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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-041 軍のコーヒーは不味いらしい


「ところで、どこで行うのか知ってる?」


 レディさんが問い掛けてきた。聞いて無かったのかな?

 

「ハイスクールだと聞きました。もう1つは、そこから西に離れた役所のようです」


「どちらも屋上からの狙撃と聞いたけど?」


「生存者への呼び掛けを行いますから、その放送で集まってきます。屋上からなら安心して狙撃できますよ。でもその前に、屋上に至る階段やハシゴがないことを確認しないといけません」


 階段があるとなれば、また扉を溶接するんだろうか?

 無い場合は、ガラクタを積み上げないといけなくなるな。まぁ、それはどうにでもなるだろう。


 グランビイ湖からグランビイの町まではおよそ10km。アムトラックの鉄道駅があるぐらいだから、夏の避暑客は多かったに違いない。

 人口2千人ほどなんだが、5割増すぐらいの数のゾンビは覚悟しといた方が良さそうだ。


 標高2千mを越えているから、空気が澄んでいる。

 初夏とは思えない日差しだが、テンガロンハットにサングラスだからね。シャツも着ているから日に焼けることは無いだろう。

 レディさん達は戦闘服にヘルメットだけど、ゴーグルを掛けずにサングラスをしている。


「景色が案外良いのよね。ゾンビ騒動が嘘のようだわ」


「町中には結構うろついてましたよ。グランビイも似た感じになると思います」


 邪魔になるゾンビの排除は、サプレッサー付きのライフルを使って行わねばなるまい。

 俺達が屋上に乗り、目覚まし時計の仕掛けを取り付けるまではそれで対処するのが基本になる。

 そんな作業はウイル小父さんと小隊長達に任せておけば良い。

 屋上に上がってもやることがあるだろうし、建物内の確認もある程度しないといけないだろう。


「レディ、小隊長から連絡だ。俺達はそろそろ右に入るぞ。第2分隊はウイル殿達と一緒に役所に向かう」


「了解です。まだ町が見えませんが、そろそろですか」


 俺達も顔を見合わせて小さく頷く。

 いよいよ始まるぞ。


 横道に入って1kmほど進むと、一戸建ての家があちこちに見えてきた。直ぐに大きな建物が見えてきたから、あれがハイスクールなんだろう。

 山形の屋根と平たい屋根が複合された建物だ。

 3つの建物を無理やりくっつけたようにも見える。冬は冷えるからなぁ。子供達が屋内だけで教室や体育館に移動できるように考えたんだろう。


「いるぞ……。ゾンビだ!」


 トラックが停まったのは、先を行くトラックの荷台からゾンビを1体ずつ始末しているからなんだろう。鈍い銃声が小さく聞こえて来るが、これぐらいの音だと集まらないんだよなぁ。


 数体を倒したところで再びトラックが動き始めた。

 北側の駐車場に車を止めると、直ぐに兵士達が飛び降りて周囲の安全を確認し始める。

 少し離れた場所でその様子を見ていた俺達に、『状況開始』の連絡が入る。

 直ぐに建物に近づくと、荷台からハシゴを伸ばして、屋上に向かった。


「屋上全体を調査するそうだから、しばらくは此処で待機して頂戴」


「了解です。小隊長の分隊は、建物の中を確認するんでしょうか?」


「断念したそうだ。窓から中を覗いた限りではかなりのゾンビがいるらしい。たぶん生徒達なんだろうが、不憫なことだ」


 それも悲しい話だな。ここで襲われてゾンビになったということか。

 となると、俺達で安らかに眠らせてあげるしかないだろうな。


 屋上の様子を見に行った兵士達が帰って来る。報告を聞いた話では、地上から上がってこれる場所は無いとのことだ。屋上に出るための階段は無く、屋上に出るには垂直ハシゴを登って屋上にあるハッチのような蓋を開ける他ないらしい。ハッチの固定ハンドルを動かないようにパラロープと呼ばれる網紐で固縛してきたそうだ。


「ご苦労だった。準備をして休んでくれ。まだ下の連中の仕事があるようだからな。彼らが帰ってからが、本番だ」


 俺達も呼び掛け用のスピーカーとアンプを取り出して、準備をしておく。

 直ぐに終わったから、保温水筒からシェラカップにコーヒーを注ぎ、タバコに火を点けた。


「あら、良いものを持ってきたわね? 私の分もあるかしら」


「どうぞ、まだたくさん入ってますよ。他の隊員にも分けてあげてください」


 嬉しそうにレディさんが水筒を受け取って、自分のカップに注いでいる。まだ残っているコーヒーを、他の兵士達にも注いであげているみたいだ。


「なんで民間人のコーヒーの方が美味しいのかしら?」


 一口飲んだレディさんの感想だ。


「そりゃあ、金を払って買うコーヒーだからだよ。俺達のコーヒーなんて色が付いてるだけだろう?」


「いや苦みはあるんだよなぁ……。たぶん俺達が夜間作戦時に眠らないようにだと思うぞ。こんな美味いコーヒーを飲んだら眠ってしまいそうだ」


 ひとしきりコーヒー談議が始まる。そんなに不味いんだろうか?

 一度飲んでみたい気もしてきたな。


「あそこに仕掛けたのか……、300m以上離れているな。あれにだけは銃弾を当てるなよ。俺達が帰れなくなるからな」


「角度が違いますよ。俺達が狙うのは南の駐車場と東の道路だけですからね」


「終わったようだな。そろそろ通信が来るに違いない……。きたぞ。『こちらオリバンです……。了解しました。小隊長のトラックが見えなくなってから、開始します。以上!』」


 オリバンさんが俺達の顔を見渡しながら、準備を始めるように言ってくれた。

 すでに終わっているからね。エディが何時でもOKを伝えると、笑みを浮かべたレディさんがエディの頭を軽く叩いている。

 子供扱いされたからエディが膨れていると、一層笑みを深めてついには笑い出した。


「アハハハ……。御免、御免。弟を思い出したの。同じように膨れるから可笑しくて……」


 その後、急に寂しそうな顔に変わったから、家族とは音信普通ってことなんだろう。

 エディを弟のように感じられるなら、そのように扱ってやれば良いと思うんだけどね。


「それじゃあ、初めてくれ。兵士達の配置は済んでいるから、レディはニック達と一緒に後方である北を担当してくれ。俺達を回収するための道路上ではゾンビを倒すんじゃないぞ」


「了解です。それじゃあ、エディ。初めて頂戴!」


 先ずは南の駐車場所を望むこの場所で良いだろう。

 アンプのボリュームを上げると、ニックが生存者への呼び掛けを始めた。放送に合わせるように屋根の上で俺が旗を振る。

 エディとレディさんが双眼鏡で周囲の家の変化を確認している。


 呼びかけを3回繰り返して、10分ほどの間を置き再び繰り返す。

 次は東に移動しようとしていると、兵士達が南東方向に腕を伸ばして仲間と話をしている。早速ゾンビ達が集まってきたみたいだな。


「なるほど、生存者の確認を行えばゾンビが集まって来るというのはこういうことか! まだ撃つんじゃないぞ。次の放送でさらに寄って来るはずだからな」


 距離は300m以上もありそうだ。それより学校の中から外に出てきたゾンビもいるみたいだな。至近距離だから十分に狙えそうに思えるんだけどね。


 南東方向で、呼びかけを行う。

 結構大きな放送だから、北や西方向にも届くだろうし、そっち側はそもそも人家が少ない。

 1時間ほど間をおいて放送をすることになったけど、今度は南側だけで十分に思える。

 それにしても集まってきたな。すでに200体はいるんじゃないか?


「周囲を確認したが、北と西は10体に満たない。やはり町の中心方向が一番だな」


「準備は出来てるか! 先ずはマガジン1つ分、慎重にヘッドショットを狙うんだぞ!」


 オリバン軍曹が、前置きをした上で『ファイヤー!』と大声をあげる。

 一斉に兵士達がゾンビに向かって銃弾を放っていった。


 兵士達の邪魔にならない場所に移動して、俺たちも銃撃に参加する。

 数体を倒したところで、屋上を一回り。西と北のゾンビの数に変化が無いことを確認しながら倒していく。


 銃撃が突然止まった。マガジン1つ分の銃弾を使い切ったんだろう。

 新たなマガジンに交換した銃を手元に置いて、次の指示を待っているようだ。


「なるほど、これは良い方法だな。生憎と生存者はいないようだが、聞こえなかったということもあるかもしれん。夕暮れまで何度か行って欲しい」


「了解です。2時間ほど間を空けて何度か行います。やはりグランドレイクよりも集まって来るゾンビは多いですね」


「1個分隊いるから、対処できなくなるという事態は無いだろう。それにしても、まだやって来るんだからなぁ……」


 軍曹が南東の道路を眺めながら呟いた。10体程にかたまったゾンビがずっと道路に続いている。

 もう1つの分隊の方にも集まってるんだろうな。これがグランビイの最初になるんだけど、300体以上倒せるかもしれない。2つの分隊で500体を超えたなら6回も行えばグランビイからゾンビを掃討できそうだ。


 20分ほどの休憩を終えると、再び銃撃が開始される。

 兵士達も安全な場所からの銃撃であることが良く分かってきたみたいだな。最初の時よりは射撃間隔が開いているから、しっかりと狙いを定めて銃撃をしているに違いない。

 俺達も屋上を移動しながら銃撃を行っているんだけど、やはり本職には負けてしまう。俺が2体倒す間にレディさんは3体倒しているからね。

 スピードストリップを2つ使い切ったところで、再び休憩が入る。

 昼食時間を兼ねた休憩と言うことで、軍のレーションを頂くことになった。

 キャンプ用のガスストーブに鍋が掛けられ、レトルトのレーションを数個投入して水を入れる。そのままでも食べられるとのことだが、料理は暖かい方が良いのに決まっている。

 

「温めているのはミートボールだな。それにこれがビスケットになる。必要なビタミン類を添加しているらしいが、できればもう少し味を調えて欲しかった品だ」


 レディさんの話では、それほど美味しいものではないとの事だけど……。

 いざ食べてみると、予想に反して結構美味しく思えるんだよなぁ。不人気なのは、料理の種類が多くないという事かもしれない。ガムや飴玉も付いているから、これは後の楽しみに取っておこう。軍曹の話では、昔のレーションにはタバコまで入っていたらしい。

 今はさすがに入っていないと嘆きながら、ポケットから煙草を取り出してインスタントのコーヒーを飲んでいる。

 あの不味いコーヒーということかな?

 頂いたレーションにも入っていたから、後で試してみよう。ちゃんとミルクと砂糖まで用意されているんだから、結構恵まれているように思えるんだけどなぁ。


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