H-675 デュラハンの出番が来た
車庫と格納庫が2つ、それに整備工場のゾンビを掃討して斜路のあるビルに戻るとエメルダさんから指揮所へ出頭するよう連絡が入ってきた。
暖かい夕食が頂けると思っていたんだけどねぇ。
何だろう? と首を捻りながら副官のバーネスト准尉を伴って指揮所へと向かう。
入口にある事務所を指揮所にしたみたいだな。
俺が部屋に入ると、直ぐにカミラさんが俺達を奥の部屋へと案内してくれた。
かつては所長室だったようだが、今は2つのモニターと通信機が置かれている。
ここが指揮所の中枢と言うことなんだろう。
エメルダさんは……、ソファーセットでコーヒーを飲んでいた。
「見つけたわよ。そこに座ってくれないかしら」
低いテーブルに置いてあったノートパソコンを操作して俺達に見せてくれたのは、通路の途中に置かれたロッカーの後ろに隠された階段室だった。
「間違いなく地下通路に違いないわ。奥からゾンビの声がするというので直ぐに塞いだの」
「その時の音声記録がありますか?」
「共通ファイルの02001にあるわ」
直ぐにバーネストがフレームパックを下ろし、ノートパソコンを取り出した。ファイルを見付けたところで、俺の前にノートパソコンを置いてくれた。
音声スペクトルを表示させながら、ゾンビの声をヘッドホンで聴いてみる。
「何種類かいるようですね。塞いだ場所には兵士を待機させておいた方が良さそうです。通常型に統率型、戦士型が小さく聞こえますが、これは距離があるということなんでしょう」
「突入は無理かしら?」
奥の方にかなりいるようだからなぁ。直ぐに突入は無理だろう。
とりあえず首を振ると、エメルダさんが残念そうな顔を見せる。
「こんなこともあろうかと用意したドローンを使いましょう。デュラハンなら階段を降りることができますし、爆弾を置いて帰る事も可能です」
「ドローンを此処で使うのね! なら準備させないと……」
エメルダさんが機嫌を直して強襲揚陸艦に連絡を始めた。
テーブルの上に灰皿があるのを見て、タバコに火を点ける。
そんな俺達にカミラさんがコーヒーを運んでくれたから、ありがたく頂くことにした。
「直ぐに運んでくれるそうよ。届き次第強襲揚陸艦から操縦してくれるから、ここで指示を出して欲しいとのことだけど、それはサイカ大尉に任せるわ。でも直ぐ始めなくとも良さそうね。時間的には1930時でどうかしら?」
腕時計を見ると、18時を過ぎたばかりだ。これなら夕食をゆっくり取ることも出来るだろう。
「食事が取れますね。それと研究所から派遣された彼にも同席して貰いましょう。新たなゾンビが現れないとも限りません」
「それなら私達も一緒に夕食を取りましょう。個々のモニターも少し大きくした方が良さそうね。それは工兵部隊に頼んでおいてくれないかしら?」
カミラさんが頷いているから、ここで大きな画面で地下トンネルの様子を見ることが出来そうだな。
カミラさんがトランシーバーでモニターの更新を依頼し終えたところで夕食を取りに向かった。食堂は俺達が最初にゾンビを掃討した車庫に作ったらしい。
組立式のテーブルでエメルダさん達と一緒に食事をとる。
香辛料の効いた具沢山のスープを飲むと体が熱くなるんだよなぁ。かなり胡椒を入ら手あるに違いない。
食後の飲み物はココアをチョイスした。これで胡椒の影響を緩和できるだろう。
半分ほど飲み終えたところに現れた防寒服の青年がメイガンさんの助手に違いない。
俺の傍にやってくると、目を輝かせているんだよなぁ。
「出番が来たと聞いたんですが?」
「ゾンビを倒しに行くわけではないから、背中のショットガンは置いて来ても大丈夫だ。これから地下トンネル内の偵察をドローンで行う。新種が出てくる可能性もあるからなぁ。君の手助けが欲しいんだ」
一緒に出掛けることでは無いと聞いて、曇り掛けた表情が俺の最後の言葉で笑みに変わった。
根っからの研究員なんだろう。生物学研究所への情報提供は彼に任せられそうだな。
夕食を終えて管制事務棟に戻ると、エントランスの端にデュラハンが待機していた。
俺達の作戦開始の合図を待っているのかな?
フル装備のデュラハンは背中に小型のドローンが1台、それに中継用のブースターが1個乗せてある。お腹にあるのはリトルジャックのようだ。頭部に見えるスイカ程の大きさの物体は炸裂焼夷弾……、結構物騒なドローンになってしまったな。
指揮所奥の会議室に向かうと、ソファーセット近くの壁に40インチのモニターが新たに設けられている。
ソファーに座りノートパソコン開く。准尉もタブレットを取り出している。足元にフレームパックを置いてくれたから、通信機を介してノートパソコンでデュラハンからの情報を直接確認できるようにしておく。
準備が出来たところで、エメルダさんに視線をむけ小さく頷くと、エメルダさんが他の連中の準備の状況に視線を向けた。
「さて、準備は出来たみたいね。階段室の出入り口は開放して、1個分隊を配置しているわ。カミラ、強襲揚陸艦に作戦開始を伝えて頂戴!」
40インチモニターに、階段室前で待機していた兵士のヘルメットカメラからの映像が届く。
エントランス方向からゆっくりとデュラハンが歩いてくる。
大型犬よりも一回り大きいんだよなぁ。それに6本足だから、ちょっと異様な姿だ。
「面白い動きね。動物というよりもカブトムシに見えてしまうわ」
「6本足だからでしょうね。4本足では階段を上手く下りられないそうです。ジャイロを使って姿勢制御を行うより常に4本の足で体を保持していた方が、制御が楽になると言ってました」
「惑星探査機を作っていた人達らしいわね。姿よりも機能を優先するという事なんでしょうけど……。あの姿に合うような着ぐるみを作ってみたくなってきたわ」
子供達を乗せて広場を動かそうというのかな?
それも面白そうではあるけど、この部隊の運用が終わってからも活用できそうだ。子供達が大喜びするんじゃないか。
タバコに火を点けて、大型モニターに映し出されたデュラハンからの映像を眺める。
階段室の入り口から投げ入れた蛍光ライトの光で高感度カメラが前方を明瞭に映してくれている。さすがにカラーではないんだが、ゾンビをカラーで見たいとは思わないからなぁ。
「もうすぐ階段が終わるわ。 地下10mという事かしら?」
「気圧高度計でしょうから、あまり正確ではなさそうです。でも途中に階段の踊り場が3つありましたから、ほぼそれに近い値でしょう」
エメルダさんの呟きに、カミラさんが言葉を繋いだ。
さすがに階段の数は数えていないようだ。とはいえ、地下10mというのはトンネル自体の強度もあるだろうから爆弾の直撃にどうにか耐える深さという事なんだろうな。
階段が尽きると、前方にトンネルが続いている。直線だけど、さすがに奥が見えないんだよなぁ。
そんなことを考えていると、画像が変化した。
赤外線投光器を作動させたらしい。画面が白黒映像になったけど、やはり奥は見えないから結構長いトンネルという事になるんだろう。
「このままトンネルを進ませましょう。デュラハンの作動時間はどれほどあるのかしら?」
「仕様で6時間ですね。既に20分を経過していますから、このまま探索を2時間程続けられるでしょう」
「なら行けるところまで行ってもらいましょう。速度はゆっくりでいいわね?」
俺がヘッドホンを付けようとしているのを見てエメルダさんが問いかけてきた。時速2kmほどならデュラハンの駆動音は小さいから、ゾンビの声を聞くには十分だ。
「お願いします。奥に何体かいるようですね。通常型です」
カミラさんがヘッドセットを付けているのは、強襲揚陸艦の操縦者と連携を図っているからだろう。
操縦者との連携は今のところ問題無さそうだ。
運ばれてきたコーヒーを飲みながら、ノートパソコンに表示された音声スペクトルに目を向ける。
小さい反応が色々とあるんだよなぁ。このトンネルに繋がる他のトンネルもしくは部屋に戦士型や統率型がいるという事だろう。
ゆっくりとデュラハンが通路を進んでいく。
40インチのモニターの左下には、階段を降りてからの進路がマッピングされている。右上に映し出されたいくつかの数字は、時刻と酸素濃度それに階段を降りてからの距離のようだな。
「酸素濃度は問題なさそうですね……。有害ガスは?」
「炭酸ガス濃度も地上と替わりません。ニューヨークの地下鉄構内のように硫化水素がありそうですが、現状では検出河岸地以下です」
俺の呟きに、バーネスト准尉が大声で答えてくれた。
掃討時にガスマスクは必要なさそうだな。とはいえ、定期的に確認しておいた方が良さそうだ。
「トンネル内のガス濃度に変化があれば教えてくれ! さて、最初の扉が見えてきたぞ」
最初の扉は右手にあった。
直ぐ近くにテーブルが倒れているところを見ると、なにがしかのセキュリティチェックが行われていたのかもしれない。テーブルの近くに引きちぎられたインターホンが転がっているぐらいだからなぁ。
「警備兵に詰め所でしょうか? デュラハンを扉に近付けてくれませんか? 中の声を確認します」
デュラハンが扉に近付くと、触手のような集音装置が扉に延びていく。先端が2つに分かれて20cm程の距離を取ることで立体的に音を捉えることが出来る。
ヘッドホンからの音を聞き入ってみたが、扉の中から聞こえては来ない。その場でトンネルの奥に体を向けて貰うと、しっかりとゾンビの声が聞こえてくる。
「デュラハンを使ってこの扉を開けられますか? 中にゾンビはいないようです」
今度は右前足が伸ばされ、先端に3つのカギ爪が現れた。
あれで挟んで開けるという事かな?
様子を見ていると、結構器用にドアノブを掴んでいるんだよなぁ。そして扉が開かれた……。
「詰所のようね。誰もいないし、テーブルにも何も乗っていないわ。ファイルぐらいはあるんじゃないかと思って尾たけど」
「もっと良い物がありますよ。左手の壁に貼ってあるのは地下トンネルと施設の配置図ではないんでしょうか?」
デュラハンを部屋の中に入って貰い、壁に貼られた図を写して貰うと、間違いなく配置図だな。
これで少し探索が容易になったぞ。さすがにこの配置図にまで隠蔽はしないだろう。
「役立ちそうだけど……、こことここでトンネルが消えているわ。この先はここに詰めた警備兵の担当外という事なんでしょうね」
トンネルの先にあるのは2つの兵員室と会議室。それに通信室と指揮所、後は倉庫やサニタリーだ。通路奥の左手に向かうトンネル2つが途切れている。突き当りが壁では無いようだから、その先は北の森に地下にある施設へと繋がるトンネルがあるんだろう。
「部屋名がしっかりと書かれた部屋を確認しましょう。左に向かうのはそれからで良いわ」
エメルダさんの言葉に、デュラハンを再びトンネルの奥へと向かわせることにした。
次は左手だな。先ほどの配置図では兵員室と書かれていた。
配置図に描かれた部屋の大きさは警部塀の詰め所の10倍程もある。何体かのゾンビはいるに違いない。




