H-704 迂回路をさらに遠回り
深夜に作動させたジャックには、昼よりも多くのゾンビが集まってきた。
300体を遥かに超える数に、ドローンが映し出した画像を見て驚いたぐらいだ。
「これほどとはなぁ……。それに見たことがあるようなゾンビもいるぞ」
「戦士型ですね。シーバリーズ島の海軍工廟にいた戦士型に似ています」
「あの棍棒のような2つ目の両腕を見たことがあるってことだな。脅威の程度は軽くは無いんだろうが、投射体を持つということは面倒になってくるな」
「年が重なるにつれ益々面倒になってきますよ。釣り出しをする時の距離は300mを保ちたいですね」
マリアンさんへの報告書には昼と夜の画像を添えて送るそうだ。マリアンさんの指揮車に常駐しているサンディーが戦士型の割合を算出してくれるだろう。今夜使ったジャックには1割ほどの戦士型が混じっていたからなぁ。戦士型がこの町は増えて行きそうだ。
「明日はウイチタの南に移動するとして、小型のノイズマシンを設置するぐらいは出来そうだ。私達は、誘導路になる35号線を少し先まで確認してくるつもりだ」
「明後日は、本番ですからね。途中で停止したなら飲み込まれかねません」
「それじゃぁ。よろしく頼む。明日は無線機を常時交信状態にしておいてくれ」
レーヴァさんはこれから指揮車で報告書を作らないといけないからなぁ。あまり出世するのも考えてしまうな。ウイル小父さんの言う通り分隊指揮官で止まるのが一番なのかもしれないなぁ。
「明日は大きく迂回するとして、昼過ぎにウイチタの南だ。それから3段目の小型ノイズマシンを設置することになるのだが……」
シグさんがウイチタ市外の拡大したプリントを取り出す。衛星画像を拡大コピーしたものだ。
「第1段は135号線を中心に400号線沿いに左右に2つずつと、ジャンクションの南だな。2段目は同じく135号線を中心に、イースト・バリー通りに左右1つずつとジャンクションになる。となれば、3段目は更に南500mのイースト・ポーニー通りのジャンクションということで良いと思うが?」
「それで良いでしょう。さらに、もう1つ追加した方が良いかもしれません。設置位置は
15号線との立体交差の上辺りでお願いします。食いついてくると思うんですが、運んできたノイズマシンで足りますか?」
6個運んで来たらしいから、3段目に3つ使うとしても3個のこっている。4段目に2つ使えば5段目は1個になってしまうが、ここまでゾンビを釣り出せたなら、後は俺達の姿を見せてやれば付いて来るはずだ。ウイチタ市街を離れても俺達を追って来るなら、この作戦は半ば成功したと言っても良いんじゃないかな。
「5段目はノイズマシンでなくジャックを2個纏めて使う手もあるぞ。ウイチタで135号線から35号線にゾンビを誘導することになるからな。最後のノイズマシンはアーカンソー川を渡った先の35号線に仕掛けるべきだろう」
写真をマーカーで示してくれた。
なるほど、135号線に乗せたままだと南ではなく西に向かってしまいそうだ。
シグさんの提案をありがたく受けることにして、このプリントをジュリーさんに渡そう。
後は上手く設置してくれるはずだからね。
衛星画象のプリントをシグさんがテーブルから取り上げるとクルクルと丸め、俺に「お休み!」と言ってキャビンを出て行った。
明日は忙しそうだから早めに寝るとするか。
ブランケットを取り出して、ベンチに横になる。
だいぶ暖かくなってきたな。この辺りは荒地が緑色になってきている。
戦闘服を着たままだから、ブランケットだけで眠れるんだよなぁ……。
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コンコンとフクスの外壁を叩く音がする。
朝になったようだな。腕時計を見るとまだ7時を過ぎたばかりじゃないか!
更に叩いているから、とりあえず返事をする。
これで再び寝入ったら、今度はスタングレネードを放りこまれそうだ。
ベンチから身を起こして、ブランケットを畳んでクッション代わりにしておく。
さて、外に出るか。
ハッチを開けて外に出ると、シグさんが立っていた。
軽く挨拶を交わして、エディ達が囲んでいる焚火の傍に向かう。焚火台は持ってきたみたいだ。結構荷物を置いて来たらしいからどこで不具合が出てこないとも限らない。
それもまた問題だな。俺達の装備を3つぐらいにランキングして、リスト化しておこうかな。
これからも似た状況はあるだろうからね。今部隊が持っているのはこれだけだと直ぐに分かるようにすべきだろう。
「だいぶ寝ていたなぁ……」
俺に気付いたエディがコーヒーを注いだシェラカップを渡してくれた。
一口飲んでみると、結構甘い……。笑みを浮かべてエディに礼を言うと、ニックと一緒に笑っているんだよなぁ。
まぁ、他の兵士とは好みが異なるんだけど、他の部隊の兵士達も俺を見ているから、少し変わった奴だと思われているのかもしれないな。
「迂回すると聞いたんだが?」
「東回りに迂回するよ。先導はレーヴァさん達が行ってくれるから、俺達は付いて行くだけで良いはずだ。だけどウイチタ市から南に向かう州間高速35号線に出たなら、30分も経たずに忙しくなるぞ。あの大きなドローンでノイズマシンをあちこちに仕掛けないといけないからな。ノイズマシンの数が足りないから、ジャックも動員する。設置場所はシグさんがジュリーさんに説明しているはずだ」
「俺達は準備だけだからなぁ。サミーも十分に聞き耳を立てていてくれよ」
「もちろんだ。だけど今夜の野宿場所は決めてないんだよなぁ。たぶんレーヴァさんが見つけてくると思うんだけど……」
俺達の話を、遠巻きにして聞き耳を立てる兵士達から、ブーイングが起きるんだよなぁ。どんな状況なのかまるで分からないんだから、向こうに行ってから決めるのは不思議には思えないんだけどねぇ。
「午前中は、ドライブってことになるのかな?」
「そんな感じだね。だけど、ウイチタの南に出たら武装はしっかりとしてくれよ。戦士型が多そうだし、投射武器も持っているからね」
ポーツマスのシーバリーズ島で遭遇した戦士タイプに似ていると伝えておく。
「あれかぁ!」とエディが頷いているから、周りの兵士に上手く説明してくれるに違いない。
朝食はインスタントスープにカロリーバーとドライフルーツが一掴み。食後のコーヒーと一緒に一服を楽しんでいると、出発を告げる兵士が俺達の傍を走って行った。
エディ達と肩を叩き合って互いの無事を祈ると、直ぐに走りだした。
遅いとシグさんにと睨まれそうだからね。
急いで乗り込んだんだけど、やはり俺が最後だったみたいだな。直ぐにジュリーさんが全員乗車を無線機で伝えている。
「了解! 4番目に出発ね。キャンピングカーゴの後部に赤い布ね……」
無線交信が終わると今度はインターホンを使って運転席に知らせているようだ。シグさんは昨夜丸めて持って行った衛星画像のプリントを再びテーブルの上に広げると、タブレットを通信機のテー物の引き出しから取り出している。
タブレットを開いて映し出したのは地図だった。
地図と画像の両者でルートを確認しようということかな。
「出発するよ!」と樹種席の女性兵士の声がインターホンから聞こえてきた。
直ぐに、フクスがゆっくりと動き出す。
コーヒーは既に蓋付きのカップに入れてある。カップを持ってキャビンの後方に移動した。しばらくは速度を上げて走る筈だから、ゾンビの声を確認する必要は無いだろう。それにエディ達の事だ。運転席後方のハッチを開けて、常に1人を見張りに立てているんじゃないかな。それに、周囲の監視はレーヴァさん達のストライカーが一番気を使っているだろう。不審な物があったなら、直ぐに連絡が来るに違いない。
それにしても区画がきちんとなされているんだよなぁ。1つの区画が1.6kmほどだから256haということになる。それを4区分しているけど、それでも60haだからねぇ。日本の農業と比べるのがばからしくなってくる。
一服を終えて、テーブルを眺めてみると、旗が立った駒があった。どうやら俺達の現在地を示しているようだ。
「しばらくはこのままだな。先程ジュリーに入った知らせでは、この道が南に向いて2つ目の十字路を西に向かうとの事だった。まだしばらくはこのままだ」
どうやら農道の中でも広い場所を探しているらしい。
車1台が走れるだけの砂利道もあるとのことだ。さすがに車2台が並んで走れる道路でないと本隊が困るだろうからね。
「最短でウイチタの南に出ることは出来ないようだな」
「迂回した上に、遠回りですか? まぁ、それで本隊の通行に支障が無ければ十分に思えます。本隊の移動はゾンビが動き出した後ですからね。もう少しゾンビが少ないならウイチタ市内を通りぬけられそうですけど」
「案外やるかもしれないぞ。あの少将だからなぁ。海兵隊でも十分に務まるだろう」
それって褒めているんだろうか?
だけど俺も海兵隊だからね。同じ仲間としては受け入れたい気持ちはあるんだよね。でもペンデルトンの連中が嫌がるだろうなぁ。
「今度は揺れるかもしれないって連絡が来たよ!」
「どうやらこの道を進むようだ」
ジュリーさんの言葉に、小さくシグさんが頷いている。
俺は特にやることもないんだよなぁ。
とりあえず、ベンチに畳んだブランケットを敷いて座っているから、少しぐらい揺れてもお尻が痛くなることはないだろう。
「今走っているのは、ノースウエスト・30という通りらしい。今度はノースウエスト・バトラー通りを進むはずだ」
「そのまま真直ぐでは、ウイチタの東の住宅街に入ってしまうでしょうね。となると、254号線を東ですか」
結構道が変ることになるんだけど、それほど悪い道ではない。
このまま進めば、昼前後にはウイチタ市の南に迂回できそうだ。




