H-034 今度はエディ達の番だ
山荘にあったボルトアクションのライフル5丁と新たに手に入れたボルトアクションの猟銃は、軍用と民生用の違いだけらしい。軍用が優秀ということではないらしいから、くじ引きで自分達の使う銃を決めたようだ。
ニック達も自分専用ということで、笑みを浮かべて手入れをしているんだよなぁ。
1つ大きな違いがあるとすれば、それは照準器の性能らしい。何と民生用の方が優れているというんだからなぁ。
ニック達に遠距離狙撃ができるとも思えないから、照準器は軍人さん達と交換したのだろう。それでも倍率が7倍らしい。俺のウインチェスターについているのは2倍だからなぁ。ちょっと羨ましく思えるけど、近距離を狙うならそれで十分だろう。
「明日は俺達だ。銃弾もたっぷり頂いたよ。ベレッタも持っていくから、銃弾が足りなくなる心配は無さそうだ」
「ちゃんと狙って撃つんだぞ。銃弾は無限にあるわけではないんだからね」
「分かってるさ。その為にM16用の銃弾を温存するんだろう? ゾンビがある程度いなくなったら、周辺の別荘を探せば7.62mmのライフル弾はたくさん見つかるんじゃないかな」
この辺りに別荘を構えるのはロッキー山脈で鹿狩りをする人達が多いらしい。
そんな人達の便宜を図るために、あのハンタークラブがあったぐらいだからね。銃弾だけでなく、銃もあるかもしれないな。
女性達も38SPのリボルバーや、9mmパラベラム弾を使う拳銃を携帯しているし、柵の見張りを行う時には、M16だけでなくショットガンを持っているようだ。
普段は2,3人が焚火の近くで監視をしてるんだけど、何かあれば直ぐに数人が集まるとのことだ。
ここにゾンビの集団がやって来るとは考えられないけど、国道から逸れて紛れ込まないとも限らない。
現状ではそれで十分なのかもしれないな。
「それで、あの目印は役立ったんだろう?」
「役立ったから、俺達の回収がスムーズに行ったんじゃないか。問題は夜だな。それまでにかなり倒しているから、ゾンビに一部が隠れてしまうし照明もそれほど明るくないからね。遠くのゾンビを狙わずに、近くのゾンビを確実に倒す……。それが大事に思えるよ」
夕食を終えても、俺達の話が続く。
パット達が面白く無さそうな顔をして俺達を見てるんだけど、ニック達はテンションが上がっているから気付く様子もないんだよなぁ。
後で文句を言われても困るだろうから、2人を連れてパット達のところに向かう。
一緒にトランプをすることで、パット達の表情が少しは良くなった。
薪ストーブに集まったウイル小父さん達が俺達を見て、『若いなぁ……』なんて呟いて、バリーさん達と笑っているのが気になるところだ。
22時を過ぎたところで、部屋に戻ろうとしたらライルお爺さんに呼び止められた。
「ほれ、出来たぞ。あのバックスキンの上に着けるんじゃな。サミーならそれなりに見られるじゃろう」
「ありがとうございます! あれ、これって形が違いますね。それに後ろに大きなバッグも付いてます」
「お前さんはサウスポーじゃからな。あのガンベルトは合わないと婆さんが言っておったぞ。それは婆さんが手慰みに作ったガンベルトじゃ」
左にホルスターが付いて、右側にスピードローダーを2個入れるポーチが1つ。ベルトの前に銃弾が左右6発ずつ納められるひだが付いている。後部には少し大きめの革製バッグが付いているから、予備の銃弾を箱ごと入れておけそうだ。余った場所にはカロリーバーでも入れておこう。
D環が右後部についているのは、水筒をぶら下げる為かな?
「ありがとうございます。後で、お婆さんにも礼を言っておきます」
「妹の孫に似ていると言っておったからなぁ。喜ぶじゃろう」
改めて頭を下げると、部屋に向かう。
俺達の部屋の扉を開けると、2人が床に店開きをしている最中だった。
とっくに終わっていると思っていたんだが、改めて確認しているらしい。
用意周到と言うか、諦めが悪いと言うか判断に迷うな。
中々終わりそうもないから、さっさとベッドに潜り込む。
今日は朝が早かったからねぇ。直ぐに眠れそうだ……。
翌日。ベッドから降りて身支度をしようとしていると、すでに2人の姿が見えない。
ベッドの毛布を乱暴に畳んであるところを見ると、早起きして出て行ったのかな?
いつもなら、俺より遅いニックでさえ起きられたようだ。雨が降らなければ良いのだが……。
今日は、周辺の監視だからキャシーお婆さんに貰ったガンベルトではなく、装備ベルトを着けてイエローボーイを手にする。
どちらもサイレンサーが付いているから、ゾンビを撃っても集まることは無いだろう。
今日は暑くなりそうだから、Tシャツの上にGジャンを羽織るだけだ。昼食前には帰ってこれるだろう。最後にテンガロンハットを被り、サングラスをGジャンのポケットに挟んでおく。
身支度が済んだところで部屋を出ると、シャワー室に行って軽く顔を洗う。
バンダナで顔を拭きながらリビングに行くと、すでに完全装備の出で立ちの2人が薪ストーブの傍でコーヒーを飲んでいた。
「おはよう! やる気満々だね」
「おはよう。倒せば倒すだけ後がやり易いからね。今日は、町の外れだからなぁ。ハンタークラブの時はたくさん集まってきたけど、今回も集まるんじゃないか」
「屋上があれば良いんだけどなぁ。あの辺りには無かった気がするんだけど?」
2人の傍にあるベンチに腰を下ろして、タバコを取り出して火を点けた。
灰皿を見ると2人ともすでに2本を吸っていたようだ。どれだけ早起きしたんだろう?
「確かに無いらしい。今日は民家を使うと言ってたよ。2階から呼び掛けるということだけど、ベランダがあるらしいからそこから国道と駐車場を狙うことになるんじゃないかな。南北と東は窓からになるだろうね」
屋根があるなら、雨が降っても安心だ。だけど、階段はいつも誰かが見張っていないと安心できないだろう。
ニック達の班は6人だから、それぐらいは何とでもなるということかな。
呆れた表情のパットが、俺達に朝食の準備が出来た事を伝えてくれた。
直ぐに2人が猛烈な勢いで朝食を食べ始める。
そんなに急がなくてもゾンビは逃げないと思うんだけどなぁ。俺やウイル小父さんも一緒に行くんだからね。
朝食を終えた2人がリビングを飛び出していく。
呆れた顔で俺達は顔を見合わせることになったが、ライルお爺さんは苦笑いを浮かべていた。
「若い者は、あれぐらいで丁度良いわい」
「全く落ち着きがないんですよ。将来が心配になります」
メイ小母さんがパットにちらりと視線を送って呟いているけど、それぐらいは矯正しなさいってことかな?
まぁ、ニックの将来は間違いなくパットの尻の下になることは間違いなさそうだけど、今からそんな事をパットに期待するのもねぇ……。
俺はしばらく自由人でいた方が良いのかもしれないな。
なるべくメイ小母さんの顔を見ないように朝食を済ませ、俺も2人の後を追うことにした。
外に出ると、2台のピックアップトラックが停まっている。
荷物の準備は昨日の内に終えているから後は出発するだけなんだけど、ニック達は何処だろう?
トラックの周りにいないとなると……、居た、居た。焚火の傍だ。
これから暑くなると言うのに、焚火があると集まるのは人間の本能なのかもしれないな。
きっと、遠い先祖の焚火に対する思いが、脈々と俺達の遺伝子に組み込まれているに違いない。
「今日は、頑張ってくださいよ!」
「サミーか。ああ、今度は俺達の番だからな。丁度良い建物が無いから、国道に近い民家で行うつもりだ」
「一作日の時でしたが、階段を塞いだガラクタを散々動かしてましたよ。上がってくることはありませんでしたが、要注意なことは確かです」
「その話をウイルに聞いてな。階段の上下をガラクタで塞ぐ予定だ。それにチェーンソーを用意してある。途中の階段を壊しておけばさすがに上がってこれまい」
「それだけやっておいて、かつ状況監視に1人を付けておくつもりだ」
バリーさん達も心配性なんだろうな。やり過ぎにも思えてきたけど、そこまでやっておくなら安心できそうだ。やはり場数を踏まえて行けばそれなりの対処方法を思い浮かべることができるんだな。
「ウイルから改めて指示が出るだろうが、俺達が1階と2階の調査を終えて、2階への資材を運び終えるまでは周囲の監視を頼んだぞ。ゾンビ掃討の初日があれだったからなぁ。準備が終わらん状況で集まってこられたら始末に負えなくなりそうだ」
コーヒーを勧められたけど、さっき飲んできたばかりだからなぁ。一服しながら世間話をして時間を潰していると、ウイル小父さんとライルお爺さんが山小屋から出てくるのが見えた。
直ぐに俺達を手招きしている。
それを見て真っ先に腰を上げたのはニック達だ。
笑みを浮かべて、残った俺達が腰を上げる。
いよいよ今日の作戦が始まるってことだな。
「俺と爺さん、それにテリーが車内だ。エディ達は荷台に乗ってくれ。途中で、前回の目覚まし時計を回収するからな」
「ちゃんと使えますかね?」
「今回使う目覚まし時計は、車内においてあるよ。回収した目覚まし時計は電池を取り換えて次の作戦で使う予定だ」
目覚まし時計を沢山集めたからなぁ。電池式もあればゼンマイ時計もある。作戦に応じて使い分けるのだろう。
荷台に乗って、後部座席の窓越しに、準備が出来た事を伝える。
すでに小母さん達が移動柵を開いてくれたから、バリーさんの運転するトラックを先頭に、俺達の乗るトラックが後に続いて動き出した。
町の入り口付近なら30分も掛からないだろう。時刻は9時前だから、やはり昼には戻ってこれそうだ。




