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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-004 被害の拡散が始まった


 通りを占領して東に向かって進んでいたゾンビの群れが、昼過ぎにはほとんど姿を見せなくなった。

 今通りを動いているのは、足を引き摺っている者達ばかりだ。中には四つん這いで通りを過ぎていくゾンビもいるけど、その理由は彼らが手足を失っているからだろう。

 銃撃戦で失ったのか、それとも齧り取られたのかは分からないが、それにしてもあれで動くというのがなぁ……。


 夜に備えてベッドの布団を持ちよったから、今夜はゆっくりと眠れそうだ。

 手持ち無沙汰の俺達は職員室の机から見つけた、タバコを咥えている。

 ちょっとワルになった気分を楽しんでいると、女の子達から呆れた視線を浴びてしまった。


「2箱見付けたんだ。ちゃんと窓は開けているから、煙は外に出ていくよ」


「全く、困った人達ね。今からそんなだと長生きできないわよ!」


 クリスの厳しい指摘を受けたけど、果たして長く生きることができるんだろうか?

 3人で顔を見合わせてみたけど、結論は出なかった。


「あれ! サミー、昨日とリズムが違う気がするんだけど?」


 クリスのラジオをいじっていたパットが俺達のところにラジオを持ってきた。

 確かに違うな。

 急いで聞き取ってみると……。


『市内はゾンビで溢れている。無事なら明日以降水路を使え……』


 前と同じように繰り返しているな。


「水路か! 地図があると良いんだが」


「探してみましょう。1冊位はあるんじゃないかしら?」


 とはいえバラバラで探すのも問題だから、エディとニックが探しに出掛けた。俺はラジオの番をすることになったけど、2時間おきに確認するなら俺も一緒に行っても良いように思うんだけどなぁ。


 30分もしない内に、2人が帰ってきた。

 どうやら職員室で見つけて来たらしい。さっそく位置関係を確認してみると……。


「メイン通りで帰るってことは出来ないってことかな? 学校前の通りを真っ直ぐ東に進めば20km先は市内だからね。あの数が市内に入ったなら大騒ぎだろうな」


「家族は無事なのかしら? パットは心配じゃないの?」


「家はデンバーの親戚を尋ねると言っていたから、多分大丈夫だと思うわ。バレナムから50kmは離れているから、避難もここよりマシに思えるし」


「俺のところはかなり怪しいけど、避難していると思うんだ。クリスのところは良い機会だからと、外国に出掛けたんだろう?」


「それはそうなんだけど……」


「ナナの両親は日本だから一番安心ね。でも、サミーの両親は西の研究所にいるんでしょう?」


「核関連施設らしいんだ。厚さ2mのコンクリート遮蔽体の中で暮らしているって言ってたよ。換気はフィルター越しと聞いているから病原体が入り込むこともないんじゃないかな」


「軍の施設なら、かなり安心だぞ。そうなるとやはり自分達の事を考えた方が良さそうだ」


 一番危険な状態なのは俺達ってことか。

 脱出についてそろそろ考えないといけないんだが、ニックの家の1軒隣の北側には水路が作られている。

 ロッキー山脈から流れる川の傍に最初の町を作ったらしいのだが、何度か春先の雪解け水で洪水が起こったらしい。

 市を南北に分けるような川の横幅を広げて水路として整備したようだけど、あまり高低差が無いんだよなぁ。水上バスを運行しているからなんだろうか? 

たまに釣りをしている人がいるんだけど、ニックの話ではマスが釣れるらしい。


「水路の幅は30mあるはずだ。景観調整と水上バスの運行で、水路の水量を調整しているはずだから川幅一杯に水はあるだろう。真ん中を進めば安全だろうね」


「問題は、水路を進むための船をどこで手に入れるかということだな。それは、ここが一番なんだが……」


 市の北西にある公園をエディが指さした。

 そこには水路とつながった大きな池が作られており、貸しボート屋さんがあったはずだ。

 手漕ぎだけど2人は乗れるからね。3艘で水路を進むのは案外楽に違いない。


「ここから25kmも先よ。到着する頃には日が暮れてしまうわ」


 クリスがエディに訴えている。

 25kmを歩く方が問題だと思うけどなぁ。その間、まったくゾンビに遭遇しないという保証はないからね。


「外を見てみなよ。あっちこっちに車が乗り捨ててある。事故っている車も多いだろうけど、まだ動く車もあるんじゃないかな」


「もしも、公園にゾンビがいたら?」


「状況次第だけど、あまり多いとなると……」


「ここで調達しよう!」


 ニックが指さしたのは、公園近くにあるマーケット街から少し離れた場所だった。


「アウトドアショップがある。親父と一緒に何度か行ったことがあるんだ。そこに大きなゴムボートが飾ってあったぞ。しかもエンジン付きだ!」


 あの店か! そういえば壁に飾ってあったな。大きかったけどゴムボートなら俺達で持っていくことも可能だろう。その他にもボートがあるって店のお爺さんが自慢げに話してくれたのを思い出した。

 だけど……。日本のアウトドアショップとはだいぶ違うんだよなぁ。初めて連れて行ってもらった時に驚いたからねぇ。

 何とウイル小父さんがその店で買ったのは、鹿を狩るための銃弾だった。

 店の一角には、猟銃と釣り竿が一緒に並んでいたんだよなぁ。


「銃が手に入るかもしれないぞ。あのスティックよりは頼りになる」


「なら、その店で品物を手に入れたら、公園に行かずに水路に向かった方が良さそうだな」


 かなりアバウトな計画だけど、がむしゃらに東に向かうより遥かにましだ。

 一番の問題が車の調達になってしまうんだけどね。

 とはいえ、少し気が楽になってきたことも確かだ。

 俺1人ではどうしようもないけど、俺には頼れる仲間がいる。

                ・

                ・

                ・

 適当にサンドイッチを摘まみ、コーヒーを飲む。

 今日、何本目かのタバコを咥えながら、手鏡で通りを眺める。

 既に外は夕闇が訪れている。街灯の明かりの中でたまに西に向かってふらふらと歩くゾンビがいるが、ゾンビが再び現れる間隔がだんだん伸びてきているのがはっきりと分かる。


「ニックの親父さんが2日待てと言ってくれたのは、間違いなさそうだね。明日には出会うゾンビがいないんじゃないかな?」


「そうだな。その方がありがたいよ。動きも鈍そうだったろう?」


 エディの問いに、窓際を離れながら頷いた。

 部屋の明かりは日中の内に全て消してある。小さな明かりでも見つかりそうに思えたから、他の部屋から机を運んで来てその上に毛布をかけ簡単なテントを作った。

 テントの中ならマグライトをランプ代わりに使っても、それほど部屋に明かりが漏れない。女性3人がその中でじっとしているけど、やはり明かりがあると安心できるのかな?

 俺達3人は、空き缶を真ん中に置いて、コーヒーを飲みながら状況を見守ってる。

 明日は移動することになりそうだから、扉に机を立て掛けて俺達も早めに眠ろうと思っているけど、結構コーヒーを飲んでるんだよなぁ。ちゃんと眠れるんだろうか?


「不思議と電気と水、それにガスはきているんだよなぁ」


「いつまでも続くとは思えないけどね。相変わらずラジオの放送は無いし、軍隊の動きも気になるところだ」


 ニックとエディの話を聞きながら、地図を頭の中に広げた。

 俺達が住んでいた市がゾンビに蹂躙されたとなると、その後ゾンビはどうするんだろう?

 ゲームだと、周囲に向かって拡散していくのだろう。そう考えると、ゾンビの集団が全て東に向かったとは限らないんじゃないか?

 学校の南を東西に延びる道路は、西の先端研究区画を横切ってさらに西に延びる。その先はロッキー山脈を縦断する高速道路に繋がり、太平洋側の都市へと繋がるし。反対側は5大湖へと向かうはずだ。

 仮に先端研究区画の研究者たちの半数がゾンビ化したとしたら、およそ1万体。

 そこで東西に2分化したとすればこの通りを東に向かったゾンビは5000体ということになる。もっと多かった気がするから、先端研究区画で働く総人数は俺の想定よりも多いってことだろう。


「サミー、何を考えてるんだ?」


「ああ、ちょっとね。ゾンビ達が全て東に向かったとは限らないんじゃないかと考えてたんだ」


「西に向かった連中もいるってことか! ……そうなると、その先にもいくつか町があったぞ。あれから1日半だ。奴らは疲れ知らずだろうから、100km近く進んでいることになる」


 俺の言葉にニックが大声を上げた。

 思わず自分の手で口を押えているけど、外に聞こえなければ問題ないだろう。


「3日経てば州を越えそうだな。軍隊があれから見えないのはそれが理由かもしれないな」


「どういう事だ?」


「州境の国道に防衛線を作っているってことさ。どんどん兵士達が集まってくるだろうが、コロラド州はかなり広いぞ。上手く阻止出来れば良いんだが……」


 州境はヘリコプターを使った監視になるんだろうな。それも見てみたい気もするけどね。

                ・

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                ・

寝る前に、ラジオの確認をする。

 ニックがダイヤルを回していると、いきなり放送が入ってきた。


『……避難は高速道70号及び国道24号を使ってグッドランドを目指すこと。他の避難ルートは全て閉鎖中。繰り返す。バレナム市西部で発生した事故に伴う避難者は……』


 ようやく放送が回復したようだけど、かなり一方的な放送だな。


「今の放送は?」


 クリスがテントモドキから這い出して来て俺達に問い掛けてきた。


「市の放送局と同じ周波数だ。でも市で放送しているとは思えないな。たぶん軍隊が受け入れ態勢を構築できたということになるんだろうけど……」


「とんでもない数の車が殺到するんじゃないか?」


「たぶんね。俺達は東に向かうことになるし、場合によってはゾンビまみれの市内を強行突破することになりかねない。それに……」


「ああ、このルートに沿ってゾンビが移動するってことだな。俺達の計画に変化はないよ。水路でニックの家を目指す。そういえば、そっちの放送はどうなんだ?」


 ニックが改めてダイヤルを操作すると、いつもの通りモールス信号が入ってきた。


「メモしてくれよ。また変わっている」


 短いメッセージだが『26日0時まで待つ』を繰り返している。

 現在は23日の21時過ぎだから、残り50時間ほどになる。


「動け! というメッセージだな。さすがはニックの親父さんだ」


「褒めるとその気になるからなぁ。ここだけにしといてくれよ」


 とはいえ、ニックだって笑みを浮かべているぐらいだから、親父さんを褒められるのは嬉しいに違いない。

 状況がかなり変化しているようだけど、俺達に出来ることはそれほど多くはないし、何より無事に市内に戻ることが一番だ。

 布団に横になって毛布を被る。明日は忙しくなりそうだな……。


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[気になる点] うーん作風とか作者のポリシーなんだろうけど、毎度毎度登場人物に何がなんでも喫煙させる必要はないと思うんだわ。 しかも今回子供でしょ。 おじいちゃんにタバコやめろとは言わないけど、アメリ…
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