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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-006 銃とボートを手に入れた


 ウイル小父さんの話では、知り合いが趣味の延長で始めた店らしい。

 それほど大きくないのは、人の良いお爺さんと品の良い小母さん2人で経営しているお店だからだろう。

 とは言っても趣味には気を遣うのは人の性だから、店の品はどれも品質が良いそうだ。市内にある大きなアウトドアショップを利用するより、爺さんの店で選ぶという常連客も多いらしい。

 俺がたまにウイル小父さんに同行してこの店に来るのは、お婆さんが焼いたクッキーが目当てなんだけどね。


「お爺さんとお婆さんはちゃんと避難できたのかな?」


「あの2人なら問題ないと思うな。ほら、スズキの四駆が無いだろう? 何時でも狩に行けるとお爺さんが自慢してたよ」


 俺の呟きに、ニックが腕を伸ばして教えてくれた。

 店の横のガレージには確かに小さな四駆が入っていた。直ぐに狩に行けるという事なら、10日分ほどの食料がいつも積んであるということなんだろう。それなら安心だな。


「店のシャッターが下りてるぞ」


「ガレージにドアがあるよ。ガレージの奥は倉庫だ。カウンターの中に通じてるから、いろいろと手に入るんじゃないかな」


 エディにトラックのエンジンを掛けた状態で待機して貰うことにした。

 万が一、店にゾンビがうようよいるようなら、ニックと二人で直ぐに逃げ出して荷台に飛び乗れるだろう。


 スティックを持った俺とニックが荷台に乗り込んだところで、トラックがゆっくりとアウトドアショップへと進んで行った。

 ガレージの手前20mほどの距離にトラックが止まると、素早く荷台から飛び降りガレージに向かって歩いていく。

 ちらりとトラックを見ると、窓越しに心配そうに俺達を見ている3人の女性の顔が見える。

 ここは男にならないとなぁ。

 横に腕を伸ばしてニックの歩みを止める。俺に顔を向けたニックに小さく頷くと、ゆっくりした足取りでガレージの中に入った。

 素早く中を確認したところで、後ろ手にニックを呼び寄せる。


「あれか?」


「そうだ。普段は鍵を掛けているんだが、掛かってたら壊すしかないね。幸い工具は色々と揃っている」


 ガレージの真ん中で周囲の警戒を俺がしている中、ニックが扉をドンドン叩いて「爺さん俺だ。ニックだ!」と何度も声を掛ける。

 ちょっと大きな音をたてたから、ゾンビが出てこないかと心配になってきたが、そんな気配はまるでない。

 返事が無いのを確認したのだろう。俺に顔を向けて小さく頷くと扉のノブを回した。

 ゆっくりと扉が開く。

 顔だけ中に入れたのは店内の確認ってことなんだろう。

 俺に再び顔を見せたニックが頷いたところをみると、店内に人影はないってことに違いない。

 ニックをガレージに残してトラックへと駆けだした。

 

「エディ、問題なさそうだ。店内で使えそうなものを探そうと思うんだが、手伝えるか?」


「なら、クリスに運転を替わって貰うよ。確かに3人の方が早く済みそうだ」


 エディを伴ってガレージに戻ると、3人で店内に足を踏み入れる。


「あれだな! 確かに大きいが、荷台になら乗せられそうだ」


「運ぶんなら、シャッターを開けたいね。それは俺がやるよ」


 役割分担を素早く済ませて、先ずは大きなゴムボートをトラックの荷台に乗せた。後ろの方が荷台から飛び出しているけど、落ちなければ問題ない。ついでに一回り小さなゴムボートも運んでおく。荷台から落ちないとは思うけど、念の為に店にあったロープで簡単に縛っておいた。

 アウトドアショップというだけあって色んな品物が置いてある。市内は略奪されているに違いないが、さすがに方向違いのこの店にまでやって来る連中はいなかったようだ。


「あったな……」


「あったけど、撃ったことがあるのかい?」


「これとこれはあるぞ。拳銃まで置いてあるとはなぁ」


 俺達が見ているのは銃のショーケースだ。それに壁に並んだいろんな銃なんだが……。


「ショットガンは必要だろう。ライフルなら変異体まで倒せたぞ。銃だけでは苦労したからなぁ。これがそうだったな。こっちはマグナムだな。全員分の拳銃と、ライフルとショットガンを何丁か頂いておこう」


 それなら……、と俺達は装備を調えることになったんだけど。

 俺が357マグナムが使える6インチバレルのパイソンで、エディが44マグナムのデザートイーグル。それって敵が使っていた奴じゃなかったか? ニックはベレッタの92FSだからゲームと同じってことだな。

 女性にマグナム弾が撃てるかという議論になってしまったけど、それならということで俺と同じリボルバーの小型の物を3つ用意した。38スペシャル弾なら頭部を貫通できるに違いない。

 ライフルは2丁、ショットガンも2丁だ。短いバレルの横2連のショットガンがあったからそれも入れておく。グリップから後ろが無いけど何となくかっこ良さそうだからね。


 銃にあった銃弾を、棚から選んで買い物籠にどんどん投げ込んでいく。

 2人にそんな仕事を任せて、俺は重くなった買い物籠をトラックに持っていく。


「だいたい揃ったんじゃないか? 軍のレーションまであったからね。水は2リットルを3本頂いた。燃料缶もあるから、お湯はこれでどうにかできるし、コッヘルと皿、それにスプーンセットも戴いたよ」


「問題は時間だな……。現在、3時過ぎだ。夕暮れは7時だが、それまでに水路にあれを浮かべられるか?」


 そんな話をしている時だった。店の一角にある品物が目に付いた。

 広帯域トランシーバー……、あれならウイル小父さんと交信できるんじゃないかな?

 直ぐに駆け寄って、小型のものを取り出すと、電源スイッチを押した。

 電源表示が点灯しない。確か、これは電池仕様のはずだ。入っていないってことだな。

 背面を調べてると、どうやら単2が6本入るらしい。近くに電池が並んでいたから、取り出して中に入れる。電源スイッチを押すとランプが付いた。

 これで使えるはずだ。コネクターサイズを確認して直接接続が可能なアンテナを見付ける。後は電鍵だな。2つあったけど、小さな方を選んでポケットに入れた。マイクとコードを幾つか見繕うと、予備の乾電池と一緒に入れておく。


「使えるのか?」


「荷台は暇だからね。試してみるよ。上手く行けば交信できそうだ」


 そんなことで時間を食ってしまったが、何とか今日中に水路にこのボートを浮かべたいところだ。水路の中なら安全だからね。

 いろんな荷物を積み込んだから荷台がだいぶ狭くなった。


 車が走り出しとところで、先ずはトランシーバーを使ってみよう。

 アンテナを直接付けて、電源を入れる。帯域を選択して微調整をするとしっかりとモールス信号が聞こえてきた。

 さすがにこの場所で交信するのは出来そうもないから、トランシーバーをタオルに包んでリュックに入れておく。電鍵やマイクなどもリュックのポケットに入れておけば無くすことは無いだろう。


 さて、銃が手に入ったけど、ウイル小父さんに教えて貰ったリボルバーよりもバレル長いから俺でも当てることができるんじゃないかな。

 軍用ベルトにホルスターを通して、装弾を終えたパイソンをホルスターに収めた。

 少し大きめのポーチを2つ通しておいたのは、銃弾を入れておくためだ。

 さすがに銃弾を箱のまま持ち歩くのは考えてしまう。


 ガクンと大きくトラックが跳ねた。

 何か踏んだんだろうか? 後ろを見るとゾンビらしきものが横たわっていたから、あれを踏んだってことか?

 

「かなりゾンビが倒れてるわ。この辺りで軍隊が交戦したのかもしれないわね」


 窓から身を乗り出したクリスが教えてくれた。


「目的地まで行けそうか?」


「エディは何とかなるんじゃないかと言ってるけど……」


 だいぶ日が落ちてきた。場合によっては、ボートを浮かべるのは夜になりそうだ。

 ゾンビの活動は昼と夜の違いがあるんだろうか?

 分からないことがたくさん出て来るなぁ。


 夕焼け空が広がってきた時、再びクリスが進路を変えることを教えてくれた。

 

「このまま進むと、更にゾンビが倒れているみたい。当初の予定だった公園に向かうと言ってるわ」


「了解だ。後ろは問題ないから、心配はいらないよ」


 池の傍ならボートを下ろすのも楽に違いない。

 タバコでも楽しみながら、のんびり後方確認をしていよう。

 夕焼け空が夕闇に変わってきても、まだ目的地には到達できないようだ。

 不思議なことに、まだ電気は使えるようだ。

 遠くに見える住宅街には明かりが点いている家があるし、街灯だって点いている。

 いつの間にかトラックのヘッドライトを付けて進んでいる。さすがにこんな場所で事故ったらシャレにならないからなぁ。

 どの辺りまで来たんだろうと屋根越しに前方を見ると、鉄製のゲートが見えた。


 どうにか、着いたみたいだな。後はボートを下ろす場所を探すことになりそうだ。

 駐車場には1台も車が停まっていない。

 駐車場からは遊歩道が池沿いに伸びているから、砂利道をゆっくりとトラックが進んでいく。


 事故当時にはそれなりに人はいたんだろうけど、今はゾンビさえいない静まり返った公園だ。

 池を半周程したところで、トラックが停まる。

 荷台に立ち上がって周囲を眺めたが、池沿いに設置された街灯の明かりの下で動くものは何もなかった。


「下ろすぞ! 手伝ってくれ」


「了解! 今のところ周囲に人影はないよ」


「私達が見張ってるからね!」


 クリス達がスティックを持ってトラックの3方に立った。

 勇ましいなぁ。どれ、手伝うか……。

 ゴムボートは大きさの割に重さはさほどではない。

 3人で下ろすのは案外簡単だ。とはいえ引き上げるとなると、自女性達にも手伝ってもらうことになるんだからなぁ。

 池に浮かんだボートに大きな缶詰を持ったエディが乗り込んだ。缶詰の一部に穴をあけると、ボートに付いてあった小さな船外機の燃料タンクに中身を流し込んでいる。

 それが終わると、今度は小さな缶詰を取り出した。そっちは別な部分に注入しているから、潤滑油かな?

 ニックが荷物を運んでいるのを見て俺も荷台の荷物を運んでいく。最後は全員分のリュックだ。


「これで全部かな?」


「ああ、全部乗せたぞ。俺達が乗る場所はあるんだろうね?」


「荷物の上に乗れば良いさ。クリス達を呼んでくれ。早いところ岸を離れようぜ。池の真ん中の島で一晩明かそう」


 水深はどれぐらいあるんだろう? 結構深いとは聞いてるんだけど。

 女性達を先に乗せて、最後はニックが岸を蹴飛ばすようにして乗り込んだ。

 場合によっては、小さなゴムボートに荷物を積むことになると思っていたんだが、どうにかなるもんだな。

 ここまで運転してきたトラックと荷台の小型のゴムボートを置きざりにして俺達を乗せたゴムボートが岸を離れる。

 ホッケーのスティックが丁度良いオール代わりになる。ニックと2人で漕いでいくと、小さなエンジン音が後ろから聞こえてきた。

 上手く船外機が動いてくれたようだ。

 

「もっとスピードが出ると思ったんだけどなぁ」


「75CCだからなぁ。こんなものだろう。ボートが大きいし、荷物も満載だ」


 歩くほどの速度で池の中央に向かうと、20m四方ほどの小さな島にボートを寄せ手上陸する

 さすがに、ここまではゾンビもやってこないだろう。

 なるべく平らな場所にシートを敷いて、俺達の夕食を準備する。軍のレーションってどんな味なんだろうな。ちょっと楽しみになってきた。


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