H-703 迂回路は東に
フクスを停めてから15分も経たずに大型ドローンがジャックを抱えて飛び立った。
オルバンさん達は次に仕掛けるジャックの準備をしているに違いない。
俺とシグさんはドローンのカメラが映し出す画像をモニターで眺めている。
すでにヘッドホンは装着しているし、テーブルの上に乗せたノートパソコンには集音装置が捉えた音声スペクトルが表示されている。
「さすがにゾンビの姿はまだ見えないな」
「注意して見ていてください。最初にゾンビが確認された位置も重要な情報です」
推定数が20万体なら、偵察ゾンビがいるに違いない。
去年サライナ市から1万体のゾンビをウイチタ市に誘導したからね。その対策がなされているはずだ。
「いたぞ! 市街地の外れだな。この位置だ」
シグさんが地図にマーカーで位置を記載した。
「たぶん偵察ゾンビでしょう。ゾンビは何体でした?」
「1体だけだった。それも情報になるのか?」
「ウイチタ市に接近する脅威を、ウイチタ市の上級ゾンビに伝える方法で進化の程度を推測できます」
呆れた表情で俺を見ると、大きく溜息を吐いてベンチを離れる。
戻って来た時には両手にコーヒーカップがあった。1つ俺に渡してくれたから、角砂糖を入れようとすると、すでに入れてあると教えてくれた。
「ジュリーが砂糖2個と指示してくれた。全くとんだ甘党だが、糖分は脳の栄養だと聞いたことがある。それを飲んでさらに推測を深めてくれ」
そう言う事ね。
それならと、バッグの中からチョコレートのタッパーを取り出す。
皆に勧めても誰も手にしないんだよなぁ。おかげで全て食べることが出来るんだけど、このタッパーの中身が無くなったらそれで終わりだから大事にしないといけないんだよね。
「呆れた奴だ。それよりそろそろジャックを仕掛け終えるぞ。戻る途中で確認することはあるのか?」
シグさんの言葉に、ジュリーさんが俺に視線を向けている。
次のジャックも仕掛けないといけないから、詳しい調査は後になりそうだな。
「先ほど見つけた偵察ゾンビを探ってください。高度を50mほどに落として周囲を一回りしてくれれば十分です」
「了解。紐付きかを確認すれば良いのね」
ジュリーさんは俺の意図が分かったみたいだ。シグさんが首を傾げているから、今までに見つけた偵察ゾンビの特徴を教えてあげた。
「そう言う事か。まだ偵察範囲が狭ければ情報伝送を有線で行い、距離が離れればもう1体の伝送ゾンビがいるということだな。先ほど見つけたのは1体だけだから、紐付きという事になるのだろうが、あえて確認するというのは脅威を認識でき、それに対応できるゾンビの集団であることを確認するという事か」
そこまでは考えてないんだけど、情報を纏めるとそんな感じになるのかな。
レーヴァさんへの報告はシグさん経由にしよう。
「見つけた! 周囲を回るよ。集音装置はどうかな?」
「ちゃんと聞こえてる。声は通常型だね。1体だけだ」
「追加報告! あったよ。拡大してあげる!」
モニター画像の拡大は、シグさんが手に持つリモコンで行うんだが、ドローンの操縦装置側でも出来るようだ。
「この赤い紐のような物か?」
「間違いないですね。となるとウイチタ市へのこれ以上に接近は止めといた方が無難です。やはり大きく迂回することになりますね。迂回経路にレーヴァさんが悩んでいましたから、今の状況を伝えてください。ジャックの炸裂を待つことはないでしょう」
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レーヴァさん達と合流したのは、それから1時間後の事だった。
既に日が傾き始めているし、あまり仕掛けたジャックから離れる炸裂前後の状況観察が出来なくなるから、今日は135号線傍にあるウイチタ大学の1つ北まで移動して、交差するジャンクションの橋の上に車列を停める。
135号線を跨ぐように盛土の上に橋を作っているから、見通しも良い。此処なら近付くゾンビを早期に発見できるだろう。
レーヴァさんの乗る指揮車にシグさんと移動して状況確認を行う。
「ウイチタを迂回するのは、案外面倒かもしれん。我等だけならそれほど難しくも無いんだが、本隊ともなれば重量級の車両が多いからなぁ」
「西のアーカンソー川と東のウォルナット川か……」
「道路は何とかなるんだが、橋が貧弱では話にならん。西は諦めて東となると、しっかりした橋のある経路、135-254-54-400-77-15-135という経路になるんだが……。254から54の変更はエル・ドレード市内、400から77号線の進路変更はオーガスタ市内で行う事になる。両方とも数千体を超えるゾンビがいるだろう。通行前に叩かねば安心して通れそうもないな」
「となれば農道を使う外あるまい。135-254-農道―15-135という経路も出来るぞ。農道といっても対向車線を合わせれば本隊の車両が通れるだろう」
その辺りは先遣隊を派遣して調査するだろうな。
俺達の通った経路とその道路状況を伝えれば、向こうで検討してくれるに違いない。
「それで行くか……。さて、そろそろ始めても良いんじゃないか? 皆も見たがっていたぞ」
「そうだな。1630時に作動させるぞ。日暮れは1800時以降だから日中ということになる。此処でも見られるのか?」
「私は指揮車の中で見るよ。兵士達は小型モニターで見て貰うつもりだ」
用意してあるんだ! 俺達の所は2号車にもモニターがあるからなぁ。その上40インチモニターを別に持っているんだが、あれは置いて来たんだろうか?
フクスに戻って、直ぐにジュリーさんにジャックの作動時刻を告げる。
後はジュリーさんに任せておこう。
作動時間が45分だから、その間にオルバンさん達がレーションを温めるためのお湯を沸かし始めた。
水は貴重だからなぁ。最後は専用の容器に回収して何度も使うことになりそうだ。
ジュリーさん達が交代で食事をしながらドローンを飛ばしてくれるから、俺達はモニターを眺めての食事になる。
「結構集まっているなぁ。50以上は確実だ」
「変わったゾンビはいないようですね。作動音が止んだら確認してみましょう」
2か所ともジャックの周りにかなりの数が集まってきた。
上空から見ているから、結構離れた場所からもゾンビ達が集まってきているようだ。最終的には100体を越えそうに思えるなぁ。
「ちょっと多すぎない? これを誘導するんでしょう?」
ジュリーさんも多いと感じているようだな。やはり推定数は20万体とみておいた方が良さそうだ。
「ウイチタ市のゾンビを全部誘導なんて出来ませんよ。北部を爆撃しますし、今回使うノイズマシンは少し小さいですからね」
「5万体ってこと? それだと次のオクラホマ・シティのゾンビに飲み込まれちゃうわよ」
「互いに争えば、オクラホマ・シティのゾンビを少しは減らせるはずです。オクラホマ・シティに撃ち込む砲弾をそれだけ減らせますよ。その次はいよいよダラスですからねぇ。背後を襲われないように、オクラホマ・シティは徹底的に叩くに違いありません」
ダラス攻撃の前に補給を行うつもりだからなぁ。本隊の銃砲弾の殆どをオクラホマ・シティで使うつもりかもしれないな。
ブザーが止まると、ドローンが高度を下げてくれる。
ヘッドホンから騒がしいゾンビの声が聞こえてくるが、その中にしっかりと戦士型の声が聞こえてきた。
「戦士型がいますね。確認できますか?」
スペクトラムアナライザーの表示には、統率型の声が表示されてはいるんだが、かなりレベルが低いからなぁ。ジャックの周りにいるのではなく少し離れた場所にいるようだ。
「分からんな。画像が記録されているからゆっくりと確認しよう。そろそろ炸裂する。ジュリー、上空に移動だ!」
ジャックの炸裂で倒されたゾンビは30体前後だろう。直ぐに倒れたゾンビを炸裂の巻き込まれなかったゾンビが共食いを始める。
だが共食いは何時までも続かなかった。ゾンビの残骸を曳きずる様にしてどこかに運んで行く。
上空からしばらく眺めていると、何軒かの住宅に運んでいるようだ。
もう1つのジャックの炸裂位置に移動して様子を探ると、やはり同じような状況をドローンが映し出してくれた。
「保存食ということか?」
「そんなところでしょう。ゾンビの肉は腐らないんですかね? まぁ、メデューサの食性もあるんでしょうけど、毒への耐性はかなり高いと考えないといけませんね」
さて、状況から推測できることを纏めよう。俺の推測をシグさんに話すと、シグさんがノートパソコンを使って簡単に報告書を作ってくれた。作成する過程でシグさんが疑問を問い掛けてくれるから、かなり詳細な報告書になったはずだ。
「レーヴァに送れば、レーヴァの方で本隊に送ってくれるだろう。夜に再度ジャックを使えば、もっと詳しくはなるんだろうが……」
「『詳細は今夜送付する』とこの報告書の末尾に記載すれば、向こうも理解してくれるでしょう。先ずは迂回路を東側に選択する事と、予想以上にゾンビが存在することを知らせれば十分に思えるぐらいです」
情報は、時間経過とともに詳細になるはずだ。明日は、その迂回路を使ってウイチタ市の南に向かうんだからね。
「さて、次のジャックが炸裂するまでは、先程の画像をじっくりと調べましょう」
「そうだな。先ずは、これをレーヴァに送ろう」
レーヴァさんに報告書の叩き台を送っているようだけど、メール機能を使っているん
だよなぁ。マリアンさんにこのまま送付しても良さそうなんだけど、やはり正式な報告となればレーヴァさんからということなのかな。
とはいえ、オリーさんに送るなら問題はなさそうだな。シグさんにお願いして、同じ報告書をオリーさんにも送って貰う。
「オリーには画像ファイルも付けておいたぞ。まぁ、お腹が大きくなっても頭には影響はないだろう。退屈だと山小屋で言っていたぐらいだ」
「今年の秋なんですよねぇ。会えるのは今度の作戦が一段落してからになりそうです」
「なら、頑張らねばならないな。……これが、先程の画像だ。私と同じ画像を眺めるより、サイカ大尉は別の現場の画像を見た方が良いかもしれん」
2人でテーブルの上にノートパソコンを置いて、先程撮影した画像を調べることにした。人数は多い方が良いだろうと、ジュリーさん達もベンチに移動して40インチのモニターで映像を見てるんだよなぁ。
言っていることは分かるけど、テーブルの上にお菓子やコーヒーカップを乗せての監察だからねぇ。あまり期待しない方が良いのかもしれない。




