H-668 予定通り明日作戦を開始する
昼食を終えて、揚陸部隊の居住区画にある会議室に向かう。
扉を開けて、先ずは敬礼。
だいぶ慣れてきたけど、いまだに俺の敬礼を見て苦笑いを浮かべる士官達がいるんだよなぁ。ぎごちなさがどうしても抜け切れていないようだ。
空いている席に座ると、少し遅れて副官のバーネストが入って来た。しっかりした敬礼に皆が頷いているのは、そのまえのおれの敬礼姿を思い出しているに違いない。
テーブルを回るように歩いてくると俺の後ろに座る。窓際に副官用の席が置かれていたからだろう。
更に数人が会議室に入って来たところで、カミラさんがエメルダさんに視線を向けて頷いた。カミラさんは副官だけど、俺達の座るテーブル席に着いている。
エメルダさん直属の副官だからだろう。それに手元にタブレットを置いているところを見ると、テーブルの横にある大型モニターの操作担当だからかもしれない。
「さて、全員揃ったわね。いよいよ明日に作戦を始めるわ。実戦訓練という事で監察部隊が1個分隊程私達の周囲を動くのは諦めるしかなさそうね。でも、万が一の事態で彼らを保護する必要がない事を確認しているし、邪魔に思えた場合は『退け!』と指示すれば後退してくれるわ。階級的にそんな指示を出したなら懲罰問題になりそうだけど、作戦進行の邪魔であれば問題ないと本部長の言葉質を取ってあるわ。先ずはこれを見て頂戴!」
カミラさんがモニターに画像を映し出す。
どうやら汎用ドローンでジャックを仕掛けたようだ。
モニター画像が2分割されて片方にはドローンの映像が、もう片方は衛星画像が拡大され手仕掛けたジャックの位置が赤い輝点で表示された。
作業は1時間程掛かっているのだろうが、モニター画像は編集されているから10分ほどで作業が終了している。
いつの間にかテーブルにコーヒーを入れたマグカップが置かれていた。角砂糖が2個スプーンに乗っているのは俺だけだな。2人程スプーンに角砂糖が乗っているけど、その数は1個だけだ。
マグカップに角砂糖を入れてスプーンでかき混ぜる。少し馴染んでから飲もう……。
「次に作動前後の画像を映すわ。ちょっと意外な感じがするのよねぇ……」
エメルダさんが意外だと思ったのはどういう事だろう?
ジッとモニターを眺めて推移を見つめる。
ジャックに集まったゾンビの数は数十というところだろう。少し数が少ないんだがあまり大きな町とは言えないからなぁ。
仕掛けたジャックを1つずつ映し出して行ったところで、思わず目を見開いた。
町のはずれ近い場所に仕掛けたジャックに集まったゾンビの数が今までと違って2倍程になっている。
隣の全体画像を見て、仕掛けられた位置の状況を確認する。
……そう言う事か!
エメルダさんに顔を向けると、俺の視線に気が付いたのか小さく頷いてくれた。
「ジョルジュ中尉、この意味が分かるかしら?」
「町のゾンビがこの地域に移動しているという事になるのでしょうか? ちょっと判断できかねます」
「サイカ大尉は理解したようね。皆に教えて頂戴」
俺に振られてもなぁ……。とりあえずカミラさんからレーザーポインターを借りると、2分割されたモニター画面を全体画像に切り替えて貰った。
「町のゾンビが特定か所に移動することは、これまでに何度も経験しました。その後多くはゾンビの集団移動が伴います。ですが今回は他の地域に仕掛けたジャックにもそれなりの数が集まっているようですから、集団を作っての移動が始まる前兆とは言えないでしょう。もう1つ考えられるのは、この区域にだけ他の区域からゾンビが集まれる、もしくは住宅街のはずれに見えますが、その地下に地上よりも大きな空間があると考えることが出来ます。とは言え住宅街ですからねぇ、地下施設を作るようなことは無いでしょう。となれば他の地域から移動できる手段がこの区域にあるという事になります」
「たぶん、それが正しいと私も思うわ。この町の住人のほとんどが基地で働くかもしくは軍人家族であったはず。冬場に基地へ移動する方法として地下トンネルが作られているのかもしれないわね。その位置が分かるかしら?」
この辺りの住宅に、住宅と異なる建物を見つければ良いんじゃないかな。基地の方は町に一番近い建物のはずだから、この大きな建物に違いない。
「これかもしれませんね。四角な建物で、駐車場が広いです。それに何体かゾンビがいるようです」
「この駐車場にジャックを仕掛けてくれない。ゾンビがこの建物から出てくるようなら、地下トンネルの出入り口とみて間違いなさそうね」
エメルダさんの指示を受けて、すぐにカミラさんが艦内通話機を使ってどこかに連絡を始めた。
1時間ほどで結果が分かるに違いない。
「地下トンネルであるなら、水没を行ってみますか?」
「そうね。早速工兵部隊の出番が来るけど、水の投入を市街地から行うのは危険でしょうね。だいぶ砲爆撃は行ってはいるようだけど、かえってどこからゾンビが出てくるかわからなくなっている状況よ。基地のゾンビを掃討しながら、地下トンネルの位置を確認して基地側から水攻めにしましょう」
いよいよ消防車の出番だな。強襲揚陸艦に2台搭載してきたらしいけど、基地にだって自衛消防部隊はあっただろうから更に数台を投入できるだろう。
「まだ町にはゾンビがいるんだけど、明日の0800時に、ノイズマシンを使って町のゾンビを移動すると言っていたわ。我々は0930時より作戦を開始するから、作戦の陽動という分には問題は無さそうね。さて、次は基地内のゾンビの状況よ」
今度は基地内に仕掛けたジャックの炸裂時の様子が映し出される。
基地内の東西南北にある大きな建物付近に仕掛けたようだ。
さすがに集まるゾンビの数は少ないな。だけど一か所だけ100体近いゾンビが集まった場所はあった。
位置を確認すると、南にある町に一番近い建物だ。
やはりこの建物の地下に問題のトンネルがあるのだろう。
俺達が最初にゾンビを掃討する管制事務所の建屋とは300m程離れている。
あまり音を立てないように管制事務所を制圧すれば、ゾンビが集まって来ることはないだろうが、備えは必要だろうな。
それに作戦開始までの間に、ジャックをこの建物近くに仕掛けて中のゾンビの数を減らすのも有効だろう。
「後ろが気になりますね。降下前にジャックを作動させましょう。0930時が作戦開始ですから、その2時間前に作動させたいです。さらに、ジャックの炸裂に巻き込まれない位置にもう1個設置しましょう。この建屋からゾンビが出てきた時に作動させれば、管制建屋への脅威が低くなります」
「全てのゾンビがジャックに向かうとは限らないという事かしら? でも面白いアイデアね。作動スイッチは周辺警戒を行う分隊に持たせれば、タイミングを失うことは無さそうね」
「降下は、サイカ大尉がヘリボーン、サイト―上等兵がホイストで行います。周辺のゾンビの状況を確認して建屋内掃討の分隊を降下させます……」
最初に2人。次に7人が降下する。ヘリは直ぐに強襲揚陸艦に戻って、資材と残りの5人を運んで来ることになる。
もう1機のヘリは、7人が降下した後で10人を降下させることになるのだが、この分隊は、管制建屋周辺の警備が任務だ。少し遅れても問題はないだろう。
「7人で管制建屋に入ることになるけど?」
「正攻法で行きます。玄関扉が閉まっていますから、扉を開けずに中の様子を探りマスケット小尉の判断で突入します。エントランスホールのように作られているでしょうから、玄関扉の先は少し広い部屋の掃討と同じような行動でゾンビを倒せるでしょう」
「サイト―上等兵がどこまで確認できるか楽しみだな。もちろんサイカ大尉が補足してくれるんだろう?」
「もちろんです。……そうだ! これぐらいの大きさのメッセージボードが欲しいですね。あまり声を出して情報共有するのは問題でしょう」
「そうね。カミラ、直ぐに数個用意してくれない。案外使えそうだわ」
あのキャンピングカーゴを曳いていくんだから、邪魔にはならないだろう。
結構な大きさだったけど、どれぐらい搭載したのか見てないんだよね。各班が1台ずつという割り当てだから、そんなに荷物にはならないはずなんだが……。
「第2掃討部隊が強襲揚陸艦を発つのは、管制建家1階の制圧後になります。3階建ての建屋内の掃討を行いますから、外の警備を行っていた1個分隊が建屋内に移動し、その後を第2掃討部隊が引き継ぎます。順調なら午後の早い段階で管制塔まで奪回できるでしょう……」
その後が少し面倒だな。
町の一角と繋がっている地下トンネルの出入り口があるビルを奪回することになる。
どれだけゾンビがいるのか見当がつかないけど、先ずは残っておるジャックを作動させて様子を見ることから始めるようだ。
「最初に仕掛けたジャックで集まるゾンビの数と2度目のジャックに集まる数が同数規模であるなら、このビルを破壊します。バンクーバー沖に停泊している空母から戦闘攻撃機を使って誘導爆弾4発を投下します」
最初から爆撃しないのは、建物を使う予定があるのかな?
建屋内のゾンビの掃討は現場指揮に任せるとのことだから、ジョルジュ中尉の指揮が楽しみだ。
できれば1階を制圧したところで地下と上階の2手に分かれてゾンビを掃討したいところだな。
「南のビルを制圧するまでが、明日の仕事になります。翌日は2手に分かれて基地内の建物を1つずつ相当していきます。制圧した区域の警備はデビット中尉が率いた部隊で実行します。ストライカーの揚陸も一緒になるわ」
ストライカー4両を運んでくるから、かなり安心できそうだ。
全てMk19グレネードランチャーを装備しているから、ラッシュが起こっても慌てることは無いだろう。とはいえ阻止線を構築しておかねばなるまい。その辺りは工兵達だから基地の資材を使ってどうにでもなるという事かな。
「今回は基地の北東部に地下施設が作られていることが分かっています。その施設と結ぶ地下通路が見つかり次第、残った部隊を基地に移動します。我々指揮本部もそれに合わせて基地に移動します」
さすがに地下施設を水没させようとは思わないだろうが、町との間に設けた地下トンネルを水没させるのは確定なんだろうな。
水没させるのは海水を使うのだろうが、その後で洗浄しないと消防車のポンプ類が錆びだらけになりそうだ。
それに上手く水没させることが出来るかどうかは、やってみないと分からないんだよなぁ。海水を注入し始めたら、トンネル内のゾンビが出口に向かって一斉に移動しかねない。その対策も現地で考えないといけないだろう。




