H-700 いるんだけどジャックに集まらない
ジュリーさん達がジャックを仕掛け、レーヴァさん達が州間高速135号線上の放置車両の撤去をしている。
ジャック4個の設置は予定通り午前中に終了したが、さすがに放置車両の撤去は時間が掛かりそうだな。
シグさんに入ってきた通信によると、前回の作戦時に陸戦部隊がある程度放置車両を片付けてくれていたらしい。それでもかなり残っているということだから、かなりの大渋滞が起こったんだろう。
あの作戦時には、あまり135号線に入らなかったからなぁ。入ったとしても市街地の外れだからね。それなりに放置車両はあったけれど、エディの運転で十分に避けることが出来たからなぁ。
「今日中に撤去は無理だとの事だ。まぁ、仕方あるまい。工作車両と工兵ではなくストライカーにレンジャー達だからな。ジャックの方は全てサミーに任せるとのことだった。予定を早めて作動させようか?」
「そうですね。では最初の2個を作動させましょう。ブザーを45分間、作動停止10分後に炸裂でお願いします。作動停止5分前にジャックの上空500mでドローンを待機。炸裂5分前に再び500mに上昇でお願いします」
「集まったゾンビの姿と声を確認するってことね。了解よ!」
通信機の前に座っていたジュリーさんが俺に顔を向けて応えてくれた。
軽く頷くと、ジュリーさんも頷き返してくれる。直ぐに2人の兵士と話を始めたからドローンをどのように動かすかを伝えているのだろう。
「現在時刻は1130時3分前だ。1130時に作動させるぞ。炸裂予定時刻は1215時になる。オルバンにも伝えておこう」
「お願いします。それにしてもかなり数が減った感じがしますね。数km先に数体ずつのゾンビが確認できましたが、あれは食料確保の集団ですね。近付かなければ危険はなさそうです」
「135号線の直ぐ西を流れるドライ側沿いにも小さな集団がいたそうだ。それはレーヴァ達が始末しているが、道路から200mも離れていないからなぁ。やむを得ない措置ということになるだろう」
サプレッサーを付けて散発的に放ったなら、それほど脅威が増すとも思えない。そんな事態が生じていたなら、もっと早くにジャックを作動させた方が安心できたかな。
「さて、定刻だ。ジャックを作動させるぞ!」
シグさんが通信機の前に座っているジュリーさんに指示を出して、ジャックの作動信号を送った。
上空に退避していたドローンからブザーが出す高周波音が聞こえてくる。
「ジャックの作動を確認。……さて、どれぐらい集まるかな?」
キャビンの後方に移動して、一服しながらモニターを眺める。
ゾンビの数が多ければ直ぐに集まるんだが、さすがに前回の攻撃が有効だったのだろう数分間は全く動きが無かった。
10分近くして最初のゾンビが現れると、ポツリポツリとゾンビが映像の中に現れる。
「集まりが悪いな。設置場所周辺にゾンビの空白地があったのかもしれん」
「もう1つの方を見て見ましょう。そちらも少ないとなると、陸上艦隊のコンボイの通過は容易に思えますね」
直ぐに画像が切り替わった。
やはり数は少ないな。既にブザーが作動してから15分以上経過しているのだが、集まったゾンビの数は10体に届かない。
「全て通常型のようです。統率型がいる可能性もありますが、ブザーが停止しなければ判断できませんね。でもこれなら集まった全てのゾンビを倒せますよ」
「45分で集まってくるゾンビが10体程度するなら、サライナ市に生息するゾンビの総数は数千程度と想定しても良さそうだな。後は夜間に集まる数だが……」
「少しは増えるかもしれませんが、倍になることは無いと推測します。後はどんなゾンビが集まるかですね……」
戦士型なら一目で分かるんだけどねぇ。さすがに通常型から少し変化したようなゾンビはこの画像からでは分らないな。
ブザーの音が止まったところで高度を下げて貰い詳細を見てみよう。
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夕暮れが近づいたところでレーヴァさん達が行っている撤去作業が中断になる。
俺達の登場するフクスの前後に車両を止めると、レーヴァさんが俺達のフクスにやって来た。
キャビンの中に入って貰い、テーブル越しのベンチに座って貰う。
コーヒーをシグさんが俺達に配ってくれたところで、状況の確認が始まる。
ジュリーさん達は、運転席側から車を降りて夕食の準備を始めるようだ。
「やはりゾンビの数が少ないか……。放置車両近くにいたゾンビも数も両手で足りる蔵だったぞ。此処に来る時もエディがゾンビが全く見えないと嘆いていたよ」
「前回の措置が効果的だったという事になるんでしょう。今夜のジャックでどれだけ集まるか分かりませんが、20体を越えるようなことにはならないと思っています。となれば135号線を南下するのは容易に思えますが、今回は車列が前より長いですからねぇ。サライナ市内で車列が停止することは避けたいところです」
「そうなると、私の方で行っている撤去作業の進捗が課題になってしまうな。現在、空港が見えてきたところだ。明日中には市内を抜けるだろう。サライナ市から10kmほど先まで放置車両を退かしたいところだが、その前に本隊がやってきそうだな。最後は工兵部隊に引き継ぐことになりそうだ」
「俺達の任務は先行偵察です。今夜のジャックの炸裂後にサライナ市の脅威の推測をしましょう。サライナ市のゾンビを殲滅するのは今後作られる部隊に任せられそうです」
「騎兵隊を強化した部隊という事か。確かに我等にとってサライナ市は補給点に過ぎない。本隊の補給時にゾンビの大規模なラッシュが起こらねば十分だ」
大規模にはならないだろうが、それなりにラッシュが起こるかもしれないってことかな。
本隊の戦力で跳ね返すことが出来れば脅威は低いという事になるんだろう。
22時丁度にジャックを作動させる。
上空からドローンがスターライトスコープで撮影した画像を見ながら、集まってくるゾンビを確認する。
やはり、直ぐに動きが無いんだよなぁ……。
それでも10分ほど過ぎると10体程のゾンビが集まってきた。
「昼と変わらんな。戦士型はいないようだ」
「通常型も進化した形跡がありませんね。これなら補給は容易でしょう」
45分後にブザーが止まり、ドローンを地上100mまで降下させゾンビの声を確認する。少し離れた場所に2体の統率型がいるようだ。戦士型の声はしないな。
ジュリーさんに統率型の爆殺指示を出して、もう1つのジャックの周囲を探る。
「こっちには統率型が1体だけですね。ジュリーさん、こっちも倒してくださいよ!」
「了解! どちらも炸裂後に実行するよ。それで、変わったゾンビはいたのかしら?」
「いませんでした。レーヴァさんマリアンさんへの報告はお願いしますよ」
苦笑いを浮かべたレーヴァさんが、小さく頷いている。
義理のお母さんなんだからもっと仲良くしても良いと思うんだけどなぁ。
「明日は、州間高速道路70号線に戻って、補給地点で待機してくれ。車からあまり下りなかったから忘れ物はなさそうだが、出発前に確認しておいた方が良いな」
「了解です!」という俺の返事に頷いて、ジャックの炸裂を皆で待つ。
ジャック周辺に集まるゾンビの数が少ないから、集まったゾンビは全て倒すことが出来たようだ。ハンターユニットを搭載したゾンビが統率狩りを始めたので、もう1機のドローンを昼に炸裂したジャック周辺を確認して貰う。
「既に炸裂後の確認はしている筈だが?」
「最後の確認が未だですよ。……ここですね。炸裂跡が見えますね……」
炸裂か所に間違いはない。だが炸裂直後と今の画像には全く異なる箇所が1つだけあるんだよなぁ。
「倒れたゾンビがいないだと?」
「ゾンビは共食いをしますからね。やはりそれなりに数はいるんだと思いますよ。そんなゾンビがジャックに集まらないという事が一番大事に思えてなりません」
「近くにいるならジャックに集まる筈だが、集まらない……。知恵を持っているという事か?」
「それなりの知能はあるようです。知恵は経験の積み重ねですから、ジャックを多用し過ぎたかもしれませんね。報告の際にはゾンビの推定数を少し大きくした方が良さそうです。それと、補給時にはサライナ市に対して砲撃が何時でも可能なようにしておいた方が、万が一の即応が容易でしょう」
「了解だ。まったくゾンビは我等の思惑を超えているなぁ」
これで今夜は終わりになる。
シグさん達がキャンピングカーゴに移動し、フクスのキャビンは俺1人。
寝る前にメール文を作成し、サライナ市でそこにいる筈のゾンビがジャックに集まらない状況が起きていることを知らせておけば、後はオリーさんが動いてくれるだろう。
身重な状況だけど、動き回ってキャシーお婆さん達を心配させているに違いない。机に向ってジッと考えているならお婆さん達も少しはホッとするんじゃないかな。
寝る前に残ったポットのコーヒーをシェラカップに注いで、本日最後の一服を始める。
さて、明日はどうするかだな。
レーヴァさん達は引き続き135号線の掃除なんだろうが、俺達は……。
今日仕掛けたジャックより東を探ってみるか。西の住宅街も確認しておいた方が良いのかもしれない。
ハンタードローンで迫撃砲の焼夷弾を落として火事を起こせば、ゾンビが集まってくるかもしれないな。




