H-671 斜路に繋がるだけあってエントランスにゾンビが沢山いる
管制事務建屋と管制塔のゾンビの掃討を終えたところで、次の目標である南のビルの情報を集める。
強襲揚陸艦に依頼して、汎用ドローンにて窓越しにビル内の部屋の配置と家具の状況、それにゾンビの数と声を確かめる。
ドローンの操縦は強襲揚陸艦で行うことになるが、その画像は通信装置を介して俺達が持ち込んだ16インチのモニターにも映し出されるし、ゾンビの声も聴くことが出来る。
「かなり面倒ですね。状況を整理してみましょう」
事務室にあったホワイトボードに、ドローンから得られた情報をどんどん書き込む。
バーネスト准尉にはアニメーターの素質があるようだ。ビル1階の部屋の配置と家具の転倒状況を上手く描いてくれるんだよなぁ。
「事務棟かと思っていたのですが、これは軍属が経営する小さなデパートですね。3階建てですが、1階と2階は店になっているようです。3階は倉庫と事務室でしょう。階段が2つにエレベーターが2つ。その内1つは貨物を運べるように大きいですね」
「出入り口がビルの左になっているのは、そのまま進むと地下通路があるためでしょう。買い物をしなければ、そのまま住宅地に歩いて行けます」
面白い構造だな。幅が狭くて奥行きの長いエントランスの見えてしまう。
地下通路の横幅は、ドローンの画像解析で4.2mとのことだから小さな自動車ならそのまま進んで行けそうだ。天井高さも3m程あるようだからなぁ。これを水没させるとなるとかなり時間が掛かりそうだ。
「さすがに1個分隊ではこのビルに突入するのは無謀でしょう。このビル内のエントランスと地下通路に見えるだけでもゾンビの数は30体を超えていますし、隣接した売店にも数十体のゾンビが動いています。カウンター越しではありますが、売店への入り口は通路に沿って3つもあります」
さてどうするか……。
とりあえずコーヒーでも飲んで頭を休めよう
「中佐殿の方にアイデアは無いかな?」
タバコに火を点けて一服を始めたところでジョルジュ中尉に問い掛けた。
ちょっと首を傾げたジョルジュ中尉が俺に顔を向けて首を振る。
「現場に任せるとのことでした。協力は惜しまないとも言っていましたよ」
「どう考えても、方法は2つだけだね。強行するか、それともゾンビを別の場所に誘導するか……」
「誘導ですか……。ジャックを2度仕掛けてごらんのとおりですからねぇ。あの数を減らすのはかなり時間が掛かりそうですし、通路内のゾンビが未知数ですからどんどん数を増さないとも限りません」
「こっちじゃなくて、住宅地の方に仕掛けるんだ。そうすれば地下通路のゾンビは南に移動してくれるんじゃないかな。それと、汎用ドローンを使って通路の奥にジャックを仕掛ける。此処にあるスロープから奥に100m程離れた位置で作動させれば、1階のゾンビも移動してくれそうに思えるよ」
ジャックの炸裂と同時に1階の掃討を始めれば、少なくとも現状の半数程度を相手にするんだから、危険度はかなり低下するに違いない。
「突入は、2手に分けて行えばいい。1隊はゾンビの掃討。もう1隊はこのスロープにガラクタを積み上げて地下通路から出てくるゾンビを阻止する」
ガラクタを短時間で積み上げねばならない。
どうやって行うかを悩んでいると、兵士の1人がモニターの一角を指差した。
「これって荷物運搬用のカートですよねぇ。これにガラクタを積んでスロープに持って行けば、転がっていくと思うんですが……」
皆が感心したように頷いているんだよなぁ。そのままどこまでも転がっていくんじゃないかという心配する兵士もいたけど、カートに紐を付けてある程度進んだら紐を引いて転倒させるというアイデアが出てきた。
少年時代にどれほど腕白で周囲を困らせていたか想像できるんだよなぁ。
ありがたくアイデアを頂いて、準備を始めることにした。
ジョルジュ中尉が中佐に連絡して、此方の準備が整い次第住宅街の地下通路出入り口付近に設置するノイズマシンを作動して欲しいと再度連絡している。
それにしては少し長い通信のようだ。聞き耳を立てると、此方の作戦を説明しているようだな。エメルダさん達も案外皆で対応を考えていたのかもしれないな。
「中佐殿の了解を得られました。先ずはカートを準備させます。汎用ドローンの操縦を行える兵士をこちらに送ってくれるそうですから、地下通路の奥にジャックを仕掛けて貰いましょう」
やはり汎用ドローンの操縦者を養成しておいた方が良さそうだな。それほど難しくはないらしいから、この作戦が終了したら訓練して貰おう。
装備の確認をしながら準備が終わるのを待つ。
ついでにコーヒーを沸かして、カロリーバーを食べることにした。これから戦闘だからねぇ。夕食ではなく夜食になりそうだ。その前に少しカロリーを補給しておかないといけない。
準備が整った時には17時を過ぎていた。周囲は真っ暗だ。
2月だからなぁ。かなり冷え込んでいる。
サイト―さんに軍曹と伍長、それに俺の4人が先行する。
ビルの1階にはかなりのゾンビがいることが分かっているけど、扉付近にいると面倒だし、統率型や戦士型が混じってるかどうかも確認しておかないといけない。
ビルの入り口扉はガラス扉だが、ドアクローザーが付いているようだ。ゾンビの襲われてもガラス扉が破られていないということは強化ガラスなのかもしれない。
ビルの中は真っ暗だな。扉越しに座り込んでゾンビの声を聴く。
准尉の描いた概略図を頭に浮かべながら、ゾンビの大まかな位置を確認する。
ある程度分かったところで、サイト―さんと交代する。
サイトーさんが俺達の所に下がってくると、メッセージボードに簡単な配置図を描いてゾンビの位置を落とし込む。
「こんな感じですね。サイカ大尉の方で付け足すことがありますか?」
「良く出来ているよ。俺もこの位置で良いと思う。あまり昼から動いていないようだね。問題は、斜路に向かうエントランスに20体近くゾンビがいるってことだな。しかも動いてるんだからねぇ。こっちのゾンビは店の中だから、直ぐにエントランスには出られないだろうね」
「作戦を練り直しますか?」
「いやこのまま進めよう。先ずはジャックを仕掛けるぞ」
ジョルジュさんに連絡を送って、汎用ドローンを使ってジャックを仕掛けて貰う。
ドローンが発光ダイオードを点滅させながら近づいて来たので、棒を使って扉を開ける。
ゾンビが飛び出してくるようなら、直ぐに軍曹が銃撃することになっていたんだが、上手い具合にゾンビが扉に近付いてくることは無かった。
斜路の先100m程に仕掛ける筈だから、直ぐに戻ってくるだろう。
それまではここで待機しないといけない。
10分も経たずに、エントランス奥から汎用ドローンが戻ってきた。再び扉を開けてドローンを回収し、ジョルジュさんに住宅街のノイズマシンの作動をエメルダさん達に連絡して貰う。
「後は踏み込むだけですね。……ほら、やってきましたよ!」
軍曹の声に後ろを振り返ると、ジョルジュさん達が身を屈めながら近づいてくる。その後ろにはガラクタを乗せたカートが続いている。
ガラガラと音を立てているのが気になるところだ。
思わずガラス扉の奥に聞き耳を立てたけど、扉の密閉性が良いのかゾンビの動きに大きな変化はないようだ。
軍曹がカートをゆっくり運ぶように連絡しているところを見ると、やはり軍曹もカートの音が気になっていたようだな。
ジョルジュさんが手招きしているのを見て直ぐに駆け寄ると、1階の略図を広げている。
サイト―さんを呼び寄せて状況報告をして貰い、その後で俺が補足する。
「サイト―も一人前だな。ノイズマシンは作動しているよ。地下通路のある建物から続々とゾンビが出てくるとの事だ。こっちのジャックもそろそろ作動させてみるかい?」
「そうですね。エントランスにかなりゾンビがいますから、彼等も地下通路に向わせたいですね。それと俺はスターライトスコープを持っていないんですが、スターライトスコープでガラス戸越しにエントランス内のゾンビを見ることは出来ますか?」
「出来るはずだ。軍曹、使わなかったのかい?」
「失念してました。聞くよりも見る方が確実です。ジャックを作動させたら直ぐに状況を確認します」
「そうしてくれ。それとさっきの連絡はありがたかったよ。カートの速さで音があれほど違うとは思わなかったなぁ」
失敗を責めるのではなく、その後の対応で挽回して貰おうというのかな。その上でちょっとした礼を言うんだから、軍曹の士気は上がるだろうな。
そんなことが自然に出来るのが士官ということなんだろうけど、俺にそんなことが出来るのか考えてしまう。
「上手くエントランスからゾンビが移動してくれれば助かるんですが、ジャックが作動して30分経過してもエントランスに残っているゾンビは銃撃で倒すことにしましょう」
「いつまでも待てないからね。それで行こう。それではジャックを作動させてくれ! ……30分後に突入だ! それまで北壁に張り付いているしかないな。周辺の監視はマスケット少尉達が行っているから、一服するぐらいは構わんぞ!」
結構冷えるんだよなぁ。さて俺は軍曹のところで様子を見よう。スターライトスコープは無いけど、集音装置があるからエントランスの中の様子が少しは分かるかもしれない。
「ジャックを動かしたそうですが、どんな具合です?」
「突然ゾンビが南に動いたのはそういう事でしたか……。ゆっくりと斜路を降りて行きますね。エントランスだけでなく、売店の中からも出て来てますよ」
30分でその流れが止まれば良いんだが……。
ジャックの作動時間は最大で40分だからなぁ。状況次第では少し突入を伸ばした方が良いのかもしれない。
10分毎に状況を連絡して欲しいと軍曹に頼んで、ジョルジュさんの所に戻った。
戻った俺に、准尉がコーヒーの入った紙コップを渡してくれた。
一口飲んでみると、結構苦いんだよなぁ。それでも砂糖が入っているらしく少し甘味も感じられる。
少しずつ飲んでいよう。とても一息に飲める代物ではないからねぇ。
「斜路に向っているようです。店の中のゾンビも移動しているのは想定外でした」
「1階のゾンビの数が減るなら大成功と言って良いんじゃないかな。後は残ったゾンビを狩るだけだからね。エントランスのゾンビを倒したところでカートで斜路を塞ぐ。同時に店の中のゾンビを狩ればいい」
「店のゾンビを倒したところで、その辺のガラクタを斜路に投げ込んめば封鎖の完成ですね」
「その後は、1個分隊を地下通路を任せて、私達は上階を目指す! 上手く行けば日付が変る前にビルを奪回できるんじゃないかな」
「3階建てですからねぇ。とはいえ時間はあまりかけたくありませんね。サイト―上等兵の耳は確かですよ。彼女に2階を任せて俺が3階に向かうということも出来そうです」
「時間が掛かりそうな時にはお願いするよ。それと監察官達がやってくるそうだ。邪魔になるようならエメルダさ中佐が直ぐに引き戻すと言っていたよ」
少し離れて見ているだけなら実害は無いんだけどねぇ。
さてどうなるんだろう?
タバコに火を点け一服を始めると、点滅する明かりが近付いてきた。
監察官達の搭乗したヘリだろうな。せっかく来るのなら何か頼んでおくべきだったかもしれないな。




