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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-056 線路を塞ぐゾンビの群れ


 大きく線路が弧を描く。トロッコが今度は北へと向かって進んでいく。

 どんどん山裾を降りているようだ。遠くまで見えていた都市の姿がだんだんと見えなくなってきた。

 時刻は16時を少し過ぎている。

 山小屋への定時連絡では、『順調に推移している。現在デンバーに向かって 山裾を降りている』と伝えた。


「あれが93番通りだな。デンバーの西の外郭通りだ。いよいよ市内だぞ!」


 ニックが大声を上げたけど、周囲は閑散とした住宅街そのものだ。線路が少し高台を走っているから周囲の住宅街が良く見える。

 線路近くをうろついているゾンビはトロッコの音に気が付いてはいるんだろうけど、直ぐに遠ざかってしまうからなぁ。追いかけてくる様子はないようだ。


 さらに市内中心部に向かって進んでいく。

 次の道路はインディアナストリートらしい。ここも踏切ではなく道路の上を線路が通っている。

 さらにトロッコを進めてシムズストリートとの踏切が見えてきた時、トロッコが急ブレーキを掛ける。

 踏切に大型トラックが立ち往生していたのだ。


 どうにか踏切手前数十mのところでトロッコが停まったけど、辺りからゾンビがワラワラと沸いてきた。

 急いでトロッコが後退を始める。

 俺達3人はゾンビ目掛けて銃撃を始めることになってしまった。

 どんどん沸いて線路に先が見えなくなってきたところで、後方からシュポンと言う情けない音が聞こえてきた。前方50mほどのところで爆発が起きる。

 これがグレネードと言う奴なんだろう。

 手榴弾だと線路を傷付けてしまいそうだからなぁ。でもあれで威力はどうなんだろう?


 たちまちマガジン1つが空になる。

 次のマガジンと交換したところで再び射撃を始める。


「テリー、前は2人に任せて、後ろのトロッコに乗ってくれ。たまに線路に現れる!」


インターホンから聞こえてきたエンリケさんの指示でテリーさんが後ろのシーソートロッコに向かって行った。

 でも後ろと言うのも変な表現だな。すでにトロッコは西に向かって進んでいるんだから、俺達が乗った装甲トロッコが最後尾になる気もする。


 2つ目のマガジンを消費する頃には追って来るゾンビの姿が見えなくなった。それでもたまに線路際からゾンビが姿を現してくる。

 動いているトロッコからゾンビの頭を狙うのはかなり無理がある。どちらも動いているからね。体には当たるんだから、倒れてくれても良さそうに思えるんだが、良いと思うんだよなぁ。ゲームなら数発当てれば倒れてくれるんだけど、リアル世界ではそうもいかないらしい。倒したゾンビは60発放って数体と言うところだろう。

 ゾンビがいなくなったのは銃撃の成果ではなく、トロッコの速度が出てきているからに違いない。


 心配していた屈曲部辺り急な勾配も何とか乗り切れた。辺りに人家が無くなったところで、トロッコが停まった。

 時刻は17時を過ぎている。

 心配しているだろうから、急いで山小屋に状況を伝えることにした。


 交信を終えると線路脇でお湯が沸くのを待っている皆のところに向かう。

 もう1つ燃料缶を用意しているところを見ると、レーションのレトルトを温めるんだろう。

 夕食が出来上がるのを待ちながら、タバコに火を点ける。


 皆の顔を見ると、ほっとした表情を浮かべているんだよなぁ。俺もきっと同じ顔をしているんだろう。

 あのゾンビの数に、かなり焦ってしまったことも確かだ。たちまち100体以上いや200体以上が集まってくるんだからね。

 やはり大都市は危険だということを実感できた気がする。


「それにしても、一気に集まってきましたねぇ」


「ああ、多分トロッコのブレーキ音を聞いたからだろうな。その後は銃声と言うことになるんだが……。デンバーの飛行場はかなり遠いと言うことになりそうだ」


 まだ住宅街だからなぁ。あの先にはビジネス街や商店街があるはずだ。短時間にあれだけ集まって来る事を考えると、ビジネス街なら千体単位で集まってきそうだ。

 核を落としたらしいけど、その場所を知ることができなかったのが残念ではある。

 グランビイ湖から水上機を飛ばして調査することになりそうだな。


「さすがにあれでは、1個小隊規模では無理だな。中隊だとしても飲み込まれかねない。大規模爆撃で対処するしかないんじゃないか?」


「100年ほど前に、日本はアメリカ軍による都市爆撃を受けましたが、直接被害は5割にも達していません。B29が100機以上襲来してもですよ」


「計算通りに行かないのは昔から変わっていないという事か。だが現状で同じことは出来んだろうな。大型爆撃機を飛ばせる基地が壊滅しているし、搭乗員もいないだろうからな。強いて言うなら、空母の攻撃機を使う事になるんだろう。その為の燃料と基地が必要になるな。グランドジャンクションの飛行場が使えれば少しは先が見えて来るんだが、まだまだ先になりそうだ」


 爆撃で数を減らすというやり方を取るしかないという事かな?

 それ以外にも方法はありそうに思えるんだけどねぇ……。


 軍のレーションにはチョコレートとジュースの粉末が付いていた。

 これから夜を徹してトロッコを走らせることになるだろうから、おやつに取っておこう。

 今度は装甲トロッコではなくシーソートロッコに乗り込むんだけど、運転席用のベンチシートが1つだけだからなぁ。ニックとテリーさんにベンチを譲って俺は後ろの丸太を2本並べただけの簡単なベンチに腰を下ろすことにした。

 フック付きの棒も2本シーソートロッコに積み込まれたことを確認したところで、エディに準備が出来た事を伝える。


「なら、出発するぞ。エンジンが100馬力も無いからなぁ。急こう配になったら、シーソートロッコにも手伝って貰うかもしれないよ」


「バイクのエンジンだけど250ccあるんだからなぁ。その時には言ってくれよ!」


 俺の言葉に苦笑いを浮かべたエディが、ギヤを入れ替えてスロットルをゆっくりと上げながらクラッチを接続する。

 ガクンとトロッコが音を立てて、ゆっくりと動き出した。

 勾配があると言っても、道路の勾配のような急な場所は無かったように思える。

 十分に機関車だけのエンジンで帰還できると思うんだけどねぇ。


「結構速度が上がってるぞ。まだ明るいから、暗くなるまではこの調子で走るつもりなのかな?」


「それでもデンバーまで6時間以上掛かったんだ。帰りも同じぐらい見といた方が良いと思うよ。トランシーバーで到着は24時前後になると伝えておいたよ」


 何事も無ければ、トンネルに入る前に再度連絡することにしている。そのころなら、かなり正確な到着時刻を教えられるに違いない。

 谷に入る頃にはすっかり日がくれた。

 シーソートロッコの前照灯は、バイクの前照灯を取り外して付けたものだ。電源はバッテリ―なんだけどLEDだからね。結構長時間点灯してくれるに違いない。暗くなったら俺達のマグライトを使えば良いだろう。線路上の邪魔物は撤去してあるから、ライトが無くとも走れるだろうけど、ゾンビがいることを考えるとそんな無謀なことはしたくないな。

 

 ロッキーの山で狩りをした時には、テントの外の虫の音を楽しめた。

 9月下旬だから、賑やかなはずなんだが虫の音はそれほどでもないし、ゴロゴロというトロッコの車輪の音の方がうるさく感じてしまう。

 それにしても真っ暗だな。線路の先に向かってライトの光芒が長く伸びている。200m以上先まで見えるからエディも安心して機関車の運転をしているようだ。


「もう直ぐトンネルだ。手前で休憩するぞ」


 機関車の運転席のすぐ後ろに俺達の乗るトロッコがあるから、大声で話も出来る。

 ゆっくりとトロッコが停まった。100mほど先にはトンネルが口を開けている。


 先ずは山小屋への連絡だ。

 トンネル内の死体は退かしておいたから、止まらずに走り抜けられるだろう。

 残りの行程はおよそ50kmと言うところだろう。2時間程度でグランビイに到着できるに違いない。現在の時刻は19時40分だから、22時半前後と言う事かな?

 トランシーバーを使って『帰路は順調。到着予定は2230時前後』と伝えた。


「ここまで来れば一安心だろう。だが、まだ気を抜いてくれるなよ。山小屋のリビングでコーヒーカップを取り上げるまでが帰路なんだからな」


「トンネルを抜けたところで帰路の半分と考えれば良いんですね」


 ニックの言葉にエンリケさんが笑みを浮かべて頷いている。


「そうだ。作戦を終えて帰る途中の待ち伏せは、帰還する本隊近くが圧倒的に多いんだ。もう直ぐ本隊だと油断するからだろうな。受ける被害もかなり多いんだ」


「『100里の道を行くときは、99里を道半ばとせよ』という古い言葉があります。1里はおよそ4kmなんですけどね。昔から目的地の最後ほど大事だと考えていたんでしょうね」


 俺の言葉にテリーさんが感心した顔を向けて頷いている。

 コーヒーが出来たところで一服しながら味わうことになったが、エンリケさんは俺の言った言葉を「100の半分が99ってことか……」と呟いていた。


「サミーの言葉は、あの孫子ってやつなのか?」


「たぶん違うんじゃないかな。でも孫子の言葉としても納得できるね」


「それって2千年前の軍略書なんだろう? 東洋ってすごいよなぁ。サミーはそんな本も読んでるんだ」


「全部じゃないよ。でも孫子は有名だからね。今でも1冊持ってるよ。親父が買ってくれたんだけど、全部漢字だからねぇ。俺でも読むのに苦労するんだ」


「俺にとっては、あの本もエジプトの石板も同じに見えるよ。文字ごとに意味があるという事だからなぁ。まったくとんでもない文字だ。その点アルファベットは便利だぞ。26文字だけだからね」


「ローマ字という表記方法があるんだ。それだとアルファベットで日本語を書けるんだけど、読みづらいんだよなぁ。俺達にとっては漢字に平仮名、それに片仮名が混じった文章の方が読みやすいんだ」


 ニックが首を捻っているのは仕方のないことだろう。

 ある意味慣れでもある。やはり言葉と文字は慣れるしかないんだろうな。

 あれだけ日本で英語を学んできたけど、こっちに来てあまり役立たなかったからね。

 最初の1年は苦労しどうしだった。ニックやパットがいなければ今のようにフランクな話も出来なかっただろう。


「軍の講義にも孫子の言葉を学ぶぐらいだ。まったく2千年前の戦の方法が未だに役立つというんだからなぁ」


 テリーさんの呟きに、エンリケさんも頷いている。

 案外アジア人以外には、孫子は新鮮に思えるのかもしれないな。

 ヨーロッパにだって勇将はいたし、戦だって沢山あったはずなんだが、それを解析しようという考えは無かったんだろうか?

 探せば今でも役立つ教えがあると思うんだけどねぇ……。


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東洋が孫子なら西洋はハンニバルだろうか
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