H-693 山小屋の焚火を囲んで
野ウサギ狩りをして、山小屋に戻ると子供達に折り紙とアヤトリを教える。
あまり見たことが無いだろうし、ただの紙が動物の形になるのを不思議そうな表情で見ているんだよね。自分で折る時には真剣な表情になるんだから、集中力を鍛えられるかもしれないな。
そんな折り紙がいくつも子供達のティーピーの中に吊るされているらしい。ティーピーの中央には炉があるから、少し気を付ける必要があるだろう。
メイ小母さんが確認したら、奥に吊るされているだけだから問題が無いと言っていたんだが……。
「色とりどりで華やかね。子供達の美的感覚は侮れないわ」
「クリスマスツリーほどではないんじゃろう?」
「炉の揺れる炎に照らされると、色が付いた紙の人形がまるで踊る様に見えたわよ」
珍しくメイ小母さんとキャシーお婆さんが焚火を囲んでいるんだよなぁ。今日の夕食は誰が作っているんだろう?
「似た代物を、リビングの奥に飾ってみたいものじゃな。子供達に頼めば作ってくれるかもしれんな」
「雪が強い時には子供達の遊び場になりますから、良いかもしれませんね。サミーの国でもそんな事をしているのかしら?」
「普段はそこまでしませんが……。3月3日と5月5日は子供達を祝う祭りがありますね。そうそう7月7日はもう少し大人のお祭りですし、10月の満月の日にはウサギを愛でるお祭りがありますよ……」
それ以外にもお正月や節分、花祭りやお盆もあるな。さすがに大掃除はお祭りとは言えないだろう。
「男女別に子供達のお祭りをするの? それって男女同権に反しているんじゃないかしら。4月4日に男女一緒にお祭りをすれば良いと思うんだけど」
「古来からの風習ですからねぇ。安易に変えない方が良いと思います。それに内容がかなり違いますから一緒にしたなら混乱してしまいますよ」
ひな人形と武者人形を同じ部屋に飾るというのもねぇ……。だけどひな人形ならこのリビングに飾っても様になりそうだな。
アメリカに定住した日本人の中にはひな人形やこいのぼりを持った人達がいるかもしれない。その内に見つかるかもしれないな。
「ハローインのような祭りもあるんじゃな。じゃが日本はそれほど大騒ぎにはならんのか」
「先祖の霊があの世から戻ってきますから、それを親族で歓待するのが基本ですからねぇ。静かなお祭りですよ。それにこの期間だけは殺生禁止ですから、狩も釣りも出来ないんです」
あの世から霊が全て地上に戻ることになるのだから、極楽の仏様達や地獄の極卒達も休暇を過ごせるのだろう。だけど1年で数日だけの休暇だとしたらブラック企業そのものだな。
「女の子のお祭りには沢山の人形を飾るんですね。アメリカで同じような品を手にいれるかしら?」
メイ小母さんが欲しがるのは、想定済だ。町の掃討時に探してみますと答えると嬉しそうに笑みを浮かべて頷いてくれる。
何時までも少女の心を持っているんだからウイル小父さんが羨ましく思えてしまうんだよなぁ。
「でも日本人が古くからそんな祭りをしてきたわけではありませんよ。祭りの歴史は古いですけど、それは極一部の上流階級の人達だけで行われてきたんです。一般民衆に広がったのは精々300年程前ですからね」
「産業革命以前に民衆に広がったのなら誇れるじゃろうな。ワシ等の歴史ではそこまで精錬された祭りはまだ起こらなかったじゃろう。宗教的なものは行われていたが、それは教会が行っていたことで民衆が自主的に行うものではなかったんじゃ」
外国での教会の権威は俺達には想像できないほど高いようだ。
2千万人ほどになってしまった人間世界でも依然として教会は活動している。どちらかと言うと教徒の比率が増えているのかもしれない。こんな世の中だから、少しでも心の安寧を望むんだろうな。『色即是空』と達観することは無いんだろう。
3月末ではあるが、山小屋の春の訪れはまだまだ先のようだ。
とはいえ狩りの季節でもある。春が近づいているから獣達も動き出すのかもしれない。
俺の狩りの対象は野ウサギだから、スノーモービルを駆って西の荒地で狩りをする。
獲物が獲れないということは無いから、キャシーお婆さん達が、俺の持ち帰る獲物を笑みを浮かべて受け取ってくれるんだよなぁ。
「相変わらず良い腕ねぇ。これで頼まれていた毛皮の数が揃うわ。ライルでは1日狩りをしても2匹が良いところなんだもの」
お婆さんの最後の言葉はお爺さんへの愚痴になっているんだよなぁ。
焚火の傍でパイプを燻らせていたお爺さんが咳き込んでいるぞ。
キャシーお婆さんが他の小母さんにも手伝って貰って、獲物を処理するためにリビングを出て行くのを眺めながら焚火の傍に腰を下ろす。
シグさんがコーヒーカップを運んで来てくれた。3つ持って来たのはライルお爺さんと自分の分ということかな。
空いているベンチに腰を下ろして、俺に顔を向ける。
「レディから話には聞いていたが、本当に弓で野ウサギを狩るんだな。雪の中であの白い毛皮ではさぞ苦労すると思うのだが……」
「ワシ等では2匹も狩れれば上出来じゃ。サミーは勘が良いからのう。いや、勘だけでは無さそうじゃが、それをワシが学ぶには少し遅かった気がするのう」
『目で探すんじゃない! 感じろ!!』なんて、お祖父さんが言っていたなぁ。
あの辺にいそうだ……、と目を凝らして探すといるんだよね。やはり勘なのかもしれないが、何故それが出来るのか自分でも分からない。だから教えることなど出来ないだろうな。
「兵士が一番大事にするのは自分の勘じゃ。勘は経験の積み重ねとも言われとるぞ。戦闘経験など無いサミーがそれほどまでに勘が優れているというのは、あの傭兵集団の末裔ということに関係があるのかもしれんなぁ。遺伝子に浸みこんでいるのかもしれん」
そう言って、大笑いをしてるんだよなぁ。さすがに遺伝子変異にまでは至っていないだろう。
「サミーなら、暗闇でも戦闘が出来るかもしれんな」
「さすがに銃撃は出来ませんよ。白兵戦なら何とかできそうです」
俺の言葉に2人が驚いた表情で顔を見合わせている。
冗談のつもりで言ったのかな?
「シグ中尉、確認しようなんて考えないでくれよ。暗闇ともなればサミーは手加減することなど出来そうにないからな」
きつい表情でレディさんがシグさんを睨んでいるんだよなぁ。シグさんの方が年上なんだろうから敬う必要があるんじゃないのかな。
「冗談だ。だがレディがそこまで言うと試してみたくなるな」
それこそ冗談では済まなくなる。ブンブンと音がするほどに首を振って止めて欲しいと訴えたのが面白かったのかな? シグさんが大笑いをしてるんだよね。
「エディ達の帰りが遅いようですが?」
「まだ夕暮れには程遠い。それに昼過ぎに鹿をし止めたと連絡が来たぞ。大きなヘラジカだと言っていたな」
誰がし止めたんだろう?
エディ達なら大喜びだろう。もう1頭し止めて陸上艦隊にお土産にして欲しいところだな。俺も、もう1度狩りに出掛けて野ウサギをお土産にしよう。
夕暮れ近くなると、子供達がティーピーから帰ってくる。
年長の女の子が帰り際にしっかりと火の始末をしてくるらしい。男の子の役目ではないんだな。子供達が帰ってくると、リビングの奥が賑やかになる。
七海さんも汐音達と一緒にゲームをしているようだ。スゴロクのようなゲームボードを空港の玩具入り場から運んできたからなぁ。お人形遊びを何時もするわけではないらしい。
「あの子供達の中にさらに6人が加わるんじゃな。さぞかし賑やかになりそうじゃ」
「年長者はあの輪から離れるでしょうから、それほど大人数になることはないでしょうけど、離れた子供達はどうしてるんでしょうか?」
「ワシ等の手伝いじゃな。午前中はラジオを使って勉強しておるぞ。外に小さな炉降ハウスを作ってある。そこが彼等の学校ということになるのかのう」
しっかりと監督者を付けているようだ。でも監督者がエマちゃんのお母さんのナンシーさんらしいから、きっと甘やかしているんじゃないかな。
でも成績が悪かったりしたなら、キャシーお婆さんやメイ小母さんが交代しかねない。
「オリーの話ではジュニアハイスクールまでは通信境域で十分とのことじゃ。さすがにハイスクールの年代になったなら、通信教育だけでは不足じゃろうな。その時はグランドジャンクションの寄宿舎に入ることになるんじゃが。ナタリーの例もあるんじゃよ」
ナタリーは指揮艦のテキサスでマリアンさんの従兵をしているんだよなぁ。
さすがにはイスクール卒業認定が得られるよう、リンダさんが面倒をみているようだ。
今回の休暇で一緒に戻って来たんだけど、さすがに子供達の中にはいないようだ。奥さん連中と一緒になって料理を作っているのかもしれないな。
「そうなると、男の子はライルお爺さんの手助けということになるんでしょうね」
「ああ、だいぶ車を理解しとるぞ。数年もしたなら修理工として働けるかもしれん。エンジニアは何処でも欲しがるからなぁ」
俺達の農場ではエディとニックがそれに当たるんだろうな。俺には工具すら持たせないんだからなぁ。俺だってやれば出来ると思うんだけどねぇ。
「サミーの場合は、分解専門じゃな。組み立ては絶対にやるんじゃないぞ」
「エンジンをかけた途端に分解! って奴か?」
「それなら安心なんじゃが、サミーの場合どこで分解するか予想がつかんからなぁ。人間相手に戦争をするのなら、相手国にサミーを整備兵として送りたくなるわい」
そんなこと言うから、皆が笑い出すんだよなぁ。
「人間兵器そのものという事か!」
「直ぐに戦争が終わるかもしれんぞ。サミーのような兵士が、ワシの現役時代におったなら……、たまに考えることがある」
それ程酷くはないと思うんだけどなぁ。それに部品が沢山なるんだから、2、3個足りなくても動くと思うんだけどねぇ。




