H-707 動き出した
朝食を終えた俺達は、橋の南側に位置するジャンクションへと移動する。
誘導開始に戸惑うことがないようにと、車列を南に向きを変えて整列させたんだが、ストライカー2両だけは北に向けて止めたようだ。あの2両が最初の餌役ということになるんだろう。
俺とシグさんはフクスから指揮車に移動して、レーヴァさんと一緒にキャビン内でモニターを眺めている。開け放たれたストライカーの後部ハッチに目を向けると、兵士達が外に出て北を眺めているのが見えた。
攻撃開始時刻は既に秒読み段階なんだが、ヒューストンの湾内から飛んで来るトマホークだからなぁ。予定時刻ピッタリに着弾するとは思えないんだよねぇ……。
「3……2……1……今!……1……2……」
シグさんのカウントダウンが続いている。数字が増えているからカウントアップというのが正しいのかな?
「……14…」まだ続いているカウントが14を告げた時だった。ドローンが映し出していたウイチタ市の北部で一斉に小さな爆炎が起こる。炸裂光も見えるから、クラスター爆弾に間違いない。
「3秒程の時間差で3発か……。次は爆撃だな」
「それほど待つことにはならんだろう。上空を旋回している筈だ」
爆弾は全てナパーム弾とのことだ。焼夷弾よりもナパーム弾の方が広範囲を燃やせるらしいし、そもそもナパーム弾はジャングルにヘリポートを作ろうとして使われたとのことで炸裂時の衝撃波の威力もかなりあるとシグさんが教えてくれた。
再び紅蓮の炎と黒い煙が、先程クラスター爆弾の炸裂した後方に上がる。
ナパーム弾の投下は2度行うという計画通りだ。いよいよ俺達の仕事が始まるぞ……。
「シグさん、第1段目のノイズマシンを作動させてください。ノイズマシンが動き出した20分後に大型ドローンを135号線と400号線とのジャンクション上空500mに移動しゾンビの状況を確認します」
「始めるのだな? 了解だ!」
シグさんがその場でヘッドセットを使い、フクスのジュリーさんに指示を伝えてくれた。
さて、少し暇になったな。タバコに火を点けながら冷たくなったコーヒーを飲む。
そんな俺を見たレーヴァさんも、表情を和らげてコーヒーやタバコに手を伸ばしている。
「さて、しばらくはサミーの部隊が対応するから、ここでモニターを見ていれば十分だ。とはいえ住宅地に入り込んでいることは確かだからな。周囲の警戒は続けてくれよ」
「ライフルにはサプレッサーを取り付けてあることを確認していますから、近寄ってきたゾンビは全て倒せるでしょう。数体を越えるゾンビが現れたなら連絡するよう伝えてあります」
レーヴァさん達の会話に小さく頷く。それなら問題はなさそうだな。安心してシグさんからコーヒーのお代わりを貰う。
ゆっくりと時間だけが経過していく。
たまに銃声が聞こえるけど、サプレッサーで音が低下しているし、連続した発砲音でなければゾンビが集まることは無い。
「やはり、推測よりも多いということなんだろうな。どれだけ集まっているのか楽しみだ」
「そろそろドローンの画像が送られてくるはずです……。間ってください。通信が入りました。……了解だ。上空をゆっくりと旋回しながら5か所のノイズマシン周辺状況を送ってくれ」
シグさんがジュリーさんと通信を行いながらレーヴァさんに顔を向けて頷くと、直ぐに副官がモニターにドローンからの映像を映し出してくれた。
凄い数だ。300体以上は間違いない。500体を超えているかもしれないぞ。
「シグさん。この映像は本隊にも送っているんですよね?」
「その筈だ。確認してみるか?」
直ぐにジュリーさんに確認してくれた。しっかりと送っているとのことだから、サンディーが集まっているゾンビの数を画像分析してくれるだろう。
「凄い数だな。移動の為に上空に移動したようだが、おかげで遠くから移動してくるゾンビが良く見えるぞ。これが5か所だから、最低でも5千体は集まるだろうな」
「まだ25分ほどですよ。後20分間ノイズマシンは作動しますからね。1万体を下回るようなことにはならないと思います。少し小型ではありますがノイズマシンに105mm砲弾を搭載しているんですよねぇ。これだけ集まると数を倒すことが出来ないのが残念です」
「それは諦めるしかないな。本来ならノイズマシンでゾンビを集め、砲弾で殲滅するんだからね。だが、それなりにゾンビは倒せるはずだ。もっとも、ゾンビの餌になってしまうんだが……」
そろそろノイズマシンが作動を止める頃合いだ。ドローンがこちらに戻ってくるようだから、第2段目のノイズマシンが作動を始める前に再び飛ばすのだろう。
遠くから105mm砲弾の炸裂音が聞こえてくる。
第2段目のノイズマシン3個は、第1段目から500m程南に下がった通りに仕掛けられている。
第1段目に集まったゾンビが第2段目に向って移動して来れば今回のゾンビの大移動の始まりになる。
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「北からだけでなく、東西からも集まってきているな。最初のノイズマシンの音で移動していたゾンビもこちらに流れているのだろう」
「炸裂して終では無かったということですか? ノイズマシンの音が聞こえる範囲は1kmほどだと思ったんですが……」
「統率型が動いたのかもしれません。統率型の数が多くなると面倒ですから、車列での誘導を始めたら統率狩りをしないといけなくなりそうです」
「ゾンビのネットワークという奴か。面倒な話だな。それよりも戦士型が思ったより多くいると言っていたな。となると別動隊にも気を付けねばならんぞ」
戦士だけで構成される別動隊は、ゾンビの本隊の移動速度と比べものにならないぐらい速いからなぁ。
だが、ウイチタの戦士型は2本足で4本腕のままだ。それほど速く動くことが出来ないだろう。とはいえレーヴァさんの言う通り別動隊の存在については、ドローンで定期的に調べた方が間違いなさそうだな。
1300時に3段目のノイズマシンが作動する。
今の所は順調そのものだ。3段目のノイズマシンに向ってゾンビが黒い泥流のような様相で移動してくる。1段目を仕掛けた通りからもゾンビの流れが途切れなく続いているところを見ると、現状で3万体を超えているに違いない。
「1400時はノイズマシンではなくジャック3個が作動する。1500時にはノイズマシン1個にジャックが2個だ。1500時に作動するノイズマシンが炸裂する前に、釣り出し部隊は橋向こうのジャンクションに移動してくれ。炸裂したなら、グレネード弾、ライフル、それにクラクションでゾンビの注意を引くんだぞ。それで向かってくるはずだ」
『向かって来たなら、常に300m程の距離で誘導します。適当に爆弾を投擲しながらライフルで倒すことで脅威と認識させます』
いよいよだな。
昼食はカロリーバーとコーヒーなんだけど、誰も文句を言うものはいない。
食べながら目だけはモニターに映し出されるゾンビの群れに向いている。
「やはり釣り出しを考えると、ピックアップトラックが一番かもしれんな。ストライカーでは屋根に3人どうにか乗せられるが、ベルトにしっかりとセーフティロープを付けねばならんからなぁ」
「贅沢を言えばキリがない。だが、次はピックアップを2台用意して貰うぐらいは出来そうだ。モハベ砂漠の釣り出しの最後は高速道路から砂漠へのジャンプだったからなぁ。今考えると誰も怪我をしなかったのが不思議に思えるよ」
ピックアップトラックは、荒地走行が得意だからね。
とはいえ、あの時は一瞬俺達も宙に浮いたんだよなぁ。お尻をしたたかに打ったけど、荷台シートを折って座っていたからね。あのシートで緩和されたんだろうなぁ。
「俺達の部隊も爆弾を用意しています。50本以上あるでしょうから、不足するようならオルバン少尉に伝えて分けて貰ってください」
「オルバンが10秒だと言っていたなぁ。我等が用意したのは5秒と10秒が半々の筈だ。やはりゾンビの動きを考えるともっと導火線を長くするべきだった」
そこは考えるべきだろうけど、だからと言って長くするのもねぇ……。5秒、10秒、15秒の3タイプを用意してその時の状況に合わせて選択できるようにしておきたいところだ。
1500時に5段目のノイズマシンが作動する。
レーヴァさんが最初の誘導部隊に出発を指示した。
「いよいよだ。ワトソンが待機位置から動き出しなら我等も南に向かうぞ。次はジョイス達だから、指揮車が先導となる。50km先までは、このままだ」
俺達の出番は明日の明日の早朝になりそうだ。
今夜はゆっくりと眠らせて貰おうかな。
シグさんがジュリーさんに指示を出す。
汎用ドローンを使って5番目に仕掛けたノイズマシンとジャックに集まるゾンビの群れを低空飛行して再度ゾンビの種類と声を確認する。
携帯スペクトルアナライザーを持ってきているからね。耳だけでなく目でも確認できる。だけどフクスの通信機を経由しているし、アナライザーの周波数分割もノートパソコン程に詳しく行うことが出来ない。俺達の情報は常に本部と共有している筈だから、サンディーの分析能力に期待しても良さそうだな。
「かなりの戦士がいるようですね。統率型も予想より多いようです……」
「我等の裏をかかれる可能性もあると?」
「ゾンビなんですけどねぇ……。まったく知恵を持つと困った存在になるようですね」
副官の少尉が他人事のように呟いているけど、全くその通りなんだよなぁ。
やはりジュリーさん達に統率狩りをして貰うしかなさそうだな。
「動き出したなら、ドローンを使っての統率狩りを行います。使う迫撃砲弾が81mmになりますから、少しはゾンビの数を減らせるでしょうが……」
「この数だからなぁ。数発撃ち込んだとしても群れの大きさは変わらんだろう。だが、食いついてくることは間違いない。それはサミー達に任せるぞ。倒した数だけ知らせてくれ」
「了解です。群れ全体の状況、車列の周辺状況と合わせて報告させます」
シグさんが答えると、直ぐにジュリーさんに連絡を入れている。
これで、統率狩りはジュリーさん達の思い通りに行えるだろう。
「もう直ぐ、鳴りやみますね……。ワトソン達は、ストライカーを降りてグレネードを撃ち込むようです」
「数を増すということだな。その後に1マガジンを乱射するに違いない。先ずはワトソン達の存在をゾンビ達に意識させることになる。さすがにキャンピングカーゴを曳いているストライカーからは降りんだろう。屋根に乗せての射撃になるだろう」
かなり盛大に攻撃するってことだな。
食いついてこなければ、ストライカーをバックさせて再度攻撃するかもしれないな。
動き出したなら、こっちも動く準備をしないとね。距離は3kmほどだからなぁ。
最後のノイズマシンが炸裂すると、2両のストライカーからグレネード弾が放たれる。
あえて群れの中を狙わずに、群れの先頭集団を狙って各自2発を放ったようだ。
その後にライフルの連続射撃が始まったけど、20発マガジンだからなぁ。直ぐに終わってしまう。
射撃音が続くようにと言う事だろう。2個目のマガジンを使って半数の兵士が射撃を継続している。
「ほう! 2段階にしたのか。兵士の乗車を考えたんだろうな。……動き出したぞ。ストライカーも、動いたな。屋根に3人は計画通りだ。さて始まるぞ。指揮車を動かすぞ! 5kmほど進んで一時停止。ワトソン達が1kmほどに近付いたなら再度5km前進させろ!」
運転席に向ってレーヴァさんが大声で指示を出す。
ジョイスさんとシグさんが、レーヴァさんの指示を自分達の部隊に伝えている。
「サミー達の部隊は直ぐに始めるわけではないんだろう?」
「ゾンビの上空を飛びながら確認しただけでも、かなりの統率型の存在を確認できました。群れの統率を行う前に削減したいところです。具体的には……、先頭集団がこの辺りに達したら始めようかと」
テーブルの地図へ指を乗せて位置を示すと、レーヴァさんが大きく頷いてくれた。
「イベント会場近くのジャンクションか。2時間程後になるな。待機場所から5kmほどだ。そこに達してもゾンビの集団に切れが無ければ5万体以上ということになるぞ」
高速道路を進むゾンビの群れは1kmで1万体と推測できるからなぁ。
オクラホマ・シティのゾンビにぶつけるんだから、最低でも5万体は欲しいところだ。
誘導するゾンビが5万体を超えるか否か。それをマリアンさんが一番危惧しているだろう。それが分かってから統括狩りを行って行こう。




