H-711 もうすぐ俺達の出番だ
誘導を始めて3日目。このまま推移すれば、早ければ明日の夜にはオクラホマ・シティのゾンビと衝突してくれるだろう。
誘導役のストライカー2両は、シマロン川に架かる橋から5kmほど北を進んでいる。
「この橋まで、2時間も掛かるまい。昨日の先行調査でガスリー市の東のジャンクションで偵察ゾンビを見付けたということだが、これはこのまま進んで倒せば良いだろう。我々はその先にある77号線とのジャンクションを通り越して、次のジャンクションを左に入る。イースト・シュアート通りは農道というわけでもないだろう。本隊も十分に通れるだろうし、その先を南北に走るサウス・ダグラス・プールバードは自走砲を並べたくなりそうだ。ここまでは作戦通りではあるんだが……。本当にやるのか? 帰ったならレディに叱られるのは私になりそうだ」
「現在誘導を担当しているのはストライカーですからね。イースト・シュアーと通りには、同じジャンクションを使う事になりますが、バイクなら小回りが利きます。イースト・ダンフォース通りを使い東に抜けて合流します」
「その間に、ジャックを2個35号線に設置するという事か。それでウイチタの群れが南進してくれたなら、我等の任務は完了だな」
シグさんがテーブルの地図を確認して呟く。
これでマリアンさんも、満足してくれるだろう。陸上艦隊が35号線の東に集結することになるから、自走砲を有効に使えるに違いない。それに海軍から貰った大型ドローンを使ってオクラホマ・シティの西奥へジャックを仕掛けることも可能だ。
「周囲が開けているわけでもありませんが、人家がかなり少ないんですよねぇ。この通りなら市内のゾンビがこちらに移動してくるとしても時間を稼ぐことができますよ」
俺の言葉に、レーヴァさんが難しい顔をしているんだよなぁ。
何か問題でもあるのだろうか?
「昨日の偵察結果を本隊に伝える際に、合流地点を提案している。それに対する反論が無いところを見ると、本隊も了承しているのだろう。だが、最後にハーメルンモドキをやるとなると……」
「ハーメルンと考えるから悩むんですよ。短時間、ゾンビの前にぶら下げた餌になるだけです。食われる気は毛頭ないですし、ジャンクション1つ分程度の誘導ですからね。それに万が一バイクが故障しても、残りのバイクに乗ることができます」
「それしかないか……。ゾンビが追いかけてくると元も子も無いからなぁ」
これで、何とか出来るだろう。
次の休息時に、ジャックを1個ずつバイクに搭載すれば準備は全て完了だ。
「だが、サミー達の上をドローンで見守るぞ。サミーのように上手く声を聴くことは出来ないかもしれんが、操縦者は日本人だ。通常型に統率型それに戦士型は区別できるだろう」
「夜になってしまうのは仕方がないでしょう。でもドローンで見守ってくれているなら安心できます」
レーヴァさんと打ち合わせを終えると、キャビンの後方に移動して一服を楽しむ。
バイクではタバコを楽しめないからなぁ。
「今夜は満月の2日前だ。ヘッドライトを使わずともある程度先を見ることは出来るだろうが、しっかりと点けておくんだぞ」
「出来れば無灯火で行きたいところですけど……。無理はしませんよ。あのバイクにカウリングが付いていたのはありがたいですね」
ツーリングバイクのような大きなカウリングではないけど、ジッポーで爆弾に火を点けるぐらいは出来そうだ。
いくら風に強いライターだと言っても、バイクの風圧はかなりなものだ。低速走行で冷えお点ける事になるんだろうけど、そうなると安定性が悪くなる。速度を上げると車輪のジャイロ効果で安定した走行が出来るんだけどなぁ。
出番は午後になりそうだ。夜間は冷えるけど、下にトレーナーを着こめば十分だろう。
次にストライカーが停まったところで、フクスに戻りトレーナーを持ってきた。
車内で戦闘服の下に着こんでいるところをジロリと見ていたレーヴァさんが、隣のシグさんと顔を見合わせて溜息を吐いている。
「贅肉がまるでないな。ロープのような筋肉だけだ」
「我等のような筋肉とは異なるという事だろう。山小屋でも変わったトレーニングをしていたからなぁ。私も何度か試したんだが、あれは私のもキツイ訓練だ」
1m程の高さに張ったベルトの上で、逆立ちしながらの腕立て伏せだったかな?
本来なら腕の筋肉が付きそうに思えるんだが、あまりついてないんだよね。だけど腕相撲はエディと互角だからなぁ。あの腕の太さはで互角になるとは思わなかったんだが……。
「これで良いでしょう。後はマーリンを背負って、ヘルメットを付けるだけですね」
「あの小さな籠に爆弾を入れて行くのか?」
「ボール紙で格子状に中を区画していますから飛び出しはしないでしょうし、取り出すのも楽ですよ。手榴弾とスタングレネードはベルトのポーチに2個ずつ入れてあります。バイクのバッグにも入っていますが、あれは予備で良いでしょう」
バイクだからねぇ。手榴弾の炸裂まで5秒は須甲氏短い気がするんだよなぁ。その点爆弾は導火線を長くすることで、炸裂までの時間を長く出来る。今回の爆弾は10秒仕様だ。
「次に車列を停めた時に、出発しましょう。ジャック2個はブザー停止と同時に炸裂させます。ブザーの作動は30分間。スタートはシグさんがトランシーバーでシグナルを送ります」
誘導の仕上げだからなぁ。途中で35号線を降りるレーヴァさん達に頼むことは難しそうだ。
俺達ならゾンビの群れの状況が分かるからね。
「了解だ。マリアン少将から特に指示は来ていない。サミー達に最後を託すぞ」
座ったままだけど、姿勢を正してレーヴァさん達と敬礼を交わす。
再び動き出した指揮車の中で、ユックリとコーヒーを味わう。
バイクに乗ったなら、しばらくは飲めないかもしれないなぁ。一応、バッグの中に燃料缶と1.5ℓの水筒を入れてあるから、シェラカップでお湯を沸かせば飲めそうではあるんだけどね。
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次に指揮車が停まった時には、15時半を回っていた。
キャビンから外に出る、とカーゴからバイクを下ろして先ずはアイドリングを行う。
5分ほどだから、その間に咥えタバコで最後の準備を整える。
ヘルメットにサングラス。皮手袋は必需品だ。ハンドルの横バーに紐付きのジッポーを下げれば全て完了となる。
シグさんに過去を向けると、胸元の大きなポケットに入れたトランシーバーの調整をしているようだ。
あれが終われば出発出来そうだな。
シグさんが、バイクに跨り俺に向って頷いた。俺も頷くことで了解を伝えると、バイクに乗る。
『先ずは、荷物運びということかな?』
「そうですね。暗くなる前に、設置しましょう」
先ずは35号線をどこまでも南進だ。
バイクの後部キャリーに乗せたジャックは20kgほどの重さだけど、大型バイクということもあるのか重さを感じない。
30分ほどで大きなジャンクションを通り過ぎる。州間高速44号線と35号線それに344号線が交わるからなぁ。かなり大きく作られている。
ジャンクションを通り過ぎると、左右に大きな建物が見えてきた。
工場の倉庫か何かだろう。日本と比べると敷地と建物の規模がかなり違って見える。
たまに道路上にゾンビが見えるようになったのは、それだけオクラホマ・シティの内部に入り込んできたということになるんだろう。
『予定ではこの先のジャンクションをレーヴァ達が左折することになるぞ』
「あれですね。大きなジャンクションではありませんから、ゾンビの群れはそのまま進んでくれると思うんですが……」
『我等で誘導せねばなるまい。後を追うようでは作戦が破綻してしまうからな』
そんな事にならないように、俺達が頑張るしかないんだよね。
ジャンクションを通り過ぎると、再び前方に大きなジャンクションが現れた。
俺達が走っている35号線は真直ぐ南に向かうのだが、西に向かう44号線が交わる場所だ。
ゾンビの群れが西に向わぬようにしないといけないから、このジャンクションを抜けた35号線に最初のジャックを仕掛けることになる。
ジャンクションを100m程離れた位置でバイクを停めると、シグさんのキャリーからジャックを下ろして設置する。
少し重いから俺が持って行こうとすると、シグさんが軽々と運んで行ってしまった。
ジャックを下ろして、セーフティを解除したようだ。
これでシグさんのトランシーバーを使えば何時でもジャックを作動させることが出来る。
「さて、次だな。500m先ということで良いのかな」
「そうですね。放置車両はそれなりにあるんですが、ゾンビはこの辺りにはいないようです」
いたなら銃撃で倒さないといけないからね。
偵察ゾンビを倒してはいないんだが、あれはレーヴァさん達が倒してくれる。俺達の行動の邪魔にならない限り、ゾンビを積極的に狩るのは止めておこう。
5分も走らずに、次のジャックを仕掛ける。俺のバイクからジャックを下ろして先程と同じようにシグさんが仕掛けてくれた。
腕時計を見ると17時に近いんだよなぁ。やはり誘導は夜になりそうだ。
だいぶ日も傾いてきたが、もう2時間ほどはバイクのヘッドライトを使わずに済みそうだな。
集音装置を使って周囲のゾンビを確認したが、西方から潮騒のような声が聞こえるだ明けだ。かなり遠いな。
バイクのエンジンを切って、バッグから燃料缶と少し大きなシェラカップを取り出す。カップに水筒の水を注いで火を点けた燃料缶の上に乗せた。
作業を終えたシグさんが近付いてきた。
「休憩しましょう。これから忙しくなりますからね。後は誘導だけだとレーヴァさんに伝えてくれませんか?」
「了解だ。だいぶ日が傾いて来たな。今夜は楽しめそうだ……」
肉食系女子の言葉ということなんだろう。俺は楽しめないんだけどなぁ。
お湯が沸いたら、シェラカップにレーションに付いてくるスティックコーヒーを入れてお湯を注ぐ。俺のカップには角砂糖2個が入っているから間違わないようにしないとな。
砂糖なしのコーヒーをシグさんに渡して、タバコに火を点けた。俺の口から煙草を摘まんで吸い始めるのはレディさんと同じだな。改めてタバコを取り出して火を点ける。
「やはりコーヒーにはタバコが一番だ。まして夕空の元ではなぁ……」
「シグさんもタバコは持っていたと思うんですが?」
「人のタバコ程美味いと、レディが教えてくれたぞ」
まったく、困ったお姉さんだ……。
「レーヴァさん達はどの辺りまで来ているんでしょう?」
「3つの高速道路が交わるジャンクション辺りとのことだ。少なくとも出番は1時間後になりそうだな。夜間の誘導ということになるから、私は照明弾を用意している。空に向かって撃つのではなく、後方に向って撃つぞ」
地上で長く照らしてくれるのかな?
これだと言って見せてくれたのはHK―69だった。それは俺のグレネードランチャーだと思うんだけどなぁ。




