H-046 トロッコで偵察に行こう
7月の上旬にグランビイの町からゾンビを掃討することができた。
やはり軍隊は物事を素早く行えると感心してしまう。
グランドレイクの町の別荘も残り数棟なんだけど、これはグランドレイクの町に住んでいる住民に任せても問題ないだろう。
新たに1個小隊の海兵隊と12家族の住民が増えたんだが、俺達に取って一番嬉しかったのは、線路を走れるトロッコを2台送ってくれたことだ。
自動車のタイヤの代わりに車輪を付ければ済むと思ったんだが、実際にはかなりの難物らしい。
既存のエンジン付きトロッコを改造した方が遥かに容易だったようだ。厳重に梱包したトロッコをパラシュートで落としてくれたんだけど、使えるかどうか試さないといけないな。
「爺さんと子供達で試してみてくれないか? 前後にエンジン付きを置いておけば、片方が故障しても帰ってこれるだろう」
「簡単な修理なら、その場で行うわい。だが、1200ccとはのう……。あまり速度は出ないかもしれんな」
一緒に同封されていた解説書によると、時速40km以上で走れるらしい。そんなに急ぐ必要も無さそうだから、のんびりトロッコの旅を楽しもう。
町の修理屋に会ったトラックに移動式クレーンを使って積み込み、グランビイの町の駅で線路の上に乗せる。
トロッコを間に3両繋いで、都合5両になった。
これでどれほど速度が出るのか、それとどれほど遠くまで行けるかが試験の課題になるんだろう。トロッコ3両なら3tは積めそうだけど、それならトラック1台分だからなぁ。さらにトロッコを間に挟むことになりそうだ。
「それで、どこまで出掛ける気なんだ?」
「そうさなぁ……。グレンウッド・スプリングが良かろうと思っておる。およそ1万の住民じゃ。問題なく通れるなら、その先のグランド・ジャンクションじゃな。さすがにグランドジャックションは3万人ほどの町じゃからなぁ。状況を見るだけになるじゃろうが、攻略を考える上では必要じゃろう」
「私も賛成です。グランド・ジャンクションからゾンビを追い出せば大型飛行機の発着も出来ますよ」
「グランド・ジャンクションは爆弾を投下したんじゃないか? まぁ、ソルトレイクを目指すなら通らなくちゃならない都市ではあるんだが……」
小隊長とウイルさんの話を聞いているライルお爺さんの顔に笑みが浮かんでくる。
「それもあっての試運転じゃな。目指すは西海岸じゃがかなり遠いわい。じゃが、東海岸は更に彼方じゃ」
線路を使おうとしても、シカゴがハブだからなぁ。核を何発か落としたらしいから、線路はめちゃめちゃに違いない。
となると、やはり高速道路もしくは国道になるんだが、そっちはゾンビがわんさかだろう。
船になるとスエズが使えないから南米大陸を迂回しなければならない。
なんか、アメリカからゾンビを掃討する前に俺の命が尽きそうにも思えてきた。
それだけアメリカは大きいってことだな。
「まあ、試験だからなぁ。だが、グランドジャンクションともなれば、往復に3日は掛かるんじゃないか?」
「途中は何もない荒地じゃ。見通しの良い場所で野宿するよ。さて……、エディ! お前さんの仲間に準備をするよう伝えてくれ!」
エンジン付きのトロッコを眺めていたエディが振り返ると、ニックの肩を叩いてやって来た。
ライルお爺さんが、「ガールフレンドも連れて行くぞ!」と言ってくれたから、俺達3人とも笑みが浮かぶ。この頃は何時も別行動だったし、パット達はあまり山小屋から離れなかったからね。きっと喜んでくれるんじゃないかな。
出発は明日らしいけど、時間は聞いていなかった。
少なくとも朝食は済ませてからに違いないから、グランビイの町で物品調達を行っているパット達が戻ってきたところで一足先に山小屋へと引き上げることにした。
「今度は一緒ってことね! 汽車の旅ならロマンもあるんだけど、トロッコではねぇ」
不服そうな言葉を言っている割には、クリス達は嬉しそうだな。
「それで、武器はどうするの?」
ナナの問いに、俺達3人が顔を見合わせる。
グランビイの数倍の人口だからなぁ。かなりの数のゾンビがうろついているんじゃないか?
だけど、トロッコから降りなければ、ゾンビも駅近くの線路を彷徨っているだけに違いない。
「猟銃で良いんじゃないか? クリス達も5.56mmの猟銃を手に入れたんだろう?」
「ええ、でもあれって小動物用だとメイ小母さんが言ってたわよ」
「ゾンビ相手には十分だよ。サプレッサーを付けて、弾丸ポーチに30発も入れとけば良いはずだ。予備用に銃弾を1箱持っていけば間に会うだろう。沢山ゾンビが現れたら、その場から引き返せば良いんだからね」
「そうだ! 雨具代わりにポンチョは必要だと思うな。さすがにリュックはいらないだろうけど、ナップザック1つ分ぐらいに荷物は纏めといた方が良いだろうね」
非常食に水筒、銃弾の予備と着替えを一揃えってところだろう。そうそう、ブランケットも必要だ。
「窓は無いから、サングラスと帽子は必要だろうね。そうそう! 手袋もね」
手袋と言っても作業用の革手袋だ。
俺達は指先の無い物を別に持っていく。普段に着けるならなるべく薄くて指先が無い物が良いからね。
夕食時に、ライルお爺さんに持っていく武器を確認してみた。
お爺さんの言うことには、やはりサプレッサー付きが良いと言っていたし、ギャングの根城に殴りこみを掛ける訳ではないということで猟銃と言うことになった。
「ワシは念の為にショットガンにするぞ。婆さんはウージーを持っていくと言っていたが、あれにもサプレッサーは付くからのう。ハンドガンはワシがグロッグで婆さんがワルサーPPKじゃ。ワルサーPPKは32ACPじゃから銃弾が共通ではないんじゃが、サイドアームとして使うなら十分じゃろう。カギ付き棒を2本積んどいたから、線路に倒れているゾンビは退かしてくれよ」
「それぐらいは大丈夫です。でも、線路にたむろしているようなことは無いでしょうね?」
「そんな状況に出会ったなら、トットと退散するぞ。2、3体なら跳ね飛ばせば良い」
ニックの言葉に、ライルお爺さんが笑みを浮かべて教えてくれた。要するに無理はしないってことだろう。
「お前らを連れて行くんだから、爺さんも無理はしないだろう。だがトランシーバーでの連絡は絶やさんでくれよ。そうだな……、毎時の0分で連絡してくれ。何かあれば、直ぐにだぞ」
ウイル小父さんが俺に顔を向けて言っているから、これは俺の仕事になるんだろうな。
とりあえず頷いて了承を伝えておく。
食事が終わると、コーヒーを飲みながらニック達ともう1度持ち物を確かめ合う。
強いて言うなら、調理用のガスコンロと鍋ぐらいかな?
水のストックも欲しいところだから、水運搬用と書かれているジェリ缶を1つ持っていこう。飲み水はペットボトルで運べばいい。予定は2日間だからね。
「一応、ライトは持っているし、石油ランプは俺が用意しといたよ。こんなものじゃないかな?」
「そうだね。小型双眼鏡まで入れたぐらいだ。だけど今後も俺達で行動することがあるかもしれないから、共用品を纏めたバッグが欲しいね」
「それだったら、トンネルの倉庫にいくつか積み上げてるよ。別荘の確認をしている時に調達しといたんだ」
ニックの呟きに俺が応えると2人が俺に顔を向ける。本当か? と言う顔付をしていたから、小さく頷くと途端に2人に笑みが浮かぶ。
「一服したら、見に行こう。使えそうなら2つは欲しいな」
エディ呟きに頷いて、残ったコーヒーを楽しむことにした。
タバコの吸い殻を灰皿に入れると、3人でトンネルに向かう。
しばらく車は動かさないから、その近くにある木箱の傍に積み上げたキャリーバッグを2人荷見せた。
「良いじゃないか! 2つ貰って行っても良いかな?」
「別荘を探せばまだ沢山あるんじゃないかな? とりあえず中身は置いてきたから、皆空っぽだよ」
それならと、エディが大きめのキャリーバッグを2つ選んだ。ゴロゴロと押して2階に運んだんだが、さて何を入れるんだろう?
「先ずは、ガスストーブと鍋だな。ステンレスの皿も10枚程度入れとけば良いだろう。シェラカップも10個入れとけば十分だ」
「水のペットボトルが2本に非常食のカロリーバー、後はインスタントコーヒーに砂糖かな?」
「ガタ付かないように、タオルを間に挟んでおいた方が良いだろうな。それでも余裕があるのか……。なら、ビニルシートにレーションを10食分に弾薬箱だな。7.62mmを150発入れた弾薬箱に、に357マグナム弾の箱を3つ(54発)を入れといた」
装備ベルトの銃弾ポーチにも60発程入っているからね。ワルサーP38の予備マガジンも2個あるから十分すぎる分量だ。
着替えと日用品はナップザックにすでに入れてあるからなぁ。1つ余ってしまった感じだ。
「ニック、パットに渡してあげたらどうだ? 向こうだって色々とありそうに思えるんだよなぁ」
「そうだね。俺達より持ち物が何時でも多いんだよなぁ。それじゃあ、持ってくよ!」
案外気が利くなぁ。思わず感心してしまった。
そんな気配りができるところをクリスは好きになったのかもしれない。
直ぐにニックが戻ってきたけど、「喜んでた!」と言っていたから、大きなリュックを背負って行こうとしていたに違いない。
「これで、全部だな。まぁ、長くとも2泊3日だから、何とでもなると思うんだけど」
「後は思いつかないよ。色々と入れたからね。このキャリーバッグに中身を書いたメモをプラスチックケースに入れて貼っておけば、次も楽になるかもしれないよ。それは俺がやっておくよ」
確かに詰め込んだことは間違いない。そうなると、リュックの中身も同じようなメモを作っておいた方が良いだろう。さすがにニックに頼めないからね。自分で作るしかなさそうだ。




