H-699 指示を出さずとも行動してくれるのだが
「俺達は周辺の監視をしながらジャックを仕掛ければ良いんだな?」
スプーンを口に咥えながら話すのはマナー違反だと思うんだけどなぁ。
クリスがいないから結構自由にしているんだけど、後でジュリーさんが告げ口をしないとも限らないぞ。
その点ニックは静かに食べているんだけど、昨夜はかなり飲んでいたからなぁ。ウイル小父さんの遺伝子をしっかりと受け継いでいるようだ。パットに知られたらメイ小母さんと一緒に小言を聞かされるに違いない。
2人を反面教師として自分をしっかりと律していよう。俺の場合は2人だからなぁ。それにレディさんが加わりかねないからね。
「エディ、話す時にはスプーンを置いたらどうだ? ……クリスに知られたら蹴りぐらいでは済まないぞ」
俺の言葉に一瞬で顔を青くするんだからなぁ。慌ててスプーンを皿に置いたのを見てジュリーさんがクスクスと笑っている。
女性達がそれにつられて笑みを浮かべているから、俺達の姿が戦闘服でなければピクニックで見かける男女に見えなくもないだろう。
「エディの言う通りだ。指揮はオルバンさんに任せる。設置位置はすでに決めてあるから午前中に4台を設置して欲しい。昼食時にレーヴァさんと確認して2台を作動させる。残りの2台は真夜中だ。レーヴァさん達が135号線の放置車両を撤去するから、フクスの上から周囲を確認してくれよ」
「いつも通りってやつだな。了解だ。ライフルにサプレッサーを付けて用意しておくよ。数体ならオルバンさんの指示で狙撃するけど、それより多い時には連絡するぞ」
エディの言葉にオルバンさんが頷いている。
エディ達は周囲に目を光らせるに違いないから、汎用ドローンの準備はオルバンさん達が担当するのかもしれないな。
「ジュリーはドローンの指揮を頼むぞ。1機は周辺の偵察だ。エディ達がフクスの上にいても、見通し距離は2km程だ。集音装置を使いながら広域偵察を行って欲しい」
シグさんの指示にジュリーさん達がしっかりと頷いている。
まぁ、ジュリーさんに任せておけば安心だろう。ジュリーさんをドローンの操縦から外したのはドローンで急降下爆撃をしかねないからかな?
「私は通信機を担当する。明日には本隊が出発するはずだ。我等と違って移動速度は遅いだろうが、それでも随伴する騎兵隊がいないから20時間も掛からずに到着するはずだ」
俺の役目を伝えないんだけど、皆分っているんだよね?
とりあえず広域偵察を行うドローンの映像を見ながら、フクスに搭載した集音装置で周囲に聞き耳を立てていれば問題は無いはずだ。
朝食を終えて、皆でコーヒーを楽しむ。風下に座っているから一服を楽しみながらのコーヒーだ。
あちこちのコンビニや雑貨店でタバコを見つけていたけど、どうにかタバコの生産がはじまった らしい。
先ずは生きるための食料が優先だったからなぁ。タバコよりもワインが先になるとは思わなかったけど、まだまだビールまでは生産体制が整わないようだな。
「さて始めよう! オルバン頼んだぞ」
「任せてください。ジュリーと連携を取ってドローンへの装備を行います」
オルバンさんと敬礼をしあって、その場の片づけを行う。片付けと言っても畳んでキャンピングカートのン持つ入れに押し込むだけだからなぁ。
直ぐに終わったから、フクスに乗り込んで集音装置を作動させることにした。
屋根に付いている柱に取り付けた集音装置のロックを外して回転を可能にする。これでキャビンの中から集音装置の方向を指定することも出来るし、ゆっくりと回転することで周辺のサーベイも可能だ。
自動回転モードを選択し、回転速度3分に設定する。ヘッドホンを接続して耳に装着し、音声スペクトルアナライザーの制御をノートパソコンで行うためのケーブルを接続すれば完了だ。
直ぐ隣にシグさんが座っているからなぁ。それほど広くないキャビンだから体が密着してしまうんだよね。セクハラ疑いを掛けられる前に退散しておいた方が間違いはないだろう。
「サミーは終わったのか? 私も直ぐに終わるぞ。フクスの改良型とは聞いているが、ドローンの操縦装置や通信機、それに音声解析用の機器まで並べるとかなり狭くなってしまうな」
「狭いですけど、冷暖房完備ですからね。我慢することは大切ですよ。此処でドローンの画像を見ることにします」
「飛び立ったら、そっちのモニターに映像を送るね。1面だけだから、指示してくれれば映像を切り変えるよ」
「当分は偵察ドローンの画像だけで良いですよ。そうそう音声信号も送ってくださいね」
ノートパソコンを使ってヘッドホンの左右のスピカ―をフクスの屋根に設けた集音装置とドローンに搭載した集音装置に分ける。
聞き流して興味持った声を聞いた時に、両方とも同じにすれば良い。
片方の耳から音がするけど、これはノイズだな。もう片方からはまだ信号が接続されていないようでノイズすら聞こえてこない。
「了解! ジャックの準備が出来次第出発させる。ジュリー、2号機を発進させてくれ! 時計周りに旋回させながら探ってくれ。135号線の南方向は特に注意してくれよ」
「放置車両を道路脇に弾なら、先を見といたほうが良いよね。…頼んだわよ!」
ジュリーさんが少し身を乗り出して女性兵士の肩をポン! と叩いている。
叩かれた相手が小さく頷いているから、シグさんが笑みを浮かべているんだよなぁ。日本人女性なんだけど、しっかりとこの部隊に溶け込みつつあるようだ。
だけど、配属は多分暫定措置ということになるんだろうな。
ペンデルトンの連中が計画しているロサンゼルスの奪回には、ゾンビの声を的確に判断できる人材が多数欲しいはずだ。
ここで経験を積ませて、ロサンゼルス奪回の要にしたい考えなんだろう。
「上空300m、周囲の監視を始めるよ。サミー。しっかりと聞いててね!」
「了解。既にスイッチが入ってるよ。このフクスの周囲はいないみたいだね。もしゾンビを見つけたなら、レーヴァさんとオルバンさんに伝えてくれないか? 驚異の判断は向こうでしてくれるはずだ」
「迫撃砲弾を搭載しているから、統率型を見つけたなら抹殺して良いんでしょう?」
ジュリーさんの言葉に、思わずモニターからシグさんに顔を向けた。
シグさんも予想外の言葉だったらしく、俺に顔を向けて大きな溜息を吐いている。
「レディが指示はあまり必要としないと言っていたが……そう言う事か。それでどうするんだ?」
「統率狩りを行うユニットを搭載したなら、監視と聴音に問題はありませんが、81m迫撃砲弾が2個ですからねぇ……。下手に落としてレーヴァさん達の作業に影響が出るようでは困ります。135号線より東側で1km以上離れていれば、1発落とすぐらいでラッシュは起こらないでしょう。統率型は前回だいぶ狩りましたけど、残っておるなら早めに倒しておきたいところです」
シグさんがテーブルに地図を乗せて、統率狩りの範囲を確認している。
小さく頷いたところで、ジュリーさんのところに地図を持っていくと、何やら話を始めた。
統率狩りの範囲を確認しているのかな?
フクス上部に設置してある集音装置を東に向けゾンビの声を確認する。
雑音に埋もれてはいるんだが、ゾンビざわめきが明確に聞こえるな。
集音装置の感度を上げて、スペクトルアナライザーを使い高周波のスペクトルを表示すると、しっかりと統率型と戦士型を確認することが出来る。
いることは確かだが、あれから1年だからなぁ。進化しているかどうかも確認しないといけないだろう。
やはり昼と夜間の両社でジャックを使い、集まってくるゾンビを確認する手順を省くことは出来ないな。
もし少しでも変化しているなら……。
前回南に移動させたゾンビとウイチタ市のゾンビの争いでウイチタ市のゾンビが進化した可能性もありえるんだよなぁ。
早めに1度確認したほうが良さそうだ。
「上手くいけば統率型を何体か倒せるだろう。それで統率型はいるのか?」
戻って来たシグさんに、タブレットを渡して手元のノートパソコンの画像を表示させる。
「いますね。統率型だけでなく戦士型もいます。方向は東という事しか分かりませんが、シグナルが小さいですからねぇ。距離はかなりあるようです」
「これで分かるんだからなぁ……。となると、上手く運べば倒せるという事になりそうだが、我等が進める作戦の修正は必要になるのか?」
「積極的に行わなければ修正は必要ないでしょう。今夜遅くに本隊へ報告する内容に統率狩りの結果が追加されるだけです。ですが……」
統率狩りの過程で、統率型ゾンビの進化が確認された場合は少し話が異なってくるんだよなぁ。
進化の方向性が、その時の状況によって変化するというのも厄介な話なんだよね。
「一番危惧することは、彼らの移動速度です。攻撃手段は爪や腕を鋭利にしたり投射武器を持っていたりしていますが、まだ戦士型の数は全体の数の比べて2割にも達していないようです」
メデューサが人に取り着いてゾンビとなったからだろうな。その移動速度は人間の歩く速度に近いものだったが、戦士型はかなり素早く動けていた。
あれから数年が経過した状況で戦士型はかなり進化して、今では人の姿を放棄しているのだが、依然として通常型と統率型は人間の姿を保ったままだ。
さすがに顔は原型を保っていないけど2本足で歩き、腕は2本だからね。
その動きが俺達に迫るようであれば、装甲車から降車しての戦闘等自殺行為に思えてくる。
「変化は直ぐに分からない場合もあり得るという事か……」
「見極めが必要ですね。ジャックに集まるゾンビの動きは特に注意が必要です」
うんうんと頷いてくれる。
集まってくるゾンビの種類と数を確認するだけでは不十分だ。単体、全体の挙動まで十分に留意する必要がある。
2人でモニターを眺めていると、ジュリーさんが席を立って俺達にコーヒーを出してくれた。フクス内では蓋つきのカップにコーヒーを入れて飲むことになる。操縦席や通信席に座りテーブルの傍らに置いたカップのコーヒーが零れたりしたら洒落にならないからなぁ。専用のカップホルダーまで付いているんだよね。
ジュリーさんから、ありがたく受け取って状況を確認すると、すでに最初のジャックを設置して、今は2個目を移動している最中らしい。周辺監視では西の荒れ地に何体か見つけたようだが距離が離れているから、エディ達も狙撃をすることは無いと教えてくれた。
「このままなら、午前中に4個を設置出来るわよ。統率型はまだ見つけられないけど、いるのよね?」
「いますよ。でも距離が離れているようです。今回の探索で見つけられない時にはジャックの炸裂後の状況を確認する際に、ジャックの設置位置周辺を洗ってください」
「5kmは行けるのよね。それでも見つからない時は、適当に落とそうかな……」
小さな声で呟きながらジュリーさんが通信席に戻っていく。
俺達は改めて顔を見合わせ、大きな溜息を吐くことになった。
「まぁ、適当と言ってもジュリーさん視点で怪しい場所という事になるんでしょうね」
「それなりの経験を持っているという事か。後で砲弾が足りなくなるようなことにならねばそれで良いかもしれんな」
こういうのを諦めの境地と言うんだろうな。
まぁ、先は長いんだし、補給体制はしっかりと確保されているからね。大きな問題が無いなら少しぐらいの作戦修正は認めるしかなさそうだ。




