンジンまでばらしかねないとのことだった」


 エンジンという定義が難しいところだ。いろんな機構や部品を組み合わせた1つのシステムだからね。エディと俺の考えるエンジンは範囲がかなり違うんだろうな。


「さすがにそこまではしませんよ。でも良いんですか?」


「ああ、こっちは終わりだ。次はサミーのバイクだ。サミーは周辺監視をよろしく頼む」


 なんか誤魔化された感じもするけど、周辺監視も大事な事には間違いない。バイクの周囲を巡りながらゾンビの声を確認することにした。

 相変わらずゾンビの声は遠くに聞こえるだけだ。近寄ってくる声もあることはあるんだが、すぐに離れてしまう。たまたま近づいたゾンビという事だろうし、視認できないような位置だからなぁ。今のところ道路は安全という事になる。

 シグさんの方は作業を終えたらしく、外したサイレンサーをタオルに包んでバッグの中に仕舞いこんでいた。

 時刻は18時を過ぎている。しばらく一服できそうもないから、もう1本楽しんでおこう。

 

 咥えタバコで周辺監視をしていると、シグさんが俺の歩みを止めた。

 ヘッドホンを外してシグさんに体を向ける。


「レーヴァ達にいつでも誘導の後退が可能だと連絡したぞ。退避予定ジャンクションまで2kmにも満たないそうだ」


「なら、頃合いですね。俺達が後を引き継ぎましょう」


 シグさんが俺の言葉に笑みを浮かべる。


「なるべくエンジン回転数を上げてくれよ。良い音がするはずだ」


 そう言って自分にバイクに乗るとエンジンをかけた。急いで俺のバイクに走り込み急いでエンジンをかける。

 ここまでのエンジン音と全く違うんだよなぁ。

 ボンボンという感じでエンジン音が鳴り響く。

 これって暴走族が良くやる改造ってことかな? こんな音で深夜走り回ったなら、さぞかし近所迷惑になるに違いない。

 だが、現状では最適だ。

  

 やたら響くエンジン音を立てながら、俺達は35号線を北上する。

 数kmも走らずに、レーヴァさん達の車列に遭遇した。機銃座で周囲を警戒する兵士と片手を上げて挨拶していると、エディとニックがフクスの屋根で俺達に手を振っているのが見えた。

 バイクの速度を落として、フクスに近付く。


「結構うるさい音だね。それならゾンビが食いついてくるよ」


「少し馬力が落ちているんだよなぁ……」


「それぐらいは我慢だな。2割は落ちていないと思うぞ」


 お互いに手を振って分かれたけど、2割の馬力低下は大きいと思うんだけどなぁ。

 少し走ると、2両のストライカーが並列して走ってくるのが見えた。あれが誘導車両に違いない。屋根の上で兵士が策弾を投げている姿が見える。


 並走しているシグさんに向かって、右腕を伸ばして停車の合図を送る。

 道路脇にバイクを停めて、誘導車両がこの場を通過するのを待つことにした。

 1分ほどで俺達の横をストライカーがゆっくり通過すると、速度を上げて南に走って行った。この先で道を外れるからね。レーヴァさん達の車列を視認するまで接近しないと迷子になりかねない。


 ストライカーから落とした焼夷爆弾の炎に近付いてくるゾンビの群れが見えた。

 シグさんに顔を向けるとすぐに頷いてくれた。準備は出来ているという事だろう。


「さて始めますよ。ゾンビの群れが俺達の設置したジャックに近付いたなら作動させてください」


「了解だ。最初はゾンビの手前100mでUターンで良いのかな?」


「ついでに爆弾を投げときます。エディの話では焼夷弾にもなると言っていました」


「私も数本貰ったのだが、そんな代物か。ならもっと暗くなってからでも良さそうだ。最初はスタングレネードで行くぞ」


 シグさんの言葉に大きく頷くと、車道の真ん中にバイクを移動させる。隣にシグさんが並んだところで、アクセルを一気に回した。

 綺麗なウイリー走行になるはずなんだが、それほど前輪が上がらないんだよなぁ。

 それでも野太い音が周囲に広がるから誘導する上では最適なんだけど……。

 

 100mほど走ったところで、速度を緩め爆弾を取り出す。

 カウリングで風を避けながらジッポーで火を点けると、バイクの速度を上げてゾンビの目の前でUターンをしながら爆弾を投げる。

 ステップが路面に擦れて火花を上げているから、シグさんが俺の方を見てるんだよなぁ。

 俺を気にせず自分の走りに注意して欲しいんだけどねぇ。

 バイクを立て直して速度を上げると、後方で爆弾の炸裂音が聞こえてくる。少し遅れて大きな音がしたのはシグさんの投げたスタングレネードに違いない。

 後は付かず離れず誘導することになる。

 ギヤを1段下げて、速度を落としながらゾンビの群れの前を蛇行する。

 蛇行するころでゾンビの群れを広く見ることも出来るし、余裕を見て爆弾だって投げられる。

 いつの間にか、俺達を見守るようにドローンが上空を旋回していた。俺達がカバーしきれない範囲を確認してくれているのだろう。

 別動隊が出てきたら厄介だからなぁ。シグさんに上空にドローンがいると腕を伸ばして教えてあげた。


 10分ほどゾンビの群れの前を入ったところで、少し距離を開けてゾンビの接近を待つ。接近してきたゾンビに爆弾を投げて誘いをかけると再びゾンビの前を蛇行する。

 誘導は上手くいっているとレーヴァさんから連絡があった事をシグさんが教えてくれたから、この状態で南進すれば問題は無さそうだ。


「レーヴァ達は予定のわき道を進んで待機位置に到着したそうだ。周囲にゾンビはほとんどいないらしいが、念の為に降車許可は出していないという事だった」


「慎重ですからね。それで良いと思いますよ。ジャックを動かしたならオクラホマ・シティのゾンビも動き出しかねません。今のところ上空にドローンがいてくれますが、ジャック作動後は常に1機を上空に飛ばすよう伝えてください」


「了解だ。いよいよ始まるという事かな?」


「早ければ……ということです。もし小競り合いが今夜起こらなければ、起こすべくジャックを仕掛けることになるでしょう」


 この状況をオクラホマ・シティの統率型ゾンビが何時頃知って行動するか、今回の一番大きな興味になる。

 すでに2線目の偵察ゾンビをレーヴァさん達が倒しているはずだから、何らかの異変があるという事は知っていると思うんだが、まだゾンビの集団化を促す特徴的な声は聞こえてこない。

 まだオクラホマ・シティのゾンビの集団化は進んでいないようだな。


『前方100mに最初のジャック! 作動開始!』


 トランシーバーの音声を繋いでいるヘッドホンの片方から。シグさんの声がヘッドホンから聞こえてきた。

 もうそんな距離まで来ているのか! そう言えばだいぶ暗くなってきたな。13夜の月が東にある。もう少し上なら月明かりも期待できるんだが……。


『了解です! ヘッドライトを点けますよ。下向きのライトですから遠くまで光が届かないと思います』


『こちらも、ライトを点けた……。いつ出てくるか分からんからなぁ。サミーに期待しているぞ』


 ライトも少し手を加えてあるようだ。前方の狭い範囲を照らすのではなく、120度以上の範囲を照らしてくれる。

 これもエディ達の工夫に違いない。


『相変わらず追い掛けてくる……。ジャックの音が変ったのは、群れに飲み込まれたのだろう』


「少し先に向いますよ。西を確認します!」


 先に行くと言っても、それほど先ではない。300m程真直ぐに走り、アイドリング状態でその場で体を回しながらゾンビの声を聴く。

 前よりも西の方から聞こえるゾンビの声が大きく聞こえてくる。

 小さくけれどラッシュを起こす統率型ゾンビの声も混じっているんだが、その声を出す統率型の数が多いんだよなぁ。互いに重なって判別がつかない時の方が多いぐらいだ。急に声が収まる時があるのだが、その時にはっきりとあの短い間隔で発する声が聞こえてくる。


『直ぐ後ろに来ているぞ!』


 レディさんの声で、直ぐにバイクを発進させた。

 バックミラーに映るゾンビの群れは200mというところだ。先頭集団に戦士型はいたなら困った事になったかもしれないな。


『西でゾンビが集団を作り始めているようです。ジュリーさんからその辺りの状況がありませんか? もし無かったなら、飛行距離ギリギリまで西を探るよう伝えてください』


 シグさんから帰ってきた返事では、ジュリーさん達が確認しているのは俺達の周辺だけらしい。既に予定位置で停車しているということで、海軍仕様のドローンを飛ばすとのことだった。


『もうすぐ最後のジャックだ。作動させるぞ!』


『了解です。俺達の役目もそろそろ終わりですね』


『まだ爆弾も手榴弾もあるぞ。もう少し誘導すべきかもしれん』


 何度か交信を交わして、最後のジャックから1km先まで、釣り出すことにした。

 このまま俺達が南に速度を上げて走り去ったとしてもゾンビは南進するに違いない。

 だけどバックにはまだまだ爆弾が入っているからなぁ。使い切らずとも、もう少し俺達の存在をアピールした方が良いのかもしれないな。


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― 新着の感想 ―
排気音を喧しくするだけならマフラーの繋ぎ目にあるネジを外せば素敵なくらい喧しくなりますよ。 ワーン ゥワーンだった排気音がバリーン バリバリバリバリ バリーンくらいにはなりました。
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