H-710 悩むのはマリアンさん達に担当して貰おう
レーヴァさん達が車列を止めるのを待って、バイクを指揮車のカーゴに乗せる。レーヴァさんの部下がガソリン補給をしてくれるそうだから、明日も問題なく走行できるだろう。
指揮車のキャビンに入ると、副官のバルマンさんがコーヒーの入ったカップを渡してくれた。キャビン内だからねぇ。蓋つきのカップだ。
ありがたく頂いて一口飲んでみる。俺の好みを覚えてくれたのだろうか? 副官は色々と大変だな。
「シグ中尉のヘルメットカメラで状況はある程度こちらでも分かったつもりだ。あの橋を渡らなかったのは、あのゾンビがいたからという事かな?」
「明らかに偵察ゾンビです。シグさんが指摘してくれたんですが、位置的に見て距離が遠すぎます。場合によってはもう1つ監視網が敷かれている可能性がありそうですね」
「それは問題だぞ。場合によっては作戦の見直しも必要に思えるが?」
「この作戦に限ってはそうではありませんよ。偵察ゾンビに詳細を伝える間もなく倒せば良いことです。状況を都市部の統括ゾンビが見ている可能性もありますが、異常に気付いて動き出したとしても都市部のゾンビをまとめ上げ、大きな群れを作って北上するには時間が掛るでしょう。うまく行けば、誘導しているウイチタの群れとガチンコします」
俺の言葉に、2人が顔を見合わせて溜息を吐いている。
「そう言う事か。私達に好都合という事なんだろうが、ゾンビの監視網が複数と言うのは初めてじゃないのか?」
「そうですね。俺もそれが気になるところですけど……。この地図を見てください。オクラホマ・シティ周辺にはいくつか小さな町がありますよねぇ。その町のゾンビと戦ったことがあるのかもしれません。当然オクラホマのゾンビに攻めて側は飲みこまれたでしょうけど、それを脅威としてオクラホマのゾンビが認識した結果ではないかと推測します」
「この橋も見て来たんだったな……。そう言う事なら、このスティルウオーターが怪しく思えるが、確証はないんだな?」
「町の中心部にジャックを仕掛ければ直ぐに分かるんですけどねぇ。さすがに距離が離れすぎてます」
「とりあえず、状況とサミーの推測を伝えておこう。マリアン殿の考えもあるだろうからな」
今日のところは、これで終わりという事だろう。
さて明日は面倒だけど、退避路はそれなりにあるだろう。タブレットを科して貰って、オクラホマ・シティの衛星画像を拡大しながら使えそうな農道を探すことにした。
2車線で舗装されているとなると中々ないんだよなぁ。
それでも35号線左手に使えそうな道路を見つけた。農道というよりは生活道路なんだろうな。郊外の住宅地を結ぶ道路でもあるんだが、保知車両が何台かあるようだ。
「シグさん、これが使えそうですよ。出来れば、この道路に入るジャンクションの先にジャックを仕掛けたいところですね」
「2つは必要だろう。私とサミーで仕掛けて、その先の農道を曲がればレーヴァ大尉達と合流が可能に思えるが、この貯水池が面倒だな」
貯水池を迂回するとなると、住宅街の外周を通ることになるんだよなぁ。
あまり大きな音を立てると、こっちに群れが移動しかねない。サプレッサーを付けた拳銃で遭遇したゾンビを始末することになりそうだ。
「道路にいるゾンビは銃で倒しましょう。確実に倒せたかの判断はしません。バイクの走行の障害にならなければ十分です」
「了解だ。サミー大尉も短距離射撃は得意だったな」
シグさんが笑みを浮かべるんだけど、思わずゾクリとするような危険な目をしてるんだよなぁ。肉食系女子であることは間違いないな。
「本体に画像も送っておいたぞ。今頃は作戦会議を始めているんだろうなぁ。こちらへの指示は現時点ではないそうだ。引き続き誘導を行って欲しいと言っていた。本体の方もウイチタ攻撃を終了してゾンビの後方を進行中とのことだ。あの群れだからなぁ。落ちこぼれるゾンビは遭遇次第倒しているらしい」
「ジュリーさん達が統率狩りをしていますからね。爆発で歩けなくなるゾンビもいるんでしょう。迫撃砲弾は少し残しておくように伝えておきます」
「いや、全て使い切っても構わんぞ。確か60mm用を1ケース搭載していたはずだ。この先使う機会が無ければただの御荷物だからな」
それなら統率ゾンビを狩り続けて貰おう。まだまだ沢山いるだろうからなぁ。
明日は拳銃の方が良いんだろうけど、生憎と装備ベルトのホルスターに入っているのはパイソンだ。リボルバーにサプレッサーは意味が無いから、マーリンの方に使うことになりそうだな。
マーリン用のサプレッサーを、フクスに戻ったら取り付けておこう。
夕暮れが迫る前に、少し車列をゾンビの群れから離して夕食を作る。
相変わらず温めたレーションとコーヒーなんだけど、誰も文句は言わないようだ。さすがに本隊もこの状況ではレーションになるだろうな。
軍属の小母段たちの料理を味わうのは、オクラホマ・シティとウイチタのゾンビが争沿い始めてからになるだろう。オクラホマ・シティから少し離れた35号線上で状況を見守ることになるだろうからね。
夕食が終わったところで、指揮車両に士官達が集まる。
誘導担当の2人の少尉も一緒だ。今頃は軍曹が群れを前に頑張っているに違いない。
「今のところは作戦通りに推移していると言って良いだろう。誘導の方に問題は無いのか?」
「ありませんね。しっかりと食いついてきます。投射武器を持つという話でしたから、距離は300mをしっかりとキープしていますし、ストライカーの後方にはポリカーボネイトの板を立てています」
「強いて言うなら、爆弾が欲しいですね。たまに投げてるんですが、少し心細くなってきました」
「それならオルバン少尉から分けて貰ってください。50個以上持っているはずです」
大きな音を出せば良いから爆弾でなくても良いんだが、手榴弾よりも大きな音だからなぁ。スタングレネードを使うのも有りだろうが、ちょっともったいない気がするな。
「本部にはたくさんあるに違いない。ヘリで運んで貰おう。今日のサミー大尉の先行偵察で、少し面白い物を見て来たらしい……」
偵察ゾンビの話と、俺の推測を皆に共有してくれた。その後で、レーヴァさんが話したのは、マリアンさんの新たな指示だった。
「サミー大尉達に、さらに市の中心部近くまで探るよう指示が出ている。やはり第2線の監視網を考えての事だろう。だがあまり深入りしないでくれよ。サミーはバイクが得意でも、誰もが得意とは限らないんだからな」
「20km先まで十分でしょう。それに退避路の調査もありますからね。退避路を見つけたなら、その先の35号線にジャックを仕掛けてきます。2つあれば、十分でしょう」
「群れが退避路に来ない様にという事か? 色々と仕事があるが上手くやってくれよ」
ここはしっかりと頷いておこう。
ブリーフィングが終わったところでフクスに戻り、今度はオルバンさん達に情報共有を行う。
車列が動き出したから、情報共有はトランシーバーを使うことになったけど統率狩りを続けられることで喜んでいるんだよなぁ。
『こちらは問題ありません。サミー大尉が心配していた別動隊についても調査を続けていますが、今のところはその兆候がありませんでした』
「了解だ。引き続き頼んだぞ。オクラホマ・シティのゾンビはサミー大尉の推測では何度か他の町のゾンビと戦闘したかもしれないとのことだ。ウイチタゾンビのようなわけにはいかないかもしれない」
『注意すべきはオクラホマゾンビですか! 我等が対峙するのはウイチタゾンビが殲滅した後になるのでしょうが、その後半には我等も監視を強化しないといけませんね』
そうなるよなぁ。さらに偵察範囲を広げないとも限らないからねぇ……。
「オクラホマ・シティを迂回するには少しゾンビの数が多すぎるし、核も投下されているからね。ある程度叩くというよりも、確実に叩いて数を減らさないことにはダラスは見えてこないだろうな」
「両都市のゾンビの争いが直ぐに終わるとは思えません。結果は見えてはいますが、その後は俺達が数を減らさねばなりません。その後でダラスに誘導ということになるんですから、マリアンさん達がしっかりと作戦を練ってくれると思いますよ」
俺の言葉に、キャビンの連中が顔を見合わせているんだよなぁ。
深い溜息をレーヴァさんが吐いているけど、無茶な戦いになったとしても無理はしないと思うんだけどなぁ。
「サミーは案外、楽天的なところもあるなぁ。核を落としてはいるが、どう考えても30万体を越えるゾンビがいるに違いない。ウイチタ市のゾンビと争うだろうが、ランカスター式が使えるなら、7万体を倒しても失う戦力は2万体程度になる筈だ」
「どこで争うかで、必ずしもですよ。オクラホマ・シティのゾンビの群れが一斉に移動してぶつかるならレーヴァさんの言う通りですけど、この場合は戦力の順次投入になりそうです。となれば……、オクラホマ・シティのゾンビの数を減らすことができます。マリアンさん達の事ですから、順次投入されるゾンビの群れを攻撃してウイチタゾンビを助けるかもしれません」
上手く介入すれば、ウイチタから誘導してきたゾンビを全て始末出来るし、オクラホマ・シティのゾンビの数を数万体以上倒せるだろう。案外10万体を越えるかもしれないな。それに、ヒューストンに停泊している軍艦はマリアンさんの指示で動かすことが出来るだろうから、ゾンビ同士の争いが終了したなら、直ぐにオクラホマ・シティ中心部にトマホークを撃ち込むんじゃないかな。
自走砲部隊の砲撃はその後になるだろう。ダラス攻撃前に補給をする計画だから、手持ちの砲弾の殆どを使うことになりそうだ。




