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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-039 車の運転を覚えよう


 山小屋のテーブルに男達が集まる。椅子やベンチまで運んだぐらいだからね。

 簡単にやって来た海兵隊の小隊長が挨拶してくれたところで、いよいよ俺達との調整が話し合われる。

 海兵隊の小隊長は30歳ほどの見るからにナイスガイと言う感じの人で、副官は小隊長よりも年上に見えるな。それぞれジョナサン少尉、ブレイデン軍曹と言うのが本当らしいけど、気軽にジョナ少尉、ブレイ軍曹で構わないそうだ。

 工兵隊は分隊だから軍曹になるようだ。ウイル小父さんに負けない筋肉質の小父さんだな。名前はクーパーだと教えてくれた。

 最後に民間人だけど、軍の経験者や元警察官がいる。代表は元陸軍曹長のダニエルさんだけど、結構歳をとってるんじゃないかな。

 俺達に、「ダニー小父さんで構わないぞ」と言ってくれた。



 この場にいないのはライルお爺さんと若い警察官2人だけど、3人で新たな部隊に引き渡すピックアップトラックを整備するらしい。

 バリーさん達が乗ってきたトラックだけど、改造はしていないそうだ。まだ町には車がたくさん乗り捨ててあるから、足りない分はそれを使うことになりそうだな。

 もっとも、そんな車から燃料を抜き出していることも確かだ。燃料を抜き出した車には、車の側面に黒や白いスプレー塗料で『〇』を描いてあるから直ぐに分かるだろう。


「……なるほど、そんな方法を良くも思いついたものだ。自分達の方でやり方をまとめて本部に報告したいが、構わないか?」


 ウイル小父さんがグランドレイクの町からゾンビを掃討した作戦を話して聞かせると、興味深々に何度も頷きながらジョナ少尉達が効いていた。

 ジョナ少尉の問いにウイル小父さんが頷くと、嬉しそうな顔をして口を開く。


「それにしても第3海兵師団の第1大隊第2中隊とはなぁ……、俺が現役の時は、その第3小隊に所属していたんだ。同じ沖縄で暮らした仲間だと思って欲しい」


「案外世の中は狭いものですね。ウイル軍曹の話は今でも中隊長が時々話してくれました。『困った時は、ウイルに頼めば何とかなった』とね」


「たぶん、アフガン時代の事だろうな。あれは地獄もいいとこだ。もっとも、この状況も同じに思えるが、1つだけ大きな違いがある。仲間は裏切らねぇからな」


「部隊以外を信用するなと、その後に言われましたが、そういう事でしたか……。それで、グランビイの町の掃討はどのように?」


 ニックとエディがホワイトボードを運んで来た。簡単なグランビイの町の地図を描いてあるけど、誰が描いたんだろう?


「グランビイを掃討するのは、俺達に取ってデンバーへの道を作ることでもあるんだが、政府はどう考えているんだ?」


「ユタ州のオグデン、それにネバダ州のホーソーンがアメリか再建には必要らしいですよ」


「兵站の確保ってことか……。燃料は他の基地も使えそうだが武器ともなればホーソーンが一番だろうな。だがすでにチャレンジしてるんじゃないのか?」


「2度程、チャレンジしましたが……。失敗しています。最初のチームはサクラメントで壊滅。2度目はブライスで壊滅しました」


「それで、反対側からと言うことになるんだな。もう直ぐ6月だから、8月の終わりまでにはグランビイを何とかしたい。それでやり方なんだが……」


 俺達のゾンビ掃討の方法を、ホワイトボードに描いてウイル小父さんが説明を始めた。

 長くなりそうだから、コーヒーを飲みながら一服していよう。


「なるほど……。サイレンサーを付けての掃討ならば、それほどゾンビは集まらないということですか。その後に生存者の確認をしながら、ゾンビを掃討する……。考えましたね」


「こいつらが考えた方法だ。俺じゃないよ。それでも何とか出来たってことだから、同じ方法で行こうと思う。生存者を2人救助出来たんだからな。まだ生き残っているなら助けるのが海兵隊魂と言う奴だ」


「了解です。とは言っても、拡声器は用意しておりませんが……」


「俺達で作ってやる。それと、離脱する際にゾンビを集める目覚まし時計もだ。グランドレイクの店や民家で調達できたからな。そっちも今夜の宿泊で忙しいだろう。帰りにピックアップトラックを2台用意してあるから、使って欲しい。それと乗り捨てられた車は自由に使えるが、燃料口に『〇』印を付けたものは、俺達で燃料を抜き取ってある」


「少なくとも数台は必要でしょう。明日来られるか分かりませんが、明後日には再度、ここを訪れます。それと、連絡用の無線周波数は民間周波数の9番を使用してください」


「了解だ。それじゃあ、エディ! トラックに案内してやってくれ」


「了解! それじゃあ、ご案内します!」


 ニックを連れて、エディ達が出て行った。

 残った俺達は、ホワイトボードの地図を眺める。


「1個小隊が来てくれたなら、2か所でゾンビを迎え撃つことができそうだぞ」


「それもあるが、離れた別荘も調べんといかんだろう。グランドレイクの町中を、ワシ等の仲間に頼んで、離れた別荘は海兵隊に頼めんか? 1個分隊を使えばそれほど時間も掛からぬと思うんじゃが」


「彼らも冬越しに備えねばならんからなぁ。適当な空き家を上手く見つけて、準備を整えるには5日は掛かるだろうな。ゾンビは逃げることなど無いだろうから、のんびり行っても2カ月は掛からんだろう。後は国道沿いに基地までの道を掃討していくに違いない」


「俺達も、それに付き合うことになるんだろうか?」


 問いかけたのはバリーさんだった。俺もそれが一番気になるんだよなぁ。

 往復1日の距離ならそれほど問題は無いだろうけど、かなり距離があるからね。途中の小さな町に拠点を移さないと不味いだろうな。


「俺達の組織も結構被害を受けているからなぁ。冬を越えて連絡が取れているのは、オレゴンとミシガンだけになってしまった。海兵隊が政府と連絡が取れるなら、俺達の今後をどうするか確認するのも1つの手だな」


「元々がアメリカに攻め入った敵に対抗する組織だったからな。ウイル達と異なる組織ではあったが、その精神は同じものだ。俺達の組織は元警察官の組織だ。主に町に拠点があったから連絡は全く取れていないんだ」

 

 バリーさんが力なく呟いた。

 町ではねぇ……。固く扉を閉ざしたとしても、いずれは物資の調達に外に出ることになる。その時に襲われたり、噛みつかれた人物を拠点の中に入れたなら内部崩壊してしまうだろう。

 俺達が今まで生きていられるのは人里から離れた場所にウイル小父さん達の拠点があったからに他ならない。


「まぁ、とりあえずはグランビイだ。それから後の事は、それが終わってから軍の連中を交えて相談すれば良い」


ウイル小父さんの言葉に皆が頷く。

 先の事は分からないが、先ずは自分達のできる事をしないとね。

 グランドレイクとグランビイの町と別荘のゾンビを掃討できたなら、ここを大きな拠点として周辺の町のゾンビ掃討にも繋がるだろう。

 ジョナさん達は、用意したピックアップトラック2台に乗車して自分達の部隊に帰って行った。

 軍隊の方の宿舎は直ぐにでも見つかるだろうけど、家の中は結構乱れていたからなぁ。多少の汚れは自分達で掃除をするだろうし、冬越しに備えて修理もするのだろう。

 それで5日というのは、案外短い気もするぐらいだ。


「ホーソーンまでに大きな都市がいくつかあるのが気に食わんな。さすがにソルトレイクは核を落としているんだろうが、それでゾンビを一掃できたとは思えんからなぁ」


「地道に進むしかなさそうだ。取りこぼしの方が怖いぞ。だが、さすがにソルトレイク攻略を1個小隊と言うことにはならないだろう」


「確かにな……。大きな町は迂回して、小さな町は制圧するという形になるんじゃないか? 生存者が数百万人いるなら、武装させて制圧した町に暮らすということも可能だろう」


 俺達もそうなるんだろうか? どちらかと言うと、グランドレイクのゾンビを掃討した成果を買われて、迂回した町の掃討を任さされそうに思えるんだけどなぁ。

 どうなるにせよ、それはグランビイのゾンビを掃討してからになるだろう。

 早く5日が経てば良いんだが……。

                 ・

                 ・

                 ・

 5日間の間に俺達も手伝って、とりあえずやって来た兵隊や民間人の協力者達の宿を確保することができた。

 もっとも、俺達の行ったことは、あちこちに倒れているゾンビを火葬にすることだったけどね。

 直ぐ傍にゾンビが倒れているのは、住んでいる住人達に取って気持ちの良いものではないだろう。


 重機で穴を掘って丸太を組み、その上に周囲のゾンビを引きずって重ねていく。最後にゾンビの上に焚き木を積み上げ灯油を掛けて火葬にした。

 一か所で数十体だから、次々に同じ事を繰り返すことになったが、ゾンビは干乾びるだけで腐らないんだよなぁ。さすがに灰にすれば土に還るに違いない。


「これで10か所を越えたぞ! まだまだゾンビがいるのかな?」


「俺達の作戦で、家の中で倒したゾンビも結構いるんだけど、家事やいてしまおうとウイル小父さんが言ってたよ。1体毎、外に出すのは面倒だからなぁ。俺も賛成だ」


「階段を上って来ようとしていたゾンビだな。確かに多かったからなぁ。それなら、もう2、3個の穴で終わりそうだ」


 そんな話をニック達としながら、作業を進めたのも昨日までだ。

 今日は各代表が集まって、グランビイの町のゾンビ掃討計画を練ることになる。

 まぁ、そんな話は大人に任せておけば良い。

 この機会にと、ニックに車の運転を習うことにした。

 町で見つけてきたジープを使って、グランドレイクの町に向かう。

 当然「お前達だけでは心配だ!」との親心を出してエディも後部座席に乗り込んでいるけど、俺の運転の腕を夕食のおかずとして披露したいだけなんじゃないかな。


 兵隊の人達が済んでいない区画にジープを停めたニックが車を降りる。


「先ずは運転席に座ってハンドルを握ってみることだ。足元にレバーが3つあるだろう?右からクラッチ、ブレーキそれとアクセルだ。

 今エンジンは動いていないけど、ブレーキを踏んでエンジンキーを軽く回す。「カチリ」と音がするから、それで車の電装系が全て生きた状態だ。さらに回すとセルモーターが回りエンジンが掛かる。エンジン音がするから分かる筈だ。先ずはここまでやってみてくれ」


 言われた通りにブレーキを踏んでエンジンキーを動かしてみる。

 ブルンブルルル……。

 良い音じゃないか!

 

「掛かったな。それでは、エンジンキーを左に回してくれ。エンジンが止まるはずだ」


 言われた通りにキーを動かすと……、なるほど。ちゃんと止まったぞ。


「次は、ギヤチェンジを教えないとな。オートマティックもあるんだが、軍用車は皆マニュアルだし、俺達が普段乗っているピックアップトラックもマニュアルだから、サミーもマニュアルを覚えてくれ。マニュアルが動かせればオートマティックも動かせるぞ。

 そこに突き出ている棒が、ギヤチェンジ用のレバーだ。レバーの上部に数字が書いてあるだろう? それがギヤの位置になるんだ。ギヤは『N』 と書かれたニュートラル位置を起点にして、『1』、『2』、『3』、『4』と『Back』の位置を選べるんだ。1から4は前進するためのギヤ、Backは文字通り後進するためのギヤになる。1はLowとも言われ一番速度が出ないんだが、力がある。発進はこの位置で行うんだ。そうだな……時速20kmも出せばエンジンが唸り出すから、早めにギヤを上げる必要がある。このタイミングは覚えるしかないから、ゆっくり教えるよ。最後の4はTopとも言われる。一番速度を上げられるんだが、力はない。長い坂道だとどんどん速度が落ちてくよ。ここまでは良いかな?」


 エンジンの回転数を、ギヤを使ってタイヤの回転数に変えるということだな。

 一定回転のエンジンだとしても、タイヤの回転数が低い場合は駆動力が上がるということになるんだろう。

 

 エンジンを掛けないで、クラッチレバーを踏み込んでギヤチェンジレバーを動かして感触を何度も確かめてみる。1から2はチェンジレバーを下に下ろすだけだから案外簡単だ。『カチン』という感触がチェンジレバーを握った手に伝わるのが良く分かる。

 2から3へは少し面倒だな。一度、N位置を通過して上に上げる感じになる。エディに言わせると斜めに動かすと良いらしい。

 言われた通りに動かすと……。なるほど、上手く3に入る。


「ここまでできれば、後は動かすだけだ。最初は1の状態のままで前進停止を繰り返すぞ。だけどその前に、休憩にしよう!」


 パットが出掛ける時に渡してくれた水筒から、コーヒーを各自のシェラカップに注ぐ。

 タバコに火を点けて先ずはコーヒーで乾杯だ。


「それにしても、良く今まで覚えようとしなかったと感心してしまうよ」


「ニックが運転できるし、たまの買い物だってメイ小母さんが運転するからね。どちらかと言うと、オートバイが欲しかったんだ」


「オートバイも良いだろうが、先ずは車の免許だ。今はどうしようもないけど、運転できるなら交付してくれるんじゃないかな? ガールフレンドとデートも出来ないぞ。少なくともグランビイのゾンビを掃討する前には覚えるんだな」


 やはりガールフレンドを作るには、車の運転ができないといけないってことか?

 国が違うだけで、そこまで認識が異なるとは思わなかったぞ。

 まぁ、それは俺の認識違いということで是正すれば良いんだろうけど、エディの言う、グランビイのゾンビ掃討を終えるまで、と言うのは少し期間が短か過ぎないか? 親父に昔聞いた話では、親父達が車の免許を取るまでには半年近くかかったらしいからなぁ。

 俺にそれほど早く覚えられるだけの素質があるとも思えないんだけどねぇ。


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