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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-683 これは長篠の合戦みたいだな


 500mほど先にゾンビの群れが蠢いている。

 特徴的な統率型の声声は今のところないけど、これからどんな変化が起こるか予想薄ら出来ない状況だ。

 少なくとも200体は超えていることは間違いないだろう。


「強襲揚陸艦から返信です。デュラハンの頭は使うべきではないとのことです!」


「了解だ。やはり酸欠の恐れが高いという事なんだろうね。ゾンビだけなら良いんだが、俺達もトンネル内だからなぁ。距離はあるけど、ここはリトルジャックとグレネード弾を使うしかなさそうだ。マスケットさん、グレネードランチャーの数は10丁ですか?」


「13丁です。HK69が3丁ありますからね。団列を2つ作りますか?」


「そうだね。持たない兵士には手榴弾を渡しといてください。攻撃型ですよね?」


 手榴弾の威力は防御型よりも攻撃型の方が威力は無いんだが、その分投げる兵士が炸裂の巻き込まれる可能性は少ない。

 ゾンビとの間にあるのが電動カートの柵だけだからなぁ。いくらポリカーボネイトの盾で防御したとしても防御型手榴弾では兵士が巻き込まれかねない。


「まだカートに乗っている盾を柵に取り着けてください。近接状態で手榴弾を使いかねません」


「了解しました。……撤退するのかと思いましたが、やるんですね?」


「狭いトンネル内に大戦力を投入できませんからね。とはいえさすがに千体を越えるようなゾンビの群れを倒そうなんて考えはありませんよ。あのぐらいなら柵があれば対処できるでしょう」


 マスケットさんの指示を受けて、兵士達が残った数枚の盾を柵に取り着けている。ほとんど床に着きそうな形で取り着けてあれば、柵のこちら側にまで破片がトンで来ることは無さそうだ。

 とはいえこれも反省点だなぁ。盾ではなくもっと厚みのある板を取り付けるべきだろう。兵士が運ぶことを想定して暴徒鎮圧用の盾を用意していたんだが、電動カートが使えるなら、もっと重い板でも運べるはずだ。


「デュラハンが戻ってきました!」


「了解だ。後方に下げといてくれ。それと小型ドローンはいつでも発進できるように準備しといてくれよ。俺達の目だからなぁ」


 後方から「了解!」という声が返ってきた。

 さて、そろそろ始めるか。その前にエメルダさんに攻撃を始めることを伝えると、状況を逐次知らせるよう指示を受けた。

 念の為に、西のトンネルを進んでいるジョルジュ中尉にも状況を伝えると結構驚いているんだよなぁ。


『破られそうな時には直ぐに連絡してくれ。昇降台を使って直ぐに撤退するからな』


「その時には迅速にお願いします」と答えたところで、トランシーバーのマイクをバーネストに手渡す。

 顔をマスケットさんに向けて小さく頷くと、すぐに「リトルジャックを作動させろ!」と指示を出した。


 耳を澄ませると、トンネルの奥から小さくブザーの音が聞こえてくる。

 ゾンビの群れから50mほど手前だからなぁ。直ぐにゾンビ達が動き出すに違いない。


「盾を仕掛ける際にクレイモアを2つ仕掛けておきました。トンネルの左右の壁に奥に向かって斜めに設置しましたから、こちらに鉄球が飛んでで来ることは無いでしょうし、グレネード弾で破壊されることは無いでしょう」


 柵の奥30m付近に仕掛けたらしい。耳栓を用意しておいた方が良さそうだな。マスケットさんに話をすると、笑みを浮かべてヘルメットの耳付近を指差した。

 紐の付いた耳栓が見える。既に準備は出来ているという事なんだろう。俺はヘッドホンで十分だ。


 ヘッドセットに取り付けられた集音装置でトンネルの奥を探る。

 ブザーの音がキャンセル出来れば良いんだが、結構大きく聞こえるんだよなぁ。帯域は2万Hz以上なんだが、高周波ノイズもかなり発しているらしい。


「先ほどよりこっちに近付いているね。もう1つリトルジャックがあれば誘導できるんだが……。マスケットさん、部隊内で向う見ずと評判の兵士を2人選抜してください」


「それなら……、ハンク! ネルソン! ちょっと来てくれ!!」


 後方に向かってマスケットさんが名前を呼びあげた。

 直ぐに2人の兵士が走り寄って来た。海兵隊の教科書に使えそうなマッチョな2人だ。手に持つM14ライフルが子供のオモチャに燃えてしまう。


「この2人ですね」


 マスケット少尉の言葉に、近くにいた軍曹達も頷いているんだよなぁ。札付きってことかな?


「2人にお願いがある。現在リトルジャックが作動中だ。音が止んで炸裂したなら、ここを出て、リトルジャックに集まっているゾンビ達にグレネード弾を放って欲しい。発射したら50mほど後方に下がって再び発射。都合3度発射したなら、全速力で戻って欲しい……」


 俺の言葉にマスケットさんが目を丸くしているんだよなぁ。軍曹は苦笑いを浮かべているし、2人の兵士は目を輝かせている。


「それを私達に! 了解しました。私達の銃にはM203が付いていませんから、ヘッケラーを持っていきます。でも3度で良いんですか?」


「それで十分だ。各位置で2度放つんだからね。あまり使付きすぎないでくれよ。それとグレネードは交互に撃って欲しい。それとスタングレネードを2本持って行け。スタングレネードの音は大きいからなぁ」


「たぶんゾンビの大群が押し寄せてくると思います。行ってきますから、しばらくはここをお願いします!」

 2人を率いて柵に向おうとした俺達を、「ちょっと待ってください!」とマスケットさんが慌てて引き止める。


「あまりにも危険な行為に思えるのですが?」


深刻そうな表情で俺に顔を向ける。


「危険ですよ。でも先ほど言った通りに、行動するならそれほど危険ではありません。まだ見ぬ戦士型がいたなら少し考えないといけないんですが、この基地にいるゾンビはそれほど進化していませんからね」


 スタングレネードを遠隔起爆出来れば良いんだけどなぁ。

 これもメモに残しておこう。オットーさん達なら簡単に作ってくれそうだ。


嬉しそうな表情をしている2人の兵士に頷くと、肩手を上げてマスケットさんから離れて柵を越える。

 直ぐ後ろから2人の兵士の足音が聞こえてくる。

 振り返って、少し歩くペースを落とすから足音を立てないようにと指示を出した。


 直ぐにデュラハンが見えた。

 デュラハンが蛍光ライトを落としてくれているから、トンネル内がぼんやりと見える。視認距離は50mにも満たないけど、後ろの2人はスターライトスコープを付けているから俺より周囲を良く見てくれているはずだ。


 突然後ろから肩を掴まれた。

 その場で足を止めると、兵士の1人が前方に腕を伸ばす。

 ゾンビが見えたということかな?

 暗がりで何かが動いているように見えるのがゾンビの群れだということか。


「俺には良く見えないんだが、あの中にリトルジャックがブザーを鳴らし続けている。この先50mというところだろう。一旦、ゾンビを視認できない位置まで戻るぞ!」


 まだブザーが鳴り続けているが、それが停まったなら15分後に炸裂だからなぁ。炸裂に巻き込まれたくはないからね。

 後方に20m程下がると、スターライトスコープを使ってもゾンビを確認できなくなった。

 ここで時を待とう……。

 トランシーバーで、待機しているとバーネストに伝える。炸裂と同時に予定通りドローンでの状況監視をするよう伝えて、3人で壁に背を付けてタバコに火を点ける。

 あのブザーの音が鳴り止まない中なら、ここにゾンビが来るとは思えないからね。

 とはいっても、背中のマーリンを下ろして膝に乗せている。

 中には俺に似て、少しへそ曲がりなゾンビがいないとも限らない。


 唐突にブザーの翠明が止まった。

 南の方から小型ドローンがトンネルの天井付近を北に向かって飛んでいく。

 数分も経たずに、トランシーバーの着信があった。

 バーネストからだな。話を聞いてみると、統率型や戦士型の声が確認できたとのことだ。

 しっかりと録音されているらしいから、後で確認できそうだな。


「それでゾンビの状況は?」


『その場に留まっています。だいぶ集まっていますね。最初に集まっていた場所はトンネルの南にあった広場のような場所ですが、兵士の休憩所は確認できません。そこからジャックの設置位置まで移動しています。後10分足らずで炸裂しますが、そこは安全なんでしょうね?』


「少なくともリトルジャックを視認できない場所だ。それにゾンビが重なっているだろうから、ゾンビが盾になってくれるに違いない。炸裂後に行動に移るよ。そちらに誘導するから準備は頼んだぞ!」


『既に完了しています。エメルダ中佐が待機分隊の1班を派遣してくれました。全員M203 を装備しています』


 グレネードランチャーがさらに増えたのか。それなら何とかなりそうだな。

 時計を眺めながら、炸裂を待つ。

 10秒前に耳を塞いで下を向いたんだが、ちょっと大げさだったかな。

 聞こえてきた炸裂音は、思っていた程大きくは無かった。

 

 さて行動開始だ! 

 立ち上がってマーリンを構えてゆっくりと前進する。

 ゾンビの騒めく声がどんどん大きくなる。

 突然兵士が前に出ると、俺の前に腕を伸ばして足止めしてくれた。

 

「前方50m程に群れています。これ以上は危険です!」


「なら、ここで始めよう。撃ったら一目散に後方に走るぞ。30m走って再びグレネードを放つ。走りながら装填してくれ!」


「了解! 俺に会わせてくれよ……、3……2……1……発射!」


 軽い発射音が重なる。炸裂を確認する間も無く、俺達は南に向かって走り出した。直ぐに後方から炸裂音が聞こえてきた。

 少し下がったところで足を止め、再びグレネード弾を放つ。

 放ったところで再び駆け出した。


 3度目のグレネード弾発射を終えて駆け出すと、前方に柵が見えてきた。

 これで上手く誘うことが出来たなら良いんだけどなぁ。


 柵の扉を通ると直ぐに扉が閉められる。後方で息を調えていると、バーネストが俺達にコーヒーの入ったカップを渡してくれた。ありがたく頂いて直ぐに飲んだんだけど……。やはり俺には濃いんだよなぁ。首が横に向いてしまう。


「上手く行きましたか?」


「確認しないで逃げ出してきたからなぁ。ドローンで確認してくれないか?」


 コーヒーに水筒の水を入れて薄めると、キャンピングカートの後ろに移動してモニターを眺める。

 小形ドローンが直ぐにゾンビの姿を映し出したところを見ると、誘いは上手くいったということなんだろう。


「直ぐにやってくるぞ! マスケットさん上手く倒してくださいよ!!」


「あの柵越しですからねぇ。上手く出来で当たり前という事でしょう。……、そういうことだ。ライトを全て点灯する。姿が見えたなら直ぐに撃って、後方に下がって装填だ。それを繰り返すぞ!」


 電動カートに取り付けたライトが点灯すると、トンネルが遠くまで見通せるようになった。それだけではない。そこに押し寄せてきたゾンビの姿がはっきりと浮かび上がった。


「前列、放て!」


 マスケットさんが大声で指示を出す。

 まるで長篠の合戦のようだな。撃っては後方に下がり、次に控える兵士が柵に取り付いてグレネード弾を放つ……。それが何度も繰り返されるから、トンネル内はグレネード弾の炸裂音で話声などまるで聞こえなくなってしまった。

 たまに銃声が聞こえるのは、柵付近にまで足を運んだゾンビがいるからだろう。

 それ程頻発した銃声ではないから、このまま推移するのであれば問題は無さそうだ。


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