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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-057 ゾンビの蠢く中に時限爆弾を運ぶには


 俺達を乗せたトロッコがグランビイの駅に到着したのは、23時を少し回っていた。

 まさか途中でライトが使えなくなるとは思わなかったんだよなぁ。

 バッテリーの不良なんだろうけど、おかげでマグライトを3本束にして前照灯にして前方の確認をしてきた。

 次はライトの改良もしないといけないだろう。


「まぁ、トラブルがライトだけなら成功と言って良いんじゃないか?」


「そうですが、やはり予備は必要でしょうね。私の方でやっておきますよ」


 あまり凝った造りにしないでほしいな。マグライトの大きい奴を何本か用意するだけでも十分に思える。


「さて、乗ってくれ。山小屋で一杯やろう。海兵隊や他の連中も待ってるからな」


 早くデンバーの様子を聞きたいということなんだろう。

 ウイル小父さんに急かされて、俺達はピックアップトラックの荷台に乗り込む。


 山小屋のリビングには男達が10人程集まっていた。

 やはりデンバーの様子が気になるってことなんだろう。

 俺達が席に着くと、テリーさんが上着のポケットから小さな機械を取り出して中からメモリーを取り出しウイル小父さんに渡した。

 小型カメラを付けていたという事なのかな?

 さすがは軍だけあって色んな機材を持っているようだ。


「映像記録はトンネルの中とデンバー川の出口周辺、それに93番の外郭道路手前から前進を断念して引き返す途中までです。線路上から見た限りでは核爆発それに爆撃の痕跡を確認できませんでした。もっとも進出限界点がシムズストリーと交わる踏切でしたから、その先に行けばまた違っていたのかもしれません」


「気になっていた放射線量は平常時の2倍程度に留まっていた。短半減期核種の減衰や降雨による流出が考えられる。爆心地付近ならまだ高いと思うんだが……」


 テリーさんとエンリケさんの話が終わったところで、プロジェクターが白板に映像を映し出し始めた。

 俺達にコーヒーを出してくれたパット達も、俺達の話の邪魔をしないような位置に椅子を運んで映像を見ている。


 トンネル内の行き倒れとなった人達を見て、皆の溜息が聞こえて来る。

 デンバーの町の遠望は、本当に変化が無いんだよなぁ。

 あの都市でゾンビが暴れまわり核が使われたなんて、映像からは全く想像ができない。

 踏切のトラックにブレーキを掛けて近づいて行くと、道路からゾンビが続々と沸いてくる様子が映し出された。

 トロッコが後退し始めても線路を歩いて追いかけてくる。

 たまに倒れるゾンビは、俺達の放った銃弾に当たったんだろうな。


 早送りしたり、停めたりしながらの映像記録を見終えると、皆の顔色が始まる前と比べてだいぶ暗いことに気が付いた。

 やはり、あれほどゾンビが現れるとは思わなかったに違いない。


「エンリケ、それにエディ達もご苦労だった。この記録は直ぐにコピーして海兵隊にも渡すよ。そっちも本部に送るんだろうからな」


「そうしてくれるとありがたい。デンバーの飛行場は手に入れたいところだし、デンバーを起点として各地に線路が伸びているからなぁ。喉から手が出るほどに欲しい都市なんだが、トロッコのブレーキ音であれだけ集まるというんだから、しばらくは手を出せないだろう」


「それなんですが、グランドジャンクション攻略の方法を少し変えればデンバーのゾンビを減らすことができると思うんですけど……」


「出来ればこの場で概要を教えて欲しい。君達に出来なくとも我等なら出来るかもしれない」


 海兵隊のジョナさんの言葉に頷いたんだけど……。

 さて、上手く説明できるかな?


「ゾンビは音に対して過敏に反応します。俺達もその習性を利用して生存者を見つけ出す事とゾンビを集めて始末する事を何度も行うことで、グランドレイクとグランビイの町からゾンビを掃討しました。

 さすがに、集めて銃撃するというのは、あれだけの数が集まってくると破綻してしまいます。なら破綻しない方法を使えば良いということです。簡単に言えば、音で集めて爆弾で始末する。これを繰り返すことになります」


「なるほど、目覚まし時計を時限爆弾にすれば良いってことだな?」


「いやそれだと集まる前に爆発してしまう。目覚まし時計をしばらく鳴らしてから爆発させるんだ。それぐらいなら、グランドレイクの町に駐屯している工兵が作ってくれるだろう。だが……。運搬方法は考えたのかい?」


「軍用ドローンなら可能に思えるんですが……。民生用でも数kgを運べるなら、軍用ならもっと重い物も運べるんじゃないですか?」


「小型爆弾ぐらいなら運べるらしい。これは本部に要請してみよう。ドローンの操縦者と合わせて運んで来て貰えば良いことだ」


 暗かった顔が少し明るくなってきたように思える。数回程度では効果が出ないだろうけど、回数を重ねればそれだけ線路付近の安全を確保できそうだからね。


「再びデンバーに向かうなら、もう少し馬力のあるトロッコも必要だろう。デンバーから山間の線路までは斜度がきつい。エディが何度もギアを切換えていたよ」


「少なくとも2倍、可能であるなら3倍の馬力が欲しいところじゃな。動輪も片側1つではなく2つは必要じゃろう」


 かなり重くなりそうだし、燃費も悪そうだ。それに、それだけのエンジンを搭載したトロッコなら3t近くあるんじゃないかな? 輸送機から空中落下させたりしたら壊れかねない。


「やはり搭載貨物が多ければ、大馬力の牽引トロッコが必要と言うことになるだろう。それも合わせて本部と調整してみよう」


 工作船の連中に期待したいところだ。

 どんな物を運んで来るのか楽しみに待っていよう。

                 ・

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                 ・

 デンバーに偵察に出掛けてから10日程過ぎた頃。昼近くに山小屋に海兵隊のジョナさん達が訪ねてきた。

 一緒に分隊長を何人か連れて来たけど、初めて見る顔もある。壮年の男性だから工兵分隊長なのかもしれないな。


「無線機を使わずに直接来るということは何かわけがあるんだろう?」


 山小屋のリビングに招き入れると、早速ウイル小父さんが問いかけている。


「ここなら上手いコーヒーが飲めるからな。それと、頼んでいた代物と新たな援軍についての話だ」


 そう言って、ウイル小父さんにメモを手渡した。

 ちらりのメモが見えたんだが、どうやらリストのようだな。


「ほう……。サミー、喜べ。お前が欲しがっていた小型のヘリと軍用ドローンがやって来るぞ。……このドローンの性能はこれほどなんだ?」


「偵察用は俺も見たことはあるが、攻撃用ドローンは新型だと言ってたよ。30kg程の搭載能力があるらしい。飛行時間は30分だが、バッテリーパックを交換すれば直ぐに再飛行ができるようだ」


「そうなると、例の爆弾の方も気になるところですが?」


 俺の言葉に小隊長が分隊長と顔を見合わせて笑みを浮かべている。

 一緒に運んで来るのかな?


「炸薬量が5Kgの爆弾と15Kgの2種類を作ったらしい。重さはどちらも25㎏に抑えたようだ。炸薬の少ない方には炸薬の周囲に油脂焼夷弾の薬剤を充填したらしい。タイマーの設定時間は最大で1時間。その後は大音量の目覚まし時計が1時間鳴り響いた後でドカン! だな」


「ドローンで移動できるんだな?」


「何度も試験を繰り返したらしいぞ。だが、ドローンで作動スイッチを動かすことは出来んから、作動スイッチを入れてから目標に運ぶことになる。どれほどの数を運んで来るか不明だが、届いたところで訓練をすれば良い。ドローン操作を行う人選は頼んだぞ」


 多分パット達が名乗り出るんだろうな。

 それほど危険が無いなら、彼女達の仕事にしても良さそうだけどね。

 そういえば……。


「俺から1つよろしいですか?」


 まさか民間人の少年から質問が出るとは思わなかったようだ。他の分隊長と一緒に俺に笑みを浮かべながら頷いてくれた。


「大型エンジン付きのトロッコの方はどうなっているんでしょう?」


 俺の言葉に大きく頷いてくれた。どうやら忘れていたわけでは無さそうだ。


「グランドジャンクション攻略の要でもあるからね。しっかりと確認したぞ。それも送って来るそうだ。試作だと言っていたが牽引能力だけでも15tはあるらしい。ハンヴィーを改造したようだから4輪駆動だ。燃料タンクは100ℓに換えて、後部にジェリ缶を2つ搭載できるとのことだ」


 ジープのタイヤを車輪に換えた感じなのかな?

 動かすのはエディかライルお爺さんだろうから、俺は荷台に乗っていれば良いだろう。


「1個小隊を移動することも可能だろう。現在のエンジン付きトロッコと組み合わせれば兵站基地をグランビイに設けることもできそうだ」


「グランドレイクから移動するのか?」


「ああ、次の輸送時に保護した民間人もやって来る。彼らにグランドレイクを守って貰うよ。小規模でも農業を始めて貰うつもりだ」


 一番気になるのは、グランドレイクの町の北へ向かう国道になるらしい。

 現在、堅固な石壁で門を作っているとのことだ。

 見張り台まで作っているらしいからなぁ。数人が何時でも詰めて国道を見張ってくれるに違いない。

 

「俺達も、グランビイの警備をせねばいかんな」


「いや。ウイル殿達には、私達の手伝いをしてほしい。水上機の偵察をすればそれだけ燃料を消費してしまう。やはりトロッコが一番に思える。引き続き、デンバーの様子を探って貰いたいし、グランドジャンクションのゾンビを掃討したい」


 小隊長の言葉に、俺達が肩を叩き合う。

 ウイル小父さんが苦笑いを浮かべて俺達を見てるんだよなぁ。

 直ぐに姿勢を正してテーブルに着いたから、俺達を見ている連中が吹き出しそうになって下を向いている。忍び笑いが、本当の笑い声になってる人もいるようだ。


「まあ、子供達には良い仕事かもしれん。俺達も同行すれば危険の度合いも減るだろう。次の偵察はドローンを動かせるようになってから出良いんだな?」


「ああ、それでお願いする。さらに1個小隊を送って来るそうだから、中隊長として指揮する人物も来るに違いない」


「あまり頭の固い奴は、引き受けるなよ。出来れば叩き上げの奴が良い」


 ウイル小父さんの言葉に、笑みを浮かべているからあまり変な人物が来ることは無さそうだ。

 もっとも、頭ごなしに俺達に指示するようでは、山小屋の柵を閉じるぐらいの事はしそうだけど。

 


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