H-061 試運転は必要だ(俺以外だけど)
レディさんと一緒に、七海さん達がグランビイのハイスクールに向かった。
どうやらドローンの操縦を教えて貰えるらしい。
俺達も様子を見に行こうとしたら、別口の仕事が入ってしまった。
新しいエンジン付きトロッコの試運転ということだ。
エディとニックが名乗り出てくれたから、俺はお付き合いすることにした。トロッコよりも車の運転の方に力を入れたいからね。せっかく運転できるようになったんだから、他の乗り物操作を覚えようとして今まで養って来た運転の勘を忘れるようなことになったら大変だからなぁ。
「これって、ハンヴィーそのものに見えるんだけど……」
「ハンドルが固定されているだけだからなぁ。ロックボルトを外して車軸を変えてタイヤを付ければ道路を走ることもできるぞ」
要するにそれほど改良していないってことなんだろう。
武装は全て外してあるみたいだけど、屋根の回転銃座はそのまま残っているようだ。周囲の監視や撮影場所には最適なんじゃないかな。
「確か3600ccV8エンジンだったはず……」
「良く知ってるなぁ。馬力は約200馬力だ。ディーゼルエンジンだからガソリンは入れるなよ。100ℓのタンクで、500kmは走れるはずだ」
後部の荷台の後ろにジェリ缶が2個取り付けられてある。36ℓなら200km近く走れそうだ。
「トロッコの牽引装置は新たに設けたものだが、十分に15t以上の荷を牽引できるぞ。4WDだから車輪4つが動くからな。バック時のギヤは気にしないで良い。ここにリバースギヤがあるだろう? これで前進と後進を切換える。これで帰りも行きと同じ速度を出せるはずだ」
「バック時にもラジエーターは機能を果たすんですか?」
「下を見てくれ。もう1つラジエーターがあるんだ。前進時には風力で開口部が閉じられるんだが、後進時には風圧で開く。オーバーヒートは無いということなんだが、それは実際に走らせてみないと何とも言えないな」
そんな事前のレクチャーを整備班の兵士に教えて貰い、直ぐに運転の訓練が始まった。
俺は後部座席で説明を聞くだけだからのんびりしていたけど、ニックとエディは真剣な表情でハンドルを握っているんだよなぁ。
ハンドルが固定されていても、そこにあると握りたくなってしまうのかもしれない。
初日は、200mほどの距離を前進と後進を繰り返すだけだった。
2日後には、トロッコを連結して行ったけど、エディの話ではやはり力があるらしい。
それが分かったのは3日目の事だった。トロッコ2台に5tずつのガラクタを乗せても問題なく動いたからなぁ。さらにもう1台同じ重さのガラクタを積んでも動くんだから凄いとしか言いようがない。
これで輸送に関してはかなり改善されたことになる。
「15tの牽引は出来るんだから1個小隊とヘリコプターを運べるんじゃないか? いよいよグランドジャンクションの攻略が見えてきたように思えるんだけどねぇ」
「あの小さいヘリコプターでも4人を乗せられるらしいから、グランビイと同じやり方はできそうだ。集め過ぎても屋上なら安心できるからね。途中で掃討している人達を交替させることもできるし、撤退も容易に行えるんじゃないかな?」
「後は……、ドローンだけだね。海兵隊に3人いるそうだよ。俺達の方は、パット達だからなぁ」
パット達もそれなりに操作が出来るようになったらしい。
両手で持つ操作盤はまるでゲームのコントローラーそのものだ。
落とさないように首から下げるベルトが付いているけど、落としたことは無いらしい。スマホ画面に似たディスプレイで地上の様子が分かるし、そもそも遠くに飛ばすことは無いだろう。せいぜい1km程先での上空からの監視と、荷物の運搬だけだからね。
面白いのは、発進位置を覚えているらしく、操作に混乱した時はボタン1つで戻って来るとのことだ。
作動時間は30分。バッテリーを交換することで連続的な運用も可能だと教えてくれた。
そうなると試したくなるのが人情だよなぁ……。
9月の25日。俺達が訓練から帰って夕食を皆で取っていると、ウイル小父さんの話が始まった。
「エディやパット達の訓練も順調だと聞いたぞ。それで1度試してみようかということになった。グランドジャンクションには海兵隊の連中だけで向かうそうだ。デンバーについては俺達と言うことになる」
「ヘリをさっそく使うんですか?」
エディの問いに、ウイル小父さんが首を振った。
「さすがにまだ早いだろう。それよりも、例の爆弾を試したいところだ。効果があるならたくさん作ることになるだろうな。グランドジャンクションとデンバーの両方で試してみる。使う爆弾は2種類あるから1個ずつになる。なるべくたくさんのゾンビを集めて一網打尽にしたいところだな」
これは早いところ夕食を取って考えないといけないだろう。
ウイル小父さんの事だから、1度の試験で終わるということは無いはずだ。ニックとエディの両者が運転を習っていたんだからね。
グランドレイクのゾンビを掃討するときのように2つの班を作って交互に行くことになるんじゃないかな。
七海さん達のドローン操縦の腕はどうなのかと3人で話していると、パット達の俺達を見る目がだんだんと険しくなる。
ここは、一旦この話題から離れた方が良さそうだな。
「レディさん。確か支援部隊が来たと聞いたんですけど?」
「ああ、来ているぞ。M224(60mm迫撃砲)が3基だ。試射するところを見たいのか?」
なら都合が良い。
食事をしながら、デンバーで試射をしてほしいと頼みこんだ。
目覚まし時計で集めた時なら、数個打ち込めば結構ゾンビを倒せるんじゃないかな。
「なるほど……。音で集めて面制圧と言うことか。ウイル殿はどう思われる?」
「案外上手く行くんじゃないか? うまくいくようなら次はM252(81mm迫撃砲)を用意すべきかもしれんぞ」
「搬送はトロッコで用意に行えますね……。装甲列車を作りたくなってしまいます」
装甲列車ねぇ……。昔の装甲列車から比べると恥ずかしくなってしまうな。
装甲部分が無いから、列車砲と言いたいところだけど、それはそれで誤解が生まれそうだ。
荷物運搬用のトロッコの側面に丸太を積み上げて装甲板替わりにしておけば、装甲列車と言ってもおかしくは無さそうだ。
「目覚まし時計はドローンで運搬すれば良いな。それができるなら爆弾の搬送も安心して任せられそうだ」
「食後に、本部に申請してみます。たぶん許可が下りると思います」
「面白くなってきたのう。次はワシも同行するぞ!」
ライルお爺さんが参加表明をすると、キャシーお婆さんも頷いている。一緒に行くってことなんだろうな。
そんなに乗れるんだろうか? 少し心配になってきたぞ。
「海兵隊からは、新部隊を丸ごとと言う感じになるな。確か10tは牽引できると言ってたか? それならトロッコを間に4台は繋げられそうだ。最後尾には機関車を付けて行かないと帰りが心配になる」
「トロッコの1台は客車ですよ。小さなキャンピングトレーラーをトロッコの上に乗せたんです。前後に連絡できるように前後の屋根に梯子を付けました。屋根の上にはハシゴを利用した連絡橋を付けてます」
あれは工兵隊の小父さん達が喜んで作ってくれた代物だ。
「ん! 高さはどれほどあるのだ?」
「連絡橋ならトロッコの上に2.4mほどになります」
「それなら観測点として使えるかもしれんな。射撃諸元と観測射撃は観測点からの情報が必要になるんだ」
使えるってことかな?
そうなると通常のトロッコが3台に、客車トロッコが1台と言うことになりそうだ。
食事が終わって、俺達が薪ストーブの周りでコーヒーとタバコを楽しんでいると、レディさんが笑みを浮かべて俺達のところにやって来た。
手にはしっかりとコーヒーカップを持っているところを見ると、先程の話を中隊本部と調整してきたのかな?
「大尉が喜んでましたよ。どの程度使えるかを確かめたいということで、曹長殿を加えて欲しいとのことでした」
「副官自らとは恐れ入った。やはりグランドジャンクション攻略を考えての事だろうな。あの映像を見ただろうから、使える物は何でもと考えているんだろうが、その効果を考えねば頭上の空論でしかない」
「上手く行ったなら、M252の支援部隊を改めて要求するそうです」
「あれは強力じゃからなぁ。だが、トロッコを強化せねば搭載出来んかもしれんぞ」
その時はその時と言うことになるんだろうな。
M224の諸元を教えて貰うと、重量はおよそ22kg、最大射程は3kmを越えるらしい。その上砲弾は空中爆発する優れものだ。ある程度砲弾が飛ぶことによってセーフティが解除されるらしいから、100m以下は狙わないらしい。
面白い大砲だな。だけど砲弾の威力は手榴弾より少し上と言う感じらしいから、同一地点にばら撒く感じで撃つのかな?
「だが、どこで使うんだ?」
ウイル小父さんの言葉に、デンバーの地図をバッグから取り出して膝の上に広げた。
この間、おもしろい場所を幾つか見付けたんだよね。
「この前、デンバーに行って引き返した地点近くの公園、それに途中のハイスクールには爆弾を使って、戻りながら郊外住宅の空き地に目覚まし時計を置いて砲撃してはどうかと……」
「戻りながら攻撃を順次行うんだな? 海兵隊なら進みながら行うんだが、音で集まるからなぁ。案外正解かもしれんぞ。レディはどう思う?」
「斬新な作戦ですね。ですが、先に進めば中心街ですからゾンビが群れているでしょう。私も賛成します」
「明日にでも攻撃目標と攻撃手段それに攻撃順序については、中隊本部の確認を取っておいてくれんか? 向こうもグランドジャンクションで似たような事をするんだからな。良い案があれば俺達にも聞かせて欲しいところだ」
「了解です! ……日本人は、敵陣にまっしぐらに突撃するとばかり思っていたんだが?」
レディさんの最後の呟きには、思わずため息が漏れて来る。
それほど向こう見ずではないと思うんだけどね。海兵隊は、散々日本軍と戦ったからそんな思いがあるのかもしれないが、食料が尽き、銃弾さえない状態で投降を恥として教育されていたからだと思っているんだけどなぁ。
十分な食料と豊富な銃弾や砲弾があったなら、突撃なんてしなかったに違いない。




