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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-033 早く起き過ぎたけど、やはり得をした感じがする


 山小屋に戻ると、直ぐに昼食になる。

 その前に軽くシャワーを浴びて、着替えることにした。

 行くときよりも重くなったリュックを下ろして、ジーンズにTシャツ姿でリビングに向かう。こんな時でも装備ベルトを着けないと安心できないんだよなぁ。

 リビングの真ん中にある焚火台は板で塞がれていた。秋まではこのままってことだな。朝晩は薪ストーブを焚けば十分ということなんだろう。

 3つほどテーブルをくっ付けてシーツのようなテーブルクロスを掛けてある。椅子も10脚以上あるようだから、俺達だけなら十分だ。夜の打ち合わせには女性は参加しないからこれで良いってことかな?


 すでにニック達が席に座っている。

 ニックの隣の椅子を1つ開けて座った。ニックの隣にはパットが座るはずだから空けて置かないといけない。


「やはりボルトアクションでは数を倒せないみたいだね。親父がぼやいていたよ」


「でも腕は皆良かったよ。俺達みたいに無駄な弾を撃たないようにしていたみたいだ。俺は……、まあ、前回とそんなに変わらなかったけど。そうだ! 38SPでは100m先は当たっても倒れない時があったよ。38SPはやはり近距離専用に思えるな」


「強装弾という手もあるが、それなら9mmパラベラムの強装弾ってことになるんだろうね。キャシーお婆さんが持ってるウージーは確か強装弾だったはずだ」


 エディにしてもニックにしても使うライフルはM16だからなぁ。十分に300m先を狙えるから、あまり拳銃弾に拘ることは無いみたいだ。

 

「明後日はいよいよ俺達だからな。町の南端を狙うらしいから、かなり集まって来るに違いないよ」


 使うライフルは猟銃だから、少し勝手が違うかもしれない。

 そんな話をすると、明日は練習をするとのことだ。それなら直ぐに慣れるんじゃないかな。


「もう集まってるのか? まあ、ご苦労だったな。ニック達も明後日はバリーの指示に従うんだぞ」


 ウイル小父さんが俺達の反対側に腰を下ろして、缶ビールを飲んでいる。缶ビールは有効期間が短かった気もするんだが……。


「ニック達は難度か撃ったことがあるだろうが、M16に比べれば銃弾の大きさが一回り大きい。しっかりと肩にストックを付けるんだぞ。それと、照準器のスコープは100m先に調整してある。それより先を狙う時は……。後で教えるよ」


 急に話を終えたのは、小母さんとパット達が昼食を運んで来たからだ。

 レーションばかりだったからなぁ。目の前に置かれたトレイには湯気の立つスープはベーコンと野菜が具になっていた。俺の握り拳2つほどあるパンは、真ん中が縦に切られてたっぷりとジャムが挟まれていた。片方はイチゴジャムで、もう片方はブルーベリーかな。

 大きなマグカップにはたっぷりとコーヒーが注がれている。

 ちょっと口を付けて見ると、やや薄めの俺好みだ。スプーンに2つ角砂糖が乗っているのも嬉しい限りだ。


 モシャモシャと食べながら、パット達の話を聞く。

 ちゃんと聞いていないと、突然に話を振って来るからね。

 答えられないようだと、凄く起こるんだよなぁ。話の内容を聞く限りそんなに怒る必要が無いと思うんだけど、ウイル小父さんの言うことには「それを聞くことが男の甲斐性でもある」とのことだった。

 静かに食事をするという習慣は無いらしい。

 最初は、その賑やかさに驚いたけど1か月も過ぎればなれるんだよね。ナナも最初は戸惑っていたみたいだけど、この頃は一緒になって騒いでいる始末だ。


 賑やかな食事が終わったところで、昼寝をすることにした。

 夕方に起着ることができるか、ちょっと自信が無いんだけどね。まぁ、その時にはカロリーバーでも夜中に食べれば良いだろう。

 山小屋の広場から国道に出る密に作った柵には、いつでも何人かが交代で警戒に当たっているから、そこで一緒にコーヒーを飲むのも悪くない。


 突然目が覚めたのは、エディの豪快なイビキのせいだ。

 イビキを直すことは出来るのかな? クリスが知ったら嫌がりそうにも思えるから、オリーさん辺りに一度相談した方が良いのかもしれない。明日にでも教えてやろう。


 時計を見ると深夜の2時過ぎだ。

 さすがにリビングに夕食が残っておるとも思えないので、ロッカーの中からカロリーバーを1つ取り出して、装備ベルトのポーチに入れると部屋を出る。

 リビングは小さな明かりが点いているだけだな。玄関の扉を開けて外に出ると、広場の奥に焚火の明かりが見える。

 やはり誰かいるようだ。焚火に向かって歩いていくと、焚火を囲む男女に声を掛ける。


「こんばんは。見張りですか!」


「おっと! 確かサミーだったな。こんばんは……、眠れなかったのか?」


「昨日帰ってきたんですが、朝方まで見張ってましたので、昼食後に昼寝をしたんです。夕食には起きようと思ってたんですが、そのまま寝てしまいました」


「それなら今日は少し早く起きたと思えば良いだろう。今夜は早く眠るんだな。コーヒーはどうだい?」


 ありがたく頂くことにした。

 確か……、ベントンさんだったな。隣の女性は奥さんと言うことになるんだろう。子供もいるはずなんだが、子供達だけで寝てるのかな?


「お子さんは、一人で寝てるんですか?」


「エンリケに頼んだよ。エンリケの子供と一緒に寝てるんじゃないかな」


「こんな時だから、助け合わないとね。サミーは日本人なんでしょう? 留学してたのかしら?」


「両親がアメリカで職を得ましたんで一緒に付いてきたんです。まだ帰化申請を出してないんですよねぇ。こんな状況ですから、役所も機能していると思えませんが」


「人口もかなり減ってしまったようだからなぁ。案外すんなり通ると思うぞ。それに、役所の記録そのものが無くなっている可能性もあるからなぁ。現状アメリカに住んでいる者は全てアメリカ国籍を持つぐらいの法令が出る可能性もありそうだ」


「それなら良いんですけどねぇ……。日本という国がまだあるのかと考える事もあるんです」


「日本がなくなっても、アメリカは広大だ。この騒ぎが終わったら、復興の人手はいくらでも欲しいだろうからなぁ。上手く自分を売り込めば良いさ。ウイルがその辺りは心得ていると思うよ」


 コーヒーを頂きながら、カロリーバーを齧る。カロリーバーが少し甘すぎるから、コーヒーの苦みと丁度合う。

 食べ終えたところで、焚火の日でタバコに火を点けると、ベントンさんもタバコを取り出している。

 焚火を囲んでコーヒーを飲むと、何となく落ち着くんだよなぁ。

 そんな時に吸うタバコが一番美味しく感じてしまう。


 ベントンさんと世間話をしながら、柵の奥にたまに目を向ける。さすがに此処まではゾンビも来ないようだ。

 やはりゾンビが集まるのは音ということになるのだろう。国道を歩いていたとしても、国道から数百mほど離れたこの場所の音は、聞き取ることができないのかもしれないな。


 ベントンさん達も、日本人と話すのは初めてなんだろうな。

 色々と質問が飛んでくる。

 それに応えながら、ベントンさんの場合はどうかと訪ねると、詳しく教えてくれるから時間がたちまち過ぎていく感じだ。


 やがて、空が明るくなってきた。

 そろそろ起き出す人もいるんじゃないかな?

 もう1杯コーヒーを頂いて、山小屋に戻ることにした。


「あら、おはよう! 今日は早いのね?」


「おはようございます。昼寝をしてたら、起きたのが真夜中でしたので……」


メイ小母さんが、俺を見てちょっと驚いてるんだよなぁ。

 俺の言葉に納得したのか、笑みを浮かべて頷いている。


「まだまだ朝食にはならないわよ。ストーブに火を焚いてくれないかしら」


「了解です!」と返事をしたところで、薪ストーブに向かう。火を焚く前に、灰を落とさないとな。

 用意されていたバケツに薪ストーブの下にあるスライドを開いて灰を落とす。本来こんな機能は無かったはずだから、ライルお爺さんが改造したに違いない。

 灰を落としたら、ストーブの奥に太い丸太を横にする。丸太に立て掛けるように細い枝を積み上げて、燃料ジェルを付けた枝に火を点けると細い枝の下に置いた。

 直ぐに枝が燃え上がる。次はもう少し太めの枝を積み上げる。枝に直ぐ火が着いたのはそれだけ乾燥していたからだろう。枝が熾きになるのを見計らって今度は薪を投入した。

 後は勝手に燃えてくれるに違いない。

 キッチンに行くと、メイ小母さんからポットを受け取る。

 ストーブの上に乗せたところで、タバコに火を点けてストーブの中で燃える火を眺めることにした。


 皆がリビングに揃ったのは、ストーブに火を入れてから1時間以上経ってからだった。

 俺がすでに起きているのを見て驚いているけど、いつも寝坊しているわけではないからね。それはニックやエディの事だと思うんだけどなぁ。


 皆で朝食を頂くと、ニック達はボルトアクションの猟銃の射撃訓練に出掛けてしまった。

 俺はライルお爺さんに、ウインチェスターの手入れを教えて貰う。


「まぁ、機構はそれほど複雑ではないからななぁ。バネは全てコイルバネじゃから長く使えるが、たまに灯油で洗って機械油に付けておけば良いじゃろう。そうじゃ! 確かガンベルトをハンタークラブで手に入れたな。持って来い。婆さんにパイソンに合わせて貰おう」


 思わぬ申し出に笑みが浮かぶ。急いで部屋に戻ると、ガンベルトをリュックから取り出してリビングに戻る。


 ライルお爺さんの隣にキャシーお婆さんが座って2人で何か話をしていたけど、俺がやってくるとライルお爺さんが手を伸ばしてきた。


「それじゃな? 結構凝った作りじゃなぁ。このホルスターはピースメーカー用じゃから、パイソンと少し寸法が合わないんじゃ。婆さん、何とかなりそうか?」


「銃のフレームの大きさは同じに見えますね。一旦縫い目を解いて、銃の外形に合わせて縫い直しましょう。1日もあれば出来ますから、パイソンと一緒に預かりますよ。でも、その間何も持たないのも考えてしまいますねぇ。この銃をお渡しします。返さなくても良いですよ。そのまま使ってくださいな」


 肩から掛けたポシェットから取り出した物は、大きなカバーに付いたホルスターだった。拳銃がすっぽりとホルスターに収まっているから、外から見ただけではまるで何が入っているのか分からないな。

 上蓋を押えているホックを外して、拳銃を取り出したんだけど……。

 これってP-38じゃないのか!

 アニメで有名な泥棒さんが使っている奴だぞ。


「銃弾は9mmパラベラムですが、強装弾も使えますよ。ホルスターの横にマガジンが1つ付いてます。8発ですけど、サプレッサーを使うのであれば十分でしょう」


 拳銃と予備のマガジンはホルスターの中にある。ホルスター横に着けられている筒状の革の容器を開けると、長さ15cmほどのサプレッサーが出てきた。

 これなら忘れることは無いな。今までの装備ベルトにはこれを付けておこう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「夕方に起着ることができるか、ちょっと自信が無いんだけどね」 →「夕方に起きる・・・」では?
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